StudyMed医師国家試験

胎児は「もらう側」か「作る側」か―胎盤をはさんだ母体血と胎児血の濃度差

第107回医師国家試験 E問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第33問

正常妊娠において母体血中に比較し胎児血中で高値であるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.IgA
  2. b.グルコース
  3. c.ヘモグロビンF
  4. d.動脈血酸素分圧
  5. e.α-フェトプロテイン〈AFP〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母体血と胎児血でどちらが高いかを比べる問題だ。一つひとつ暗記するより、胎盤を通して「どの物質が、どちらの方向へ、どんな仕組みで」動くかを考えると、すっきり整理できる。まずは大原則を考えてみよう。母体から胎児へ一方的に供給されるものは、どちらの濃度が高くなるかな。
医学生医学生
濃度勾配に従って流れるなら、送り出す母体側が高くて、受け取る胎児側は低くなりそうです。
ドクタードクター
その通り。逆に、胎児自身がたくさん作って、母体側へはわずかしか漏れないものは胎児血中で高くなる。「もらう側は低い、作る側は高い」と覚えておこう。この原則でまず酸素分圧を考えてみて。
医学生医学生
胎児は低酸素でもヘモグロビンFがあるから大丈夫と習ったので、酸素分圧も胎児のほうが高いのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこはよくある勘違いだね。胎児は肺呼吸をせず、胎盤で母体血から拡散によって酸素を受け取る。拡散は分圧の高いほうから低いほうへ進むので、胎児側は必ず低い。母体の動脈血酸素分圧がおよそ90〜100 Torrなのに対し、胎児は最も酸素に富む臍帯静脈血でも30 Torr前後にとどまる。
医学生医学生
それほど低いんですね。だからこそ、ヘモグロビンFのような工夫が必要になるわけですか。
ドクタードクター
そういうこと。ヘモグロビンFはα鎖2本とγ鎖2本からなる胎児型ヘモグロビンで、2,3-BPGと結合しにくいため酸素親和性が高く、酸素解離曲線が左方へずれている。だから酸素分圧の低い胎盤でも、母体血から効率よく酸素を受け取れるんだ。胎児赤血球のヘモグロビンの大部分を占める一方、成人では全体の1%未満なので、胎児血中で明らかに高い。これが正解の一つだ。
医学生医学生
胎児が自分で作るもの、というパターンですね。生化学の講義で出てきたγ鎖からβ鎖への切り替えを思い出しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。出生後にその切り替えが進み、生後6か月から1年ほどで成人とほぼ同じ比率になる。同じく胎児が作るものとして、α-フェトプロテインはどうかな。
医学生医学生
AFPは肝細胞癌の腫瘍マーカーとして覚えていましたが、名前に「フェト」とあるくらいだから胎児のタンパクですよね。
ドクタードクター
その通り。AFPは胎児の卵黄嚢と肝臓で作られ、胎児血清では成人のアルブミンに相当する主要なタンパクとして働く。胎児血中ではmg/mL単位という非常に高い濃度になるけれど、母体血へは胎盤や羊水を介してごく一部しか移らないので、母体血ではng/mL単位にとどまる。これがもう一つの正解だ。
医学生医学生
グルコースは胎児の大事なエネルギー源なので、胎児のほうが多くてもいい気がしますが……。
ドクタードクター
大事だからこそ、流れ続ける仕組みがポイントなんだ。グルコースは胎盤のGLUT1を介した促進拡散で運ばれる。担体は使うけれど濃度勾配に従う受動輸送なので、胎児の血糖は母体より低く、おおむね母体の7〜8割程度に保たれる。この勾配があるから母体から胎児へ流れ続けるわけだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で糖尿病合併妊娠の方を担当したとき、巨大児や新生児低血糖に注意と教わったのも、母体の高血糖がそのまま胎児に伝わるからですね。
ドクタードクター
その通り。胎児が高血糖になると胎児膵からのインスリン分泌が増え、それが巨大児や出生後の低血糖につながる。最後にIgAはどうだろう。
医学生医学生
胎盤を通る免疫グロブリンはIgGだけなので、IgAは通らない。胎児の免疫も未熟だから低いと思います。
ドクタードクター
正解。IgGは栄養膜にある新生児Fc受容体を介して運ばれるけれど、IgAは通過しない。胎児自身の産生もごくわずかなので、胎児血中のIgAは母体よりはるかに低い。逆に臍帯血でIgMやIgAが高ければ、胎内感染に対して胎児が自分で抗体を作った可能性を考える手がかりになる。
医学生医学生
もらう側の酸素とグルコースは低く、通らないIgAも低い、自分で作るヘモグロビンFとAFPは高い、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、例外も押さえておこう。アミノ酸、カルシウム、鉄はエネルギーを使う能動輸送で濃度勾配に逆らって運ばれるので、胎児血中のほうが高い。IgGも妊娠後期に輸送が増え、満期には母体と同等かやや高くなる。また母体血清AFPは、開放性神経管閉鎖不全や腹壁破裂、多胎で高くなり、21トリソミーでは低下傾向を示すので、母体血清マーカー検査の項目にもなっているよ。
医学生医学生
輸送の仕組みまで考えれば、例外も理屈で説明できるんですね。

