StudyMed医師国家試験

「効く薬」ほど裏がある―抗TNF-α抗体製剤とCrohn病、投与してはいけない患者は誰か

第107回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第5問

生物学的製剤(抗TNF-α抗体製剤)を用いたCrohn病治療の対象とならないのはどれか。

  1. a.65歳以上の患者
  2. b.活動性結核を合併する患者
  3. c.腸管皮膚瘻(外瘻)を合併する患者
  4. d.他のCrohn病治療薬を服用中の患者
  5. e.生物学的製剤による寛解導入後の患者

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はCrohn病に使う抗TNF-α抗体製剤の「適応」と「禁忌」を問う問題だ。選択肢を一つずつ「投与の妨げになるか」で判定していけばいい。カギは、TNF-αが体の中で本来どんな仕事をしているか、という視点だよ。
医学生医学生
TNF-αは炎症性サイトカインの代表なので、抑えれば炎症が治まる、というイメージしかありませんでした。
ドクタードクター
治療の面から見ればそれで正しい。でも免疫学の講義を思い出してほしい。TNF-αはマクロファージを活性化して、細胞内寄生菌を肉芽腫の中に閉じ込めるのに欠かせない因子なんだ。
医学生医学生
肉芽腫……。病理実習で見た結核の乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫ですね。
ドクタードクター
そう。TNF-αをブロックすると、その「封じ込めの壁」が崩れてしまう。だから活動性結核のある患者に投与すると、結核が急速に悪化したり、肺外結核や播種性結核として重症化したりするおそれがある。これが禁忌であり、今回の正解だ。活動性結核ではまず抗結核治療を優先する。
医学生医学生
なるほど。では高齢の患者さんはどうでしょう。感染症が怖いので、年齢で線を引いているのかと思いました。
ドクタードクター
いい疑問だね。抗TNF-α抗体製剤に年齢の上限はなく、適応があれば高齢者にも使える。ただ高齢者はもともと免疫能が落ちていて肺炎や日和見感染を起こしやすいから、慎重投与・注意深い経過観察が必要、という位置づけだよ。
医学生医学生
腸管皮膚瘻がある患者さんは、瘻孔から感染しそうで避けるべきかと迷いました。
ドクタードクター
実は逆で、外瘻はむしろ良い適応なんだ。インフリキシマブなどは腸管皮膚瘻や難治性痔瘻に対して瘻孔閉鎖効果が示されている。ただし瘻孔の周囲に膿瘍があれば、先にドレナージで感染をコントロールしてから投与する、という順番は大事だ。
医学生医学生
消化器内科を回ったとき、痔瘻の患者さんが点滴に通っていたのを思い出しました。あれがそうだったんですね。
ドクタードクター
きっとそうだね。次に、ほかのCrohn病治療薬を飲んでいる患者。これも問題ない。5-アミノサリチル酸製剤やステロイドで効果不十分な中等症〜重症例に「追加」で使うのが普通だし、アザチオプリンなどの免疫調節薬を併用して、薬に対する抗体ができて効果が落ちるのを防ぐこともある。
医学生医学生
寛解導入後の患者さんはどうですか。寛解したらもう生物学的製剤は不要な気もします。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるところ。抗TNF-α抗体製剤は寛解導入に成功したら、そのまま定期投与を続けて寛解を維持するのが基本だ。インフリキシマブなら0・2・6週で導入して、その後8週ごとに維持投与する。ステロイドが寛解維持に使えないのとは対照的だね。
医学生医学生
ということは、禁忌になるのは安全性の問題がある活動性結核だけで、年齢・瘻孔・併用薬・寛解導入後はどれも投与を妨げない、と整理できますね。
ドクタードクター
その通り。発展として、投与前のスクリーニングも押さえておこう。結核は問診、胸部X線(必要ならCT)、IGRAやツベルクリン反応で確認し、潜在性結核感染が疑われれば投与開始前からイソニアジドの予防内服を行う。B型肝炎ウイルスも再活性化のリスクがあるので、HBs抗原やHBc抗体などをチェックする。
医学生医学生
CBTの勉強で、禁忌には脱髄疾患や心不全もあったような気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。重篤な感染症、活動性結核に加えて、多発性硬化症などの脱髄疾患とその既往、うっ血性心不全も禁忌だ。副作用としては、ニューモシスチス肺炎やインフュージョン・リアクション、ループス様症状なども知られている。臨床では「よく効く薬ほど、始める前の確認が肝心」と覚えておこう。

まとめ

抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブなど)は、既存治療で効果不十分な中等症〜重症のCrohn病や外瘻合併例に用いられ、寛解導入後はそのまま維持療法として継続するのが基本です。年齢の上限はなく、5-アミノサリチル酸製剤や免疫調節薬などとの併用も可能です。一方、TNF-αは結核菌などを肉芽腫に封じ込めるのに不可欠なため、活動性結核や重篤な感染症の患者には禁忌であり、脱髄疾患やうっ血性心不全も禁忌に含まれます。投与前には結核(胸部画像・IGRAなど)とB型肝炎のスクリーニングを行い、潜在性結核ではイソニアジドの予防内服を先行させます。サイトカインの生理的役割から副作用と禁忌を理解しておくことは、関節リウマチなど他疾患で生物学的製剤を扱う際にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

