錐体路はどこを通る?―「名前の由来」と「密集地帯」で覚える皮質脊髄路の道のり
第107回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
皮質脊髄路が通るのはどれか。2つ選べ。
- a.延髄錐体
- b.脊髄後索
- c.内側縦束
- d.内側毛帯
- e.内包後脚
対話形式の解説
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ドクターまとめ
皮質脊髄路(錐体路)は中心前回を中心とする運動野から始まり、放線冠、内包後脚、中脳の大脳脚、橋底部、延髄錐体を経て錐体交叉で大部分が反対側へ渡り、脊髄側索を下行して前角の運動ニューロンに至ります。延髄錐体は錐体路の名前の由来となる線維束そのもので、内包後脚は線維が密集しているため小さな病変でも反対側に強い片麻痺が出ます。脊髄後索と内側毛帯は深部覚を伝える上行路、内側縦束は眼球の共同運動に関わる線維束で、障害されるとMLF症候群をきたします。内包の膝を通る皮質核路との区別や、延髄内側症候群のように隣接構造が同時に障害される病態もあわせて押さえておきましょう。伝導路の走行と交叉位置を理解することは、神経症状から病変部位を推定する臨床推論の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
随意運動を伝える皮質脊髄路(錐体路)の走行経路を問う神経解剖の問題である。
皮質脊髄路の走行
皮質脊髄路は、大脳皮質から脊髄の前角にある運動ニューロンへ向かう下行性の伝導路である。起始は一次運動野(中心前回、Brodmannの4野)を中心とし、運動前野・補足運動野(6野)や頭頂葉(体性感覚野など)にも及ぶ。 上から順にたどると次のようになる。 大脳皮質 → 放線冠 → 内包後脚 → 中脳の大脳脚(中央部)→ 橋底部(橋核の間を束に分かれて通る)→ 延髄錐体 → 錐体交叉(延髄下端)→ 脊髄 錐体交叉では線維の大部分(およそ75〜90%)が反対側へ渡り、反対側の脊髄側索を外側皮質脊髄路として下行する。交叉しない残りの線維は、同側の前索を前皮質脊髄路として下行し、多くは脊髄の髄節レベルで交叉する。最終的に前角のα運動ニューロン(またはその手前の介在ニューロン)に連絡する。
考え方
この経路上にある構造を選べばよく、延髄錐体と内包後脚が該当する。錐体路という名前自体が、延髄錐体を通ることに由来する。ほかの選択肢は感覚の伝導路(後索、内側毛帯)と、眼球運動を連絡する線維束(内側縦束)である。
選択肢考察
- ○a. 延髄錐体
正しい。延髄錐体は延髄の腹側にある縦長の隆起で、その実体は皮質脊髄路の線維束そのものである。錐体の下端で線維の大部分が交叉する(錐体交叉)。そのため、交叉より上(大脳、脳幹)の障害では反対側に、交叉より下の脊髄の障害では同側に、痙性麻痺が出る。延髄の内側が障害されるDejerine症候群(延髄内側症候群)では、錐体の障害による反対側の片麻痺に加え、内側毛帯の障害による反対側の深部覚障害と、舌下神経の障害による同側の舌麻痺が起こる。
- ×b. 脊髄後索
誤り。脊髄後索は感覚の上行路である。振動覚、位置覚(関節覚)、識別性触覚など、いわゆる深部覚を伝える。後根から入った線維は交叉せずに同側の後索(下肢からは内側の薄束、上肢からは外側の楔状束)を上行し、延髄の薄束核・楔状束核に至る。皮質脊髄路の主な経路(外側皮質脊髄路)は脊髄側索を下行するので、後索は通らない。
- ×c. 内側縦束
