StudyMed医師国家試験

肺癌の「最多派」は誰か―腺癌を他の組織型と見分ける6つの軸

第106回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第106回 F問題 第8問

肺腺癌について正しいのはどれか。

  1. a.肺癌の他の組織型に比べてホルモン産生腫瘍が多い。
  2. b.胸部エックス線写真の典型像は空洞形成である。
  3. c.肺癌の組織型の中では最も頻度が高い。
  4. d.喀痰細胞診で早期発見されやすい。
  5. e.血清NSEが上昇する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肺腺癌の特徴を問う知識問題だ。選択肢は一見どれも腺癌の説明に見えるけれど、実は他の組織型の特徴が紛れ込んでいる。それぞれの記述が「どの組織型の話か」を振り分けられるかがポイントだよ。まず、肺癌の主な組織型を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌の4つです。前の3つをまとめて非小細胞肺癌と呼ぶ、と病理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。国試ではこの4つを「頻度」「発生部位」「喫煙との関係」「画像所見」「腫瘍マーカー」「腫瘍随伴症候群」の軸で対比させて問うことが多い。では、ホルモン産生が多いという記述はどうだろう。
医学生医学生
腺癌は腺細胞由来なので、何か分泌しそうな気もします……。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも、ホルモン産生の代表は小細胞癌なんだ。小細胞癌は神経内分泌細胞の性質をもっていて、ADHの不適切分泌によるSIADHで低ナトリウム血症を起こしたり、ACTHを産生して異所性Cushing症候群を起こしたりする。ちなみに扁平上皮癌もPTHrPを産生して高カルシウム血症を起こすことがある。腺癌はホルモン産生腫瘍の代表ではないんだ。
医学生医学生
血清NSEの上昇も、神経内分泌つながりで小細胞癌ですね。CBTの勉強でNSEとProGRPをセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧。腺癌で上がりやすいのはCEAやSLX、扁平上皮癌ならSCC抗原やCYFRAだ。次に画像。空洞形成はどの組織型の典型像かな。
医学生医学生
空洞というと結核のイメージですが、肺癌なら扁平上皮癌でしょうか。
ドクタードクター
正解。扁平上皮癌は腫瘍の中心が壊死しやすく、壊死物が気管支から排出されると、厚く不整な壁をもつ空洞ができる。一方で腺癌の典型像は肺野末梢の結節影で、辺縁のスピキュラや胸膜陥入像、CTでのすりガラス陰影が特徴的なんだ。
医学生医学生
喀痰細胞診で早期発見されやすい、というのも腺癌ではなさそうですね。腺癌は末梢にできるので、痰に癌細胞が出てきにくい気がします。
ドクタードクター
素晴らしい推論だ。喀痰細胞診は、太い気管支に発生した癌の細胞が痰に混じって出てくることを利用する検査だから、中枢型の扁平上皮癌の検出に向いている。胸部エックス線では心臓や縦隔の影に隠れやすい中枢型の早期癌を拾えるのが強みだね。末梢型の腺癌の早期発見には胸部CTが有用だ。
医学生医学生
となると、残るのは「最も頻度が高い」という記述ですね。
ドクタードクター
そう、これが正解。腺癌は肺癌全体の約半数以上を占める最多の組織型で、男性でも最多、女性では7割以上に達する。喫煙率の低下で扁平上皮癌の割合が減ったことや、CT検診の普及で末梢の小さな腺癌が見つかりやすくなったことも、割合が増えた背景と考えられているよ。
医学生医学生
呼吸器内科の臨床実習で、タバコを吸ったことのない女性の患者さんが腺癌だったのを覚えています。
ドクタードクター
まさに典型例だね。喫煙はすべての組織型のリスクを上げるけれど、とくに関連が強いのは扁平上皮癌と小細胞癌で、非喫煙者の肺癌の多くは腺癌なんだ。そして臨床で大事なのは、腺癌ではEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が見つかる頻度が高いこと。これらを調べて分子標的薬の適応を判断するのが、今の診療の基本になっている。
医学生医学生
中枢型が扁平上皮癌と小細胞癌、末梢型が腺癌と大細胞癌、と分けて整理するとわかりやすいですね。
ドクタードクター
その対比が全体の骨格になる。もう一つ、腺癌は脳・骨・肝・副腎への血行性転移をきたしやすいから、病期診断では頭部MRIなども含めた全身検索が欠かせない。日本の肺癌検診が胸部エックス線を基本に、重喫煙者には喀痰細胞診を併用しているのも、組織型ごとの発生部位の違いを踏まえた仕組みなんだよ。

まとめ

肺腺癌は肺癌の組織型の中で最も頻度が高く、全体の約半数以上を占め、女性や非喫煙者の肺癌では特に多くみられます。肺野末梢に好発し、スピキュラや胸膜陥入像、すりガラス陰影を伴う結節として描出され、腫瘍マーカーはCEAやSLXが上昇しやすいのが特徴です。一方、ホルモン産生(SIADH、異所性ACTH産生)やNSE・ProGRP上昇は小細胞癌、空洞形成や喀痰細胞診での発見、SCC抗原上昇は中枢型に多い扁平上皮癌の特徴です。腺癌ではEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が多く、分子標的薬の選択に直結します。組織型ごとの頻度・発生部位・マーカー・随伴症候群を対比で整理しておくことが、国試対策にも実臨床での診断・治療方針の理解にも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

肺癌の組織型を比べる視点

肺癌は主に腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌の4つの組織型に分けられ、前3者はまとめて非小細胞肺癌と呼ばれる。国家試験では、組織型ごとに「頻度」「発生部位(中枢型か末梢型か)」「喫煙との関係」「画像所見」「腫瘍マーカー」「腫瘍随伴症候群(ホルモン産生など)」を対比させて問うことが多い。

