月経周期は乱れない―子宮内膜症の「痛み」と「不妊」を病態から読み解く
第107回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
子宮内膜症にみられないのはどれか。
- a.不妊
- b.排便痛
- c.希発月経
- d.月経困難症
- e.卵巣チョコレート嚢胞
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
子宮内膜症は、子宮内膜様組織が卵巣やダグラス窩、仙骨子宮靱帯などの子宮外でエストロゲン依存性に増殖・出血し、炎症と癒着を起こす疾患です。この病態から、月経困難症、排便痛・性交痛などの疼痛、卵巣チョコレート嚢胞、そして卵管周囲の癒着や腹腔内の炎症による不妊が説明でき、疼痛と不妊が二大症状となります。一方、視床下部-下垂体-卵巣系の調節は原則として保たれるため排卵や月経周期は通常正常で、希発月経は多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害で考える症状です。確定診断は腹腔鏡で、チョコレート嚢胞はまれに明細胞癌・類内膜癌の母地となる点にも注意が必要です。症状を病態から導く考え方は、似た症状をもつ婦人科疾患を鑑別するうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
子宮内膜症は、子宮内膜またはそれに類似した組織が、子宮内腔以外の場所(卵巣、ダグラス窩=直腸子宮窩、仙骨子宮靱帯、骨盤腹膜、直腸など)に発生して増殖する疾患である。生殖年齢の女性に多く、20〜30歳代で発症することが多い。
病態から症状を考える
異所性の内膜組織はエストロゲンに反応して、月経周期に合わせて増殖と出血を繰り返す。しかし子宮外にあるため血液は外へ排出されず、局所に貯留して炎症を起こし、周囲の臓器との癒着や線維化を引き起こす。ここから主な症状が説明できる。 ・月経時に病変部で出血・炎症が起こる → 月経困難症(月経痛) ・ダグラス窩や直腸周囲の病変・癒着 → 排便痛、性交痛、慢性骨盤痛 ・卵巣内で出血がたまる → 卵巣チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞) ・卵管周囲の癒着、腹腔内の炎症環境、卵巣機能の低下 → 不妊
正解を導く考え方
子宮内膜症は、月経周期を作り出す視床下部-下垂体-卵巣系の調節には原則として影響しない。排卵は保たれ、月経周期は通常ほぼ正常である。したがって、月経周期が延長する希発月経は子宮内膜症の症状とはいえない。「みられないもの」を問う問題であり、これを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 不妊
子宮内膜症でみられる。不妊症の女性の3〜5割程度に子宮内膜症がみられるとされ、主要な症状の一つである。機序としては、卵管や卵巣周囲の癒着による卵子の捕捉・輸送の障害(卵管采のピックアップ障害)、腹水中の炎症性サイトカインやマクロファージの増加による精子・卵子・受精卵への悪影響、チョコレート嚢胞による卵巣予備能の低下などが考えられている。なお不妊とは、妊娠を希望して避妊せずに性交しているにもかかわらず一定期間(日本では1年)妊娠しない状態をいう。
- ×b. 排便痛
子宮内膜症でみられる。子宮内膜症はダグラス窩や仙骨子宮靱帯、直腸前壁に好発し、この部位の病変や癒着によって排便時の痛みが生じる。特に月経時に強くなるのが特徴である。同じ機序で性交痛(深部性交痛)もみられ、内診では仙骨子宮靱帯の硬結や圧痛、子宮の可動性制限として触知される。直腸に深く浸潤した病変では月経時の下血をきたすこともある。
- ○c. 希発月経
子宮内膜症ではみられない。希発月経とは月経周期が39日以上に延長した状態(3か月以内)をいい、視床下部-下垂体-卵巣系の機能異常による排卵障害(多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、体重減少性など)でみられる。子宮内膜症は異所性内膜という局所の病変が主体であり、月経周期の調節には通常影響しないため、周期の延長はきたさない。
- ×d. 月経困難症
子宮内膜症でみられ、最も頻度の高い症状である。異所性内膜が月経時に出血して周囲に炎症を起こすことや、プロスタグランジンの産生増加によって強い月経痛が生じる。子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的疾患による月経困難症は器質性(続発性)月経困難症と呼ばれ、年齢とともに痛みが増強しやすく、月経前から始まり月経後も続くことがある。
- ×e. 卵巣チョコレート嚢胞
子宮内膜症でみられる。卵巣は子宮内膜症の好発部位で、卵巣内の異所性内膜から繰り返し出血した古い血液がたまり、チョコレート様の褐色の内容液をもつ嚢胞となる。子宮内膜症性嚢胞とも呼ばれる。MRIではT1強調像・T2強調像ともに高信号を示すことが多く、T2強調像で信号が低下する部分(shading)がみられるのが特徴である。まれに(1%前後)癌化し、明細胞癌や類内膜癌の発生母地となるため、特に40歳以上や嚢胞の増大例では注意が必要である。
子宮内膜症の概要
・定義:子宮内膜様組織が子宮内腔以外の部位で発生・発育する疾患。エストロゲン依存性である。 ・好発部位:卵巣、ダグラス窩、仙骨子宮靱帯、骨盤腹膜、直腸・S状結腸。まれに肺や胸膜(月経随伴性気胸)など骨盤外にも生じる。 ・子宮筋層内に内膜組織が入り込むものは子宮腺筋症と呼び、別に扱う。 ・成因として、月経血が卵管を逆流して腹腔内に内膜細胞が生着するという月経血逆流説が有力である。
症状
疼痛(月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛)と不妊が二大症状である。月経周期は通常保たれる。
診断
・内診:ダグラス窩の硬結、子宮後屈固定、付属器腫瘤 ・画像:経腟超音波、MRI(チョコレート嚢胞の評価) ・血液:CA125が軽度上昇することが多い(CA19-9が上昇することもある) ・確定診断は腹腔鏡による病変の直接観察である。進行度は腹腔鏡所見に基づくr-ASRM分類で評価される。
治療
・薬物療法:鎮痛薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト(偽閉経療法)など。いずれもエストロゲンの作用を抑えて病変を萎縮させる。 ・手術療法:嚢胞摘出術や病巣除去を腹腔鏡下で行う。挙児希望の有無、年齢、症状の程度で選択する。 ・妊娠・閉経により症状は軽快することが多い。
月経周期の異常の用語
・正常月経周期:25〜38日 ・頻発月経:24日以内 ・希発月経:39日以上3か月以内 ・無月経:3か月以上月経がない(続発性無月経) 希発月経や無月経は、主に視床下部-下垂体-卵巣系の異常による排卵障害で起こる。
POINT
・子宮内膜症の二大症状は疼痛(月経困難症・性交痛・排便痛・慢性骨盤痛)と不妊。 ・卵巣に好発し、チョコレート嚢胞を形成する。まれに癌化(明細胞癌・類内膜癌)する。 ・異所性内膜の局所病変であり、視床下部-下垂体-卵巣系は保たれるため月経周期は通常正常。希発月経はみられない。 ・CA125の軽度上昇、MRIでT1・T2強調像ともに高信号の嚢胞(T2でshading)が参考所見。確定診断は腹腔鏡。
