StudyMed医師国家試験

「やめられない」と「やめると体が苦しむ」は別物―3つの軸で読み解く依存性薬物

第106回医師国家試験 I問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第27問

身体依存,精神依存および耐性形成のすべてをきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.大麻
  2. b.コカイン
  3. c.モルヒネ
  4. d.アルコール
  5. e.アンフェタミン類

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は依存性薬物の性質を、「精神依存」「身体依存」「耐性」の3つの軸で整理できるかを問う問題だ。似た言葉が並ぶけれど、それぞれの意味をはっきり区別するのが最初の一歩。まず、精神依存と身体依存の違いを説明できるかな。
医学生医学生
精神依存は「また使いたい」という欲求が止められない状態で、身体依存はやめたときに離脱症状が出る状態、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。精神依存は薬物の効果を求める強い渇望で、使用を自分でコントロールできなくなる状態。身体依存は、薬物がある状態に体が順応してしまって、中断や減量で離脱症状が身体症状として現れる状態だ。そして耐性は、同じ量では効きが弱くなり、使用量が増えていく現象を指す。
医学生医学生
精神依存は、選択肢の薬物すべてにありそうですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。依存性薬物はすべて精神依存を起こしうる。だからこの問題の判別の鍵は「身体依存があるかどうか」になるんだ。古典的な整理では、はっきりした身体依存を示すのは中枢神経を抑制する薬物、つまりオピオイド、アルコール、バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系の鎮静催眠薬だ。
医学生医学生
薬理学の講義で、抑制系の薬をやめると反動で中枢が興奮する、と習った気がします。
ドクタードクター
まさにそれが身体依存の理屈だ。抑制がかかった状態に脳が慣れているから、急に薬がなくなると反跳的に興奮して、振戦やけいれん、自律神経症状が出る。ではモルヒネから見ていこう。
医学生医学生
モルヒネはμオピオイド受容体に作用する麻薬性鎮痛薬で、緩和ケアの講義でもよく出てきました。依存も耐性も強いイメージです。
ドクタードクター
そう、モルヒネは3つとも強く形成する代表的な薬物だ。耐性は鎮痛や多幸感、呼吸抑制に生じるけれど、便秘や縮瞳には耐性がつきにくい。中断すると、あくび、流涙、鼻水、散瞳、発汗、鳥肌、下痢、腹痛、筋肉痛、不安・焦燥といった離脱症状が出る。これが身体依存の表れだね。
医学生医学生
でも緩和ケア病棟では、がんの痛みにモルヒネを普通に使っていますよね。依存は心配ないんですか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。がん疼痛に適切に使う場合、精神依存は問題になりにくいことが知られている。痛みがある状態で適切に用量を調整すれば、依存を恐れて鎮痛を控える必要はない。ただ、長期使用後に急に中止すれば離脱症状は起こりうるから、減量は段階的に行うんだ。次はアルコール。
医学生医学生
精神科の実習で、入院後2〜3日目に振戦せん妄を起こしたアルコール依存症の患者さんを見ました。あれは身体依存ですよね。
ドクタードクター
その通り、貴重な経験だね。アルコールはGABA-A受容体機能の増強やNMDA受容体の抑制を介して働く中枢抑制薬だ。長く大量に飲むと耐性ができて量が増え、やめると数時間〜2日ほどで手の震え、発汗、頻脈、不眠、一過性の幻覚、けいれん発作などの早期離脱症状が、2〜4日頃に意識障害や幻視、自律神経の亢進を伴う振戦せん妄が現れる。精神依存も伴うから、3つすべてを満たす。強さとしては身体依存が強く、精神依存と耐性は中等度と整理されることが多い。
医学生医学生
コカインはどうでしょう。依存が強い薬物の代表という印象なので、全部そろっている気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだ。コカインはドパミンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する中枢興奮薬で、強い多幸感をもたらすから精神依存はきわめて強い。でも、やめても命にかかわるような身体的な離脱症状は起こらず、身体依存はほぼないとされる。中止後の抑うつや倦怠感、過眠、いわゆるクラッシュは主に精神症状なんだ。耐性も古典的な分類ではないか弱いとされている。
医学生医学生
アンフェタミン類、つまり覚醒剤も同じ中枢興奮薬だから、身体依存がない側ですね。
ドクタードクター
そう。アンフェタミンやメタンフェタミンは神経終末からのドパミン・ノルアドレナリン放出を促す。精神依存は非常に強く、耐性も弱〜中等度生じるけれど、身体依存はほぼない。特徴的なのは、慢性使用で幻覚・妄想を主体とする覚醒剤精神病を起こすことと、少量の再使用やストレスで症状が再燃するフラッシュバック、いわゆる逆耐性現象だ。
医学生医学生
大麻は依存性が弱いと聞くことがありますが、実際はどうなんですか。
ドクタードクター
大麻の主成分はΔ9-テトラヒドロカンナビノール、THCで、多幸感や知覚の変容、時間感覚の歪みを起こす。精神依存は中程度にあるけれど、古典的な分類では身体依存はほとんどなく、耐性もないかごく軽度とされる。長期多量使用をやめたあとに、いらいらや不眠、食欲低下などの軽い離脱症状が報告されてはいるけれど、オピオイドやアルコールのような明確な身体依存とは区別して考える。だから3つすべてがそろうのはモルヒネとアルコールになる。
医学生医学生
精神依存は全部にあって、身体依存がはっきりしているのは抑制系、興奮系は精神依存が主体、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。さらに覚えておくと便利なのは、抑制系をやめると反跳的に興奮して振戦やけいれんが出て、興奮系をやめると反対に抑うつや過眠といった落ち込みが前に出る、という対比だ。ベンゾジアゼピン系でも長期使用後の急な中止でけいれんやせん妄が起こりうるから、外来で睡眠薬を減らすときは少しずつ漸減するのが原則だよ。
医学生医学生
DSM-5では「依存」という言葉ではなく「物質使用障害」になったと精神科の講義で聞きました。
ドクタードクター
よく知っているね。DSM-5では依存と乱用を統合して物質使用障害とし、耐性や離脱も診断項目の一部に含めている。大麻や中枢興奮薬の離脱症候群も定義されているけれど、国家試験では今回のような古典的な分類で問われることが多い。両方の枠組みを知っておくと、臨床でも試験でも混乱しないよ。

