StudyMed医師国家試験

やせは血栓を呼ばない―Virchowの三徴で見抜く肺血栓塞栓症のリスク

第107回医師国家試験 A問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第4問

急性肺血栓塞栓症のリスクファクターでないのはどれか。

  1. a.るいそう
  2. b.長期臥床
  3. c.悪性腫瘍
  4. d.プロテインC欠乏症
  5. e.中心静脈カテーテル留置

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性肺血栓塞栓症のリスクファクターを問う問題だ。リスクを一つひとつ暗記するより、「なぜ血栓ができるのか」という原理から整理すると迷わなくなる。まず、肺動脈を詰まらせる血栓はそもそもどこから来るのかな。
医学生医学生
ほとんどが下肢や骨盤の深部静脈にできた血栓が飛んでくるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。深部静脈血栓症が遊離し、右心系を通って肺動脈を閉塞する。だから両者は一連の病態で、まとめて静脈血栓塞栓症と呼ぶ。つまり肺血栓塞栓症のリスクは、深部静脈血栓症のリスクとほぼ同じなんだ。それを整理する枠組みが何か、思い出せるかな。
医学生医学生
病理学の講義で習ったVirchowの三徴です。血流の停滞、血管内皮の障害、血液凝固能の亢進、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。では選択肢をこの三つに当てはめていこう。まず長期臥床はどうだろう。
医学生医学生
寝たきりだと足を動かさないので、血流の停滞ですね。
ドクタードクター
そう。下肢の静脈血は歩行時に下腿の筋肉が静脈を圧迫する筋ポンプで心臓に戻る。臥床ではそれが働かず血液がよどむ。臥床後に初めて歩いたり、排便でいきんだりしたときに血栓が遊離して発症するのが典型的なパターンだ。
医学生医学生
外科の臨床実習で、術後の患者さんに弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置をつけていたのは、それを防ぐためだったんですね。
ドクタードクター
その通り、早期離床と並ぶ予防策だね。次に悪性腫瘍はどうかな。
医学生医学生
凝固能の亢進でしょうか。Trousseau症候群という言葉を聞いたことがあります。
ドクタードクター
正解。腫瘍細胞は組織因子などの凝固促進物質を産生して血液を過凝固状態にする。さらに腫瘍による静脈の圧迫、手術、化学療法、カテーテル留置、全身状態悪化による臥床まで重なるから、担癌患者は静脈血栓塞栓症の高リスク群なんだ。
医学生医学生
プロテインC欠乏症も凝固能の亢進ですよね。ただ、プロテインCが何をしているのか少し曖昧です。
ドクタードクター
大事なところだから確認しよう。プロテインCはビタミンK依存性の抗凝固因子で、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によって活性化され、プロテインSを補因子として活性化第V因子と第VIII因子を分解する。つまり凝固のブレーキ役だ。欠乏するとブレーキが効かず、若いうちから静脈血栓を繰り返しやすい。アンチトロンビン欠乏症、プロテインS欠乏症と並ぶ先天性血栓性素因の代表だよ。
医学生医学生
中心静脈カテーテルは、血管の中に異物が入るので内皮障害ですね。
ドクタードクター
そう、内皮を傷つけるうえに内腔を占めて血流も乱す。カテーテル周囲に血栓ができ、上肢や頸部の深部静脈血栓から肺塞栓を起こすこともある。さて、残ったのがるいそうだ。
医学生医学生
体重で言えばリスクになるのは肥満の方で、やせはVirchowの三徴のどれにも当てはまらないので、これが正解ですね。
ドクタードクター
正解。肥満は腹腔内圧の上昇で下肢からの静脈還流を妨げ、活動性の低下も加わって血流停滞のリスクになる。一方、るいそうそのものは独立したリスクファクターではない。ただし注意してほしいのは、やせの背景に悪性腫瘍があったり、衰弱して寝たきりになっていたりすれば、その基礎疾患や臥床がリスクになるということだ。
医学生医学生
やせているから安心、ではなく、なぜやせているのかを考えるべきということですね。
ドクタードクター
その姿勢が臨床では大切だ。ほかにも、経口避妊薬やエストロゲン製剤、妊娠・産褥、ネフローゼ症候群、抗リン脂質抗体症候群、脱水、股関節・膝関節置換術や骨盤・下肢の骨折も代表的なリスクだから、三徴のどれに当たるか考えながら覚えておこう。
医学生医学生
実際に発症したときは、どんな症状で気づけばいいでしょうか。
ドクタードクター
突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈が代表的で、重症では失神やショックになる。血液ガスでは低酸素血症と過換気による低二酸化炭素血症がみられる。D-ダイマーは感度が高いので低値なら除外に役立ち、確定診断は造影CTで行う。治療は抗凝固療法が基本で、ショックを伴う重症例では血栓溶解療法などを考慮する。リスクのある患者で急に酸素化が悪くなったら、まず疑うことが救命につながるんだ。

まとめ

急性肺血栓塞栓症の多くは下肢・骨盤の深部静脈血栓が遊離して肺動脈を閉塞するもので、そのリスクファクターはVirchowの三徴(血流停滞・血管内皮障害・凝固能亢進)で整理できます。長期臥床は血流停滞、中心静脈カテーテル留置は内皮障害、悪性腫瘍やプロテインC欠乏症は凝固能亢進にあたり、いずれも代表的なリスクです。体重に関してリスクとなるのは肥満であり、るいそう自体はリスクファクターではありませんが、背景の悪性腫瘍や臥床には注意が必要です。突然の呼吸困難や頻脈、低酸素血症をみたら本症を疑い、D-ダイマーや造影CTで評価します。原理から危険因子を理解しておくことは、予防策の選択や早期診断に直結する臨床力の基盤になります。

