お腹の古傷が語るもの―成人の腸閉塞、最多の原因は「術後癒着」
第107回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
我が国の成人の腸閉塞の原因で最も多いのはどれか。
- a.大腸癌
- b.腸重積
- c.腸管癒着
- d.S状結腸捻転
- e.鼠径ヘルニア嵌頓
対話形式の解説
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ドクターまとめ
我が国の成人の腸閉塞で最も多い原因は、開腹手術後の癒着による癒着性腸閉塞であり、半数以上を占めるとされます。次いで大腸癌などの腫瘍やヘルニア嵌頓が続き、乳幼児では腸重積、高齢者ではS状結腸捻転や大腸癌といったように、年齢層によって典型的な原因が異なります。診療では腹部手術歴と手術創の確認、鼠径部・大腿部のヘルニアのチェックを必ず行い、開腹歴のない高齢者では大腸癌を疑います。さらに、血流障害を伴う絞扼性腸閉塞は緊急手術の適応となるため、腹膜刺激症状やアシドーシス、造影CT所見から絞扼の有無を見極めることが重要です。原因の頻度と年齢別の特徴を押さえておくことは、急性腹症の初期対応を的確に行うための土台になります。
解答・解説
正解はcです
腸閉塞とは、腸管内容物の肛門側への通過が物理的(機械的)に妨げられた状態をいう。原因を考えるときは、患者の年齢層と既往歴(とくに開腹手術歴)を軸に整理するとわかりやすい。 我が国の成人では、開腹手術後に生じた腹腔内の癒着(線維性の索状物=バンドを含む)によって腸管が屈曲・圧迫・絞扼される癒着性腸閉塞が最も多く、全体の半数以上を占めるとされる。開腹手術を受けた人が多い成人集団では、術後癒着が圧倒的な原因となるのである。これに続いて悪性腫瘍(とくに大腸癌)による閉塞、ヘルニア嵌頓などが挙げられる。 一方、腸重積は乳幼児、S状結腸捻転は高齢者や長期臥床者、ヘルニア嵌頓は小児や高齢者など、それぞれ好発する年齢層や背景が限られており、成人全体で見ると頻度は癒着に及ばない。本問は「成人全体で最多の原因」を問うており、術後癒着を選ぶのが正しい考え方である。
選択肢考察
- ×a. 大腸癌
大腸癌は、とくに高齢者で大腸閉塞(閉塞性大腸癌)の重要な原因である。左側結腸(下行結腸・S状結腸)は内腔が細く便が固形化しているため、閉塞をきたしやすい。成人の腸閉塞の原因としては癒着に次ぐ上位の原因の一つであるが、最多ではない。高齢者で開腹歴がないのに腸閉塞をみたら、まず大腸癌を疑うという臨床上の心構えは重要である。
- ×b. 腸重積
腸重積は口側の腸管が肛門側の腸管内に引き込まれる病態で、生後数か月〜2歳前後の乳幼児に好発し、多くは特発性(回腸末端のリンパ組織の腫大などが誘因)である。成人の腸重積はまれで、腫瘍などの器質的な病変が先進部となることが多い。成人の腸閉塞の原因としての頻度は低く、誤りである。
- ○c. 腸管癒着
開腹手術後には腹膜の損傷や炎症の修復過程で腹腔内に線維性の癒着が生じ、腸管が屈曲・狭窄したり、索状物(バンド)に絞扼されたりして腸閉塞をきたす。我が国の成人では開腹手術歴をもつ人が多く、癒着性腸閉塞は成人の腸閉塞の原因の半数以上を占め、最多である。手術から数年〜数十年たってから発症することもあるため、問診で腹部手術歴(手術創の確認を含む)を確認することが診断の第一歩となる。腹膜炎の既往も癒着の原因となりうる。
- ×d. S状結腸捻転
S状結腸捻転は、長く可動性の大きいS状結腸が腸間膜を軸にねじれるもので、高齢者、慢性便秘のある人、長期臥床者、精神疾患や神経疾患をもつ人などに多い。腹部単純X線写真で拡張したS状結腸が「コーヒー豆徴候」を示すことが特徴的である。ただし腸閉塞全体に占める割合は小さく、成人の最多の原因ではない。
- ×e. 鼠径ヘルニア嵌頓
鼠径ヘルニアでは、ヘルニア門で脱出した腸管が還納できなくなる(嵌頓)と腸閉塞をきたし、血流障害を伴えば絞扼性となる。乳幼児の外鼠径ヘルニアや高齢者で問題となる。ヘルニア(鼠径部ヘルニアのほか大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアなど)の嵌頓は腸閉塞の原因として一定の割合を占めるが、癒着ほど多くはない。腸閉塞の診察では鼠径部・大腿部の膨隆を必ず確認することが大切である。
腸閉塞とイレウスの用語
従来、我が国では機械的な閉塞と腸管の運動麻痺をまとめて「イレウス」と呼んでいたが、現在の急性腹症診療ガイドライン(2015年)では、腸管の機械的閉塞を「腸閉塞」、腸管の運動が低下・麻痺して内容物が停滞する状態(麻痺性イレウス)を「イレウス」と呼び分けることが推奨されている。
腸閉塞の分類
・単純性(閉塞性)腸閉塞:血流障害を伴わない。癒着、腫瘍、異物(胆石、食物塊)などによる。 ・複雑性(絞扼性)腸閉塞:腸管の血流障害を伴う。索状物による絞扼、ヘルニア嵌頓、腸重積、腸捻転などで生じ、腸管壊死・穿孔に至りうるため緊急手術の適応となる。
年齢層別に多い原因
・新生児:先天性の腸閉鎖・狭窄、腸回転異常症(中腸軸捻転)、ヒルシュスプルング病、胎便性イレウスなど ・乳幼児:腸重積、鼠径ヘルニア嵌頓 ・成人:術後癒着(最多)、大腸癌などの腫瘍、ヘルニア嵌頓 ・高齢者:大腸癌、S状結腸捻転、ヘルニア嵌頓(閉鎖孔ヘルニアはやせた高齢女性に多い)、胆石イレウス
絞扼性を疑う所見
持続する激しい腹痛、腹膜刺激症状、発熱・頻脈・ショック、白血球増多、代謝性アシドーシス、乳酸値上昇、造影CTでの腸管壁の造影不良や腹水などは、絞扼を示唆し緊急手術を考慮する。
POINT
・我が国の成人の腸閉塞の原因で最も多いのは、開腹手術後の癒着(癒着性腸閉塞)である。 ・腸閉塞の診療では、腹部手術歴の聴取と、鼠径部・大腿部のヘルニアの確認を必ず行う。 ・開腹歴のない高齢者の腸閉塞では大腸癌を疑う。 ・年齢別の典型:乳幼児は腸重積、高齢者はS状結腸捻転・大腸癌。 ・血流障害を伴う絞扼性腸閉塞は緊急手術の適応である。
