「急に・きっかけがあって・元気だった人」は回復しやすい―統合失調症の予後因子を一本の軸で読む
第107回医師国家試験 D問題 第20問
国試問題にチャレンジ
統合失調症の良好な予後に関連するのはどれか。3つ選べ。
- a.緩徐な発症
- b.思春期の発症
- c.病前の良好な社会適応
- d.発症における誘因の存在
- e.循環気質的傾向の病前性格
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症の予後は、急性発症、成人以降の遅い発症、明らかな誘因の存在、病前の良好な社会適応、陽性症状や気分症状が中心であること、循環気質的な病前性格などで良好となりやすいとされます。反対に、潜行性・緩徐な発症、思春期など若年での発症、誘因のない発症、病前からの適応不良、陰性症状中心、分裂気質、統合失調症の家族歴などは予後不良と関連します。「急に・きっかけがあって・元気だった人」は回復しやすく、「いつの間にか・若いうちから・元々適応が悪い」と慢性化しやすい、という軸で整理すると覚えやすくなります。予後因子には変えられないものも多い一方、早期発見による未治療期間の短縮、服薬継続、家族の感情表出を下げる家族心理教育などは医療者が働きかけられる部分です。予後因子を理解することは、試験対策にとどまらず、患者や家族への見通しの説明や再発予防の戦略を立てるうえでの基盤になります。
解答・解説
正解はc, d, eです
統合失調症の経過・予後を左右する因子を問う問題である。 統合失調症の経過は人によって大きく異なる。一度の病相で回復して社会生活に戻る例がある一方、再発を繰り返し、陰性症状(意欲低下、感情の平板化、自閉など)や認知機能障害が残って慢性化する例もある。これまでの臨床研究から、予後が良い方向に働く因子と悪い方向に働く因子がある程度わかっている。 整理の軸は、おおむね次の対比である。 ・発症の様式: 急性発症(良好)⇔ 潜行性・緩徐な発症(不良) ・発症年齢: 成人以降の遅い発症(良好)⇔ 小児期・思春期の早い発症(不良) ・発症のきっかけ: 明らかな誘因あり(良好)⇔ 誘因なし(不良) ・病前の機能: 病前の社会適応・職業機能が良好(良好)⇔ 病前から適応不良(不良) ・症状の性質: 陽性症状・気分症状が目立つ(良好)⇔ 陰性症状が目立つ(不良) ・病前性格・家族歴: 循環気質、気分障害の家族歴(良好)⇔ 分裂気質、統合失調症の家族歴(不良) 共通する考え方は、「外からのストレスなどをきっかけにはっきりした症状で急に発症し、発症前の人格や社会機能が保たれている」ほど回復しやすく、「はっきりしたきっかけのないまま若いうちから少しずつ進み、病前から機能が低い」ほど慢性化しやすい、というものである。これを押さえれば、各選択肢を良好・不良に振り分けられる。
選択肢考察
- ×a. 緩徐な発症
明らかな発症時点がないまま、意欲低下・引きこもり・学業や仕事の成績低下などが少しずつ進む潜行性の発症は、陰性症状が中心となることが多く、治療への反応も乏しい。病気に気づくのが遅れ、未治療期間(DUP: duration of untreated psychosis)が長くなりやすい点も予後を悪くする。陽性症状が目立たず陰性症状が徐々に進む、いわゆる単純型はその典型であり、予後不良である。予後良好に関連するのは急性発症のほうである。
- ×b. 思春期の発症
小児期や思春期など若い時期の発症は、社会的・職業的能力が身につく前に病気が始まるため、病後の社会適応が難しくなる。潜行性の発症や陰性症状が中心の病型が多いことも重なり、予後不良因子とされる。遅い発症(成人期以降)のほうが予後は良い傾向がある。
- ○c. 病前の良好な社会適応
発症前に学業・仕事・対人関係などで適応できていたことは、対人関係を求める力やコミュニケーション能力、困難から立ち直る力(レジリエンス)が備わっていることを示している。家族や職場・地域などの支援(ソーシャルサポート)を得られていることも多く、治療後に元の生活へ戻りやすい。このため予後良好因子である。反対に、病前から適応が悪い場合は予後不良である。
- ○d. 発症における誘因の存在
受験・就職・失恋・死別などの心理社会的ストレスといった明らかな誘因があって発症した場合は、ストレスへの反応としての要素が大きく、急性に発症することが多い。このような例は治療への反応が良く、予後良好とされる。明らかな誘因がないのに発症した場合は、病気そのものの力が強いと考えられ、予後不良である。
- ○e. 循環気質的傾向の病前性格
循環気質はクレッチマー(Kretschmer)の気質類型の一つで、社交的・温かく人づきあいがよく、気分の浮き沈みがあるのが特徴であり、双極性障害との関連が指摘されてきた。統合失調症でも、病前性格が循環気質的である場合や、抑うつ・躁などの気分症状を伴う場合は予後が比較的良好とされる。気分症状を伴う統合失調感情障害の予後が統合失調症より良い傾向にあることとも共通する。反対に、内向的で非社交的な分裂気質(統合失調気質)は予後不良と関連する。
統合失調症の予後因子のまとめ
予後良好因子 ・急性発症 ・遅い発症(成人期以降) ・明らかな誘因(心理社会的ストレスなど)がある ・病前の社会適応・職業機能が良好 ・既婚である ・陽性症状が中心、気分症状(抑うつ・躁)を伴う ・循環気質の病前性格、気分障害の家族歴 ・支援体制(家族・地域)が整っている ・早期に治療を始められた(未治療期間が短い) 予後不良因子 ・潜行性・緩徐な発症 ・若年発症(小児期・思春期) ・明らかな誘因がない ・病前から社会適応が不良 ・未婚・社会的孤立 ・陰性症状が中心 ・分裂気質の病前性格、統合失調症の家族歴 ・再発を繰り返す、服薬が守られない ・男性(女性のほうが予後が良い傾向がある)
クレッチマーの気質類型
・循環気質: 社交的、善良、気分が上下しやすい。肥満型の体格と関連づけられ、躁うつ病(双極性障害)との関連が指摘された。 ・分裂気質: 非社交的、内気、敏感さと鈍感さをあわせ持つ。細長型の体格と関連づけられ、統合失調症との関連が指摘された。 ・粘着気質: 几帳面、熱中しやすく、時に爆発的に怒る。闘士型の体格と関連づけられ、てんかんとの関連が指摘された。
その他
再発予防には、抗精神病薬を続けて飲むことに加え、家族の感情表出(EE: expressed emotion。批判的・敵意的な言動や過干渉)を下げる家族心理教育が有効とされる。
POINT
・予後良好: 急性発症、遅い発症、明らかな誘因あり、病前の社会適応良好、陽性症状・気分症状が中心、循環気質、既婚、女性。 ・予後不良: 潜行性発症、若年発症、誘因なし、病前の適応不良、陰性症状が中心、分裂気質、家族歴あり。 ・「急に・きっかけがあって・元気だった人が発症」は予後良好、「いつの間にか・若いうちから・元々適応が悪い」は予後不良と覚える。
