StudyMed医師国家試験

下痢でも水は飲める―経口補水液を動かす「Naとブドウ糖の二人三脚」

第106回医師国家試験 G問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第33問

経口補液剤に含有され,小腸でブドウ糖とともに共役輸送されて水分吸収を促進するのはどれか。

  1. a.Na
  2. b.K
  3. c.Cl
  4. d.Ca
  5. e.Mg

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、経口補水液がなぜ脱水に効くのかを、小腸の輸送体レベルで問う問題だ。着眼点は「ブドウ糖と一緒に運ばれる」という一文。どの電解質がブドウ糖の相棒になっているかを考えてみよう。
医学生医学生
生理学の講義で、小腸の糖吸収は二次性能動輸送だと習いました。そうするとNaでしょうか。
ドクタードクター
正解だよ。小腸上皮の管腔側の膜にはSGLT1というNa+/グルコース共輸送体があって、Na+2個とブドウ糖1分子を同時に細胞内へ取り込む。答えはNaだ。では、その輸送の駆動力はどこから来ていると思う?
医学生医学生
SGLT1自体はATPを使わないので……基底側のNa+/K+-ATPaseでしょうか。
ドクタードクター
その通り。基底側膜のNa+/K+-ATPaseが細胞内のNa+を汲み出し続けることで、管腔から細胞内へ向かうNa+の電気化学的勾配ができる。ブドウ糖はその勾配に「便乗」して取り込まれるわけだ。細胞内に入ったブドウ糖は基底側のGLUT2から、Na+はポンプから血管側へ出ていく。
医学生医学生
でも、問題は水分吸収ですよね。水を運ぶ輸送体があるわけではないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。水は溶質を追いかけて受動的に動く。Na+とブドウ糖が血管側へ運ばれると、上皮の血管側の浸透圧が上がり、水がそれに従って吸収される。Cl-も電気的中性を保つように後からついてくる。つまり「溶質を運べば水はついてくる」というのが基本原理なんだ。
医学生医学生
なるほど。Kも経口補水液に入っているので迷いそうでした。
ドクタードクター
Kは下痢で失われる分を補うために入っているけれど、ブドウ糖と共輸送されるわけではない。小腸では水の吸収で管腔内のK+濃度が上がり、主に傍細胞経路を通って受動的に吸収されると考えられている。Clも同様で、補液剤の成分ではあるけれど、Na+に伴って電気的中性を保つように吸収されたり、Cl-/HCO3-交換で吸収されたりするもので、ブドウ糖の相棒ではない。
医学生医学生
Caは十二指腸で、活性型ビタミンDで吸収が促進されるんでしたよね。
ドクタードクター
そうだね。Caの吸収は活性型ビタミンDが調節していて、糖との共輸送とは別の話だ。Mgはどうだろう。
医学生医学生
酸化マグネシウムは便秘薬として使いますよね。病棟実習でもよく処方されていました。
ドクタードクター
まさにそこ。Mgは腸管から吸収されにくく、管腔に残って浸透圧を上げ、水を腸管内に引き込む。だから浸透圧性下剤になる。水分吸収を促進するどころか逆向きに働くわけだ。
医学生医学生
ところで、下痢をしている腸でも本当に吸収できるんですか。コレラでは腸から水がどんどん出ていくと習いました。
ドクタードクター
そこが経口補水療法の核心だよ。コレラ毒素はcAMPを上げてCl-と水の分泌を亢進させ、Na+単独の吸収も障害する。でもSGLT1によるNa+/ブドウ糖共輸送は比較的保たれているんだ。だからNa+とブドウ糖を適切な比率で飲ませれば、下痢が続いていても水と電解質を吸収させられる。
医学生医学生
点滴がない地域でも命を救えるということですね。公衆衛生の講義で、WHOが推奨していると聞きました。
ドクタードクター
そう。WHOの現行の低浸透圧ORSは、Na+とブドウ糖がともに75 mmol/L程度で、総浸透圧は245 mOsm/L。以前の組成より浸透圧を下げたことで、便量や嘔吐が減り、点滴が必要になる頻度も減ったと報告されている。クエン酸は下痢に伴う代謝性アシドーシスの補正のために入っている。
医学生医学生
スポーツドリンクではだめなんですか。小児科実習で、お母さんに聞かれそうです。
ドクタードクター
よくある質問だね。一般的なスポーツドリンクは糖が多くNa+が少ないので、下痢による脱水の補正には向かない。糖が多すぎると浸透圧が上がり、かえって浸透圧性下痢を助長することもある。Na+とブドウ糖がほぼ1対1で、浸透圧が体液よりやや低いことが効率よく吸収させる条件なんだ。日本でも小児の軽症〜中等症の脱水では経口補水療法が第一選択とされ、高齢者の脱水や熱中症にも使われるよ。
医学生医学生
薬の名前を覚えるより、SGLT1の仕組みを理解しておけば、組成の理由まで説明できそうです。
ドクタードクター
その通り。ちなみに、SGLT2阻害薬は腎の近位尿細管で糖の再吸収を抑える糖尿病治療薬だ。同じSGLTファミリーでも、小腸の主役はSGLT1と区別しておこう。

