肺に穴が開くのは誰か―「嚢胞」と「脆い結合組織」から読み解く続発性気胸
第106回医師国家試験 I問題 第37問
国試問題にチャレンジ
気胸の合併に注意すべきなのはどれか。2つ選べ。
- a.肺分画症
- b.過敏性肺炎
- c.Marfan症候群
- d.肺リンパ脈管筋腫症
- e.アレルギー性肉芽腫性血管炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
気胸の多くは肺表面のブラや嚢胞の破裂で起こるため、合併に注意すべき疾患は「嚢胞性肺疾患」と「結合組織が脆弱な疾患」と整理できます。Marfan症候群はFBN1変異による結合組織疾患で、肺尖部ブラから自然気胸を繰り返すことがあり、改訂Ghent基準にも気胸が含まれます。肺リンパ脈管筋腫症は生殖可能年齢の女性に両肺の多発薄壁嚢胞をつくり、反復性気胸や乳び胸水が特徴で、mTOR阻害薬シロリムスが治療に用いられます。一方、肺分画症は反復感染、過敏性肺炎は抗原曝露による間質性肺炎、EGPAは喘息・好酸球増多・血管炎が主徴で、気胸の代表的原因ではありません。年齢・性別・体型・既往から気胸の背景疾患を推定する視点は、再発予防や見逃し防止に直結する臨床の基本です。
解答・解説
正解はc, dです
気胸は胸膜腔に空気が入り込み、肺が虚脱した状態である。原因の大部分は、肺の表面にできた薄い壁の含気腔(ブラ・ブレブ)や嚢胞が破れて空気が漏れることによる。したがって「気胸の合併に注意すべき疾患」とは、肺に嚢胞性病変をつくりやすい疾患、あるいは肺・胸膜の結合組織が脆弱な疾患を考えればよい。
気胸の分類
・原発性自然気胸: 基礎疾患のない肺に生じるもの。やせ型で長身の若年男性に多く、肺尖部のブラ・ブレブの破裂が原因となる。 ・続発性自然気胸: 基礎となる肺疾患に伴うもの。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎の蜂巣肺、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)、肺Langerhans細胞組織球症、Birt-Hogg-Dubé症候群、月経随伴性気胸(胸腔内子宮内膜症)、ニューモシスチス肺炎、肺癌・肺転移、結合組織疾患(Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群)などが挙げられる。 ・外傷性気胸、医原性気胸(中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、陽圧換気など)。 選択肢のうち、嚢胞形成・結合組織の脆弱性という観点で気胸を起こしやすいのはMarfan症候群と肺リンパ脈管筋腫症である。
選択肢考察
- ×a. 肺分画症
肺分画症は、正常の気管支と交通をもたず、大動脈から直接分岐する異常動脈によって血液供給を受ける肺組織が存在する先天異常である。正常肺と同じ胸膜に包まれる肺葉内肺分画症(成人例の多く、左下葉背側に好発)と、独自の胸膜に包まれる肺葉外肺分画症に分けられる。肺葉内型では分画肺に反復する感染(肺炎・肺膿瘍)を起こすことが主な問題であり、肺葉外型では先天性横隔膜ヘルニアなど横隔膜の異常を合併しやすい。気胸を起こしやすい疾患としては位置づけられていないため誤りである。
- ×b. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、カビ(夏型過敏性肺炎のTrichosporon)や鳥の羽毛・排泄物(鳥関連過敏性肺炎)などの有機抗原を繰り返し吸入することで起こる、III型・IV型アレルギーを主体とする間質性肺炎である。急性型では抗原曝露後に発熱・咳・呼吸困難が出現し、抗原から離れると改善する。少量の抗原曝露が長期にわたると線維化を伴う慢性型へ移行することがある。高度に線維化して蜂巣肺をきたした症例では気胸を生じ得るが、一般に気胸の合併を特に注意すべき代表的疾患とはされない。したがって誤りである。
- ○c. Marfan症候群
