StudyMed医師国家試験

爆発現場なのに「爆傷」ではない?―下敷き4時間が語る圧挫損傷の正体

第106回医師国家試験 E問題 第63問(連問)

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第63問

連問の共通文

次の文を読み,61~63の問いに答えよ。 45歳の男性。爆発事故現場で受傷したため搬入された。 現病歴:爆発によって崩落した建物の下敷きになり,4時間後に救出された。 現症:意識は清明。体温37.6℃。脈拍108/分,整。血圧98/62 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 100%(4 L/分酸素投与下)。両下肢と殿部とを中心に広範囲に点状出血を認める。右下肢に運動麻痺と知覚障害とを認める。救急室の看護師から,尿が赤いとの報告を受けた。

 引き続き行われた検査の結果を示す。  血液所見:赤血球402万,Hb 12.0 g/dL,Ht 35%,白血球18,000,血小板18万。血液生化学所見:総蛋白5.6 g/dL,アルブミン3.0 g/dL,尿素窒素12 mg/dL,クレアチニン1.0 mg/dL,AST 335 IU/L,ALT 102 IU/L,LD 1,090 IU/L(基準176~353),CK 36,000 IU/L(基準30~140),Na 130 mEq/L,K 7.5 mEq/L,Cl 94 mEq/L,Ca 7.2 mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸,4 L/分酸素投与下):pH 7.30,PaCO2 25 Torr,PaO2 120 Torr,HCO3− 12 mEq/L。  損傷の種類はどれか。

  1. a.爆傷
  2. b.脊髄損傷
  3. c.開放性損傷
  4. d.挫滅〈圧挫〉損傷
  5. e.デグロービング損傷

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、爆発事故で搬入された患者さんの「損傷の種類」を見極める問題だ。ポイントは、事故の名前に引きずられず、実際に体に何が起きたかを受傷機転と所見から読み取ること。まず、この患者さんは爆発で何をされたのか、整理してみよう。
医学生医学生
爆発事故なので、素直に爆傷を選びたくなりました。
ドクタードクター
そう考える人は多いと思う。でも、記載をよく読むと、この人は爆風で飛ばされたわけでも破片が刺さったわけでもない。崩れた建物の下敷きになり、4時間後に救出されている。つまり病態の中心は「長時間の圧迫」なんだ。
医学生医学生
確かに、鼓膜や肺の損傷の記載はありませんね。爆傷は空気を含む臓器がやられやすいと習いました。
ドクタードクター
その通り。爆風による一次爆傷は鼓膜、肺、消化管が傷つきやすく、鼓膜穿孔や肺出血、腸管穿孔などが起こる。飛散物による二次爆傷、体が吹き飛ばされて衝突する三次爆傷もあるけれど、今回はどれも示唆する所見がない。分類によっては建物倒壊による圧挫を爆発関連損傷に含めることもあるが、所見に最もよく合う「損傷の種類」としては別の答えになるね。
医学生医学生
圧迫されていた殿部と両下肢に点状出血があって、尿が赤くて、CKが著明に高い……挫滅、つまり圧挫損傷でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。重い物で筋肉が長時間つぶされると虚血に陥り、圧迫が解除されて血流が戻ったときに壊れた筋細胞からカリウム、ミオグロビン、乳酸などが全身に流れ出す。赤い尿はミオグロビン尿、筋逸脱酵素の上昇、高カリウム血症、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシス、低カルシウム血症と、全部がこの流れで説明できる。この全身への波及を圧挫症候群、いわゆるクラッシュ症候群と呼ぶんだ。
医学生医学生
救出された直後は意識もはっきりしていて、一見元気そうなのが怖いところですね。
ドクタードクター
まさにそこが落とし穴だ。外見の傷が軽く、意識清明で話もできるから重症度が見逃されやすい。ところが救出後に急に心停止したり、腎不全に陥ったりする。阪神・淡路大震災でこの病態が広く認識された経緯もあるね。
医学生医学生
右下肢の麻痺と知覚障害が気になります。脊髄損傷の可能性はないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。脊髄損傷なら損傷レベル以下の両側性の麻痺や感覚障害が典型で、膀胱直腸障害を伴うことも多い。片側の損傷でもBrown-Séquard症候群のように、反対側に温痛覚障害が出るなど特徴的な分布をとる。今回は右下肢だけの単麻痺だから、圧迫による末梢神経の障害や、筋区画内圧が上がるコンパートメント症候群による神経・筋の虚血で説明するのが自然なんだ。
医学生医学生
神経解剖の講義で、障害部位と症状分布の対応をしつこく練習させられた意味が分かりました。
ドクタードクター
臨床ではそれが本当に役に立つよ。次に開放性損傷はどうかな。
医学生医学生
皮膚が破れて深部と外界がつながる損傷ですよね。今回は点状出血だけで、開放創の記載はありません。
ドクタードクター
そう。圧挫損傷はむしろ皮膚が保たれた閉鎖性損傷であることが多い。外表が軽くても深部の筋肉は広範に壊れている、という点を覚えておきたい。最後にデグロービング損傷は?
医学生医学生
整形外科の実習で写真を見ました。皮膚が手袋を脱ぐように剝がれる損傷で、機械に巻き込まれたときなどに起きると聞きました。
ドクタードクター
その通り。強いずれの力、つまり剪断力で皮膚と皮下組織が筋膜から剝がれる、多くは開放性の損傷だ。今回の受傷機転にも所見にも合わない。
医学生医学生
事故の名前ではなく、「長時間の圧迫」という機転と、それに一致する所見の組み合わせで判断するんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。最後に臨床での注意点をまとめておこう。治療の要は、救出前から始めるKを含まない生理食塩液中心の大量輸液、心電図モニター下での高カリウム血症への迅速な対応、急性腎障害に対する血液透析、そしてコンパートメント症候群が疑われれば筋膜切開の検討だ。災害現場では「下敷きになっていた時間」を必ず確認する習慣をつけてほしい。
医学生医学生
長時間の圧迫の病歴を聞いたら、見た目が軽くてもクラッシュ症候群を疑って動く、と覚えておきます。

