StudyMed医師国家試験

白く抜けた延髄の外側―髄鞘染色で読むWallenberg症候群

第107回医師国家試験 D問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第6問

延髄組織の髄鞘染色(Klüver-Barrera染色)標本を別に示す。  この病変による症状として考えられるのはどれか。

第107回 D問題 第6問の問題画像
  1. a.片麻痺
  2. b.瞳孔散大
  3. c.嚥下障害
  4. d.深部感覚障害
  5. e.起立性低血圧

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は延髄の髄鞘染色標本から病変の位置を読み取り、そこから出る症状を考える問題だ。カギは「延髄の外側にあるもの」と「内側にあるもの」を分けて整理すること。まず標本の見方から確認しよう。Klüver-Barrera染色では、髄鞘が保たれた部分は濃い青に染まり、梗塞などで髄鞘が失われた部分は染色が抜けて白っぽく見える。
医学生医学生
病理実習で見たときは、青く染まっているところが正常、という覚え方をしていました。
ドクタードクター
それで十分だよ。この標本では、腹側正中の両脇にある錐体と、その背側の正中寄りを走る内側毛帯は両側とも濃く染まって保たれている。ひだ状の下オリーブ核も左右とも残っている。一方で、片側の背外側、つまり下オリーブ核の外側後方から延髄の外表面にかけて広く染色が抜けているんだ。
医学生医学生
延髄の外側が梗塞を起こしているということは、Wallenberg症候群でしょうか。
ドクタードクター
正解。延髄外側症候群とも呼ばれ、主に椎骨動脈や後下小脳動脈、つまりPICAの閉塞で起こる。最近は椎骨動脈解離が原因になる例も多く、特に若年〜中年では重要だ。では、延髄外側にはどんな構造があるか挙げてみよう。
医学生医学生
解剖の講義で、疑核、三叉神経脊髄路核、外側脊髄視床路、交感神経の下行路、前庭神経核、下小脳脚と覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。その中で選択肢と結びつくのは疑核だ。疑核は舌咽神経と迷走神経の運動核で、咽頭・喉頭・軟口蓋の筋を支配している。ここが障害されると病変側の軟口蓋や咽頭、声帯が麻痺して、嚥下障害や構音障害、嗄声が出る。だから嚥下障害が正解だよ。
医学生医学生
神経内科の実習で、患者さんに「あー」と声を出してもらって咽頭後壁が片側に寄る所見を見せてもらいました。あれがカーテン徴候ですね。
ドクタードクター
そう、咽頭後壁が健側へ引かれるのがカーテン徴候だ。嚥下障害は誤嚥性肺炎につながるから、Wallenberg症候群の患者では食事開始前の嚥下評価がとても大事になる。では片麻痺はどうかな。
医学生医学生
脳梗塞なので麻痺がありそうに思えますが、錐体は保たれているんですよね。
ドクタードクター
その通り。錐体路は延髄では腹側正中寄りの錐体を走るから、外側の梗塞では原則として障害されない。運動麻痺がないのはWallenberg症候群の特徴の一つだ。錐体が障害されて対側片麻痺になるのは、前脊髄動脈などの閉塞による延髄内側症候群、Dejerine症候群のほうだね。
医学生医学生
深部感覚障害も、内側毛帯が保たれているので出ないということですね。
ドクタードクター
正解。深部感覚は後索を上行して薄束核・楔状束核で中継し、交叉して内側毛帯として正中近くを上行する。標本でも内側毛帯は保たれているから深部感覚は正常だ。Wallenberg症候群で障害される感覚は、外側脊髄視床路を通る温痛覚なんだ。
医学生医学生
瞳孔散大はどうでしょう。交感神経路が障害されるなら、瞳孔に何か変化が起きそうですが。
ドクタードクター
いい着眼点。下行性交感神経路が障害されると、病変と同側にHorner症候群、つまり縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下が起こる。瞳孔はむしろ小さくなるんだ。散大は動眼神経の障害、例えば内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤による圧迫やテント切痕ヘルニアで考える所見だね。
医学生医学生
起立性低血圧は、延髄に循環中枢があるので少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。ただ、一側の延髄外側梗塞での交感神経障害は、同側頭頸部のHorner症候群が中心で、起立性低血圧は典型的ではない。起立性低血圧は多系統萎縮症やParkinson病、糖尿病性自律神経障害など、全身の自律神経が広く障害される病態で考えよう。
医学生医学生
外側にある構造は障害され、内側の錐体路・内側毛帯・舌下神経は保たれる、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識として感覚障害の分布を押さえておこう。顔面の温痛覚は三叉神経脊髄路核の障害で病変と同側、頸部以下の温痛覚は外側脊髄視床路がすでに脊髄で交叉しているから対側が障害される。この交代性感覚障害がWallenberg症候群の決め手になる。ほかに同側の小脳性運動失調、めまい・眼振、吃逆もみられることがある。臨床では、延髄の小梗塞はCTで写りにくく、急性期のMRI拡散強調画像でも初期には描出されないことがあるので、めまいや嚥下障害を訴える患者で神経所見を丁寧にとることが大切だよ。

