下痢で乏尿、そのとき腎は何をしている?―尿Naが語る腎前性急性腎障害
第107回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
水様下痢が持続し乏尿となった若年男性の検査結果を示す。血圧86/52 mmHg。血液所見:Ht 54%。血液生化学所見:尿素窒素64 mg/dL,クレアチニン2.8 mg/dL,尿酸8.4 mg/dL,Na 138 mEq/L,K 4.1 mEq/L,Cl 101 mEq/L。 尿所見として予想されるのはどれか。
- a.尿比重1.006
- b.尿蛋白3+
- c.尿潜血2+
- d.尿Na 6 mEq/L
- e.尿K 0 mEq/L
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
下痢や嘔吐、出血などで循環血漿量が減少し、血圧低下・乏尿・BUN/Cr比20超を示す場合は腎前性急性腎障害を考えます。腎前性では尿細管機能が保たれており、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系やADHの作用でNaと水が最大限再吸収されるため、尿Na 20 mEq/L未満、FENa 1%未満、高浸透圧・高比重尿となり、尿蛋白や潜血は通常陰性です。これに対し急性尿細管壊死では尿Na 40 mEq/L超、FENa 2%超、等張尿、顆粒円柱がみられ、両者の鑑別に尿所見が役立ちます。また腎はNaをほぼ完全に保持できる一方でKの排泄をゼロにはできないという生理学的な違いも重要です。腎前性の状態が遷延すると急性尿細管壊死へ移行するため、尿所見から腎の状態を読み取り早期に補液することが、臨床判断の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・水様下痢の持続 → 消化管からの水分・電解質(Na、K、HCO3−)の喪失 ・乏尿、血圧 86/52 mmHg → 循環血漿量減少と血圧低下 ・Ht 54% → 血液濃縮(成人男性の基準はおおむね 40〜50%程度) ・尿素窒素(BUN)64 mg/dL、クレアチニン(Cr)2.8 mg/dL → 腎機能低下。BUN/Cr 比は約 23 と 20 を超えている ・尿酸 8.4 mg/dL → 高値 ・Na、K、Cl は基準範囲内
診断へのプロセス
下痢による体液喪失で循環血漿量が減り、血圧が低下して腎血流量・糸球体濾過量(GFR)が低下した状態である。腎そのもの(糸球体・尿細管)はまだ障害されておらず、腎灌流の低下に対して腎が正常に反応して水と Na を最大限に保持しようとしている。これが腎前性急性腎障害(腎前性腎不全)である。 BUN/Cr 比の上昇(>20)は、低灌流時に近位尿細管での水再吸収が亢進し、それに伴って尿素の再吸収も増えることで説明できる。尿酸の上昇も、体液量減少時に近位尿細管での尿酸再吸収が増えることによる。
設問の考え方
腎前性腎障害では、尿細管機能が保たれているため、次のような「腎が一生懸命に水と Na を保持している」尿所見となる。 ・レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化により Na 再吸収が亢進 → 尿 Na 低値(<20 mEq/L)、Na 排泄分画(FENa)<1% ・抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌亢進により水再吸収が亢進 → 高浸透圧尿(>500 mOsm/kg)、高比重尿 ・腎実質障害がないため、尿蛋白・尿潜血は通常陰性で、尿沈渣もほぼ正常(硝子円柱程度) これに合致する選択肢は「尿 Na 6 mEq/L」である。
選択肢考察
- ×a. 尿比重1.006
腎前性腎障害では ADH の作用で集合管での水再吸収が高まり、尿は強く濃縮される。尿浸透圧は通常 500 mOsm/kg を超え、尿比重も高値(おおむね 1.020 以上)となる。目安として尿浸透圧 300 mOsm/kg が比重約 1.010、600 mOsm/kg が約 1.020、900 mOsm/kg が約 1.030 に相当する。比重 1.006 は血漿より薄い低張尿であり、濃縮力が失われた腎性(急性尿細管壊死など)や、尿崩症・水過剰摂取などで見られる値である。本例の病態とは合わない。
- ×b. 尿蛋白3+
