StudyMed医師国家試験

イマチニブが狙い撃つのはただ一つ―Ph染色体とBCR-ABLで解く骨髄増殖性腫瘍

第107回医師国家試験 A問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第9問

イマチニブ〈イマチニブメシル酸塩〉が有効なのはどれか。

  1. a.慢性骨髄性白血病
  2. b.慢性好中球性白血病
  3. c.真性赤血球増加症
  4. d.原発性骨髄線維症
  5. e.本態性血小板血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分子標的薬イマチニブがどの病気に効くかを問う問題だ。選択肢はすべて骨髄増殖性腫瘍に分類される疾患だから、「どれも似た病気」に見えるかもしれない。着眼点は、薬が何を標的にしているかと、それぞれの病気の増殖の原動力が何か、の2つだよ。
医学生医学生
イマチニブといえば慢性骨髄性白血病の薬、と薬理学の講義で習いました。でも同じ骨髄増殖性腫瘍なら、ほかの病気にもある程度効きそうな気もします。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも分子標的薬は「同じグループの病気だから効く」のではなく、「標的分子がその病気の原因になっているから効く」んだ。イマチニブはチロシンキナーゼ阻害薬で、主な標的はBCR-ABL融合タンパク質。ほかにKITとPDGFRも阻害する。
医学生医学生
チロシンキナーゼは、チロシン残基をリン酸化して増殖シグナルを伝える酵素ですよね。
ドクタードクター
その通り。では、BCR-ABLはどうやってできるか覚えているかな。
医学生医学生
9番と22番染色体の相互転座、t(9;22)でできるフィラデルフィア染色体ですね。
ドクタードクター
正解。22番のBCR遺伝子と9番のABL1遺伝子が融合して、常にスイッチが入ったままのチロシンキナーゼができる。これが造血幹細胞を無秩序に増やすのが慢性骨髄性白血病だ。イマチニブはこのキナーゼのATP結合部位にはまり込んで活性を止めるから、病態の根っこを直接断てる。だから正解は慢性骨髄性白血病になる。
医学生医学生
ほかの選択肢には、BCR-ABLはないんですか。
ドクタードクター
ない。そこが大事なところだ。真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症はBCR-ABL陰性の骨髄増殖性腫瘍で、主な原因はJAK2、CALR、MPLといった遺伝子の変異だ。真性赤血球増加症ではほとんどの例でJAK2 V617Fなどの変異がみられる。
医学生医学生
CBTの勉強で「PVはJAK2」とひたすら暗記しました。でも本態性血小板血症と骨髄線維症も同じ遺伝子なんですね。
ドクタードクター
そう、この3つはJAK2、CALR、MPLのどれかの変異をもつことが多く、どれもJAK-STAT経路の過剰な活性化が共通の病態なんだ。だからイマチニブではなく、JAK阻害薬のルキソリチニブが真性赤血球増加症や原発性骨髄線維症に使われる。
医学生医学生
真性赤血球増加症の治療は瀉血とアスピリンが基本でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。瀉血と低用量アスピリンが基本で、血栓リスクが高ければヒドロキシカルバミドを加え、それが効かない・使えない場合にルキソリチニブを考える。本態性血小板血症も血栓リスクに応じてアスピリンやヒドロキシカルバミド、アナグレリドを使う。原発性骨髄線維症は巨脾や涙滴赤血球、白赤芽球症が特徴で、根治を目指せるのは同種造血幹細胞移植だ。
医学生医学生
慢性好中球性白血病は名前も似ているので、慢性骨髄性白血病の仲間かと思ってしまいました。
ドクタードクター
ひっかかりやすいポイントだね。慢性好中球性白血病は成熟好中球が持続的に増えるまれな病気で、BCR-ABLは陰性。多くの例でCSF3R、つまりG-CSF受容体遺伝子の活性化変異がみられる。イマチニブの有効性は確立していない。
医学生医学生
つまり、病名ではなく遺伝子異常で薬を選ぶ、ということですね。BCR-ABL陽性ならイマチニブ、JAK-STAT経路ならJAK阻害薬。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。さらに発展として、イマチニブが効く病気は慢性骨髄性白血病だけではない。同じBCR-ABLをもつフィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病、KITやPDGFRAの変異が原因の消化管間質腫瘍、つまりGIST、それからFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性の好酸球増多症候群にも効く。
医学生医学生
GISTは消化器外科の実習で、術後補助療法としてイマチニブを飲んでいる患者さんを担当しました。血液の薬だと思っていたので意外でした。
ドクタードクター
標的分子で考えればつながるよね。臨床での注意点としては、副作用に眼瞼周囲の浮腫や体液貯留、骨髄抑制、嘔気、皮疹、筋痙攣、肝機能障害がある。また慢性骨髄性白血病ではニロチニブやダサチニブなどの第2世代、T315I変異にも効くポナチニブ、アシミニブなども使われ、治療効果は末梢血のBCR-ABL mRNA量で評価する。
医学生医学生
血小板が増えている患者さんを診たら、本態性血小板血症と決めつけずにBCR-ABLを調べて慢性骨髄性白血病を除外する必要もありそうですね。
ドクタードクター
その通り。治療方針がまったく違うから、診断の段階で遺伝子を確かめることが欠かせない。TKIの登場で、慢性期の慢性骨髄性白血病の多くの患者さんが一般人口に近い生命予後を得られるようになった。分子標的薬の成功例の代表として覚えておこう。