まとめ

Klüver-Barrera染色では髄鞘が脱落した部分が白く抜けて見え、延髄背外側の脱落は椎骨動脈やPICAの閉塞によるWallenberg症候群(延髄外側症候群)を示します。延髄外側には疑核、三叉神経脊髄路核、外側脊髄視床路、下行性交感神経路、前庭神経核、下小脳脚があり、疑核障害による嚥下障害・嗄声、同側のHorner症候群(縮瞳)、顔面同側・体幹四肢対側の交代性温痛覚障害、小脳失調やめまいが生じます。一方、内側を走る錐体路・内側毛帯・舌下神経は保たれるため、片麻痺・深部感覚障害・舌麻痺はみられず、これらは延髄内側症候群(Dejerine症候群)の所見です。脳幹の構造の「位置」と症状を対応させる考え方は、脳幹梗塞全般の局在診断に応用でき、嚥下障害の早期評価は誤嚥性肺炎の予防にも直結します。

解答・解説

正解はcです

標本の読み方

Klüver-Barrera(クリューバー・バレラ)染色は、髄鞘をルクソールファストブルーで青く、細胞(ニッスル小体)をクレシル紫で染める方法である。髄鞘が保たれている部分は濃い青に染まり、梗塞などで髄鞘が失われた部分は染色が抜けて白っぽく見える。 提示された延髄の横断面(上が背側、下が腹側)では、腹側正中の両側にある錐体(皮質脊髄路)と、そのすぐ背側の正中近くを走る内側毛帯はともに濃く染まり保たれている。ひだ状に見える下オリーブ核も両側で保たれている。一方、図の右側の背外側部(下オリーブ核の背外側から延髄の外側表面・背側にかけての領域)は広い範囲で染色が抜けており、この部位の髄鞘脱落、すなわち梗塞巣と考えられる。

診断

延髄外側部の梗塞であり、Wallenberg(ワレンベルグ)症候群(延髄外側症候群)に相当する。原因は主に椎骨動脈、または後下小脳動脈(PICA)の閉塞であり、近年は椎骨動脈解離によるものも多い。

設問の考え方

延髄外側に含まれる構造と、内側に含まれる構造を区別して考える。 ・外側(障害される):疑核(舌咽・迷走神経の運動核)、三叉神経脊髄路・脊髄路核、外側脊髄視床路、下行性交感神経路、前庭神経核、下小脳脚・脊髄小脳路 ・内側(保たれる):錐体路、内側毛帯、舌下神経核・舌下神経 選択肢のうち、外側に位置する構造の障害で説明できるのは、疑核障害による嚥下障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  片麻痺

    片麻痺は皮質脊髄路(錐体路)の障害で生じる。延髄では錐体路は腹側正中寄りの錐体を走行し、標本でも錐体は両側ともよく染まって保たれている。錐体の障害による対側片麻痺は、前脊髄動脈や椎骨動脈の傍正中枝の閉塞による延髄内側症候群(Dejerine症候群)でみられる所見であり、延髄外側症候群では原則として生じない。

