禁煙は「意志」から「治療」へ―薬局のガム、外来の保険診療、そして法律と条約の地図
第106回医師国家試験 I問題 第26問
国試問題にチャレンジ
我が国のたばこ対策に関する説明で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.禁煙補助薬は処方箋がなくても購入できる。
- b.ニコチン依存症の治療は保険診療の対象である。
- c.未成年者の喫煙を禁止している法律は学校保健安全法である。
- d.受動喫煙の防止に関する規定は,地域保健法に盛り込まれている。
- e.我が国は「たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約」を批准していない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本のたばこ対策は、禁煙治療・国内法・国際条約の3つの側面から整理すると理解しやすくなります。禁煙補助薬のうちニコチンガムやニコチンパッチは処方箋なしで購入できますが、内服薬のバレニクリンは処方が必要です。ニコチン依存症の治療は2006年から保険適用となり、TDS 5点以上などの要件のもと12週間に5回の診察を標準として行われます。法律では、20歳未満の喫煙禁止は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」(旧・未成年者喫煙禁止法)、受動喫煙防止は健康増進法(2018年改正で義務化)が担い、日本はWHOたばこ規制枠組条約を2004年に批准しています。禁煙を「治療すべき依存症」としてとらえ、法制度と結びつけて理解しておくことは、日常診療での禁煙支援にも直結します。
解答・解説
正解はa, bです
本問は、日本のたばこ対策を「治療(禁煙支援)」「法規制」「国際条約」の3つの側面から問うている。 【禁煙支援】喫煙の継続にはニコチン依存が深く関わっており、禁煙は意志の問題だけでなく治療の対象と位置づけられている。禁煙補助薬には、ニコチンを皮膚や口腔粘膜から少量ずつ補充して離脱症状を和らげるニコチン置換療法(ガム・パッチ)と、内服薬のバレニクリンがある。ニコチン依存症の治療は、一定の要件を満たせば公的医療保険で受けられる。 【法規制】たばこに関する主な法律として、20歳未満の者の喫煙を禁止する法律(明治33年制定。旧称「未成年者喫煙禁止法」)、受動喫煙対策を定める健康増進法、職場の受動喫煙防止を定める労働安全衛生法がある。どの法律が何を規定しているかを正しく対応させることが求められる。 【国際条約】たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)は、たばこの消費と受動喫煙の削減を目的とした公衆衛生分野初の国際条約で、日本も締約国である。 これらを踏まえると、正しいのは市販の禁煙補助薬の存在(a)と、ニコチン依存症治療の保険適用(b)である。
選択肢考察
- ○a. 禁煙補助薬は処方箋がなくても購入できる。
ニコチンガム(第2類医薬品)とニコチンパッチ(第1類医薬品)は一般用医薬品として薬局・薬店で処方箋なしに購入できる。ただし、一般用のニコチンパッチは医療用に比べて含有量の少ない規格に限られている。また、すべての禁煙補助薬が市販されているわけではなく、内服薬のバレニクリン(ニコチン受容体部分作動薬)は医療用医薬品であり、医師の処方が必要である。したがって「処方箋なしで購入できる禁煙補助薬がある」という意味で、本記述は正しいと判断される。
- ○b. ニコチン依存症の治療は保険診療の対象である。
2006年の診療報酬改定で「ニコチン依存症管理料」が新設され、禁煙治療が保険診療の対象となった。対象となるのは、ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、35歳以上ではブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上、直ちに禁煙を希望し治療に文書で同意した患者であり、届出を行った医療機関で、12週間に計5回の診察を標準として実施される。なお、ブリンクマン指数の要件は2016年から35歳未満には適用されなくなった。
- ×c. 未成年者の喫煙を禁止している法律は学校保健安全法である。
未成年者の喫煙を禁止しているのは、1900年(明治33年)に制定された未成年者喫煙禁止法である。本法は、民法の成年年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、2022年4月から「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に名称が改められたが、喫煙禁止の年齢は20歳未満のまま維持されている。同法は親権者の制止義務や、20歳未満の者と知りながらたばこを販売した者への罰則なども定めている。学校保健安全法は、学校における児童生徒・職員の健康診断、感染症による出席停止、学校環境衛生、学校安全などを定める法律であり、喫煙禁止の規定ではない。
- ×d. 受動喫煙の防止に関する規定は,地域保健法に盛り込まれている。
受動喫煙の防止を定めているのは健康増進法である。2003年施行時には、多数の者が利用する施設の管理者に受動喫煙防止の努力義務を課すにとどまっていたが、2018年の改正(2020年4月全面施行)により、望まない受動喫煙の防止が義務化された。学校・病院・児童福祉施設・行政機関などは敷地内禁煙、その他の多数の者が利用する施設は原則屋内禁煙(喫煙専用室などを除く)とされ、違反者には罰則も設けられている。また、職場については労働安全衛生法で事業者に受動喫煙防止のための措置を講じる努力義務が定められている。地域保健法は保健所・市町村保健センターの設置や地域保健対策の基本指針などを定める法律であり、受動喫煙防止の規定は含まれていない。
- ×e. 我が国は「たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約」を批准していない。
たばこ規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)は2003年のWHO総会で採択され、日本は2004年に19番目の締約国として批准(受諾)した。条約は2005年に発効している。本条約は締約国に対し、受動喫煙からの保護、たばこ製品の包装への健康警告表示、広告・販売促進・後援の禁止や制限、未成年者への販売禁止、たばこ税・価格政策などの措置を求めている。
日本の主なたばこ関連法規
二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律(旧・未成年者喫煙禁止法):20歳未満の喫煙禁止、販売者への罰則。 健康増進法:受動喫煙防止(2018年改正で義務化、2020年4月全面施行)。 労働安全衛生法:職場の受動喫煙防止(事業者の努力義務)。 たばこ事業法:たばこの製造・販売の規制、包装の注意文言表示など。
禁煙補助薬
ニコチン置換療法:ニコチンガム、ニコチンパッチ(一般用・医療用)。ニコチンを補充して離脱症状を軽減しつつ、段階的に減量する。 バレニクリン:脳のα4β2ニコチン受容体の部分作動薬で、離脱症状を和らげると同時に喫煙による満足感を減らす。処方箋が必要。主な副作用は悪心、頭痛、異常な夢など。
禁煙指導の枠組み
5Aアプローチ(Ask:喫煙状況を尋ねる、Advise:禁煙を助言する、Assess:禁煙の意思を評価する、Assist:禁煙を支援する、Arrange:フォローアップを手配する)が知られている。
健康日本21
国民健康づくり運動の中で、成人の喫煙率の減少、20歳未満の者・妊婦の喫煙をなくすこと、受動喫煙の機会の減少などが目標として掲げられている。
POINT
・ニコチンガム・ニコチンパッチは処方箋なしで購入可能、バレニクリンは処方が必要。 ・ニコチン依存症の治療は2006年から保険適用(TDS 5点以上などの要件あり、12週間5回の診察)。 ・20歳未満の喫煙禁止は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」(旧・未成年者喫煙禁止法)、受動喫煙防止は健康増進法(2018年改正で義務化)。 ・日本はWHOたばこ規制枠組条約(FCTC)を2004年に批准している。