まとめ

胎盤を介した物質の濃度差は、「胎児がもらう側か、作る側か」と「輸送の仕組み」で整理できます。酸素は単純拡散、グルコースはGLUT1による促進拡散で母体から胎児へ受動的に運ばれるため、胎児血中のほうが低くなります。一方、胎児自身が産生するヘモグロビンF(酸素親和性が高く、低酸素環境への適応を担う)とAFP(胎児の主要な血清タンパク)は胎児血中で著明に高値です。胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみで、IgAは通過せず胎児の産生もわずかなため胎児血中では低値となり、能動輸送されるアミノ酸・カルシウム・鉄は例外的に胎児側が高くなります。こうした胎盤生理の理解は、胎児の低酸素への適応、糖尿病合併妊娠の影響、先天感染の評価、母体血清マーカー検査の解釈など、周産期医療の幅広い場面の土台となります。

解答・解説

正解はc, eです

胎児は胎盤を介して母体から酸素や栄養を受け取り、老廃物を母体側へ返している。そのため、胎盤を「どの物質が、どの方向へ、どのような仕組みで」移動するかを考えると、母体血と胎児血の濃度差を理解しやすい。 母体から胎児へ一方的に供給されるもの(酸素、グルコースなど)は、濃度勾配に従って移動するため、受け取る側である胎児の濃度は母体より低くなる。一方、胎児自身が大量に産生し、母体側へはわずかしか移行しないもの(胎児ヘモグロビン〈HbF〉を含む胎児赤血球、α-フェトプロテイン〈AFP〉など)は、胎児血中で母体より高くなる。 免疫グロブリンについては、胎盤を能動的に通過できるのはIgGだけであり、IgA・IgM・IgEなどは通過しない。胎児の免疫系は未熟で自ら産生する抗体も少ないため、IgAは胎児血中では母体よりはるかに低い。 この「供給される側は低い/胎児が作るものは高い」という原則で整理すると、胎児血中で高値となるのはヘモグロビンFとAFPの2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  IgA

    IgAは分子量が大きく、胎盤の栄養膜(トロホブラスト)にある輸送体である新生児Fc受容体〈FcRn〉にも結合しないため、胎盤を通過しない。胎児自身の産生もごくわずかであり、胎児血中のIgAは母体よりはるかに低値である(ほぼ検出されない程度)。なお、臍帯血でIgMやIgAが高い場合は、胎内での感染(先天感染)に対して胎児自身が抗体を作ったことを示唆する所見となる。IgAは出生後、母乳中の分泌型IgAとして児の腸管に届くが、これは血中濃度を上げるものではない。

  2. ×b.  グルコース

    グルコースは胎児の主要なエネルギー源であり、胎盤のグルコース輸送体(主にGLUT1)を介した促進拡散によって母体から胎児へ運ばれる。促進拡散は濃度勾配に従う受動的な輸送なので、胎児の血糖値は常に母体より低く保たれる(母体より約20 mg/dL低い、母体のおよそ70〜80%程度)。この勾配があるからこそ、グルコースが母体から胎児へ流れ続ける。なお、母体が高血糖になると胎児も高血糖となり、胎児膵からのインスリン分泌が増えて巨大児や新生児低血糖の原因となる(糖尿病合併妊娠)。