  2. ×b.  瞳孔散大

    延髄外側には視床下部から脊髄へ下る交感神経の下行路が通っている。これが障害されると病変と同側のHorner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下)が生じるため、瞳孔はむしろ小さくなる。瞳孔散大は、動眼神経(副交感神経線維を含む)やその核が障害されたとき、たとえば中脳病変、内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤による圧迫、テント切痕ヘルニアなどでみられる。

  3. ○c.  嚥下障害

    延髄外側には疑核があり、ここから舌咽神経(IX)と迷走神経(X)の運動線維が出て、咽頭・喉頭・軟口蓋の筋を支配している。本例のように延髄背外側が障害されると疑核やその線維が損なわれ、病変側の軟口蓋・咽頭・声帯の麻痺が生じる。その結果、嚥下障害、構音障害、嗄声がみられ、カーテン徴候(発声時に咽頭後壁が健側へ引かれる)や咽頭反射の低下を認める。嚥下障害はWallenberg症候群で誤嚥性肺炎の原因となる重要な症状である。

  4. ×d.  深部感覚障害

    深部感覚(位置覚・振動覚)は脊髄後索を上行し、延髄下部背側の薄束核・楔状束核でニューロンを替えたのち交叉して、内側毛帯として正中近くを上行する。標本では内側毛帯は保たれており、深部感覚障害は生じにくい。内側毛帯の障害による対側の深部感覚障害は延髄内側症候群の所見である。延髄外側症候群で障害されるのは、外側脊髄視床路を通る温痛覚である。

  5. ×e.  起立性低血圧

    起立性低血圧は、多系統萎縮症、Parkinson病、糖尿病性自律神経障害、純粋自律神経不全症など、全身の自律神経系(特に血管を収縮させる交感神経系)の広範な障害でみられる。延髄には孤束核や吻側延髄腹外側野など循環調節に関わる部位があるが、一側の延髄外側梗塞では交感神経障害は同側の頭頸部に現れるHorner症候群が中心であり、起立性低血圧は典型的な症状ではない。

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)の症状と責任病巣

病変と同側の症状 ・顔面の温痛覚障害:三叉神経脊髄路・脊髄路核 ・Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下):下行性交感神経路 ・嚥下障害、構音障害、嗄声、カーテン徴候:疑核(舌咽・迷走神経) ・小脳性運動失調(上下肢の協調運動障害):下小脳脚、脊髄小脳路 ・めまい、悪心・嘔吐、眼振:前庭神経核 ・味覚障害:孤束核 ・吃逆(しゃっくり)がみられることもある 病変と反対側の症状 ・頸部以下の半身の温痛覚障害:外側脊髄視床路(脊髄レベルですでに交叉している) 顔面は同側、体幹・四肢は対側という温痛覚障害の分布(交代性感覚障害)が特徴的である。

保たれる機能

錐体路が保たれるため運動麻痺はなく、内側毛帯が保たれるため深部感覚も正常である。舌下神経(XII)も内側を走るため舌の麻痺は生じない。

延髄内側症候群(Dejerine症候群)との対比

前脊髄動脈や椎骨動脈の傍正中枝の閉塞で生じる。 ・病変側:舌下神経麻痺(舌が病変側へ偏位) ・対側:片麻痺(錐体)、深部感覚障害(内側毛帯)

原因と画像

椎骨動脈またはPICAの閉塞によるものが多く、若年〜中年では椎骨動脈解離が重要な原因となる。急性期の診断にはMRI拡散強調画像が有用であり、延髄の小梗塞はCTでは描出されにくい。

POINT

・Klüver-Barrera染色では髄鞘脱落部が白く抜ける。延髄背外側の脱落=Wallenberg症候群。 ・原因は椎骨動脈またはPICAの閉塞(椎骨動脈解離も重要)。 ・同側:顔面温痛覚障害、Horner症候群(縮瞳)、嚥下障害・嗄声(疑核)、小脳失調、めまい・眼振。 ・対側:頸部以下の半身の温痛覚障害(交代性感覚障害)。 ・錐体路・内側毛帯・舌下神経は内側にあり保たれる→片麻痺・深部感覚障害・舌麻痺はない(これらは延髄内側症候群)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。