解答・解説

正解はaです

急性肺血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism:PTE)は、主に下肢や骨盤内の深部静脈にできた血栓(深部静脈血栓症:deep vein thrombosis、DVT)が遊離し、右心系を経て肺動脈を閉塞することで発症する。PTEとDVTは一連の病態であり、まとめて静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼ばれる。 したがって、PTEのリスクファクターはDVTのリスクファクターとほぼ同じであり、静脈血栓の成因を説明する「Virchowの三徴」で整理すると考えやすい。 ①血流の停滞:長期臥床、長時間の座位(いわゆるエコノミークラス症候群)、下肢麻痺、肥満、妊娠、心不全など ②血管内皮の障害:手術、外傷・骨折、カテーテル留置、静脈炎の既往など ③血液凝固能の亢進:悪性腫瘍、エストロゲン製剤・経口避妊薬、妊娠・産褥、先天性の凝固制御因子欠乏(アンチトロンビン・プロテインC・プロテインS)、抗リン脂質抗体症候群、脱水など 各選択肢がこの三つのどれかに当てはまるかを確認すればよい。体重に関しては、肥満が腹腔内圧上昇による下肢静脈還流の障害や活動性低下を介してリスクとなるのに対し、やせ(るいそう)そのものは静脈血栓形成を促す要因ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  るいそう

    リスクファクターではない。体重に関して静脈血栓塞栓症のリスクとなるのは肥満である。肥満では腹腔内圧の上昇により下肢からの静脈還流が妨げられ、さらに身体活動の低下も加わって血流が停滞しやすい。るいそう(著しいやせ)自体はVirchowの三徴のいずれにも直接結びつかず、独立したリスクファクターとはされていない。ただし、るいそうの原因が悪性腫瘍であったり、衰弱のため寝たきりになっていたりする場合は、その基礎疾患や臥床がリスクとなる点には注意する。

  2. ×b.  長期臥床

    リスクファクターである。下肢の静脈血は、歩行時に下腿の筋肉が収縮して静脈を圧迫するポンプ作用(筋ポンプ)によって心臓へ押し戻される。長期臥床ではこの筋ポンプが働かず下肢静脈の血流が停滞するため、DVTが形成されやすい。臥床後に初めて歩行・排便・体位変換をした際に血栓が遊離してPTEを発症する例が典型的である。

  3. ×c.  悪性腫瘍

    リスクファクターである。腫瘍細胞は組織因子などの凝固促進物質を産生し、凝固・線溶系の異常を引き起こして血液を過凝固状態にする(悪性腫瘍に伴う血栓傾向はTrousseau症候群とも呼ばれる)。加えて、腫瘍による静脈の圧迫、手術、化学療法、中心静脈カテーテル留置、全身状態悪化による臥床なども重なり、担癌患者はVTEの高リスク群である。

  4. ×d.  プロテインC欠乏症

    リスクファクターである。プロテインCはビタミンK依存性の抗凝固因子で、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によって活性化されると(活性化プロテインC)、プロテインSを補因子として活性化第V因子と活性化第VIII因子を分解し、凝固反応にブレーキをかける。その欠乏症では凝固が抑制されにくくなるため、若年でも静脈血栓症を繰り返しやすい。先天性血栓性素因として、アンチトロンビン欠乏症、プロテインS欠乏症とともに重要である。

  5. ×e.  中心静脈カテーテル留置

    リスクファクターである。静脈内に留置されたカテーテルは異物として血管内皮を傷害し、また内腔を占めることで周囲の血流を乱し停滞させる。その結果、カテーテル周囲に血栓(カテーテル関連血栓症)ができやすく、上肢や頸部の深部静脈血栓からPTEを起こすことがある。

Virchowの三徴とVTEの主なリスクファクター

・血流停滞:長期臥床、長時間の旅行(座位)、肥満、妊娠、うっ血性心不全、下肢麻痺、ギプス固定、下肢静脈瘤 ・血管内皮障害:手術(特に股関節・膝関節置換術、骨盤・腹部手術)、外傷・骨折(特に骨盤・下肢)、中心静脈カテーテル留置、VTEの既往 ・凝固能亢進:悪性腫瘍、経口避妊薬・エストロゲン製剤、妊娠・産褥、ネフローゼ症候群、炎症性腸疾患、抗リン脂質抗体症候群、脱水、先天性血栓性素因(アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症)、加齢

急性PTEの臨床像

突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈が代表的で、重症例では失神やショックをきたす。動脈血ガスでは低酸素血症と、過換気による低二酸化炭素血症がみられる。D-ダイマーは感度が高く、低値であれば除外に有用である。確定診断には造影CTが用いられ、治療は抗凝固療法が基本で、ショックを伴う重症例では血栓溶解療法などを考慮する。

POINT

・PTEの大部分は下肢・骨盤の深部静脈血栓に由来し、リスクファクターはVirchowの三徴(血流停滞・血管内皮障害・凝固能亢進)で整理する。 ・体重ではリスクになるのは肥満であり、るいそうではない。 ・先天性血栓性素因としてアンチトロンビン・プロテインC・プロテインSの各欠乏症を押さえる。 ・悪性腫瘍、長期臥床、手術・外傷、カテーテル留置、経口避妊薬、妊娠は代表的なリスクである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。