イマチニブが狙い撃つのはただ一つ―Ph染色体とBCR-ABLで解く骨髄増殖性腫瘍
第107回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
イマチニブ〈イマチニブメシル酸塩〉が有効なのはどれか。
- a.慢性骨髄性白血病
- b.慢性好中球性白血病
- c.真性赤血球増加症
- d.原発性骨髄線維症
- e.本態性血小板血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
イマチニブはBCR-ABL、KIT、PDGFRを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬であり、t(9;22)によるフィラデルフィア染色体上のBCR-ABLが病因となる慢性骨髄性白血病に有効です。同じ骨髄増殖性腫瘍でも、真性赤血球増加症・本態性血小板血症・原発性骨髄線維症はJAK2、CALR、MPLの変異、慢性好中球性白血病はCSF3R変異が主な原因でBCR-ABL陰性のため、イマチニブは無効で、JAK-STAT経路が共通の病態としてルキソリチニブなどのJAK阻害薬が用いられます。イマチニブはPh陽性急性リンパ性白血病、GIST、FIP1L1-PDGFRA陽性の好酸球増多症候群にも有効で、浮腫や骨髄抑制などの副作用にも注意が必要です。「病名ではなく標的分子で薬を選ぶ」という分子標的治療の考え方を身につけることは、血液疾患にとどまらず腫瘍診療全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
イマチニブは、特定のチロシンキナーゼ(タンパク質のチロシン残基をリン酸化して細胞増殖シグナルを伝える酵素)を阻害する分子標的治療薬である。主な標的はBCR-ABL融合タンパク質で、ほかにKIT、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)も阻害する。したがって、ある疾患にイマチニブが有効かどうかは「その疾患の増殖の原動力がこれらのキナーゼの異常活性化にあるか」で判断すればよい。 選択肢はいずれも骨髄増殖性腫瘍(MPN)に分類される疾患である。このうちBCR-ABL融合遺伝子を病因とするのは慢性骨髄性白血病(CML)だけである。CMLでは9番染色体と22番染色体の相互転座 t(9;22)(q34;q11) によってフィラデルフィア(Ph)染色体が形成され、22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL1遺伝子が融合する。そこから産生されるBCR-ABLは常に活性化したチロシンキナーゼとして働き、造血幹細胞を無秩序に増殖させる。イマチニブはこのキナーゼのATP結合部位に結合して活性を抑え、CMLの病態を根本から断つ。 一方、ほかのMPN(真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症など)はBCR-ABL陰性であり、JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異が主な病因である。これらの疾患にはイマチニブは有効ではない。
選択肢考察
- ○a. 慢性骨髄性白血病
CMLはPh染色体上のBCR-ABL融合遺伝子がつくる恒常的に活性化したチロシンキナーゼによって発症する。イマチニブはこのBCR-ABLを直接阻害するため、慢性期CMLの大多数で血液学的・細胞遺伝学的寛解が得られ、さらに分子遺伝学的奏効(BCR-ABL mRNAの著明な低下)も期待できる。イマチニブ登場以前は同種造血幹細胞移植が唯一の根治的治療であったが、現在はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の内服が慢性期CMLの標準治療であり、多くの患者が一般人口に近い生命予後を得られるようになった。
- ×b. 慢性好中球性白血病
慢性好中球性白血病(CNL)は成熟好中球が持続的に増加するまれなMPNで、BCR-ABLは陰性である。多くの例でCSF3R(顆粒球コロニー刺激因子受容体の遺伝子)の活性化変異がみられる。BCR-ABLを標的とするイマチニブの有効性は確立しておらず、誤りである。
- ×c. 真性赤血球増加症
真性赤血球増加症(PV)は赤血球系を中心とした骨髄の増殖を示すMPNで、ほとんどの例でJAK2遺伝子の変異(大部分はJAK2 V617F、一部はexon 12変異)を認める。BCR-ABL陰性であり、イマチニブは有効ではない。治療の基本は瀉血と低用量アスピリンで、血栓症の高リスク群ではヒドロキシカルバミドによる細胞減少療法を行い、これに抵抗性・不耐容の場合にはJAK阻害薬のルキソリチニブが用いられる。
- ×d. 原発性骨髄線維症
原発性骨髄線維症(PMF)は骨髄の線維化と髄外造血(巨脾)、末梢血の涙滴赤血球や白赤芽球症を特徴とするMPNである。JAK2、CALR、MPLのいずれかの変異を多くの例で認め、BCR-ABLは陰性である。イマチニブは有効ではなく、症状や脾腫の改善にはルキソリチニブなどのJAK阻害薬が用いられ、根治を目指せるのは同種造血幹細胞移植である。
- ×e. 本態性血小板血症
本態性血小板血症(ET)は巨核球の増殖により血小板数が持続的に増加するMPNで、JAK2、CALR、MPLの変異を認めることが多く、BCR-ABLは陰性である。イマチニブは有効ではない。治療は血栓リスクに応じて、低用量アスピリン、ヒドロキシカルバミドやアナグレリドによる血小板数のコントロールを行う。なお、血小板増加を示す患者ではCMLを除外するためにBCR-ABLの検索を行うことが診断上重要である。
イマチニブの作用と適応
イマチニブはBCR-ABL、KIT、PDGFRのチロシンキナーゼを阻害する。主な適応・有効な疾患は以下のとおりである。 ・慢性骨髄性白血病(CML):BCR-ABL陽性 ・フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph陽性ALL):BCR-ABL陽性。化学療法と併用する ・消化管間質腫瘍(GIST):KIT(またはPDGFRA)遺伝子の活性化変異が原因 ・FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性の好酸球増多症候群/慢性好酸球性白血病:PDGFRAの活性化による 主な副作用には浮腫(眼瞼周囲など)、体液貯留、骨髄抑制、嘔気、皮疹、筋痙攣、肝機能障害などがある。
CMLに対するTKI
第1世代のイマチニブに続き、より強力な第2世代のニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、さらにT315I変異(多くのTKIが効かなくなる耐性変異)にも有効な第3世代のポナチニブ、ABLのミリストイルポケットに結合するアシミニブなどが用いられる。治療効果は末梢血のBCR-ABL mRNA量(国際標準値)で評価する。
骨髄増殖性腫瘍(MPN)の整理
・CML:BCR-ABL陽性。白血球著増、好塩基球増加、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値 ・PV:JAK2変異。赤血球増加、ヘマトクリット上昇、エリスロポエチン低値 ・ET:JAK2/CALR/MPL変異。血小板持続高値 ・PMF:JAK2/CALR/MPL変異。骨髄線維化、巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症 ・CNL:CSF3R変異。成熟好中球の増加 BCR-ABL陰性のMPNではJAK-STAT経路の活性化が共通の病態であり、JAK阻害薬ルキソリチニブがPVやPMFに用いられる。
POINT
・イマチニブはBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬であり、Ph染色体(t(9;22))陽性のCMLに有効である。 ・Ph陽性ALL、KIT変異をもつGIST、FIP1L1-PDGFRA陽性の好酸球増多症候群にも有効である。 ・PV、ET、PMF、CNLはBCR-ABL陰性のMPNで、イマチニブは無効。主な病因はJAK2/CALR/MPL変異(CNLはCSF3R変異)である。 ・BCR-ABL陰性MPNの分子標的薬としてはJAK阻害薬(ルキソリチニブ)を押さえる。