  3. ○c.  ヘモグロビンF

    ヘモグロビンF〈HbF〉はα鎖2本とγ鎖2本(α2γ2)からなる胎児型ヘモグロビンで、胎児赤血球のヘモグロビンの大部分を占める。成人型のHbA(α2β2)に比べて、赤血球内の2,3-ビスホスホグリセリン酸〈2,3-BPG〉と結合しにくいため酸素親和性が高く、酸素解離曲線は左方へ偏位している。これにより、酸素分圧の低い胎盤の絨毛間腔でも母体血から効率よく酸素を受け取ることができる。成人(母体)ではHbFはヘモグロビン全体の1%未満にすぎないため、胎児血中で明らかに高値である。出生後はγ鎖からβ鎖への産生切り替えが進み、生後6か月〜1年ほどで成人とほぼ同じ比率になる。

  4. ×d.  動脈血酸素分圧

    胎児は肺呼吸をしておらず、胎盤で母体血から拡散によって酸素を受け取る。拡散は分圧の高い方から低い方へ進むため、胎児側の酸素分圧は母体より必ず低い。母体の動脈血酸素分圧〈PaO2〉が約90〜100 Torrであるのに対し、胎盤から戻る最も酸素に富んだ臍帯静脈血でも約30 Torr前後、胎児の動脈血(臍帯動脈血)では約20 Torr前後と、20〜40 Torr程度にとどまる。胎児はこの低酸素環境を、酸素親和性の高いHbF、高いヘモグロビン濃度、高い心拍出量などで補っている。

  5. ○e.  α-フェトプロテイン〈AFP〉

    AFPは胎児の卵黄嚢と肝臓で産生される糖蛋白で、胎児血清中ではアルブミンに相当する主要な蛋白として働く。胎児血清中濃度は妊娠初期〜中期(妊娠13週頃)にピークとなり、mg/mL単位という非常に高い値に達する。母体血中へは胎盤や羊水を介してごく一部が移行するだけなので、母体血清AFPはng/mL単位(胎児血の数百分の1〜千分の1程度)にとどまる。出生時の臍帯血でも1万〜10万 ng/mL程度あり、その後は次第に低下して生後1年ほどで成人と同じ値(10 ng/mL以下)となる。

胎盤における物質輸送の仕組み

・単純拡散:酸素、二酸化炭素、水、電解質の一部、脂溶性の低分子(多くの薬物を含む)。濃度(分圧)の高い方から低い方へ移動する。 ・促進拡散:グルコース(GLUT1)。担体を使うが濃度勾配に従う受動輸送であり、胎児の濃度は母体より低い。 ・能動輸送:アミノ酸、カルシウム、鉄など。エネルギーを使って濃度勾配に逆らって運ぶため、これらは胎児血中の方が母体より高くなる。 ・受容体介在性の飲作用(トランスサイトーシス):IgG(FcRnを介する)。妊娠後期に輸送量が増え、満期の胎児IgGは母体と同等かやや高くなる。 ・通過しないもの:IgM、IgAなどの大分子、インスリンなどのペプチドホルモン(ほとんど通過しない)。

胎児の低酸素環境への適応

・HbFの高い酸素親和性(酸素解離曲線の左方偏位) ・高いヘモグロビン濃度(出生時は約17〜19 g/dL) ・高い心拍出量・心拍数 ・二重ボーア効果:胎盤で胎児血はCO2を放出してpHが上がり酸素親和性が高まる一方、母体血はCO2を受け取って酸素親和性が下がり酸素を手放しやすくなる。

AFPの臨床的意義

・母体血清AFP高値:開放性神経管閉鎖不全(二分脊椎、無脳症)、腹壁破裂などで羊水・母体血に漏れ出るため上昇する。多胎妊娠でも高くなる。 ・母体血清AFP低値:21トリソミー(ダウン症候群)などで低下傾向を示し、母体血清マーカー検査(クアトロテスト)の項目の一つとなっている。 ・成人でのAFP上昇:肝細胞癌、卵黄嚢腫瘍(胚細胞腫瘍)などの腫瘍マーカーとなる。

POINT

・胎盤で母体から胎児へ受動的に供給されるもの(酸素、グルコース)は胎児血中の方が低い。 ・胎児が自ら作るもの(HbF、AFP)は胎児血中の方が高い。 ・能動輸送されるアミノ酸・カルシウム・鉄は胎児血中の方が高い。 ・胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみ。IgA・IgMは通過しない(臍帯血IgM高値は先天感染を示唆)。 ・胎児PaO2は約20〜40 Torrで、HbF(2,3-BPGと結合しにくく酸素親和性が高い)がこれを補う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。