肺腺癌の特徴

腺癌は肺癌の中で最も多い組織型であり、全体の約半数以上を占める。女性や非喫煙者の肺癌では特に割合が高い。肺の末梢(肺野)に発生しやすく、胸部CTでは辺縁のけば立ち(スピキュラ)、胸膜陥入像、すりガラス陰影を伴う結節として描出されることが多い。血行性転移(脳・骨・肝・副腎など)をきたしやすい。腫瘍マーカーはCEA(癌胎児性抗原)やSLX(シアリルLex-i抗原)が上昇しやすい。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常がみつかる頻度が高く、分子標的薬の適応を判断するうえで重要である。

設問の考え方

各選択肢の記述が、腺癌ではなくどの組織型の特徴なのかを見分ける問題である。ホルモン産生・NSE上昇は小細胞癌、空洞形成・喀痰細胞診での早期発見は扁平上皮癌の特徴であり、腺癌に当てはまるのは「最も頻度が高い」という記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  肺癌の他の組織型に比べてホルモン産生腫瘍が多い。

    ホルモンを産生しやすい組織型は小細胞癌である。小細胞癌は神経内分泌細胞の性質をもち、ADH(抗利尿ホルモン)の不適切分泌による低ナトリウム血症(SIADH)、ACTH産生による異所性Cushing症候群などを起こすことがある。そのほかセロトニンやカルシトニンなどの産生も知られている。なお扁平上皮癌はPTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)を産生して高カルシウム血症を起こすことがある。腺癌はホルモン産生腫瘍の代表ではない。

  2. ×b.  胸部エックス線写真の典型像は空洞形成である。

    空洞形成が典型的なのは扁平上皮癌である。扁平上皮癌は腫瘍の中心部が壊死に陥りやすく、壊死物が気管支から排出されると、厚く不整な壁をもつ空洞が生じる。腺癌の典型像は末梢の結節影であり、辺縁にスピキュラや胸膜陥入像を伴ったり、CTですりガラス陰影を呈したりする。

  3. ○c.  肺癌の組織型の中では最も頻度が高い。

    腺癌は肺癌の組織型の中で最も頻度が高く、全体の約半数以上を占める。男性でも最多であり、女性の肺癌では約7割以上に達する。喫煙率の低下に伴って喫煙と強く関連する扁平上皮癌の割合が減ったこと、CT検診の普及で末梢の小さな腺癌が見つかりやすくなったことなどから、腺癌の占める割合は増加してきた。

  4. ×d.  喀痰細胞診で早期発見されやすい。

    喀痰細胞診は、太い気管支(中枢気道)に発生した癌の細胞が痰に混じって排出されることを利用した検査である。そのため中枢型に多い扁平上皮癌(や小細胞癌)の検出に有効であり、胸部エックス線写真では写りにくい中枢型の早期癌の発見に役立つ。腺癌は末梢の肺野に発生することが多く、癌細胞が痰に出にくいため、喀痰細胞診での早期発見には向かない。腺癌の早期発見には胸部CTが有用である。

  5. ×e.  血清NSEが上昇する。

    NSE(神経特異エノラーゼ)は神経内分泌系の細胞に多い酵素で、ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)とともに小細胞癌の腫瘍マーカーである。腺癌で上昇しやすいのはCEAやSLXである。

肺癌の組織型別の特徴

・腺癌:最も多い(約半数以上)。末梢型。女性・非喫煙者にも多い。スピキュラ、胸膜陥入、すりガラス陰影。血行性転移が多い。腫瘍マーカーはCEA、SLX。EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が多く、分子標的薬の対象となりやすい。 ・扁平上皮癌:腺癌に次いで多い。中枢型が多い(末梢発生も増えている)。喫煙との関連が強く、男性に多い。空洞形成、無気肺・閉塞性肺炎。喀痰細胞診で発見されやすい。腫瘍マーカーはSCC抗原、CYFRA(サイトケラチン19フラグメント)。PTHrP産生による高カルシウム血症。 ・小細胞癌:約1〜2割。中枢型。喫煙との関連が非常に強い。増殖が速く、早期から転移する。化学療法・放射線療法への感受性が高い。腫瘍マーカーはNSE、ProGRP。SIADH、異所性ACTH産生、Lambert-Eaton筋無力症候群などの腫瘍随伴症候群を起こしやすい。 ・大細胞癌:頻度は低い。末梢型で大きな腫瘤を形成しやすい。

喫煙との関係

喫煙はすべての組織型のリスクを上げるが、特に扁平上皮癌と小細胞癌で関連が強い。腺癌は非喫煙者にも発生し、非喫煙者の肺癌の多くは腺癌である。

肺癌検診

日本の肺癌検診は胸部エックス線検査を基本とし、重喫煙者などの高危険群には喀痰細胞診を併用する。中枢型の扁平上皮癌を拾い上げるために喀痰細胞診が加えられている。

POINT

・腺癌は肺癌の中で最も頻度が高く、末梢型で女性・非喫煙者にも多い。腫瘍マーカーはCEA・SLX。 ・ホルモン産生(SIADH、異所性ACTH)とNSE・ProGRP上昇は小細胞癌。 ・空洞形成、喀痰細胞診での発見、SCC・CYFRA上昇、PTHrPによる高カルシウム血症は扁平上皮癌。 ・中枢型(扁平上皮癌・小細胞癌)と末梢型(腺癌・大細胞癌)の対比で整理する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。