Marfan症候群は、弾性線維の構成成分であるフィブリリン1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の結合組織疾患である。骨格(高身長、長い四肢・指〈クモ状指〉、漏斗胸、側弯)、眼(水晶体偏位〈亜脱臼〉)、心血管(大動脈基部拡張、大動脈解離、僧帽弁逸脱)の異常が主徴である。肺では結合組織の脆弱性から肺尖部のブラ・嚢胞が形成されやすく、自然気胸を繰り返すことがある。気胸はMarfan症候群の診断基準(改訂Ghent基準)の全身所見スコアにも含まれており、合併に注意すべき疾患として正しい。
- ○d. 肺リンパ脈管筋腫症
肺リンパ脈管筋腫症(LAM: lymphangioleiomyomatosis)は、平滑筋様の異常細胞(LAM細胞)が肺やリンパ管・リンパ節で増殖する疾患で、ほぼ生殖可能年齢の女性に発症する。結節性硬化症に合併するもの(TSC-LAM)と単独で発症するもの(孤発性LAM)があり、いずれもTSC遺伝子の異常によりmTOR経路が活性化している。胸部CTでは両肺にびまん性に多数の薄壁嚢胞を認め、これが破れて気胸を繰り返すことが多く、気胸が診断の契機となることも少なくない。そのほか乳び胸水、腎血管筋脂肪腫を合併し得る。治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられる。気胸に注意すべき代表的疾患であり正しい。
- ×e. アレルギー性肉芽腫性血管炎
アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)は、現在は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA: eosinophilic granulomatosis with polyangiitis)と呼ばれる。気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行し、著明な好酸球増多に続いて、多発単神経炎、紫斑、消化管病変、心筋障害などの血管炎症状が出現する小型血管炎である。MPO-ANCAが陽性となる例が約3〜4割ある。肺では移動性の浸潤影(好酸球性肺炎様)を認めるが、嚢胞形成は特徴ではなく、気胸を合併しやすい疾患ではないため誤りである。
気胸の原因となる代表的疾患の整理
・若年男性(やせ型・長身): 原発性自然気胸(肺尖部ブラ・ブレブの破裂)。 ・若年〜中年女性: 月経随伴性気胸(月経開始前後に右側に好発、胸腔内子宮内膜症や横隔膜の小孔が関与)、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)。 ・中高年男性(喫煙者): COPD(気腫性肺嚢胞)、間質性肺炎(蜂巣肺)。 ・喫煙歴のある若年成人: 肺Langerhans細胞組織球症(上肺野優位の結節と嚢胞)。 ・遺伝性疾患: Marfan症候群、血管型Ehlers-Danlos症候群、Birt-Hogg-Dubé症候群(下肺野・縦隔側の嚢胞、皮膚線維毛包腫、腎腫瘍)。 ・感染症: ニューモシスチス肺炎(HIV感染者で嚢胞形成)、壊死性肺炎。 ・医原性: 中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、胸腔穿刺、陽圧換気。
気胸の臨床
突然の胸痛・呼吸困難で発症し、患側の呼吸音減弱、打診での鼓音、声音振盪の低下を認める。胸部X線写真で肺血管影のない領域と虚脱した肺の辺縁(visceral pleural line)を確認する。縦隔の健側偏位・血圧低下・頸静脈怒張を伴えば緊張性気胸であり、直ちに胸腔穿刺・胸腔ドレナージによる脱気が必要である。
POINT
・気胸は嚢胞性肺疾患と結合組織の脆弱な疾患で起こりやすい。 ・Marfan症候群(FBN1変異、常染色体顕性遺伝)は肺尖部ブラによる自然気胸を合併し得る。 ・LAMは生殖可能年齢の女性に多い多発性薄壁嚢胞の疾患で、反復性気胸・乳び胸水が特徴。 ・肺分画症は反復感染、過敏性肺炎は間質性肺炎、EGPAは喘息・好酸球増多・血管炎が主徴であり、気胸の代表的原因ではない。