尿蛋白強陽性は、糸球体の濾過障壁が障害される糸球体疾患(ネフローゼ症候群、糸球体腎炎など)を示唆する所見である。腎前性腎障害は腎実質に構造的異常がない状態であり、尿蛋白は通常陰性か、あっても軽度である(濃縮尿や発熱などにより一過性に弱陽性となることはありうる)。3+は本例に合わない。
- ×c. 尿潜血2+
尿潜血は試験紙のヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を検出するもので、糸球体腎炎などによる血尿、尿路結石・腫瘍・膀胱炎など下部尿路からの出血で陽性となる。また横紋筋融解症によるミオグロビン尿やヘモグロビン尿でも陽性になる(この場合、沈渣で赤血球は乏しい)。腎前性腎障害ではこれらの病変はなく、尿潜血は陰性が通常である。
- ○d. 尿Na 6 mEq/L
循環血漿量の減少により、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と交感神経系が活性化し、近位尿細管および集合管での Na 再吸収が最大限に高まる。尿細管機能が保たれている腎前性腎障害では、尿 Na は 20 mEq/L 未満、FENa は 1%未満と低くなる。尿 Na 6 mEq/L はこれに合致する。これに対し、尿細管が障害された急性尿細管壊死では Na を再吸収できず、尿 Na>40 mEq/L、FENa>2%となるのが典型であり、両者の鑑別に有用である。
- ×e. 尿K 0 mEq/L
体液量減少ではアルドステロン分泌が亢進し、集合管で Na 再吸収と引き換えに K 分泌が促進されるため、尿 K はむしろ排泄される方向に働く。また下痢による K 喪失が大きい場合でも、まず血清 K が低下したのちに腎での K 保持が起こるが、本例の血清 K は 4.1 mEq/L と正常で、K 欠乏を示す所見はない。さらに、腎は Na を尿中からほぼ完全に再吸収できるのとは異なり、K の排泄を完全にゼロにすることはできず、高度の K 欠乏状態でも尿 K は一定量(おおむね 15〜20 mEq/日程度)排泄される。したがって尿 K 0 mEq/L は生理学的にありえない。
急性腎障害(AKI)の分類
・腎前性:腎血流量の低下(脱水、出血、心不全、ショック、NSAIDs・ACE阻害薬などによる腎血行動態の変化)。腎実質は正常で、原因を早期に除けば速やかに回復する。 ・腎性:腎実質の障害。急性尿細管壊死(虚血の遷延、造影剤・アミノグリコシドなどの腎毒性物質、横紋筋融解症)、急性糸球体腎炎、急性間質性腎炎など。 ・腎後性:尿路の閉塞(前立腺肥大、両側尿管結石、骨盤内腫瘍など)。超音波検査での水腎症の有無が鑑別に有用。 腎前性の状態が長引くと虚血により急性尿細管壊死へ移行するため、早期の補液が重要である。
腎前性と腎性(急性尿細管壊死)の尿所見の比較
・尿 Na:腎前性 <20 mEq/L / 腎性 >40 mEq/L ・FENa:腎前性 <1% / 腎性 >2% ・尿浸透圧:腎前性 >500 mOsm/kg / 腎性 <350 mOsm/kg(等張尿に近づく) ・尿比重:腎前性 高値(>1.020) / 腎性 1.010前後(等張尿) ・尿 Cr/血清 Cr 比:腎前性 >40 / 腎性 <20 ・BUN/Cr 比:腎前性 >20 / 腎性 10〜15程度 ・尿沈渣:腎前性 ほぼ正常(硝子円柱) / 腎性 顆粒円柱、尿細管上皮細胞
FENa の計算
FENa(%)=(尿 Na × 血清 Cr)÷(血清 Na × 尿 Cr)× 100 濾過された Na のうち何%が尿中に排泄されたかを示す指標で、尿量や濃縮の影響を受けにくい。ただし利尿薬使用中は腎前性でも尿 Na・FENa が高値となるため、その場合は尿素排泄分画(FEUN<35%で腎前性を示唆)が参考になる。
下痢と電解質・酸塩基平衡
下痢便には HCO3− が多く含まれるため、大量の下痢では高 Cl 性(アニオンギャップ正常)の代謝性アシドーシスや低 K 血症をきたしやすい。一方で体液量減少そのものは代謝性アルカローシスの方向に働くため、両者の程度により検査値はさまざまとなる。
POINT
・下痢・嘔吐・出血などで循環血漿量が減少し、血圧低下+乏尿+BUN/Cr 比>20 → 腎前性急性腎障害。 ・腎前性の尿所見:尿 Na<20 mEq/L、FENa<1%、尿浸透圧>500 mOsm/kg、高比重尿、尿蛋白・潜血は陰性、沈渣ほぼ正常。 ・急性尿細管壊死では尿 Na>40 mEq/L、FENa>2%、等張尿、顆粒円柱。 ・腎は Na はほぼ完全に保持できるが、K の尿中排泄はゼロにはできない。
