脳の「外」から押してくる腫瘍―sunburstが告げる髄膜腫の素顔
第106回医師国家試験 G問題 第40問
国試問題にチャレンジ
70歳の女性。けいれんのため搬入された。意識レベルはJCSⅡ-10。体温36.8℃。脈拍98/分,整。血圧138/86 mmHg。呼吸数16/分。SpO2 96%(room air)。対光反射と眼球運動とに異常を認めない。左上下肢の不全麻痺を認める。来院時の頭部MRIのFLAIR像(A)と塞栓術のために施行した外頸動脈造影の写真(B)とを別に示す。 診断として考えられるのはどれか。

- a.髄膜腫
- b.胚細胞腫
- c.神経膠腫
- d.悪性リンパ腫
- e.転移性脳腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
硬膜に広く接し、脳を外側から圧排する境界明瞭な類円形腫瘤は脳実質外腫瘍の特徴であり、外頸動脈の中硬膜動脈から栄養されて放射状のsunburst appearanceを示せば髄膜腫と診断できます。髄膜腫はくも膜表層細胞由来の多くは良性の腫瘍で、中高年女性に多く、円蓋部ではけいれんや片麻痺で発症し、造影MRIでのdural tail signや頭蓋骨肥厚、石灰化も手がかりになります。神経膠腫・悪性リンパ腫・転移性脳腫瘍は脳実質内で内頸動脈系から栄養され、胚細胞腫は若年男性の松果体部・鞍上部に好発するため鑑別できます。治療は症候性なら摘出が基本で、多血性腫瘍では術前塞栓が行われます。「腫瘍の局在」と「栄養血管」の2軸で考える習慣は、脳腫瘍全般の画像診断の土台となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・70歳の女性、けいれんで救急搬入。 ・意識レベルJCS(Japan Coma Scale)Ⅱ-10は「普通の呼びかけで容易に開眼する」程度であり、けいれん発作後のもうろう状態として説明できる。 ・バイタルサインに大きな異常はなく、発熱もないため、髄膜炎・脳炎などの感染症は考えにくい。 ・対光反射・眼球運動は正常で、脳幹障害や脳ヘルニアを示す所見はない。 ・左上下肢の不全麻痺は、右大脳半球(運動野周辺)の病変を示唆する。けいれん後に一過性の麻痺が残るTodd麻痺の可能性もあるが、いずれにしても病変は右大脳半球にある。
画像所見
・頭部MRI FLAIR像(A):右前頭部の円蓋部(頭蓋骨の内側、脳表側)に、境界明瞭で辺縁平滑な類円形の腫瘤がある。内部の信号はほぼ均一である。腫瘤は頭蓋骨・硬膜に広く接しており、脳実質を外側から圧排している。腫瘤と脳の間に境界(脳脊髄液や血管が挟まった帯=cleft)がみえ、周囲の脳には浮腫とみられる信号変化を伴う。これらは脳実質外(extra-axial)腫瘍の特徴である。 ・外頸動脈造影(B):外頸動脈の枝である中硬膜動脈が腫瘍へ向かい、腫瘍の中心(硬膜付着部)から放射状に広がる濃い腫瘍濃染を示している。これは sunburst appearance(sunray appearance、日光放射状)と呼ばれ、硬膜から栄養を受ける髄膜腫に特徴的な所見である。さらに、術前塞栓術の対象となっていること自体が、外頸動脈系(硬膜動脈)から豊富な血流を受ける腫瘍であることを示している。
診断へのプロセス
高齢女性、けいれん発症、円蓋部に硬膜に接する境界明瞭な脳実質外腫瘤、外頸動脈(中硬膜動脈)からの栄養と sunburst 状の腫瘍濃染、という組み合わせから、右前頭部円蓋部髄膜腫と診断できる。けいれんは、腫瘍が大脳皮質を圧迫・刺激することによる症候性てんかん発作と考えられる。
設問の考え方
選択肢のうち、硬膜に付着して脳の外側から発生し、外頸動脈系から栄養される腫瘍は髄膜腫だけである。他の選択肢はいずれも脳実質内や正中部に好発する腫瘍であり、栄養血管は主に内頸動脈系・椎骨脳底動脈系(脳を栄養する血管)となる。「腫瘍の局在(実質内か実質外か)」と「栄養血管(内頸系か外頸系か)」の2点で鑑別するのが要点である。
選択肢考察
- ○a. 髄膜腫
髄膜腫はくも膜の表層細胞(arachnoid cap cell)から発生し、硬膜に付着して増大する良性腫瘍である。中高年の女性に多く、本例のように円蓋部に境界明瞭な類円形腫瘤として現れ、脳を外側から圧排する。栄養血管は中硬膜動脈など外頸動脈系の硬膜枝が主体で、血管造影では付着部から放射状に広がる sunburst appearance と均一で遅くまで残る腫瘍濃染を示す。造影MRIでは強く均一に増強され、腫瘍に連続して硬膜が尾を引くように増強される dural tail sign を伴うことが多い。けいれん発症も円蓋部髄膜腫としてよくある形である。所見すべてと矛盾しないため、これが正解である。
- ×b. 胚細胞腫
胚細胞腫瘍(代表は胚腫 germinoma)は小児〜若年者、特に10歳代の男性に多く、松果体部や鞍上部(神経下垂体部)といった正中構造に好発する。松果体部ではParinaud徴候(上方注視麻痺)や閉塞性水頭症、鞍上部では尿崩症や視野障害・下垂体機能低下で発症するのが典型である。まれに基底核部に発生してけいれんや片麻痺を起こすこともあるが、70歳女性の円蓋部に硬膜付着性の腫瘤を作り、外頸動脈から栄養されることは考えにくい。
