発災直後、避難所で最初に守るべきもの―時間軸で読み解く災害時の保健活動
第106回医師国家試験 G問題 第32問
国試問題にチャレンジ
災害初期の保健活動として優先度が高いのはどれか。
- a.防疫対策
- b.メンタルケア
- c.在宅者の訪問指導
- d.避難所の一般廃棄物調査
- e.仮設住宅入居者の自立支援
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
災害時の保健活動は、超急性期・急性期・亜急性期・慢性期(復興期)と時間経過に応じて重点が変わります。発災初期の避難所では、過密、断水によるトイレ・手洗いの不衛生、食品管理の不備が重なり、インフルエンザなどの呼吸器感染症やノロウイルスなどの感染性胃腸炎が集団発生しやすいため、手指衛生や消毒、トイレ・飲料水の衛生管理、有症状者の隔離とサーベイランスといった防疫対策が最優先となります。避難所の廃棄物対策は亜急性期、メンタルケアや在宅者の訪問指導、仮設住宅入居者の自立支援は中長期に重点が置かれる活動であり、PTSDは症状が1か月以上続く場合に診断されます。深部静脈血栓症や生活不活発病の予防、慢性疾患の服薬継続も含め、時期ごとに変わる健康リスクを見通す視点は、災害医療に関わるすべての医療者に求められる基本です。
解答・解説
正解はaです
災害時の保健・医療活動は、発災からの時間経過によって必要とされる内容が大きく変わる。一般に、超急性期(発災直後〜48〜72時間程度)、急性期(〜1週間程度)、亜急性期(1週〜1か月程度)、慢性期・復興期(1か月以降〜数年)といった区分で整理される。ただし区切りの時期は災害の種類や規模、被災地の状況によって異なり、あくまで目安である。 超急性期〜急性期には、救命医療(トリアージ、外傷や圧挫症候群への対応)に加え、多数の被災者が避難所に集まることで生じる公衆衛生上の危険への対処が急務となる。避難所は人が密集し、上下水道の途絶によって手洗いやトイレの衛生が保てず、食品の保管も不十分になりやすい。このため、呼吸器感染症(インフルエンザなど)や感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)が集団発生しやすく、いったん流行すると被災地の混乱がさらに拡大する。したがって、災害初期の保健活動では、感染症の発生・拡大を予防する防疫対策が最優先となる。 本問では、各選択肢の活動が「災害のどの時期に重点的に行うものか」を判断し、最も早い時期に取り組むべきものを選べばよい。メンタルケアや生活環境の調査、在宅者支援、仮設住宅での自立支援はいずれも重要な活動だが、中長期にわたって継続的に行う性質のものである。
選択肢考察
- ○a. 防疫対策
発災直後から数日の段階では、避難所の過密、断水によるトイレ・手洗いの不衛生、食料や飲料水の衛生管理の不備などが重なり、感染症が集団発生しやすい。代表的なものは呼吸器感染症(インフルエンザ、かぜ症候群など)と感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)であり、流行すると高齢者や基礎疾患をもつ人の重症化や、医療資源のさらなる逼迫を招く。手指衛生の徹底、消毒薬の配布、トイレの衛生管理、有症状者の把握と隔離スペースの確保、感染症発生動向の監視(サーベイランス)などの防疫対策は、災害初期に真っ先に着手すべき保健活動である。
- ×b. メンタルケア
被災直後には不眠、不安、動悸、ぼんやりする感じ(解離症状)などの急性ストレス反応が多くの人にみられるが、その多くは一過性で自然に軽快する。心的外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)は症状が1か月以上持続した場合に診断されるものであり、問題が顕在化するのは亜急性期以降である。メンタルケアは初期から意識しておくべき活動ではあるが、本格的な支援は中長期的に継続して行うものであり、感染症の集団発生という差し迫った危険への対策よりも優先度は低い。
- ×c. 在宅者の訪問指導
避難所ではなく自宅にとどまっている被災者(在宅避難者)を訪問し、生活環境の把握、慢性疾患の管理、心の健康状態の確認などを行う活動である。支援が行き届きにくい人を拾い上げる意味で重要だが、中長期的な保健活動として位置づけられ、災害初期に最優先で行うものではない。
- ×d. 避難所の一般廃棄物調査
避難生活が長引く発災後1週間前後からの亜急性期には、避難所から出るごみや屎尿の搬出・処理が滞り、衛生環境が急速に悪化することがある。そのため廃棄物の状況を調査・管理することは衛生対策として必要だが、問題が表面化するのは初期よりやや後の時期であり、防疫対策に比べて優先度は低い。
- ×e. 仮設住宅入居者の自立支援
応急仮設住宅は建設に時間を要し、入居が始まるのは早くても発災から数週間〜1か月程度後である。入居者の生活再建や自立の支援、孤立・孤独死の防止などは入居後数か月〜数年にわたって行う慢性期・復興期の活動であり、災害初期の保健活動には当たらない。
災害時の保健医療活動の時期別の主な内容(目安)
・超急性期〜急性期(発災〜1週間程度):救命救急医療、トリアージ、医療チームの派遣と調整、避難所の設置と被災者の健康状態の把握、感染症予防(防疫)、飲料水・食料の衛生確保、慢性疾患患者の服薬継続の確保 ・亜急性期(1週〜1か月程度):避難所の生活環境の改善(廃棄物・屎尿処理、換気、温度管理)、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)や生活不活発病の予防、慢性疾患の悪化防止、心のケアの開始 ・慢性期・復興期(1か月以降):仮設住宅入居者の健康管理と自立支援、在宅者への訪問、PTSDやうつ病、アルコール関連問題への対応、孤立防止とコミュニティづくり
避難所で問題となりやすい感染症
・呼吸器感染症:インフルエンザ、かぜ症候群、肺炎(高齢者の誤嚥性肺炎を含む) ・消化器感染症:ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎、食中毒 ・その他:破傷風(がれき処理などでの外傷)、麻疹などの予防接種で防げる疾患
災害への備え
平時から、計画(planning)、訓練(training)、備蓄(stockpile)を整えておくことが災害対応の基本である。また、災害医療の時間経過は災害の種類(地震、津波、水害など)や被災地の状況によって大きく異なる点にも注意が必要である。
POINT
・災害初期の保健活動では、避難所での感染症集団発生を防ぐ防疫対策が最優先となる。 ・避難所では呼吸器感染症と感染性胃腸炎が特に問題となる。 ・メンタルケア、在宅者の訪問指導、廃棄物対策、仮設住宅での自立支援は、亜急性期〜慢性期に重点が置かれる中長期的な活動である。 ・PTSDは症状が1か月以上続く場合に診断され、発災後しばらくしてから問題となる。