まとめ

依存性薬物は「精神依存」「身体依存」「耐性」の3つの軸で整理すると理解しやすくなります。精神依存はすべての依存性薬物に共通するため、判別の鍵は身体依存の有無であり、離脱症状を伴う明確な身体依存を示すのはオピオイド、アルコール、鎮静催眠薬などの中枢抑制薬です。モルヒネとアルコールは精神依存・身体依存・耐性の3つすべてを形成し、アルコールでは振戦やけいれん、振戦せん妄などの離脱症状が重要です。一方、コカインや覚醒剤などの中枢興奮薬、大麻は精神依存が主体で身体依存はほぼなく、覚醒剤では逆耐性(フラッシュバック)が特徴的です。抑制系の中止で中枢が反跳的に興奮するという仕組みを押さえておくと、離脱症状の予測や、睡眠薬・鎮痛薬を安全に漸減する臨床判断にも役立ちます。

解答・解説

正解はc, dです

依存性薬物の性質を「精神依存」「身体依存」「耐性」の3つの軸で整理できるかを問う問題である。

3つの用語の意味

・精神依存:薬物の効果を得たいという強い欲求(渇望)が生じ、自分で使用をコントロールできなくなる状態。依存性薬物はすべて精神依存を起こしうる。 ・身体依存:薬物が体内にある状態に身体が順応してしまい、中断や減量によって離脱症状(退薬症状)が身体症状として現れる状態。 ・耐性:同じ量では効果が弱くなり、同じ効果を得るために使用量が増えていく現象。

考え方

精神依存は選択肢のすべてにみられるため、判別の鍵は「身体依存があるかどうか」である。古典的な整理では、明らかな身体依存と離脱症状を示すのは中枢神経を抑制する薬物群、すなわちオピオイド(モルヒネ、ヘロインなど)、アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系などの鎮静催眠薬である。これらは耐性も形成する。一方、中枢興奮薬(コカイン、アンフェタミン類)や大麻は精神依存が主体で、身体依存はないか乏しいとされる。したがって、3つすべてをそろえるのはモルヒネとアルコールである。

選択肢考察

  1. ×a.  大麻

    大麻の主な有効成分はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)で、多幸感、知覚の変容、時間感覚の歪みなどをもたらす。精神依存は中等度程度に生じるが、古典的な分類では身体依存はほとんどなく、耐性もないかごく軽度とされる。したがって3つすべてはそろわない。なお、近年は長期の多量使用後に中止すると、いらいら・不眠・食欲低下などの軽い離脱症状がみられることも報告されているが、オピオイドやアルコールのような明確な身体依存とは区別される。

  2. ×b.  コカイン

    コカインは神経終末でのドパミン・ノルアドレナリンなどの再取り込みを阻害する中枢興奮薬で、強い多幸感をもたらすため精神依存はきわめて強い。しかし、中止しても生命にかかわるような身体的離脱症状は起こらず、身体依存はほぼないとされる。中止後にみられる抑うつ・倦怠感・過眠(いわゆるクラッシュ)は主に精神症状である。耐性は古典的な分類ではないか弱いとされる。よって3つすべてはそろわない。