Crohn病は、口腔から肛門までの消化管のどの部位にも起こりうる、全層性の慢性肉芽腫性炎症性疾患である。腸管の狭窄や瘻孔(内瘻・外瘻)、難治性の痔瘻などを合併しやすい。 抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブなど)は、炎症の中心的なサイトカインである腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-α:TNF-α)の働きを抑える生物学的製剤で、既存治療(5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬など)で効果不十分な中等症〜重症例や、外瘻を伴う例に用いられる。寛解導入に用いた後、そのまま維持療法として継続投与するのが一般的である。 一方でTNF-αは、結核菌をはじめとする細胞内寄生菌を肉芽腫の中に封じ込めるうえで不可欠な因子である。そのため抗TNF-α療法では感染症、特に結核の発症・再燃・重症化が問題となり、重篤な感染症や活動性結核を有する患者には投与してはならない(禁忌)。本問では、この安全性上の禁忌に当たる患者を選べばよい。年齢、瘻孔の有無、併用薬、寛解導入後であることは、いずれも投与を妨げる理由にはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  65歳以上の患者

    投与対象となる。抗TNF-α抗体製剤に年齢の上限は設けられておらず、高齢者でも適応があれば使用できる。ただし高齢者は一般に免疫能が低下しており、重篤な感染症(肺炎、日和見感染など)を起こしやすいため、慎重に投与し経過を注意深く観察する必要がある。

  2. ○b.  活動性結核を合併する患者

    投与対象とならない(禁忌)。TNF-αは肉芽腫の形成・維持に関与し、結核菌の封じ込めに重要な役割を担う。これを阻害すると、結核が急速に悪化したり、肺外結核・播種性結核として重症化したりするおそれがある。活動性結核ではまず抗結核治療を優先する。また投与前には、問診、胸部X線(必要に応じてCT)、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)やツベルクリン反応による結核のスクリーニングが必須であり、潜在性結核感染が疑われる場合は、抗TNF-α抗体製剤開始前からイソニアジドの予防内服を行う。

  3. ×c.  腸管皮膚瘻(外瘻)を合併する患者

    投与対象となる。インフリキシマブなどの抗TNF-α抗体製剤は、腸管皮膚瘻や難治性の肛門部病変(痔瘻)といった外瘻を伴うCrohn病に対して瘻孔閉鎖効果が示されており、外瘻は本剤の適応の一つとして位置づけられている。ただし瘻孔周囲に膿瘍がある場合は、先にドレナージなどで感染を制御してから投与する。

  4. ×d.  他のCrohn病治療薬を服用中の患者

    投与対象となる。抗TNF-α抗体製剤は、5-アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイドなどの既存治療で効果不十分な場合に、それらに追加して用いるのが通常である。アザチオプリンなどの免疫調節薬との併用は、薬剤に対する抗体(抗薬物抗体)の産生を抑え、効果の減弱を防ぐ目的で行われることもある。

  5. ×e.  生物学的製剤による寛解導入後の患者

    投与対象となる。抗TNF-α抗体製剤は寛解導入療法だけでなく寛解維持療法にも用いられ、寛解導入に成功した場合はそのまま定期的な投与を継続して寛解を維持するのが基本である(例:インフリキシマブは0・2・6週で導入後、8週ごとに維持投与)。効果が減弱した場合には増量や投与間隔の短縮、他剤への切り替えが検討される。

抗TNF-α抗体製剤の主な禁忌・注意点

・禁忌:重篤な感染症(敗血症など)、活動性結核、脱髄疾患(多発性硬化症など)およびその既往、うっ血性心不全、製剤成分(インフリキシマブではマウス由来タンパク)に対する過敏症の既往 ・投与前スクリーニング:結核(問診、胸部画像、IGRA・ツベルクリン反応)、B型肝炎ウイルス(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体。再活性化に注意) ・副作用:重篤な感染症、結核(肺外結核が多い)、ニューモシスチス肺炎、インフュージョン・リアクション(点滴に伴う反応)、自己抗体出現によるループス様症状、脱髄疾患、悪性リンパ腫などの報告

Crohn病の治療の概要

栄養療法(成分栄養剤など)、5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイド(寛解導入のみ、維持には用いない)、免疫調節薬(アザチオプリンなど)、生物学的製剤(抗TNF-α抗体のほか、抗IL-12/23抗体、抗α4β7インテグリン抗体など)を病状に応じて組み合わせる。狭窄、穿孔、膿瘍、大量出血などでは外科治療や内視鏡的バルーン拡張術が行われる。 抗TNF-α抗体製剤は潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、Behçet病などにも用いられる。

POINT

・抗TNF-α抗体製剤は活動性結核・重篤な感染症の患者には禁忌である。 ・投与前には結核とB型肝炎のスクリーニングを必ず行い、潜在性結核ではイソニアジドの予防内服を先行させる。 ・年齢制限はなく、外瘻合併例は良い適応であり、既存治療との併用や寛解維持目的の継続投与も可能である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。