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錐体路はどこを通る?―「名前の由来」と「密集地帯」で覚える皮質脊髄路の道のり

第107回医師国家試験 E問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第32問

皮質脊髄路が通るのはどれか。2つ選べ。

  1. a.延髄錐体
  2. b.脊髄後索
  3. c.内側縦束
  4. d.内側毛帯
  5. e.内包後脚

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、随意運動の指令を運ぶ皮質脊髄路が、脳から脊髄までどこを通るのかを問う神経解剖の問題だ。ポイントは、運動の下行路と感覚の上行路、そして眼球運動の連絡路をきちんと区別できるかどうか。まずは皮質脊髄路の出発点から確認しよう。どこから始まるか覚えているかな。
医学生医学生
一次運動野、中心前回ですよね。解剖学の講義でBrodmannの4野と習いました。
ドクタードクター
その通り。運動前野や補足運動野などからも線維が加わるけれど、中心は中心前回だ。そこから下へ、放線冠を経て内包に入る。内包のどの部分を通るか言えるかな。
医学生医学生
内包の膝だったような……。顔の麻痺と関係していた気がします。
ドクタードクター
惜しい、そこはよく混同されるところだね。内包の膝を主に通るのは、脳神経の運動核へ向かう皮質核路(皮質延髄路)だ。手足を動かす皮質脊髄路は内包後脚の前寄りから中央部を通る。だから内包後脚は正解の一つになる。
医学生医学生
内包後脚は線維がぎゅっと詰まっているから、小さな梗塞でも片麻痺が強く出ると脳神経内科の実習で聞きました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床的に大事な点だ。ラクナ梗塞や被殻出血のような小さな病変でも、反対側の顔面・上肢・下肢にまとめて強い麻痺が出やすい。後脚の後方には視床から皮質へ向かう感覚線維も通るので、病変が広がれば感覚障害も伴う。さて、内包を出たあとはどうなる?
医学生医学生
中脳の大脳脚、橋の底部、それから延髄ですね。
ドクタードクター
いいね。大脳脚の中央部を通り、橋底部では橋核の間を束に分かれて下り、延髄の腹側で再び集まって縦長の隆起をつくる。それが延髄錐体だ。錐体は皮質脊髄路の線維束そのもので、「錐体路」という名前もここから来ている。つまり延髄錐体がもう一つの正解だ。
医学生医学生
名前の由来になっている場所なら、確かに通らないはずがないですね。
ドクタードクター
そう。そして錐体の下端で線維の大部分、およそ75〜90%が交叉する。これが錐体交叉で、交叉した線維は反対側の脊髄側索を外側皮質脊髄路として下っていく。では脊髄後索はどうだろう。
医学生医学生
後索は振動覚や位置覚の通り道なので、感覚路ですよね。運動路は側索を通るから違うと思います。
ドクタードクター
正解。後索は深部覚と識別性触覚を伝える上行路で、下肢からの線維は内側の薄束、上肢からは外側の楔状束を交叉せずに上る。そして延髄の薄束核・楔状束核で乗り換えたあと、交叉して上行するのが内側毛帯だ。
医学生医学生
内側毛帯は延髄では錐体のすぐ背側にあるんですよね。位置が近いから紛らわしいです。
ドクタードクター
位置が近いのは試験でも臨床でも大事なポイントだよ。延髄の内側が障害されるDejerine症候群、つまり延髄内側症候群では、錐体の障害で反対側の片麻痺、内側毛帯の障害で反対側の深部覚障害、舌下神経の障害で同側の舌麻痺が起こる。隣にあるからこそ一緒に障害されるんだ。
医学生医学生
内側縦束はMLF症候群の名前でしか覚えていないのですが、運動とは関係ないんでしょうか。
ドクタードクター
内側縦束は脳幹の正中近くを縦に走り、前庭神経核や眼球運動に関わる神経核を結んで左右の眼の共同運動を担う線維束だ。外転神経核の介在ニューロンから出た線維が反対側の内側縦束を上がり、動眼神経核の内直筋を支配するニューロンに届くことで側方注視が成り立つ。手足の随意運動を伝える皮質脊髄路はここを通らない。
医学生医学生
障害されると、障害側の眼が内転できず、反対の眼に外転時の眼振が出て、でも輻輳は保たれる、でしたね。CBTの勉強で多発性硬化症とセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。若い人なら多発性硬化症、高齢者なら脳幹梗塞を考えるのが定番だね。最後に臨床への橋渡しをしておこう。錐体交叉より上、つまり大脳や脳幹の障害では反対側に、交叉より下の脊髄の障害では同側に麻痺が出る。上位運動ニューロン障害では痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候が出るけれど、急性期には弛緩性麻痺で始まることもあるから注意が必要だ。
医学生医学生
脊髄の片側障害のBrown-Séquard症候群で、障害側に運動麻痺と深部覚障害、反対側に温痛覚障害が出るのも、交叉する場所の違いで説明できますね。
ドクタードクター
その通り。運動路は延髄下端、深部覚は延髄の毛帯交叉、温痛覚は脊髄に入ってすぐの髄節で交叉する。この3本の伝導路の走行と交叉位置を一枚の図に描けるようになれば、神経診察での病変部位の推定がぐっと楽になるよ。

