にきびは糖尿病のせい?―高血糖が長い年月で刻む「意外な合併症」たち
第107回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
糖尿病の慢性合併症でないのはどれか。
- a.足趾壊疽
- b.尋常性痤瘡
- c.Charcot関節
- d.浮腫性硬化症
- e.Dupuytren拘縮
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害である三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)と大血管障害が中心ですが、それだけではありません。神経障害・血流障害・易感染性が重なる足趾壊疽、神経障害を背景とした関節破壊であるCharcot関節、膠原線維の肥厚とムコ多糖沈着による浮腫性硬化症、AGEs蓄積が関与するとされるDupuytren拘縮や手指の可動域制限なども慢性合併症に含まれます。一方、尋常性痤瘡は思春期の皮脂分泌増加、毛孔の角化異常、アクネ菌による毛包脂腺系の疾患であり、糖尿病の合併症ではありません。高血糖が血管・神経・結合組織をどう傷めるかという視点で整理すると、皮膚や関節を含めた全身の合併症を体系的に理解でき、日常診療での見落とし防止にもつながります。
解答・解説
正解はbです
糖尿病の合併症は、急激な代謝破綻による急性合併症(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、低血糖など)と、長期間の高血糖によって徐々に進行する慢性合併症に分けられる。 慢性合併症の中心は細小血管障害である三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)と、大血管障害(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)である。これらに加えて、神経障害と血流障害が重なって起こる糖尿病足病変(潰瘍・壊疽)、神経障害を背景とした関節破壊(Charcot関節)、さらに皮膚・結合組織の変化(浮腫性硬化症、Dupuytren拘縮、手の関節可動域制限など)も慢性合併症に含まれる。結合組織の変化には、高血糖によってタンパク質に糖が非酵素的に結合してできる終末糖化産物(advanced glycation end products:AGEs)の蓄積が関与すると考えられている。 本問では、長期の高血糖との関連が乏しいもの、すなわち思春期の皮脂分泌増加を背景に生じる一般的な皮膚疾患を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 足趾壊疽
糖尿病の慢性合併症である。感覚神経障害により痛みに気づかず靴擦れや外傷が放置され、自律神経障害により発汗が減って皮膚が乾燥・亀裂を生じやすくなる。さらに動脈硬化による末梢動脈疾患で血流が不足し、易感染性も加わるため、潰瘍が治りにくく壊疽へと進行する。下肢切断の主要な原因であり、日頃のフットケアによる予防が重要である。
- ○b. 尋常性痤瘡
糖尿病の慢性合併症ではない。尋常性痤瘡はいわゆる「にきび」であり、思春期にアンドロゲンの作用で皮脂分泌が増え、毛孔の角化異常による毛包の閉塞(面皰)と、アクネ菌(Cutibacterium acnes)の増殖による炎症が加わって生じる毛包脂腺系の疾患である。長期の高血糖とは直接の関係がない。なお、ステロイド投与による痤瘡(ステロイド痤瘡)やアンドロゲン過剰状態(多囊胞性卵巣症候群など)による痤瘡はあるが、糖尿病そのものの合併症としては扱われない。
- ×c. Charcot関節
糖尿病の慢性合併症である。Charcot関節(神経障害性関節症)は、痛覚や深部感覚の障害によって関節を守る防御反応が働かず、繰り返す過剰な負荷や微小骨折が気づかれないまま進行して、関節が高度に破壊・変形する病態である。痛みが乏しい割に破壊が著しいのが特徴である。糖尿病では足関節・足根部に好発する。糖尿病性神経障害のほか、脊髄癆(神経梅毒)、脊髄空洞症などでも生じる。
- ×d. 浮腫性硬化症
糖尿病の慢性合併症(皮膚合併症)である。項部(うなじ)から肩、上背部にかけての皮膚が、指で押しても圧痕を残さない硬い浮腫状に肥厚する疾患で、真皮の膠原線維が太くなり、線維の間にムコ多糖(グリコサミノグリカン)が沈着することが本態である。血糖コントロール不良で罹病期間の長い肥満の2型糖尿病患者に多い。
- ×e. Dupuytren拘縮
糖尿病の慢性合併症として扱われる。Dupuytren拘縮は手掌腱膜が線維性に肥厚・短縮して結節や索状物を形成し、主に環指・小指が屈曲位のまま伸ばせなくなる病態である。原因は完全には解明されていないが、高齢男性、糖尿病、アルコール多飲、喫煙などでの頻度が高く、糖尿病では結合組織へのAGEs蓄積などが関与すると考えられている。糖尿病では同様の機序で手指の関節可動域制限(手のひら同士を合わせたときに指の間に隙間ができる、いわゆる合掌徴候)もみられる。
糖尿病の慢性合併症の整理
・細小血管障害(三大合併症):糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症。発症は一般に神経障害→網膜症→腎症の順とされる。 ・大血管障害:冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患 ・糖尿病足病変:潰瘍、壊疽、Charcot足 ・皮膚病変:浮腫性硬化症、糖尿病性水疱、前脛骨部色素斑(糖尿病性皮膚障害)、リポイド類壊死症、皮膚感染症(白癬、カンジダ症、蜂窩織炎など) ・骨・関節・結合組織病変:Dupuytren拘縮、手指関節の可動域制限、ばね指、手根管症候群、肩関節周囲炎、骨粗鬆症 ・その他:白内障、歯周病、認知症、易感染性など
Charcot関節をきたす主な疾患
糖尿病性神経障害、脊髄癆、脊髄空洞症(上肢の関節に多い)、先天性無痛症など
POINT
・糖尿病の慢性合併症には三大合併症・大血管障害だけでなく、足病変、Charcot関節、浮腫性硬化症、Dupuytren拘縮などの皮膚・結合組織病変も含まれる。 ・尋常性痤瘡は思春期の皮脂分泌増加とアクネ菌による毛包脂腺系の疾患であり、糖尿病の合併症ではない。 ・足壊疽は神経障害+血流障害+易感染性の組み合わせで生じる。