まとめ

イマチニブはBCR-ABL、KIT、PDGFRを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬であり、t(9;22)によるフィラデルフィア染色体上のBCR-ABLが病因となる慢性骨髄性白血病に有効です。同じ骨髄増殖性腫瘍でも、真性赤血球増加症・本態性血小板血症・原発性骨髄線維症はJAK2、CALR、MPLの変異、慢性好中球性白血病はCSF3R変異が主な原因でBCR-ABL陰性のため、イマチニブは無効で、JAK-STAT経路が共通の病態としてルキソリチニブなどのJAK阻害薬が用いられます。イマチニブはPh陽性急性リンパ性白血病、GIST、FIP1L1-PDGFRA陽性の好酸球増多症候群にも有効で、浮腫や骨髄抑制などの副作用にも注意が必要です。「病名ではなく標的分子で薬を選ぶ」という分子標的治療の考え方を身につけることは、血液疾患にとどまらず腫瘍診療全般を理解する土台になります。

解答・解説

正解はaです

イマチニブは、特定のチロシンキナーゼ(タンパク質のチロシン残基をリン酸化して細胞増殖シグナルを伝える酵素)を阻害する分子標的治療薬である。主な標的はBCR-ABL融合タンパク質で、ほかにKIT、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)も阻害する。したがって、ある疾患にイマチニブが有効かどうかは「その疾患の増殖の原動力がこれらのキナーゼの異常活性化にあるか」で判断すればよい。 選択肢はいずれも骨髄増殖性腫瘍(MPN)に分類される疾患である。このうちBCR-ABL融合遺伝子を病因とするのは慢性骨髄性白血病(CML)だけである。CMLでは9番染色体と22番染色体の相互転座 t(9;22)(q34;q11) によってフィラデルフィア(Ph)染色体が形成され、22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL1遺伝子が融合する。そこから産生されるBCR-ABLは常に活性化したチロシンキナーゼとして働き、造血幹細胞を無秩序に増殖させる。イマチニブはこのキナーゼのATP結合部位に結合して活性を抑え、CMLの病態を根本から断つ。 一方、ほかのMPN(真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症など)はBCR-ABL陰性であり、JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異が主な病因である。これらの疾患にはイマチニブは有効ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  慢性骨髄性白血病

    CMLはPh染色体上のBCR-ABL融合遺伝子がつくる恒常的に活性化したチロシンキナーゼによって発症する。イマチニブはこのBCR-ABLを直接阻害するため、慢性期CMLの大多数で血液学的・細胞遺伝学的寛解が得られ、さらに分子遺伝学的奏効(BCR-ABL mRNAの著明な低下)も期待できる。イマチニブ登場以前は同種造血幹細胞移植が唯一の根治的治療であったが、現在はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の内服が慢性期CMLの標準治療であり、多くの患者が一般人口に近い生命予後を得られるようになった。