  3. ○c.  モルヒネ

    モルヒネはμオピオイド受容体に作用する麻薬性鎮痛薬で、精神依存・身体依存・耐性のいずれも強く形成する代表的薬物である。耐性は鎮痛・多幸・呼吸抑制などの作用に生じ、使用量が増えていく(便秘や縮瞳には耐性がつきにくい)。中断すると、あくび、流涙、鼻漏、散瞳、発汗、鳥肌、下痢、腹痛、筋肉痛、不安・焦燥などの離脱症状が出現し、これが身体依存の表れである。なお、がん疼痛に対して適切に用いる場合には精神依存は問題になりにくいことが知られている。

  4. ○d.  アルコール

    アルコール(エタノール)は中枢抑制薬で、GABA-A受容体機能の増強やNMDA受容体の抑制を介して作用する。長期大量飲酒で耐性が形成され、飲酒量が増えていく。飲酒をやめたり減らしたりすると、数時間〜2日程度で手指振戦・発汗・頻脈・不眠・不安・一過性の幻覚、けいれん発作などの早期離脱症状が、2〜4日頃に振戦せん妄(意識障害・幻視・自律神経亢進)などの後期離脱症状がみられる。これは明らかな身体依存であり、精神依存も伴うため、3つすべてを満たす。各要素の強さは、身体依存が強く、精神依存・耐性は中等度と整理されることが多い。

  5. ×e.  アンフェタミン類

    アンフェタミンやメタンフェタミン(覚醒剤)は、神経終末からのドパミン・ノルアドレナリン放出を促進する中枢興奮薬である。精神依存は非常に強く、反復使用で耐性も生じる(弱〜中等度)が、身体依存はほぼないとされる。中止後には強い倦怠感・過眠・抑うつなどがみられるが、主に精神症状であり、オピオイドやアルコールのような身体的離脱症状とは異なる。また、慢性使用では幻覚・妄想を主体とする覚醒剤精神病や、少量の再使用で症状が再燃するフラッシュバック(逆耐性現象)が問題となる。

主な依存性薬物の特徴(古典的な整理)

・オピオイド(モルヒネ、ヘロインなど):作用は抑制。精神依存・身体依存・耐性のいずれも強い。 ・アルコール:作用は抑制。身体依存は強く、精神依存・耐性は中等度。 ・鎮静催眠薬・抗不安薬(バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系):作用は抑制。身体依存は弱〜強、精神依存は中〜強、耐性は弱〜中。離脱でけいれんやせん妄を起こしうる。 ・コカイン:作用は興奮。精神依存は強いが、身体依存はほぼなく、耐性は弱い。 ・アンフェタミン類(覚醒剤):作用は興奮。精神依存は強く、耐性は弱〜中、身体依存はほぼない。逆耐性(フラッシュバック)がみられる。 ・大麻:作用は抑制と幻覚。精神依存は中程度、身体依存・耐性はほとんどない。 ・幻覚剤(LSDなど):精神依存は軽度、身体依存はなく、耐性は速やかに生じる。 ・有機溶剤(シンナーなど):精神依存があり、身体依存はないかわずか、耐性あり。 ・ニコチン:精神依存が強く、耐性があり、軽度の離脱症状もみられる。

覚え方

「身体依存がはっきりしているのは中枢抑制系(オピオイド・アルコール・鎮静催眠薬)」と押さえると整理しやすい。これらは離脱時に中枢が反跳的に興奮し、振戦・けいれん・自律神経症状などの身体症状が出る。一方、中枢興奮系(覚醒剤・コカイン)の中止後は、反対に抑うつ・過眠など精神面の落ち込みが前景に立つ。

補足

現在の診断基準(DSM-5)では「依存」「乱用」を統合して「物質使用障害」とし、耐性や離脱もその診断項目に含めている。大麻や中枢興奮薬にも離脱症候群が定義されているが、国家試験では上記の古典的な分類で問われることが多い。

POINT

・精神依存はすべての依存性薬物に共通する。 ・身体依存(離脱症状)が明確なのは中枢抑制薬:オピオイド、アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系。 ・精神依存・身体依存・耐性の3つがそろう代表はモルヒネ(オピオイド)とアルコール。 ・コカイン・覚醒剤・大麻は精神依存が主体で、身体依存はほぼない。 ・覚醒剤では逆耐性(フラッシュバック)が特徴的。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。