- ×c. 神経膠腫
神経膠腫(グリオーマ)は星細胞などのグリア細胞から発生する脳実質内(intra-axial)腫瘍である。成人のけいれん発症の原因としては重要だが、画像では脳実質内に浸潤性に広がり境界が不明瞭なことが多く、悪性度の高い膠芽腫ではリング状増強・中心壊死を示す。血管新生が豊富な場合でも、栄養血管は内頸動脈系(前・中大脳動脈など)の脳実質枝であり、本例のように外頸動脈の硬膜枝から sunburst 状に栄養されることは通常ない。
- ×d. 悪性リンパ腫
中枢神経原発悪性リンパ腫は高齢者に多く、その多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。脳梁・基底核・脳室周囲など深部の脳実質内に好発し、MRIでは均一に強く増強される腫瘤として現れ、細胞密度が高いため拡散強調像で高信号を示す。ステロイドで一時的に縮小することも特徴である。血管造影では腫瘍濃染に乏しい(乏血管性)腫瘍であり、外頸動脈から栄養される硬膜付着性腫瘤という本例の所見とは合わない。
- ×e. 転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍の原発巣は肺癌が最も多く、乳癌・消化器癌・腎癌などが続く。多くは大脳の皮質と白質の境界部(皮髄境界)の脳実質内に、多発性の結節やリング状増強病変として現れ、腫瘍の大きさに比べて周囲の浮腫が強いのが特徴である。乳癌や前立腺癌などでは硬膜転移をきたして髄膜腫に似ることがあるが、増大が速く、腎癌や甲状腺癌の転移のような多血性腫瘍であっても、髄膜腫のように整った sunburst appearance を示すことはまれである。本例は原発癌の既往もなく、単発で境界明瞭な円蓋部腫瘤であり、髄膜腫のほうがはるかに考えやすい。
髄膜腫の概要
・原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い(全体の約3分の1)。中高年に多く、女性は男性の約2〜3倍。女性ホルモン(プロゲステロン受容体)との関連が指摘されている。 ・くも膜の表層細胞(arachnoid cap cell)から発生し、硬膜に付着して発育する。組織学的には大部分がWHO grade 1の良性腫瘍で、渦巻き状配列(whorl formation)や石灰化小体(砂粒体、psammoma body)が特徴である。 ・危険因子として頭部への放射線照射、神経線維腫症2型(NF2)がある。
好発部位と症状
・円蓋部、傍矢状洞部、大脳鎌:けいれん、片麻痺など(本例)。 ・嗅溝部:嗅覚低下、前頭葉症状(人格変化など)。 ・鞍結節部:両耳側半盲などの視野・視力障害。 ・蝶形骨縁:視力障害、眼球突出。 ・小脳橋角部:聴力低下、顔面のしびれなど。 発生部位によって症状がほぼ決まるため、部位別に分類して扱われる。
画像所見のまとめ
・CT:等〜軽度高吸収、石灰化を伴うことがある。隣接する頭蓋骨の肥厚(hyperostosis)がみられることがある。 ・MRI:境界明瞭な脳実質外腫瘤。脳との間に脳脊髄液や血管が挟まる cleft sign。造影で均一に強く増強され、dural tail sign を伴う。 ・血管造影:外頸動脈系(中硬膜動脈など)から栄養され、sunburst appearance を示す。毛細血管相から静脈相まで長く残る濃い腫瘍濃染(mother-in-law sign)も知られる。
治療
・無症状で小さいものは画像で経過観察できる。 ・症候性や増大傾向のあるものは外科的摘出が第一選択。多血性の腫瘍では、術中出血を減らすため術前に外頸動脈系の栄養血管を塞栓する(本例の造影はその目的)。 ・摘出困難な部位や残存腫瘍には定位放射線治療(ガンマナイフなど)を行う。 ・けいれんには抗てんかん薬を用いる。
脳腫瘍の栄養血管による鑑別
・脳実質外(硬膜付着性)腫瘍:髄膜腫など → 外頸動脈系(硬膜枝)が主体。 ・脳実質内腫瘍:神経膠腫、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍など → 内頸動脈系・椎骨脳底動脈系の脳実質枝。
POINT
・硬膜に付着する境界明瞭な類円形腫瘤+外頸動脈(中硬膜動脈)から栄養+sunburst appearance → 髄膜腫。 ・髄膜腫の画像キーワード:dural tail sign、cleft sign、均一な強い造影増強、頭蓋骨肥厚、石灰化。 ・髄膜腫は中高年女性に多く、円蓋部のものはけいれんや片麻痺で発症する。 ・多血性の髄膜腫では術前に外頸動脈系の栄養血管を塞栓することがある。 ・胚細胞腫は若年男性の松果体部・鞍上部、中枢神経原発悪性リンパ腫は高齢者の深部白質・脳室周囲、転移性脳腫瘍は皮髄境界の多発病変が典型である。
