顔の麻痺に耳の水疱、そしてめまい―「皮疹」が決め手のRamsay Hunt症候群
第107回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
顔面神経麻痺,耳介周囲の皮疹,めまい及び難聴を特徴とする疾患はどれか。
- a.耳下腺癌
- b.Bell麻痺
- c.小脳橋角部腫瘍
- d.真珠腫性中耳炎
- e.Ramsay Hunt症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
顔面神経麻痺に耳介・外耳道の帯状疱疹と感音難聴・耳鳴・めまいなどの第VIII脳神経症状が加わればRamsay Hunt症候群を考えます。原因は膝神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で、皮疹は神経の圧迫や破壊では説明できないことが、小脳橋角部腫瘍や真珠腫性中耳炎との決定的な違いです。顔面神経麻痺の鑑別では、皮疹ならRamsay Hunt症候群、耳漏と伝音難聴なら真珠腫性中耳炎、緩徐進行の一側性感音難聴なら小脳橋角部腫瘍、耳下部腫瘤なら耳下腺悪性腫瘍、随伴症状がなければBell麻痺と、随伴症状に注目して絞り込みます。治療は早期の抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドの併用で、Bell麻痺より予後が不良なため、皮疹が遅れて出る例も念頭に耳や口腔内を丁寧に観察することが大切です。
解答・解説
正解はeです
本問は、顔面神経麻痺を起こしうる代表的な疾患を並べ、そこに加わる随伴症状から一つに絞り込ませる問題である。
症状の整理
・顔面神経麻痺:第VII脳神経(顔面神経)の障害 ・めまい・難聴:第VIII脳神経(内耳神経=前庭神経と蝸牛神経)の障害 ・耳介周囲の皮疹:皮膚病変であり、神経の圧迫や破壊では説明できない
考え方
選択肢の疾患はいずれも顔面神経麻痺をきたしうる。さらに小脳橋角部腫瘍や真珠腫性中耳炎は第VIII脳神経症状(めまい・難聴)も起こしうる。しかし「耳介周囲の皮疹」を同時に説明できるのは、ウイルス感染が神経節に再活性化し、その支配皮膚に発疹を生じる疾患だけである。すなわち、膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による Ramsay Hunt 症候群が該当する。 顔面神経麻痺の鑑別では、麻痺そのものよりも「何が一緒に起きているか」(皮疹、難聴・めまい、耳漏、耳下腺腫瘤、他の脳神経症状など)に注目することが鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 耳下腺癌
顔面神経は茎乳突孔から頭蓋外に出たのち耳下腺の中を走行し、耳下腺内で分枝する。このため耳下腺の悪性腫瘍が神経へ浸潤すると末梢性顔面神経麻痺を生じる(良性腫瘍では麻痺はまれで、麻痺があれば悪性を疑う重要な所見である)。しかし病変は側頭骨の外にあり、内耳や第VIII脳神経には及ばないため、めまい・難聴は説明できない。耳介周囲の皮疹も生じない。典型像は耳下部の硬い腫瘤と顔面神経麻痺、疼痛である。
- ×b. Bell麻痺
Bell麻痺は原因の特定できない急性の末梢性顔面神経麻痺(特発性顔面神経麻痺)で、顔面神経麻痺の原因として最も多い。多くは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化が関与すると考えられている。症状は顔面神経の障害に限られ、障害部位によって味覚障害(鼓索神経)、聴覚過敏(アブミ骨筋神経の障害によりアブミ骨筋反射が消失するため)、涙液分泌低下(大錐体神経)を伴うことはある。しかし耳介の皮疹はみられず、第VIII脳神経症状であるめまい・感音難聴も伴わない。なお、発症初期には皮疹が遅れて出現する Ramsay Hunt 症候群(あるいは皮疹を伴わない型:zoster sine herpete)がBell麻痺と区別できないことがある。
- ×c. 小脳橋角部腫瘍
