会議中の居眠りと寝入りばなの呼び声―オレキシンとレム睡眠で読み解くナルコレプシー
第106回医師国家試験 I問題 第38問
国試問題にチャレンジ
ナルコレプシーの患者の訴えと考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.「会議中に突然眠ってしまいます」
- b.「足がむずむずしてよく眠れません」
- c.「毎日明け方になるまで眠れません」
- d.「寝入りばなに誰かに呼ばれる気がします」
- e.「毎晩,眠れないのではないかと不安になります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ナルコレプシーは視床下部のオレキシン神経の脱落による中枢性過眠症で、睡眠発作・情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺の4主徴をもちます。会議中など通常眠らない場面での居眠りは覚醒維持の障害による睡眠発作、寝入りばなに名前を呼ばれる体験は入眠直後に出現するレム睡眠に伴う入眠時幻覚として説明できます。一方、脚のむずむず感はむずむず脚症候群、明け方まで眠れないのは不眠症や睡眠・覚醒相後退障害、眠れないことへの予期不安は精神生理性不眠症の訴えです。診断には睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査を用い、平均睡眠潜時8分以下と入眠時レム睡眠期2回以上が目安となります。「過眠か不眠か」と「レム睡眠の要素が覚醒に混入しているか」という視点で整理すると、睡眠障害全体の鑑別が明快になります。
解答・解説
正解はa, dです
ナルコレプシーは、日中に耐えがたい眠気と居眠りを繰り返す中枢性過眠症の代表的疾患である。10代に発症することが多い。視床下部で覚醒維持を担う神経ペプチドであるオレキシン(ヒポクレチン)を産生する神経細胞が脱落することが主な原因と考えられており、特に情動脱力発作を伴う1型では脳脊髄液中のオレキシン濃度が著明に低下する。HLA-DQ6(DQ β1鎖遺伝子の06:02アレル、DR15/DQ6ハプロタイプ)との強い関連が知られる。
4主徴
・睡眠発作: 日中、会議中・食事中・会話中など通常は眠らない場面で、抗しがたい眠気に襲われて眠り込む。短時間の居眠りの後はすっきりすることが多い。 ・情動脱力発作(カタプレキシー): 笑う、驚く、怒るなど強い情動をきっかけに、膝の力が抜ける、顔面や首がだらりとするなど、意識は保たれたまま一過性に抗重力筋の緊張が失われる。 ・入眠時幻覚: 寝入りばなに生じる、現実感の強い幻視・幻聴・体感幻覚(誰かが部屋にいる、名前を呼ばれる、体を押さえつけられるなど)。 ・睡眠麻痺: 入眠時や覚醒時に意識はあるのに体を動かせない状態(いわゆる金縛り)で、強い恐怖感を伴うことが多い。
病態の理解
これらの症状は「覚醒を維持する機構の障害」と「レム睡眠の制御異常」で説明できる。睡眠発作は覚醒維持の障害による。健常者では入眠後にノンレム睡眠を経ておよそ90分後にレム睡眠が現れるが、ナルコレプシーでは入眠直後にレム睡眠が出現しやすい(入眠時レム睡眠期: SOREMP)。レム睡眠の要素である夢が入眠時に現れれば入眠時幻覚、筋緊張の消失が覚醒中に現れれば情動脱力発作や睡眠麻痺となる。 本問では、各訴えがナルコレプシーの4主徴のいずれかに当てはまるか、それとも別の睡眠障害(むずむず脚症候群、不眠症、概日リズム睡眠障害など)を示すものかを判別すればよい。
選択肢考察
- ○a. 「会議中に突然眠ってしまいます」
通常では眠るはずのない会議中に、抗しがたい眠気により突然眠り込んでしまうという訴えであり、ナルコレプシーの睡眠発作(日中の過度の眠気)に相当する。覚醒を維持するオレキシン系の障害によって生じる。眠り込む時間は数分から十数分程度のことが多く、呼びかけなどの刺激で覚醒でき、目覚めた後は一時的に爽快感がある。ナルコレプシーで最も中心となる症状であり正しい。なお日中の過度の眠気は閉塞性睡眠時無呼吸症候群や睡眠不足症候群でも起こるため、診断には夜間の睡眠ポリグラフ検査(PSG)と反復睡眠潜時検査(MSLT)による評価が必要である。
- ×b. 「足がむずむずしてよく眠れません」
下肢の不快な感覚(むずむず感、虫が這うような感じ)とそれに伴う脚を動かしたい強い衝動が、安静時や夕方〜夜間に強まり、脚を動かすと軽快するという訴えは、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、Willis-Ekbom病)の典型である。入眠が妨げられ不眠の原因となる。鉄欠乏(血清フェリチン低値)、慢性腎臓病(透析患者)、妊娠などで二次性に起こりやすく、中枢のドパミン機能障害が関与するとされる。ナルコレプシーの症状ではないため誤りである。