まとめ

小腸上皮の管腔側にあるSGLT1は、基底側膜のNa+/K+-ATPaseがつくるNa+勾配を駆動力として、Na+とブドウ糖を共輸送します(二次性能動輸送)。吸収された溶質が血管側の浸透圧を高め、水はそれに従って受動的に吸収されるため、経口補液剤はNaとブドウ糖を組み合わせて含有しています。Kは喪失分の補充、Clは電気的中性に伴う吸収、CaはビタミンD依存性の吸収であり、Mgはむしろ浸透圧性下剤として水を腸管内に引き込みます。コレラなどの分泌性下痢でもこの共輸送は比較的保たれるため、経口補水療法は点滴に頼らず脱水を治療できる手段として世界中で多くの命を救ってきました。輸送体の生理を理解しておくと、ORSの組成やスポーツドリンクとの違いを患者や家族に説明する際にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

経口補液剤(経口補水液、ORS:oral rehydration solution)は、下痢や嘔吐による脱水を口から飲むことで補正するための製剤であり、その有効性は小腸上皮におけるナトリウム(Na+)とブドウ糖の共輸送という生理学的機序に基づいている。 小腸上皮細胞の管腔側(刷子縁膜)には、Na+/グルコース共輸送体(SGLT1:sodium-glucose cotransporter 1)が存在する。SGLT1はNa+ 2個とブドウ糖1分子を同時に細胞内へ取り込む。このときの駆動力は、基底側膜のNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)が細胞内Na+を汲み出すことで形成される、管腔から細胞内へ向かうNa+の濃度勾配(電気化学的勾配)である。つまり、ブドウ糖はNa+の勾配を利用してエネルギー依存的に吸収される(二次性能動輸送)。 細胞内に入ったNa+は基底側からNa+/K+-ATPaseによって、ブドウ糖は促進拡散輸送体GLUT2によって間質・血液側へ運ばれる。その結果、上皮の血管側で浸透圧が上昇し、水はそれに従って浸透圧差により受動的に吸収される。Cl-も電気的中性を保つように傍細胞経路などを通って後に続く。 コレラなどの分泌性下痢では、腸管からのCl-と水の分泌が亢進し、Na+単独の吸収も障害されるが、SGLT1によるNa+/ブドウ糖共輸送の機能は比較的保たれている。そのため、Na+とブドウ糖を適切な比率で含む液を飲ませると、下痢が続いていても水分と電解質を効率よく吸収させることができる。本問はこの共輸送の担い手となる電解質を問うており、答えはNaである。

選択肢考察

  1. ○a.  Na

    Na+は細胞外液に最も多い陽イオンであり、体内の水の分布を規定する主要な電解質である。小腸ではSGLT1を介してブドウ糖と共役輸送され(Na+ 2個に対しブドウ糖1分子)、吸収されたNa+とブドウ糖がつくる浸透圧勾配に従って水も吸収される。経口補液剤はこの機序を利用するため、Na+とブドウ糖を組み合わせて含有している。

