StudyMed医師国家試験

「急に・きっかけがあって・元気だった人」は回復しやすい―統合失調症の予後因子を一本の軸で読む

第107回医師国家試験 D問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第20問

統合失調症の良好な予後に関連するのはどれか。3つ選べ。

  1. a.緩徐な発症
  2. b.思春期の発症
  3. c.病前の良好な社会適応
  4. d.発症における誘因の存在
  5. e.循環気質的傾向の病前性格

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は統合失調症の予後を左右する因子を問う問題だ。統合失調症の経過は人によって大きく違っていて、一度の病相で回復して社会に戻る人もいれば、再発を繰り返して陰性症状が残り慢性化する人もいる。どんな特徴が予後を良い方向に、あるいは悪い方向に傾けるのか、という視点で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
正直、暗記項目が多くて混乱しやすい分野です。何か整理のコツはありますか。
ドクタードクター
あるよ。基本は「外からのストレスなどをきっかけに、はっきりした症状で急に発症し、発症前の人格や社会機能が保たれている」ほど回復しやすい、という一本の軸だ。逆に「きっかけがないまま、若いうちから少しずつ進み、病前から機能が低い」ほど慢性化しやすい。
医学生医学生
なるほど。でも緩徐な発症のほうが、症状が穏やかで軽症のように思えてしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも実際は逆なんだ。明らかな発症時点がないまま、意欲低下や引きこもり、成績低下が少しずつ進む潜行性の発症は、陰性症状が中心になることが多く、薬への反応も乏しい。しかも周囲が病気と気づきにくく、未治療期間、つまりDUPが長くなりやすい。これも予後を悪くする要因だ。
医学生医学生
精神医学の講義で出てきた単純型が、まさにその典型でしたね。
ドクタードクター
その通り。陽性症状が目立たず陰性症状がじわじわ進む単純型は予後不良の代表だ。だから緩徐な発症は予後不良因子で、良好なのは急性発症のほうになる。次は発症年齢だ。
医学生医学生
思春期発症は、若いぶん回復力もありそうですが…。
ドクタードクター
そこも落とし穴だ。思春期や小児期の発症は、社会的・職業的な能力が身につく前に病気が始まってしまうから、病後に社会へ適応するのが難しくなる。潜行性の発症や陰性症状中心の病型が多いことも重なって、予後不良因子とされている。成人以降の遅い発症のほうが予後は良い傾向にあるんだ。
医学生医学生
では、病前の社会適応が良好だった人は、元に戻る土台があるということですね。
ドクタードクター
まさにそう。発症前に学業や仕事、対人関係でうまくやれていたということは、コミュニケーション能力や立ち直る力、いわゆるレジリエンスが備わっている証拠だ。家族や職場の支援も得られていることが多く、治療後に元の生活へ戻りやすい。これは予後良好因子だ。
医学生医学生
誘因の存在はどうでしょう。ストレスがあって発症したら、また同じストレスで再発しそうな気もします。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。ただ、受験や就職、失恋、死別などの明らかな誘因があって発症した場合は、ストレスへの反応としての要素が大きく、急性に発症して治療にもよく反応することが多い。逆にきっかけらしいものがないのに発症した場合は、病気そのものの力が強いと考えられ、予後不良とされる。だから誘因の存在は予後良好因子なんだ。
医学生医学生
最後の循環気質は、クレッチマーの気質類型ですね。CBTの勉強で体格とセットで覚えた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。循環気質は社交的で温かく、気分の浮き沈みがあるタイプで、肥満型の体格や双極性障害との関連が指摘されてきた。統合失調症でも病前性格が循環気質的だったり、抑うつや躁などの気分症状を伴ったりすると、予後は比較的良好とされる。気分症状を伴う統合失調感情障害の予後が統合失調症より良い傾向にあるのとも共通する考え方だ。
医学生医学生
反対に、内向的で非社交的な分裂気質は予後不良と関連する、ということですね。
ドクタードクター
そう。整理すると、予後良好に関連するのは病前の良好な社会適応、発症の誘因の存在、循環気質的な病前性格の3つ。緩徐な発症と思春期の発症は予後不良因子だ。
医学生医学生
「急に・きっかけがあって・元気だった人」が良好、「いつの間にか・若いうちから・元々適応が悪い」が不良、と覚えればいいですね。
ドクタードクター
完璧だ。ほかにも、陽性症状中心、既婚、女性、気分障害の家族歴、支援体制が整っていることは良好因子。陰性症状中心、未婚や社会的孤立、統合失調症の家族歴、再発の反復や服薬が守られないことは不良因子として押さえておこう。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、ご家族向けの心理教育に同席しました。あれも再発予防のためなんでしょうか。
ドクタードクター
そうだよ。再発予防には抗精神病薬を続けることに加え、家族の感情表出、つまり批判的・敵意的な言動や過干渉を減らす家族心理教育が有効とされている。予後因子のうち、病前性格や発症年齢は変えられないけれど、早期発見で未治療期間を短くすることや、服薬継続と家族支援を整えることは医療者が働きかけられる部分なんだ。
医学生医学生
予後因子は単なる暗記ではなく、介入できるポイントを見つける手がかりにもなるんですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんやご家族に見通しを説明するときにも役立つ知識だよ。

