「新薬だけ自費」は通らない―混合診療禁止のルールと治療費の正しい説明
第107回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。悪性腫瘍の治療中である。医療保険が適用される標準的抗癌化学療法の効果が十分でないため,海外ではすでに発売されている新薬を加えた併用療法を強く希望している。この新薬は国内ではまだ保険適用がなく,保険診療との併用も認められていない。 この新薬を使う場合の治療費に関する説明として適切なのはどれか。
- a.「標準的治療も含めて全額が自己負担になります」
- b.「新薬の費用も含めて全額が保険で支払われます」
- c.「新薬の費用も含めて一部が自己負担になります」
- d.「併用する新薬の費用に限り自己負担になります」
- e.「新薬とは別の保険適用薬を使ったことにします」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
日本の公的医療保険では、保険診療と保険外診療を同時に行う混合診療は原則として禁止されており、行った場合は保険診療部分も含めて診療全体が自由診療となり、全額が患者の自己負担となります。保険適用がなく保険診療との併用も認められていない新薬を標準治療に加える場合は、「標準的治療も含めて全額自己負担になる」と正確に説明する必要があります。例外として、評価療養・患者申出療養・選定療養からなる保険外併用療養費制度の対象であれば、共通部分は保険給付され保険外部分のみが自己負担となります。使用していない薬剤を使ったことにする請求は不正請求であり、犯罪行為として決して行ってはなりません。費用の事実とともに治験や患者申出療養などの選択肢を伝えることは、患者の意思決定を支える医師の大切な役割です。
解答・解説
正解はaです
状況の整理
・60歳男性、悪性腫瘍で保険診療による標準的抗癌化学療法を受けているが、効果が不十分である。 ・海外では発売済みだが国内では保険適用のない新薬を、標準治療に上乗せして使いたいと強く希望している。 ・この新薬は「保険診療との併用も認められていない」と明記されている。すなわち、後述する保険外併用療養費制度(評価療養・患者申出療養・選定療養)のいずれの対象にもなっていない状況である。
問われていること:混合診療の取り扱い
一つの疾患の一連の診療の中で、保険診療(標準的化学療法)と保険外診療(未承認・適用外の新薬)を組み合わせることを「混合診療」という。日本の公的医療保険では混合診療は原則として禁止されている。 混合診療を行った場合、保険が適用されるはずだった部分も含めて診療全体が保険給付の対象外(自由診療)となり、費用は全額患者の自己負担となる。したがって、新薬を加えた併用療法を行うなら、「標準的治療の分も含めて全額自己負担になる」と説明するのが正しい。
混合診療が原則禁止されている理由
・保険外の費用負担を患者に求めることが一般化し、患者の負担が不当に拡大するおそれがある。 ・安全性や有効性が確認されていない医療が、保険診療と組み合わせて広く行われることを助長するおそれがある。
例外:保険外併用療養費制度
一定のルールのもとで、保険外の医療と保険診療の併用が認められる仕組みがある。この場合、保険診療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料など)は保険外併用療養費として保険から給付され、保険外の部分のみが自己負担となる。本問の新薬はこの制度の対象外と設定されているため、例外は適用されない。
選択肢考察
- ○a. 「標準的治療も含めて全額が自己負担になります」
保険診療との併用が認められていない新薬を標準治療に上乗せすると混合診療にあたり、診療全体が自由診療扱いとなる。その結果、本来なら保険で賄われる標準的抗癌化学療法の費用や、それに伴う診察・検査・入院の費用まで含めて、全額が自己負担となる。患者が治療選択を判断するうえで重要な経済的情報であり、これを正確に伝えるのが適切な説明である。
- ×b. 「新薬の費用も含めて全額が保険で支払われます」
新薬は国内で保険適用がないため、その費用が保険から支払われることはない。さらに混合診療となるため、標準治療分さえ保険給付の対象から外れる。事実と正反対の説明であり誤りである。
- ×c. 「新薬の費用も含めて一部が自己負担になります」
「一部負担」は、保険診療として給付を受け、窓口で所定の割合(60歳であれば原則3割)を支払う場合の考え方である。本問の併用療法は保険給付の対象外となり全額自己負担となるため、「一部が自己負担」という説明は誤りである。
- ×d. 「併用する新薬の費用に限り自己負担になります」
保険診療分は保険で、新薬分だけを自費で、という支払い方こそが混合診療であり、原則として認められていない。このような扱いが許されるのは、評価療養や患者申出療養など保険外併用療養費制度の対象となった場合に限られるが、本問の新薬は「保険診療との併用も認められていない」ため該当しない。誤りである。
- ×e. 「新薬とは別の保険適用薬を使ったことにします」
実際には使用していない薬剤を使ったことにして診療報酬を請求するのは虚偽の請求(不正請求)であり、保険医療機関及び保険医療養担当規則に違反するだけでなく、詐欺罪に問われうる犯罪行為である。保険医療機関・保険医の指定・登録の取り消しの対象にもなる。医師として決して行ってはならない。
日本の医療保険と自己負担の基本
保険診療では、医療費の一部(原則として70歳未満は3割、未就学児は2割、70〜74歳は2割、75歳以上は1割。いずれも現役並み所得者などの例外あり)を患者が窓口で負担し、残りは保険者から支払われる。高額な医療費には高額療養費制度による自己負担上限がある。自由診療(保険外診療)となった場合はこれらの仕組みが一切適用されず、全額が自己負担となる。
保険外併用療養費制度(混合診療禁止の例外)
健康保険法に基づき、以下の療養については保険診療との併用が認められる。共通部分(診察、検査、投薬、入院料など)は保険給付され、保険外部分のみ自己負担となる。 1.評価療養:将来の保険適用に向けて評価を行う医療 ・先進医療(厚生労働大臣が定める高度な医療技術。かつての「高度医療」は先進医療Bとして統合された) ・医薬品・医療機器・再生医療等製品の治験に係る診療 ・薬事承認後で保険収載前の医薬品等の使用 ・保険適用医薬品等の適応外使用(一定の要件を満たすもの) など 2.患者申出療養(2016年開始):未承認薬等を使いたいという患者の申出を起点とし、臨床研究中核病院などが国に申請して、安全性・有効性が確認されたものについて併用を認める仕組み 3.選定療養:保険適用を前提としない、患者の選択による療養 ・差額ベッド(特別療養環境室)、紹介状なしでの大病院受診、予約診療、時間外診療、200日を超える入院、前歯部の金合金など
未承認薬を使いたい患者への対応
本問のように保険診療との併用が認められていない場合でも、臨床での選択肢として、該当する治験への参加、拡大治験(人道的見地から実施される治験)、患者申出療養の利用などを検討できる可能性がある。医師は費用面の事実を正確に説明したうえで、これらの制度の情報も提供し、患者の意思決定を支援することが望ましい。
POINT
・保険診療と保険外診療を併用する混合診療は原則禁止されている。 ・混合診療を行うと、保険診療分も含めて全額自己負担(自由診療扱い)となる。 ・例外は保険外併用療養費制度(評価療養・患者申出療養・選定療養)で、この場合は保険外部分のみ自己負担。 ・使用していない薬剤を使ったことにする請求は不正請求であり犯罪となる。
