「やめられない」と「やめると体が苦しむ」は別物―3つの軸で読み解く依存性薬物
第106回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
身体依存,精神依存および耐性形成のすべてをきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.大麻
- b.コカイン
- c.モルヒネ
- d.アルコール
- e.アンフェタミン類
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
依存性薬物は「精神依存」「身体依存」「耐性」の3つの軸で整理すると理解しやすくなります。精神依存はすべての依存性薬物に共通するため、判別の鍵は身体依存の有無であり、離脱症状を伴う明確な身体依存を示すのはオピオイド、アルコール、鎮静催眠薬などの中枢抑制薬です。モルヒネとアルコールは精神依存・身体依存・耐性の3つすべてを形成し、アルコールでは振戦やけいれん、振戦せん妄などの離脱症状が重要です。一方、コカインや覚醒剤などの中枢興奮薬、大麻は精神依存が主体で身体依存はほぼなく、覚醒剤では逆耐性(フラッシュバック)が特徴的です。抑制系の中止で中枢が反跳的に興奮するという仕組みを押さえておくと、離脱症状の予測や、睡眠薬・鎮痛薬を安全に漸減する臨床判断にも役立ちます。
解答・解説
正解はc, dです
依存性薬物の性質を「精神依存」「身体依存」「耐性」の3つの軸で整理できるかを問う問題である。
3つの用語の意味
・精神依存:薬物の効果を得たいという強い欲求(渇望)が生じ、自分で使用をコントロールできなくなる状態。依存性薬物はすべて精神依存を起こしうる。 ・身体依存:薬物が体内にある状態に身体が順応してしまい、中断や減量によって離脱症状(退薬症状)が身体症状として現れる状態。 ・耐性:同じ量では効果が弱くなり、同じ効果を得るために使用量が増えていく現象。
考え方
精神依存は選択肢のすべてにみられるため、判別の鍵は「身体依存があるかどうか」である。古典的な整理では、明らかな身体依存と離脱症状を示すのは中枢神経を抑制する薬物群、すなわちオピオイド(モルヒネ、ヘロインなど)、アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系などの鎮静催眠薬である。これらは耐性も形成する。一方、中枢興奮薬(コカイン、アンフェタミン類)や大麻は精神依存が主体で、身体依存はないか乏しいとされる。したがって、3つすべてをそろえるのはモルヒネとアルコールである。
選択肢考察
- ×a. 大麻
大麻の主な有効成分はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)で、多幸感、知覚の変容、時間感覚の歪みなどをもたらす。精神依存は中等度程度に生じるが、古典的な分類では身体依存はほとんどなく、耐性もないかごく軽度とされる。したがって3つすべてはそろわない。なお、近年は長期の多量使用後に中止すると、いらいら・不眠・食欲低下などの軽い離脱症状がみられることも報告されているが、オピオイドやアルコールのような明確な身体依存とは区別される。
- ×b. コカイン
コカインは神経終末でのドパミン・ノルアドレナリンなどの再取り込みを阻害する中枢興奮薬で、強い多幸感をもたらすため精神依存はきわめて強い。しかし、中止しても生命にかかわるような身体的離脱症状は起こらず、身体依存はほぼないとされる。中止後にみられる抑うつ・倦怠感・過眠(いわゆるクラッシュ)は主に精神症状である。耐性は古典的な分類ではないか弱いとされる。よって3つすべてはそろわない。
- ○c. モルヒネ
モルヒネはμオピオイド受容体に作用する麻薬性鎮痛薬で、精神依存・身体依存・耐性のいずれも強く形成する代表的薬物である。耐性は鎮痛・多幸・呼吸抑制などの作用に生じ、使用量が増えていく(便秘や縮瞳には耐性がつきにくい)。中断すると、あくび、流涙、鼻漏、散瞳、発汗、鳥肌、下痢、腹痛、筋肉痛、不安・焦燥などの離脱症状が出現し、これが身体依存の表れである。なお、がん疼痛に対して適切に用いる場合には精神依存は問題になりにくいことが知られている。
- ○d. アルコール
アルコール(エタノール)は中枢抑制薬で、GABA-A受容体機能の増強やNMDA受容体の抑制を介して作用する。長期大量飲酒で耐性が形成され、飲酒量が増えていく。飲酒をやめたり減らしたりすると、数時間〜2日程度で手指振戦・発汗・頻脈・不眠・不安・一過性の幻覚、けいれん発作などの早期離脱症状が、2〜4日頃に振戦せん妄(意識障害・幻視・自律神経亢進)などの後期離脱症状がみられる。これは明らかな身体依存であり、精神依存も伴うため、3つすべてを満たす。各要素の強さは、身体依存が強く、精神依存・耐性は中等度と整理されることが多い。
- ×e. アンフェタミン類
アンフェタミンやメタンフェタミン(覚醒剤)は、神経終末からのドパミン・ノルアドレナリン放出を促進する中枢興奮薬である。精神依存は非常に強く、反復使用で耐性も生じる(弱〜中等度)が、身体依存はほぼないとされる。中止後には強い倦怠感・過眠・抑うつなどがみられるが、主に精神症状であり、オピオイドやアルコールのような身体的離脱症状とは異なる。また、慢性使用では幻覚・妄想を主体とする覚醒剤精神病や、少量の再使用で症状が再燃するフラッシュバック(逆耐性現象)が問題となる。
主な依存性薬物の特徴(古典的な整理)
・オピオイド(モルヒネ、ヘロインなど):作用は抑制。精神依存・身体依存・耐性のいずれも強い。 ・アルコール:作用は抑制。身体依存は強く、精神依存・耐性は中等度。 ・鎮静催眠薬・抗不安薬(バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系):作用は抑制。身体依存は弱〜強、精神依存は中〜強、耐性は弱〜中。離脱でけいれんやせん妄を起こしうる。 ・コカイン:作用は興奮。精神依存は強いが、身体依存はほぼなく、耐性は弱い。 ・アンフェタミン類(覚醒剤):作用は興奮。精神依存は強く、耐性は弱〜中、身体依存はほぼない。逆耐性(フラッシュバック)がみられる。 ・大麻:作用は抑制と幻覚。精神依存は中程度、身体依存・耐性はほとんどない。 ・幻覚剤(LSDなど):精神依存は軽度、身体依存はなく、耐性は速やかに生じる。 ・有機溶剤(シンナーなど):精神依存があり、身体依存はないかわずか、耐性あり。 ・ニコチン:精神依存が強く、耐性があり、軽度の離脱症状もみられる。
覚え方
「身体依存がはっきりしているのは中枢抑制系(オピオイド・アルコール・鎮静催眠薬)」と押さえると整理しやすい。これらは離脱時に中枢が反跳的に興奮し、振戦・けいれん・自律神経症状などの身体症状が出る。一方、中枢興奮系(覚醒剤・コカイン)の中止後は、反対に抑うつ・過眠など精神面の落ち込みが前景に立つ。
補足
現在の診断基準(DSM-5)では「依存」「乱用」を統合して「物質使用障害」とし、耐性や離脱もその診断項目に含めている。大麻や中枢興奮薬にも離脱症候群が定義されているが、国家試験では上記の古典的な分類で問われることが多い。
POINT
・精神依存はすべての依存性薬物に共通する。 ・身体依存(離脱症状)が明確なのは中枢抑制薬:オピオイド、アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系。 ・精神依存・身体依存・耐性の3つがそろう代表はモルヒネ(オピオイド)とアルコール。 ・コカイン・覚醒剤・大麻は精神依存が主体で、身体依存はほぼない。 ・覚醒剤では逆耐性(フラッシュバック)が特徴的。