まとめ

統合失調症の予後は、急性発症、成人以降の遅い発症、明らかな誘因の存在、病前の良好な社会適応、陽性症状や気分症状が中心であること、循環気質的な病前性格などで良好となりやすいとされます。反対に、潜行性・緩徐な発症、思春期など若年での発症、誘因のない発症、病前からの適応不良、陰性症状中心、分裂気質、統合失調症の家族歴などは予後不良と関連します。「急に・きっかけがあって・元気だった人」は回復しやすく、「いつの間にか・若いうちから・元々適応が悪い」と慢性化しやすい、という軸で整理すると覚えやすくなります。予後因子には変えられないものも多い一方、早期発見による未治療期間の短縮、服薬継続、家族の感情表出を下げる家族心理教育などは医療者が働きかけられる部分です。予後因子を理解することは、試験対策にとどまらず、患者や家族への見通しの説明や再発予防の戦略を立てるうえでの基盤になります。

解答・解説

正解はc, d, eです

統合失調症の経過・予後を左右する因子を問う問題である。 統合失調症の経過は人によって大きく異なる。一度の病相で回復して社会生活に戻る例がある一方、再発を繰り返し、陰性症状(意欲低下、感情の平板化、自閉など)や認知機能障害が残って慢性化する例もある。これまでの臨床研究から、予後が良い方向に働く因子と悪い方向に働く因子がある程度わかっている。 整理の軸は、おおむね次の対比である。 ・発症の様式: 急性発症(良好)⇔ 潜行性・緩徐な発症(不良) ・発症年齢: 成人以降の遅い発症(良好)⇔ 小児期・思春期の早い発症(不良) ・発症のきっかけ: 明らかな誘因あり(良好)⇔ 誘因なし(不良) ・病前の機能: 病前の社会適応・職業機能が良好(良好)⇔ 病前から適応不良(不良) ・症状の性質: 陽性症状・気分症状が目立つ(良好)⇔ 陰性症状が目立つ(不良) ・病前性格・家族歴: 循環気質、気分障害の家族歴(良好)⇔ 分裂気質、統合失調症の家族歴(不良) 共通する考え方は、「外からのストレスなどをきっかけにはっきりした症状で急に発症し、発症前の人格や社会機能が保たれている」ほど回復しやすく、「はっきりしたきっかけのないまま若いうちから少しずつ進み、病前から機能が低い」ほど慢性化しやすい、というものである。これを押さえれば、各選択肢を良好・不良に振り分けられる。

選択肢考察

  1. ×a.  緩徐な発症

    明らかな発症時点がないまま、意欲低下・引きこもり・学業や仕事の成績低下などが少しずつ進む潜行性の発症は、陰性症状が中心となることが多く、治療への反応も乏しい。病気に気づくのが遅れ、未治療期間(DUP: duration of untreated psychosis)が長くなりやすい点も予後を悪くする。陽性症状が目立たず陰性症状が徐々に進む、いわゆる単純型はその典型であり、予後不良である。予後良好に関連するのは急性発症のほうである。

