上司からの電話に病状を答えていいのか―守秘義務と「本人の同意」の原則
第107回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。生来健康であったが,会社の健康診断で便潜血が陽性であったため精査を勧められて来院した。大腸内視鏡検査でS状結腸に全周性の腫瘤を認め,精査の結果,リンパ節転移を伴う進行癌と診断された。引き続き手術と抗癌化学療法とが計画されたため,入院治療が必要であることを患者に伝えた。その後,患者が勤務する会社の上司から,「今後の人員配置を検討するために,患者の病状と職場復帰の見込みを教えて欲しい」と電話で問い合わせがあった。 情報提供を行う上で必要なのはどれか。
- a.患者の同意
- b.病院長の承認
- c.患者の在職証明
- d.診療録の開示請求
- e.倫理委員会の承認
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
ドクターまとめ
病名や病状、職場復帰の見込みといった診療情報は要配慮個人情報であり、会社の上司は患者本人から見れば第三者にあたります。医師には刑法第134条に基づく守秘義務があり、個人情報保護法でも法令に基づく場合などの例外を除いて本人の同意なく第三者に提供することはできないため、情報提供には患者本人の同意が必要です。病院長や倫理委員会の承認、在職証明、診療録の開示請求は、いずれも第三者への提供の根拠にはなりません。電話での問い合わせにはその場で答えず、本人に伝える相手・範囲・目的を確認し、必要に応じて診断書や両立支援の意見書など正式な経路で職場と連携します。守秘義務の原則を身につけておくことは、患者さんとの信頼関係を守り、就労支援のような社会的な関わりを適切に進めるための土台になります。
解答・解説
正解はaです
状況の整理
・52歳男性。職場の健康診断で便潜血陽性となり、精査でリンパ節転移を伴うS状結腸の進行癌と診断された。 ・手術と抗癌化学療法が予定され、入院が必要であることは本人に伝えられている。 ・患者の勤務先の上司から、人員配置の検討を目的として「病状と職場復帰の見込み」を電話で尋ねられた。
問われていること:患者情報を第三者に伝える条件
病名・病状・治療内容・予後は、個人情報の中でも特に慎重な取り扱いが求められる情報(個人情報保護法上の「要配慮個人情報」)である。会社の上司は、たとえ業務上の正当な理由があるとしても、患者本人から見れば「第三者」にあたる。 医師には刑法上の守秘義務があり、正当な理由なく業務上知り得た患者の秘密を漏らすことは処罰の対象となる。また個人情報保護法でも、法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供することは禁じられている。 本問の問い合わせは、法令に基づく提供や、生命・身体を守るために緊急に必要で本人の同意を得るのが困難な場合などの例外にはあたらない。患者は意思表示が可能であり、同意を確認することは容易である。したがって、上司に情報提供するために必要なのは、患者本人の同意である。
実際の対応
電話では相手が本当に上司かどうかの確認も難しいため、その場で病状を答えてはならない。「ご本人の同意がなければお答えできません」と伝え、患者本人に、誰に・どの範囲の情報を・どの目的で伝えてよいかを確認する。同意が得られた場合も、伝える内容は同意された範囲と目的に必要な範囲にとどめ、同意を得たことを診療録に記録しておくのが望ましい。職場復帰の見込みなど就労に関わる情報は、本人を通じて診断書や意見書の形で職場に伝える方法もある。
選択肢考察
- ○a. 患者の同意
患者の病状に関する情報は患者本人のものであり、第三者への提供の可否を決めるのは本人である。本人の同意があれば守秘義務違反(正当な理由のない漏示)にはあたらず、個人情報保護法上も第三者提供が可能となる。本問は法令上の例外に該当せず、患者は意思表示できる状態であるため、情報提供の前提として患者本人の同意が必要である。
- ×b. 病院長の承認
病院長は医療機関の管理者であるが、患者個人の情報を第三者に伝えることについて、本人に代わって許可する権限はない。病院長が承認したとしても、患者本人の同意がなければ守秘義務違反・個人情報保護法違反となりうる。情報提供の要件ではない。
- ×c. 患者の在職証明
在職証明は、その人がその会社に勤務していることを示す書類にすぎない。患者が勤務していることが確認できても、会社や上司が患者の病状を知る権利が生じるわけではない。情報提供の根拠にはならない。
- ×d. 診療録の開示請求
診療録(カルテ)の開示請求は、本人(または本人が意思表示できない場合の法定代理人・遺族など一定の者)が自己の診療情報の開示を求める手続きである。会社の上司には診療録の開示を請求する権利はなく、また本問で求められているのは診療録の閲覧ではなく病状と復帰見込みの説明である。情報提供の要件とは関係がない。
- ×e. 倫理委員会の承認
倫理委員会(倫理審査委員会)は、臨床研究の計画や、先進的・倫理的に問題となりうる医療行為の妥当性を審査する組織である。個々の患者情報を職場へ伝えるかどうかは審査の対象ではなく、本人が意思表示できる以上、判断の主体は患者本人である。不要である。
医師の守秘義務
・刑法第134条(秘密漏示罪):医師などが、正当な理由がないのに業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6か月以下の拘禁刑(2025年施行の改正前は懲役)または10万円以下の罰金に処される。親告罪である。 ・「正当な理由」には、本人の同意がある場合や、法令に基づく届出(感染症法に基づく届出、児童虐待の通告など)が含まれる。
個人情報保護法における第三者提供の制限
病歴などは要配慮個人情報とされ、取得や第三者提供に原則として本人の同意が必要である。本人の同意なく第三者に提供できる主な例外は以下である。 ・法令に基づく場合 ・人の生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合 ・公衆衛生の向上や児童の健全な育成のために特に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合 ・国や地方公共団体などの法令に定める事務に協力する必要があり、本人の同意を得ることでその遂行に支障を及ぼすおそれがある場合
家族・職場への病状説明
家族であっても、本人の意思に反して病状を伝えることは原則として避けるべきであり、誰に説明してよいかを事前に本人に確認しておくのが望ましい。職場に対しては、治療と仕事の両立支援の観点から、本人の同意のもとで主治医が就業上の配慮に関する意見書を作成し、産業医などと連携する仕組みがある(事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン)。
チーム医療と情報共有
院内の医療チームでは、診療に必要な範囲で患者情報が共有される。これは通常、患者の同意が推定される範囲(黙示の同意)として扱われるが、共有する情報の範囲が診療目的に必要なものかどうかは常に意識する必要がある。
POINT
・患者の病状を第三者(会社の上司、家族を含む)に伝えるには、原則として患者本人の同意が必要。 ・医師の守秘義務は刑法第134条(秘密漏示罪)に規定される。 ・病院長の承認、在職証明、倫理委員会の承認は情報提供の根拠にならない。 ・電話での問い合わせには、相手の確認もできないためその場で答えず、本人の意思を確認する。