- ×c. 「毎日明け方になるまで眠れません」
夜に床に就いてもなかなか寝つけず、明け方まで眠れないという訴えであり、入眠障害型の不眠症、あるいは体内時計の位相が後ろにずれて明け方まで眠れず昼近くまで起きられない睡眠・覚醒相後退障害(概日リズム睡眠障害の一型、思春期〜若年成人に多い)を示唆する。ナルコレプシーでは夜間に中途覚醒が多く睡眠が分断されることはあるが、むしろ寝つきは良く、入眠直後にレム睡眠が出現するのが特徴であり、明け方まで眠れないことは典型的な訴えではない。誤りである。
- ○d. 「寝入りばなに誰かに呼ばれる気がします」
眠りに入る際に誰かに名前を呼ばれる声が聞こえるという、聴覚性の入眠時幻覚を示す訴えである。ナルコレプシーでは入眠直後からレム睡眠が出現しやすく(入眠時レム睡眠期)、意識がまだ半ば残っている状態でレム睡眠に伴う鮮明な夢体験が生じるため、現実と区別しにくい幻覚として体験される。幻視(人影が見える)、幻聴、体感幻覚(体に触れられる、押さえつけられる)など多様で、睡眠麻痺と同時に起こることも多い。ナルコレプシーの4主徴の一つであり正しい。
- ×e. 「毎晩,眠れないのではないかと不安になります」
「今夜も眠れないのではないか」という予期不安や睡眠へのこだわりが強まり、そのために緊張して一層眠れなくなるという悪循環は、精神生理性不眠症(慢性不眠障害)の典型的な訴えである。治療には睡眠衛生指導や不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が有効である。ナルコレプシーの主症状は日中の過眠であり、不眠への予期不安は典型的な訴えではないため誤りである。
ナルコレプシーの診断
・睡眠ポリグラフ検査(PSG)で夜間に他の睡眠障害(睡眠時無呼吸など)がないことを確認したうえで、翌日に反復睡眠潜時検査(MSLT: 日中2時間おきに複数回、眠れる機会を与えて入眠までの時間を測る)を行う。平均睡眠潜時が8分以下で、入眠時レム睡眠期(SOREMP)が2回以上出現することが診断の目安となる(前夜のPSGでのSOREMPも1回として数えられる)。 ・1型ナルコレプシーは情動脱力発作を伴うか、脳脊髄液中のオレキシン(ヒポクレチン)濃度が低値(110 pg/mL以下)のもの。2型はオレキシン低下や情動脱力発作を欠くもの。 ・HLA-DQ β1鎖遺伝子の06:02アレル(HLA-DQ6)の保有率が高い(日本人の1型ではほぼ全例)が、健常者にも多いため、単独では診断に用いない。
治療
・生活指導: 規則正しい睡眠習慣、計画的な短時間の昼寝。 ・日中の眠気: 覚醒促進薬・中枢神経刺激薬(モダフィニル、メチルフェニデート徐放錠、ペモリン)、海外ではヒスタミンH3受容体拮抗・逆作動薬(ピトリサント)なども用いられる。 ・情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺(レム睡眠関連症状): レム睡眠を抑制する三環系抗うつ薬(クロミプラミン)やSSRI・SNRIなど。
鑑別すべき睡眠障害
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群: いびき、肥満、夜間の無呼吸、日中の眠気。 ・むずむず脚症候群: 夕方〜夜に増悪する下肢の異常感覚と動かしたい衝動。鉄欠乏・透析・妊娠で増悪。 ・睡眠・覚醒相後退障害: 入眠・起床時刻が極端に遅れて固定する。 ・レム睡眠行動障害: レム睡眠中の筋緊張消失が起こらず夢の内容に沿って大声・激しい動きがみられる。高齢男性に多く、Parkinson病やLewy小体型認知症の前駆症状となり得る。
POINT
・ナルコレプシーの4主徴: 睡眠発作、情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺。 ・原因は視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)神経の脱落で、入眠直後にレム睡眠が出現する(SOREMP)。 ・診断はPSG+MSLT(平均睡眠潜時8分以下、SOREMP 2回以上)。 ・「脚がむずむず」はむずむず脚症候群、「明け方まで眠れない」「眠れないことへの不安」は不眠症や概日リズム睡眠障害の訴えである。