まとめ

崩落した建物の下敷きなど長時間の圧迫の病歴があり、圧迫部位の皮膚所見や運動・知覚障害、赤色尿(ミオグロビン尿)、CKの著明上昇、高カリウム血症、代謝性アシドーシスがそろえば、挫滅(圧挫)損傷とそれに続く圧挫(クラッシュ)症候群と判断します。爆発事故であっても、鼓膜・肺・消化管の損傷など爆傷を示す所見がなければ、主たる損傷を爆傷とはしません。片側下肢のみの麻痺は脊髄損傷より圧迫による末梢神経障害やコンパートメント症候群で説明でき、開放創がないことから開放性損傷やデグロービング損傷も否定的です。圧挫損傷は外見が軽く意識清明でも救出後に心停止や急性腎障害を起こしうるため、救出前からのK非含有の大量輸液と高カリウム血症への備えが重要です。事故の名称ではなく受傷機転と所見から損傷を捉える姿勢は、災害医療や外傷診療の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・受傷機転:爆発事故ではあるが、実際に記載されているのは「崩落した建物の下敷きになり、4時間後に救出された」という長時間の圧迫である。爆風・飛散物・熱による損傷を示す記載(鼓膜穿孔、呼吸障害を伴う肺損傷、腹部の管腔臓器損傷、刺創、熱傷など)はない。 ・身体所見:圧迫されていた殿部と両下肢に点状出血、右下肢に運動麻痺と知覚障害。開放創の記載はない。 ・尿:赤色(ミオグロビン尿が考えられる)。 ・検査:CK 36,000 IU/L、AST 335 IU/L、LD 1,090 IU/Lと筋逸脱酵素が著明に上昇し、K 7.5 mEq/Lの高カリウム血症、アニオンギャップ(130-94-12=24 mEq/L)の開大した代謝性アシドーシス、低カルシウム血症を伴う。Hbは12.0 g/dLで大量出血はない。

診断へのプロセス

長時間の圧迫と解除、圧迫部位に一致した皮膚・神経の障害、横紋筋融解を示す検査値、そして筋崩壊に伴う全身の代謝異常(高カリウム血症、代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿)がそろっており、骨格筋の挫滅(圧挫)損傷と、それに続発する圧挫(クラッシュ)症候群と判断できる。 右下肢のみの運動麻痺・知覚障害は、脊髄ではなく、圧迫による末梢神経の障害や筋区画内圧の上昇(コンパートメント症候群)による神経・筋の虚血で説明できる。

設問の考え方

「損傷の種類」として、受傷機転と所見の両方に最もよく合致するものを選ぶ。爆発事故という状況に引きずられず、記載された所見が何を示しているかに基づいて判断することが大切である。

選択肢考察

  1. ×a.  爆傷

    爆傷は爆発に伴う損傷で、狭い意味では爆風(衝撃波)による一次爆傷を指し、空気を含む臓器である鼓膜・肺・消化管が傷つきやすい(鼓膜穿孔、肺挫傷・肺出血、腸管穿孔など)。二次爆傷は飛散物による穿通・刺創、三次爆傷は体が吹き飛ばされて衝突することによる損傷である。本例は爆発事故の現場で受傷しているが、これらを示す所見の記載はなく、SpO2も酸素投与下で保たれている。病態の中心は建物の下敷きによる長時間の圧迫であり、損傷の種類として最も適切とはいえない。