  2. ×b.  慢性好中球性白血病

    慢性好中球性白血病(CNL)は成熟好中球が持続的に増加するまれなMPNで、BCR-ABLは陰性である。多くの例でCSF3R(顆粒球コロニー刺激因子受容体の遺伝子)の活性化変異がみられる。BCR-ABLを標的とするイマチニブの有効性は確立しておらず、誤りである。

  3. ×c.  真性赤血球増加症

    真性赤血球増加症(PV)は赤血球系を中心とした骨髄の増殖を示すMPNで、ほとんどの例でJAK2遺伝子の変異(大部分はJAK2 V617F、一部はexon 12変異)を認める。BCR-ABL陰性であり、イマチニブは有効ではない。治療の基本は瀉血と低用量アスピリンで、血栓症の高リスク群ではヒドロキシカルバミドによる細胞減少療法を行い、これに抵抗性・不耐容の場合にはJAK阻害薬のルキソリチニブが用いられる。

  4. ×d.  原発性骨髄線維症

    原発性骨髄線維症(PMF)は骨髄の線維化と髄外造血(巨脾)、末梢血の涙滴赤血球や白赤芽球症を特徴とするMPNである。JAK2、CALR、MPLのいずれかの変異を多くの例で認め、BCR-ABLは陰性である。イマチニブは有効ではなく、症状や脾腫の改善にはルキソリチニブなどのJAK阻害薬が用いられ、根治を目指せるのは同種造血幹細胞移植である。

  5. ×e.  本態性血小板血症

    本態性血小板血症(ET)は巨核球の増殖により血小板数が持続的に増加するMPNで、JAK2、CALR、MPLの変異を認めることが多く、BCR-ABLは陰性である。イマチニブは有効ではない。治療は血栓リスクに応じて、低用量アスピリン、ヒドロキシカルバミドやアナグレリドによる血小板数のコントロールを行う。なお、血小板増加を示す患者ではCMLを除外するためにBCR-ABLの検索を行うことが診断上重要である。

イマチニブの作用と適応

イマチニブはBCR-ABL、KIT、PDGFRのチロシンキナーゼを阻害する。主な適応・有効な疾患は以下のとおりである。 ・慢性骨髄性白血病(CML):BCR-ABL陽性 ・フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph陽性ALL):BCR-ABL陽性。化学療法と併用する ・消化管間質腫瘍(GIST):KIT(またはPDGFRA)遺伝子の活性化変異が原因 ・FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性の好酸球増多症候群/慢性好酸球性白血病:PDGFRAの活性化による 主な副作用には浮腫(眼瞼周囲など)、体液貯留、骨髄抑制、嘔気、皮疹、筋痙攣、肝機能障害などがある。

CMLに対するTKI

第1世代のイマチニブに続き、より強力な第2世代のニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、さらにT315I変異(多くのTKIが効かなくなる耐性変異)にも有効な第3世代のポナチニブ、ABLのミリストイルポケットに結合するアシミニブなどが用いられる。治療効果は末梢血のBCR-ABL mRNA量(国際標準値)で評価する。

骨髄増殖性腫瘍(MPN)の整理

・CML:BCR-ABL陽性。白血球著増、好塩基球増加、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値 ・PV:JAK2変異。赤血球増加、ヘマトクリット上昇、エリスロポエチン低値 ・ET:JAK2/CALR/MPL変異。血小板持続高値 ・PMF:JAK2/CALR/MPL変異。骨髄線維化、巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症 ・CNL:CSF3R変異。成熟好中球の増加 BCR-ABL陰性のMPNではJAK-STAT経路の活性化が共通の病態であり、JAK阻害薬ルキソリチニブがPVやPMFに用いられる。

POINT

・イマチニブはBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬であり、Ph染色体(t(9;22))陽性のCMLに有効である。 ・Ph陽性ALL、KIT変異をもつGIST、FIP1L1-PDGFRA陽性の好酸球増多症候群にも有効である。 ・PV、ET、PMF、CNLはBCR-ABL陰性のMPNで、イマチニブは無効。主な病因はJAK2/CALR/MPL変異(CNLはCSF3R変異)である。 ・BCR-ABL陰性MPNの分子標的薬としてはJAK阻害薬(ルキソリチニブ)を押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。