  2. ×b.  思春期の発症

    小児期や思春期など若い時期の発症は、社会的・職業的能力が身につく前に病気が始まるため、病後の社会適応が難しくなる。潜行性の発症や陰性症状が中心の病型が多いことも重なり、予後不良因子とされる。遅い発症(成人期以降)のほうが予後は良い傾向がある。

  3. ○c.  病前の良好な社会適応

    発症前に学業・仕事・対人関係などで適応できていたことは、対人関係を求める力やコミュニケーション能力、困難から立ち直る力(レジリエンス)が備わっていることを示している。家族や職場・地域などの支援(ソーシャルサポート)を得られていることも多く、治療後に元の生活へ戻りやすい。このため予後良好因子である。反対に、病前から適応が悪い場合は予後不良である。

  4. ○d.  発症における誘因の存在

    受験・就職・失恋・死別などの心理社会的ストレスといった明らかな誘因があって発症した場合は、ストレスへの反応としての要素が大きく、急性に発症することが多い。このような例は治療への反応が良く、予後良好とされる。明らかな誘因がないのに発症した場合は、病気そのものの力が強いと考えられ、予後不良である。

  5. ○e.  循環気質的傾向の病前性格

    循環気質はクレッチマー(Kretschmer)の気質類型の一つで、社交的・温かく人づきあいがよく、気分の浮き沈みがあるのが特徴であり、双極性障害との関連が指摘されてきた。統合失調症でも、病前性格が循環気質的である場合や、抑うつ・躁などの気分症状を伴う場合は予後が比較的良好とされる。気分症状を伴う統合失調感情障害の予後が統合失調症より良い傾向にあることとも共通する。反対に、内向的で非社交的な分裂気質(統合失調気質)は予後不良と関連する。

統合失調症の予後因子のまとめ

予後良好因子 ・急性発症 ・遅い発症(成人期以降) ・明らかな誘因(心理社会的ストレスなど)がある ・病前の社会適応・職業機能が良好 ・既婚である ・陽性症状が中心、気分症状(抑うつ・躁)を伴う ・循環気質の病前性格、気分障害の家族歴 ・支援体制(家族・地域)が整っている ・早期に治療を始められた(未治療期間が短い) 予後不良因子 ・潜行性・緩徐な発症 ・若年発症(小児期・思春期) ・明らかな誘因がない ・病前から社会適応が不良 ・未婚・社会的孤立 ・陰性症状が中心 ・分裂気質の病前性格、統合失調症の家族歴 ・再発を繰り返す、服薬が守られない ・男性(女性のほうが予後が良い傾向がある)

クレッチマーの気質類型

・循環気質: 社交的、善良、気分が上下しやすい。肥満型の体格と関連づけられ、躁うつ病(双極性障害)との関連が指摘された。 ・分裂気質: 非社交的、内気、敏感さと鈍感さをあわせ持つ。細長型の体格と関連づけられ、統合失調症との関連が指摘された。 ・粘着気質: 几帳面、熱中しやすく、時に爆発的に怒る。闘士型の体格と関連づけられ、てんかんとの関連が指摘された。

その他

再発予防には、抗精神病薬を続けて飲むことに加え、家族の感情表出(EE: expressed emotion。批判的・敵意的な言動や過干渉)を下げる家族心理教育が有効とされる。

POINT

・予後良好: 急性発症、遅い発症、明らかな誘因あり、病前の社会適応良好、陽性症状・気分症状が中心、循環気質、既婚、女性。 ・予後不良: 潜行性発症、若年発症、誘因なし、病前の適応不良、陰性症状が中心、分裂気質、家族歴あり。 ・「急に・きっかけがあって・元気だった人が発症」は予後良好、「いつの間にか・若いうちから・元々適応が悪い」は予後不良と覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。