まとめ

皮質脊髄路(錐体路)は中心前回を中心とする運動野から始まり、放線冠、内包後脚、中脳の大脳脚、橋底部、延髄錐体を経て錐体交叉で大部分が反対側へ渡り、脊髄側索を下行して前角の運動ニューロンに至ります。延髄錐体は錐体路の名前の由来となる線維束そのもので、内包後脚は線維が密集しているため小さな病変でも反対側に強い片麻痺が出ます。脊髄後索と内側毛帯は深部覚を伝える上行路、内側縦束は眼球の共同運動に関わる線維束で、障害されるとMLF症候群をきたします。内包の膝を通る皮質核路との区別や、延髄内側症候群のように隣接構造が同時に障害される病態もあわせて押さえておきましょう。伝導路の走行と交叉位置を理解することは、神経症状から病変部位を推定する臨床推論の基本となります。

解答・解説

正解はa, eです

随意運動を伝える皮質脊髄路(錐体路)の走行経路を問う神経解剖の問題である。

皮質脊髄路の走行

皮質脊髄路は、大脳皮質から脊髄の前角にある運動ニューロンへ向かう下行性の伝導路である。起始は一次運動野(中心前回、Brodmannの4野)を中心とし、運動前野・補足運動野(6野)や頭頂葉(体性感覚野など)にも及ぶ。 上から順にたどると次のようになる。 大脳皮質 → 放線冠 → 内包後脚 → 中脳の大脳脚(中央部)→ 橋底部(橋核の間を束に分かれて通る)→ 延髄錐体 → 錐体交叉(延髄下端)→ 脊髄 錐体交叉では線維の大部分(およそ75〜90%)が反対側へ渡り、反対側の脊髄側索を外側皮質脊髄路として下行する。交叉しない残りの線維は、同側の前索を前皮質脊髄路として下行し、多くは脊髄の髄節レベルで交叉する。最終的に前角のα運動ニューロン(またはその手前の介在ニューロン)に連絡する。

考え方

この経路上にある構造を選べばよく、延髄錐体と内包後脚が該当する。錐体路という名前自体が、延髄錐体を通ることに由来する。ほかの選択肢は感覚の伝導路(後索、内側毛帯)と、眼球運動を連絡する線維束(内側縦束)である。

選択肢考察

  1. ○a.  延髄錐体

    正しい。延髄錐体は延髄の腹側にある縦長の隆起で、その実体は皮質脊髄路の線維束そのものである。錐体の下端で線維の大部分が交叉する(錐体交叉)。そのため、交叉より上(大脳、脳幹)の障害では反対側に、交叉より下の脊髄の障害では同側に、痙性麻痺が出る。延髄の内側が障害されるDejerine症候群(延髄内側症候群)では、錐体の障害による反対側の片麻痺に加え、内側毛帯の障害による反対側の深部覚障害と、舌下神経の障害による同側の舌麻痺が起こる。

  2. ×b.  脊髄後索

    誤り。脊髄後索は感覚の上行路である。振動覚、位置覚(関節覚)、識別性触覚など、いわゆる深部覚を伝える。後根から入った線維は交叉せずに同側の後索(下肢からは内側の薄束、上肢からは外側の楔状束)を上行し、延髄の薄束核・楔状束核に至る。皮質脊髄路の主な経路(外側皮質脊髄路)は脊髄側索を下行するので、後索は通らない。