小脳橋角部に発生する腫瘍で最も多いのは前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)であり、多くは前庭神経(特に下前庭神経)から発生する。ほかに髄膜腫、類上皮腫などがある。典型的には一側性の進行性感音難聴や耳鳴で始まり、めまい・平衡障害、腫瘍の増大に伴って顔面神経麻痺や三叉神経障害(角膜反射低下など)、さらに小脳症状を生じる。第VII・第VIII脳神経症状はそろいうるが、腫瘍による圧迫であり耳介周囲の皮疹は生じない。また経過は緩徐で、顔面神経麻痺は比較的遅い時期に出現することが多い。
- ×d. 真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎は、角化重層扁平上皮が中耳腔に侵入・増殖し、角化物(デブリ)を蓄積しながら周囲の骨を破壊して進展する疾患である。悪臭を伴う耳漏や伝音難聴が主症状で、進行すると骨破壊による合併症として顔面神経管の破壊による顔面神経麻痺、外側半規管瘻孔によるめまい(瘻孔症状)、内耳障害による感音難聴、さらに髄膜炎や脳膿瘍などの頭蓋内合併症をきたしうる。したがって顔面神経麻痺・めまい・難聴はいずれも起こりうるが、耳介周囲の皮疹は説明できない。耳漏と鼓膜所見(弛緩部の陥凹・真珠腫塊など)が鑑別の手がかりとなる。
- ○e. Ramsay Hunt症候群
Ramsay Hunt 症候群は、顔面神経の膝神経節に潜伏感染していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化して生じる。三主徴は、(1) 末梢性顔面神経麻痺、(2) 耳介・外耳道の帯状疱疹(発赤や小水疱、耳痛を伴う)、(3) 第VIII脳神経症状(感音難聴、耳鳴、めまい)である。炎症が顔面神経と近接して内耳道を走る第VIII脳神経へ波及することで難聴・めまいが加わると考えられている。問題文の四つの症状をすべて一元的に説明できるのは本症候群のみである。まれに舌咽・迷走神経など下位脳神経の障害を合併することもある。
Ramsay Hunt 症候群の概要
・原因:膝神経節に潜伏していた VZV の再活性化。加齢、疲労、ストレス、免疫低下などが誘因となる。 ・症状:耳痛が先行し、耳介・外耳道の発赤や小水疱、顔面神経麻痺、感音難聴・耳鳴・めまいが出現する。三主徴がすべてそろわない不全型も多く、皮疹が麻痺より遅れて出ることや、皮疹を欠く例(zoster sine herpete)もある。口腔内(舌・軟口蓋)に水疱がみられることもある。 ・診断:臨床症状に加え、VZV 抗体価の上昇(ペア血清)などで確認する。顔面神経麻痺の重症度評価には柳原法(40点法)、予後予測には発症後1〜2週ごろに行う誘発筋電図検査(ENoG)が用いられる。 ・治療:早期(発症から数日以内)の抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど)と副腎皮質ステロイドの併用が基本である。 ・予後:Bell麻痺に比べて麻痺の回復率が低く、後遺症(病的共同運動、顔面拘縮、ワニの涙など)や難聴が残ることがある。
末梢性顔面神経麻痺の主な原因
・Bell麻痺(最多、特発性。HSV-1の関与が考えられている) ・Ramsay Hunt 症候群(2番目に多い、VZV) ・外傷性(側頭骨骨折など) ・耳性(急性中耳炎、真珠腫性中耳炎、中耳手術後) ・腫瘍性(耳下腺悪性腫瘍、小脳橋角部腫瘍、顔面神経鞘腫) ・全身疾患(サルコイドーシス、Guillain-Barré症候群、糖尿病、Lyme病など)
顔面神経の枝と障害部位診断
・大錐体神経:涙腺分泌(障害で涙液分泌低下) ・アブミ骨筋神経:アブミ骨筋反射(障害で聴覚過敏) ・鼓索神経:舌前2/3の味覚、顎下腺・舌下腺の唾液分泌 これらの障害の有無で、神経のどの高さに病変があるかを推定できる。
POINT
・顔面神経麻痺+耳介・外耳道の帯状疱疹+第VIII脳神経症状(難聴・耳鳴・めまい)=Ramsay Hunt 症候群。 ・原因は膝神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化。 ・治療は早期の抗ウイルス薬+副腎皮質ステロイド。Bell麻痺より予後不良。 ・顔面神経麻痺の鑑別は随伴症状で行う:皮疹→Ramsay Hunt、耳漏・伝音難聴→真珠腫性中耳炎、緩徐進行の一側感音難聴→小脳橋角部腫瘍、耳下部腫瘤→耳下腺悪性腫瘍、随伴症状なし→Bell麻痺。