誤り。内側縦束(MLF:medial longitudinal fasciculus)は、脳幹の正中近くを縦に走る線維束である。前庭神経核と、動眼神経核・滑車神経核・外転神経核などの眼球運動に関わる神経核を結び、左右の眼を協調させる(共同運動)。特に重要なのは、外転神経核の介在ニューロンから出て反対側の内側縦束を上行し、動眼神経核の内直筋支配ニューロンに至る経路である。この経路が側方注視を担う。内側縦束が障害されると内側縦束症候群(MLF症候群、核間性眼筋麻痺)となる。障害側の眼は側方注視のときに内転できず、反対側の眼には外転時に眼振が出るが、輻輳(寄り目)は保たれる。多発性硬化症や脳幹梗塞でみられる。皮質脊髄路はこの線維束を通らない。
- ×d. 内側毛帯
誤り。内側毛帯は、後索から続く深部覚の上行路である。後索を上ってきた線維は、延髄下部の薄束核・楔状束核で次のニューロンに乗り換える。そこから出た線維は交叉して(毛帯交叉)反対側に移り、内側毛帯として延髄・橋・中脳を上行し、視床の後外側腹側核(VPL核)に至る。これは感覚路であり、運動路である皮質脊髄路とは別の経路である。延髄では、内側毛帯は錐体のすぐ背側に位置する。
- ○e. 内包後脚
正しい。内包は、視床・尾状核と、レンズ核(被殻と淡蒼球)の間にある白質の線維束で、前脚・膝・後脚に分かれる。皮質脊髄路は内包後脚(前寄り〜中央部)を通り、ここでは線維が狭い範囲に密集している。そのため、ラクナ梗塞や被殻出血などの小さな病変でも、反対側の顔面・上肢・下肢に強い片麻痺が出やすい。内包後脚の後方には視床から皮質へ向かう体性感覚線維(視床皮質路)も通るので、障害が及べば反対側の感覚障害を伴う。なお、脳神経の運動核へ向かう皮質核路(皮質延髄路)は、主に内包の膝を通る。
主な伝導路の整理
・皮質脊髄路(運動):運動野 → 内包後脚 → 大脳脚 → 橋底部 → 延髄錐体 → 錐体交叉 → 反対側の脊髄側索(外側皮質脊髄路)→ 前角細胞 ・後索−内側毛帯路(深部覚・識別性触覚):後根 → 同側の後索 → 延髄の薄束核・楔状束核 → 毛帯交叉 → 内側毛帯 → 視床VPL核 → 内包後脚 → 中心後回 ・脊髄視床路(温痛覚・粗大な触覚):後根 → 後角でニューロンを乗り換え → 前白交連で交叉 → 反対側の前側索を上行 → 視床VPL核 → 中心後回
交叉の位置と臨床的意味
・運動路:延髄下端で交叉する。 ・深部覚:延髄(毛帯交叉)で交叉する。 ・温痛覚:脊髄の入力した髄節近くで交叉する。 この違いから、脊髄の片側が障害されるBrown-Séquard症候群では、障害側に運動麻痺と深部覚障害が、反対側に温痛覚障害が出る。
上位運動ニューロン障害の徴候
皮質脊髄路の障害では、痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射が出る。急性期には弛緩性麻痺で始まることもある。
錐体路と錐体外路
錐体路(皮質脊髄路)が随意運動の指令を伝えるのに対し、大脳基底核や小脳が関わる運動調節系を、慣例的に錐体外路系とよぶ。錐体外路系の障害では、筋強剛、振戦、不随意運動などが出る。
POINT
・皮質脊髄路(錐体路)は、運動野 → 内包後脚 → 大脳脚 → 橋底部 → 延髄錐体 → 錐体交叉 → 反対側の脊髄側索を通る。 ・延髄錐体は皮質脊髄路の線維束そのものであり、錐体路の名前の由来である。 ・内包後脚には運動線維が密集しているので、小さな病変でも反対側の片麻痺が出る。 ・後索と内側毛帯は深部覚の上行路である。 ・内側縦束は眼球の共同運動に関わり、障害されるとMLF症候群(内転障害、反対眼の眼振、輻輳は保たれる)となる。