  3. ×c.  内側縦束

    誤り。内側縦束(MLF:medial longitudinal fasciculus)は、脳幹の正中近くを縦に走る線維束である。前庭神経核と、動眼神経核・滑車神経核・外転神経核などの眼球運動に関わる神経核を結び、左右の眼を協調させる(共同運動)。特に重要なのは、外転神経核の介在ニューロンから出て反対側の内側縦束を上行し、動眼神経核の内直筋支配ニューロンに至る経路である。この経路が側方注視を担う。内側縦束が障害されると内側縦束症候群(MLF症候群、核間性眼筋麻痺)となる。障害側の眼は側方注視のときに内転できず、反対側の眼には外転時に眼振が出るが、輻輳(寄り目)は保たれる。多発性硬化症や脳幹梗塞でみられる。皮質脊髄路はこの線維束を通らない。

  4. ×d.  内側毛帯

    誤り。内側毛帯は、後索から続く深部覚の上行路である。後索を上ってきた線維は、延髄下部の薄束核・楔状束核で次のニューロンに乗り換える。そこから出た線維は交叉して(毛帯交叉)反対側に移り、内側毛帯として延髄・橋・中脳を上行し、視床の後外側腹側核(VPL核)に至る。これは感覚路であり、運動路である皮質脊髄路とは別の経路である。延髄では、内側毛帯は錐体のすぐ背側に位置する。

  5. ○e.  内包後脚

    正しい。内包は、視床・尾状核と、レンズ核(被殻と淡蒼球)の間にある白質の線維束で、前脚・膝・後脚に分かれる。皮質脊髄路は内包後脚(前寄り〜中央部)を通り、ここでは線維が狭い範囲に密集している。そのため、ラクナ梗塞や被殻出血などの小さな病変でも、反対側の顔面・上肢・下肢に強い片麻痺が出やすい。内包後脚の後方には視床から皮質へ向かう体性感覚線維(視床皮質路)も通るので、障害が及べば反対側の感覚障害を伴う。なお、脳神経の運動核へ向かう皮質核路(皮質延髄路)は、主に内包の膝を通る。

主な伝導路の整理

・皮質脊髄路(運動):運動野 → 内包後脚 → 大脳脚 → 橋底部 → 延髄錐体 → 錐体交叉 → 反対側の脊髄側索(外側皮質脊髄路)→ 前角細胞 ・後索−内側毛帯路(深部覚・識別性触覚):後根 → 同側の後索 → 延髄の薄束核・楔状束核 → 毛帯交叉 → 内側毛帯 → 視床VPL核 → 内包後脚 → 中心後回 ・脊髄視床路(温痛覚・粗大な触覚):後根 → 後角でニューロンを乗り換え → 前白交連で交叉 → 反対側の前側索を上行 → 視床VPL核 → 中心後回

交叉の位置と臨床的意味

・運動路:延髄下端で交叉する。 ・深部覚:延髄(毛帯交叉)で交叉する。 ・温痛覚:脊髄の入力した髄節近くで交叉する。 この違いから、脊髄の片側が障害されるBrown-Séquard症候群では、障害側に運動麻痺と深部覚障害が、反対側に温痛覚障害が出る。

上位運動ニューロン障害の徴候

皮質脊髄路の障害では、痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射が出る。急性期には弛緩性麻痺で始まることもある。

錐体路と錐体外路

錐体路(皮質脊髄路)が随意運動の指令を伝えるのに対し、大脳基底核や小脳が関わる運動調節系を、慣例的に錐体外路系とよぶ。錐体外路系の障害では、筋強剛、振戦、不随意運動などが出る。

POINT

・皮質脊髄路(錐体路)は、運動野 → 内包後脚 → 大脳脚 → 橋底部 → 延髄錐体 → 錐体交叉 → 反対側の脊髄側索を通る。 ・延髄錐体は皮質脊髄路の線維束そのものであり、錐体路の名前の由来である。 ・内包後脚には運動線維が密集しているので、小さな病変でも反対側の片麻痺が出る。 ・後索と内側毛帯は深部覚の上行路である。 ・内側縦束は眼球の共同運動に関わり、障害されるとMLF症候群(内転障害、反対眼の眼振、輻輳は保たれる)となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。