  2. ×b.  脊髄損傷

    脊髄損傷では損傷高位以下の両側性の運動・感覚障害(対麻痺、四肢麻痺)が典型で、膀胱直腸障害を伴うことも多い。片側の脊髄損傷(Brown-Séquard症候群)でも、損傷側の運動麻痺・深部感覚障害と反対側の温痛覚障害という特徴的な分布をとる。本例は右下肢に限局した単麻痺であり、脊椎の損傷を示す所見もないため、圧迫による末梢神経障害や筋区画内圧上昇による障害と考える方が自然である。

  3. ×c.  開放性損傷

    開放性損傷は皮膚が破れて深部組織が外界と交通する損傷(開放創、開放骨折など)をいう。本例の皮膚所見は点状出血のみで、創傷や骨の露出の記載はない。圧挫損傷は皮膚が保たれたままの閉鎖性損傷であることが多く、外表の所見が軽くても深部の筋肉が広範に壊れている点に注意が必要である。

  4. ○d.  挫滅〈圧挫〉損傷

    重量物による4時間の圧迫という受傷機転、圧迫部位の点状出血と運動・知覚障害、赤色尿(ミオグロビン尿)、CK 36,000 IU/Lをはじめとする筋逸脱酵素の著明な上昇、高カリウム血症、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス、低カルシウム血症という所見は、骨格筋の挫滅損傷とそれに続く圧挫症候群に典型的である。圧迫で虚血となった筋が再灌流により崩壊し、細胞内成分が全身に流出して多臓器に影響を及ぼしている。損傷の種類として最も適切である。

  5. ×e.  デグロービング損傷

    デグロービング損傷は、皮膚と皮下組織が筋膜から手袋を脱ぐように剝がれる損傷で、車輪に巻き込まれたり回転する機械に引き込まれたりしたときなど、強いずれの力(剪断力)が働いた場合に生じる。多くは皮膚が大きく剝がれた開放性の損傷であり、本例にはそのような創の記載も受傷機転もない。

挫滅(圧挫)損傷と圧挫症候群

挫滅(圧挫)損傷は、重量物などによる圧迫で筋肉などの軟部組織が直接つぶれ、虚血に陥った局所の損傷である。これが広範囲かつ長時間に及ぶと、圧迫解除後の再灌流で筋崩壊産物(カリウム、ミオグロビン、乳酸など)が全身に流出し、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、急性腎障害、循環血液量減少性ショックなどの全身症状を起こす。これを圧挫(クラッシュ)症候群という。

診断の手がかり

・長時間の圧迫の病歴(下敷き、長時間同じ体位での意識障害など) ・圧迫部位の皮膚所見(紅斑、水疱、点状出血など)、腫脹、運動・知覚障害 ・赤褐色尿(ミオグロビン尿) ・CKの著明上昇、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、低カルシウム血症 外見上の損傷が軽く、救出直後は意識清明なことが多いため、重症度が見逃されやすい。

治療の要点

・救出前から救出直後の大量輸液(カリウムを含まない生理食塩液が中心) ・高カリウム血症への迅速な対応(心電図モニター、グルコン酸カルシウム、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウムなど) ・急性腎障害に対する血液透析 ・コンパートメント症候群に対する筋膜切開の検討

爆傷の分類

・一次:爆風(衝撃波)による損傷(鼓膜、肺、消化管など空気を含む臓器) ・二次:飛散物による穿通性・鈍的損傷 ・三次:体が吹き飛ばされ、地面や構造物に衝突して生じる損傷 ・四次:上記以外の爆発関連の損傷(熱傷、有毒ガス吸入など)。建物倒壊による圧挫をここに含める分類もある。 爆発事故の傷病者を診る際には、これらすべての可能性を念頭に置きつつ、実際の所見に基づいて損傷を評価する。

POINT

・長時間の圧迫の病歴+圧迫部位の所見+赤色尿+CK著明高値+高カリウム血症 → 挫滅(圧挫)損傷・圧挫症候群。 ・片側下肢のみの麻痺は脊髄損傷より、圧迫による末梢神経障害やコンパートメント症候群を考える。 ・圧挫損傷は皮膚が保たれた閉鎖性損傷であることが多く、外見が軽くても重症になりうる。 ・爆発事故であっても、所見の裏付けがなければ爆傷を主たる損傷とはしない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。