ピントを合わせるほど目が寄る―遠視が招く調節性内斜視のしくみ
第107回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
調節性内斜視の原因となるのはどれか。
- a.遠視
- b.乱視
- c.眼振
- d.上斜筋麻痺
- e.顔面神経麻痺
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
近くを見るときの調節と輻湊は神経的に連動しており、中等度以上の遠視をもつ小児ではピントを合わせるための過剰な調節に伴って輻湊も過剰となり、内斜視が生じます。これが調節性内斜視で、1歳半〜3歳ころの発症が典型です。乱視は調節で補正できないため原因とならず、眼振では輻湊による代償で起こる眼振阻止症候群、上斜筋麻痺では上下斜視と頭部傾斜、顔面神経麻痺では兎眼がみられ、いずれも調節性内斜視とは別の病態です。治療は調節麻痺薬点眼下の屈折検査に基づく遠視の完全矯正眼鏡が基本で、AC/A比が高いタイプには二重焦点眼鏡を用い、弱視の合併にも注意します。近見反応の生理を理解しておくことは、小児の斜視を眼鏡で治せるかどうか見極める臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
調節性内斜視がどのような機序で起こるかを理解しているかを問う問題である。
調節と輻湊の連動
ヒトが近くの物を見るときには、①水晶体を厚くしてピントを合わせる「調節」、②両眼を内側に寄せる「輻湊(ふくそう)」、③瞳孔を小さくする「縮瞳」の3つが同時に起こる(近見反応)。このうち調節と輻湊は神経的に連動しており、調節を強く働かせるほど輻湊も強く起こる。
遠視と内斜視の関係
遠視の眼では、調節を休ませた状態でピントが網膜より後方に結ぶため、遠くを見るときでさえ調節を働かせないと像がぼやける。近くを見るときにはさらに強い調節が必要となる。中等度以上の遠視をもつ小児では、はっきり見ようとして過剰な調節を続ける結果、連動する輻湊も過剰となり、眼位が内側へ寄って内斜視になる。これが調節性内斜視である。
特徴
典型的には1歳半〜3歳ころに発症し、はじめは近くを見るとき・疲れたときなどに時々内斜視となり(間欠性)、次第に恒常的になることがある。原因が過剰な調節であるため、遠視を完全に矯正する眼鏡を装用して調節の必要をなくすと、眼位が正位またはそれに近くまで改善するのが最大の特徴である。 したがって、調節性内斜視の原因となるのは遠視である。
選択肢考察
- ○a. 遠視
中等度以上の遠視があると、ピントを合わせるために常に強い調節が必要となり、調節と連動する輻湊が過剰に働いて眼が内側へ寄る。これが調節性内斜視の成因であり、遠視が原因として正しい。治療はアトロピンなどの調節麻痺薬を点眼して調節を完全に取り除いた状態で屈折を測定し、遠視を完全矯正する眼鏡を常用させることが基本となる。
- ×b. 乱視
乱視は主に角膜(一部は水晶体)の曲率が方向によって異なるために、一点にピントが結ばれない屈折異常である。調節によって乱視を打ち消すことはできないため、乱視そのものが過剰な調節・輻湊を引き起こして内斜視の原因となることはない。遠視に乱視が合併することはあり、その場合は乱視も含めて眼鏡で矯正するが、調節性内斜視の原因として挙げられるのはあくまで遠視である。
- ×c. 眼振
眼振は眼球が不随意に律動的に揺れる状態である。先天性の眼振では、輻湊すると眼振が抑えられて見やすくなるため、患児が意図的に両眼を内寄せし続けて内斜視となることがあり、眼振阻止症候群と呼ばれる。これは輻湊によって眼振を抑える代償機構であり、遠視に伴う過剰調節で起こる調節性内斜視とは別の病態である。
- ×d. 上斜筋麻痺
上斜筋は滑車神経(第IV脳神経)支配で、眼球の内方回旋・下転・外転に働く。麻痺すると患眼が上方へずれる上下斜視と外方回旋偏位が生じ、複視を避けるために健側へ頭を傾ける頭位異常(眼性斜頸)がみられる。患側へ頭を傾けると患眼の上転が増強する(Bielschowsky頭部傾斜試験陽性)。調節性内斜視の原因にはならない。
- ×e. 顔面神経麻痺
顔面神経(第VII脳神経)は眼輪筋を支配するため、麻痺すると閉瞼ができなくなり(兎眼)、角膜の乾燥や露出性角膜炎を起こしうる。しかし外眼筋は動眼神経・滑車神経・外転神経の支配であり、顔面神経麻痺で眼位の異常(斜視)は生じない。調節性内斜視の原因にはならない。
調節性内斜視の分類
・屈折性調節性内斜視:中等度以上(おおむね+2〜+3D以上)の遠視が原因。遠視の完全矯正眼鏡で遠見・近見とも眼位が改善する。 ・非屈折性調節性内斜視:遠視は軽いが、調節量に対して起こる輻湊の量(AC/A比:調節性輻湊と調節の比)が異常に高いため、近見時に内斜視が強くなる。遠見は眼鏡で矯正されても近見で内斜視が残るため、下方に近用の凸レンズを加えた二重焦点眼鏡などを用いる。 ・部分調節性内斜視:眼鏡装用で内斜視が軽減するが完全には消えない。残った斜視角に対して手術を検討する。
診断と治療のポイント
・小児は調節力が強く、通常の検査では遠視が過小評価されるため、アトロピンなどの調節麻痺薬を点眼したうえで屈折検査を行う。 ・治療の基本は遠視の完全矯正眼鏡の常用であり、屈折性調節性内斜視では手術は原則として行わない。 ・斜視眼では弱視(斜視弱視)を合併しうるため、視機能が発達する小児期のうちに眼鏡矯正と、必要に応じて健眼遮閉による弱視治療を行う。
他の小児の内斜視との鑑別
・乳児内斜視:生後6か月以内に発症し、斜視角が大きく、遠視は軽度。眼鏡では改善せず手術が必要となる。 ・偽内斜視:乳幼児では鼻根部が低く内眼角贅皮があるため、白目が内側で隠れて内斜視のように見えるが、角膜反射は瞳孔中央にあり眼位は正常。 ・眼振阻止症候群:輻湊で眼振を抑える代償的な内斜視。 ・外転神経麻痺:外直筋の麻痺による麻痺性内斜視で、患眼の外転制限を伴う。
POINT
・調節と輻湊は連動する → 遠視で過剰な調節が起こると輻湊も過剰となり内斜視になる(調節性内斜視)。 ・原因は中等度以上の遠視。発症は1歳半〜3歳ころが多い。 ・治療は調節麻痺薬点眼下の屈折検査に基づく遠視の完全矯正眼鏡。眼鏡で眼位が改善するのが特徴。 ・AC/A比が高い非屈折性では二重焦点眼鏡を用いる。 ・上斜筋麻痺 → 上下斜視・外方回旋、健側への頭部傾斜。顔面神経麻痺 → 兎眼(斜視は起こさない)。