  2. ×b.  K

    K+は細胞内液に最も多い陽イオンである。経口補液剤には下痢で失われたK+を補う目的で含まれているが、ブドウ糖と共役輸送されるわけではない。小腸では水の吸収に伴って管腔内のK+濃度が上昇し、主に濃度勾配に従って傍細胞経路を通り受動的に吸収される。

  3. ×c.  Cl

    Cl-は細胞外液の主要な陰イオンで、胃液(塩酸)にも多く含まれる。経口補液剤にも含まれ、小腸ではNa+の吸収に伴って電気的中性を保つように吸収されたり、Cl-/HCO3-交換輸送体を介して吸収されたりする。しかし、ブドウ糖と共役して輸送されることはない。

  4. ×d.  Ca

    Ca2+は主に十二指腸で吸収され、活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)によって吸収が促進される。筋収縮(筋小胞体から放出されて収縮を引き起こす)や血液凝固、骨形成に関与するが、ブドウ糖との共役輸送による水分吸収には関わらない。

  5. ×e.  Mg

    Mg2+は腸管から吸収されにくく、管腔内に残ると浸透圧を高めて水を腸管内に引き込む。この性質を利用して、酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムは浸透圧性下剤として用いられる。すなわち水分吸収を促進するのではなく、むしろ妨げる方向に働く。

経口補水療法(ORT:oral rehydration therapy)

世界保健機関(WHO)とユニセフが推奨する経口補水液は、Na+とブドウ糖の共輸送を最大限に利用できる組成に設計されている。現在の低浸透圧ORSの組成は、Na+ 75 mmol/L、ブドウ糖 75 mmol/L、K+ 20 mmol/L、Cl- 65 mmol/L、クエン酸 10 mmol/L、総浸透圧 245 mOsm/L である。かつての標準ORS(Na+ 90 mmol/L、浸透圧 311 mOsm/L)より浸透圧を下げたことで、便量や嘔吐が減少し、点滴が必要になる頻度も減ることが示された。クエン酸(または重炭酸)は下痢に伴う代謝性アシドーシスを補正する目的で加えられている。

スポーツドリンクとの違い

一般的なスポーツドリンクは糖濃度が高くNa+濃度が低いため、下痢による脱水の補正には適さない。糖が多すぎると浸透圧が高くなり、かえって浸透圧性下痢を助長することがある。Na+とブドウ糖の比率がほぼ1:1に近く、浸透圧が体液より低めであることが、効率よく水を吸収させる条件である。

臨床的意義

経口補水療法は安価で簡便であり、点滴設備のない地域でもコレラやロタウイルス胃腸炎などによる脱水死を大きく減らしてきた。日本でも小児の軽症〜中等症の脱水に対して第一選択とされ、高齢者の脱水や熱中症の予防・治療にも用いられる。

小腸上皮の主な輸送体

・SGLT1(管腔側):Na+とブドウ糖(ガラクトースも)の共輸送 ・GLUT5(管腔側):果糖の促進拡散 ・GLUT2(基底側):単糖を血液側へ運ぶ ・Na+/K+-ATPase(基底側):細胞内Na+を汲み出し、Na+勾配を維持する

POINT

・小腸ではSGLT1によりNa+とブドウ糖が共役輸送され(二次性能動輸送)、これに伴う浸透圧勾配で水が吸収される。 ・駆動力は基底側膜のNa+/K+-ATPaseが作るNa+の濃度勾配である。 ・分泌性下痢(コレラなど)でもNa+/ブドウ糖共輸送は保たれるため、経口補水療法が有効である。 ・WHOの低浸透圧ORSはNa+ 75 mmol/L、ブドウ糖 75 mmol/L、浸透圧 245 mOsm/L。 ・Mgは浸透圧性下剤、CaはビタミンDで吸収促進、と区別しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。