唾液も飲めない咽頭痛―真っ先に聞くべきは「息を吸うのは苦しくないか」
第106回医師国家試験 E問題 第58問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,58~60の問いに答えよ。 23歳の男性。のどの痛みを主訴に来院した。 現病歴:2日前からのどの痛みと発熱とを自覚していた。痛みが次第にひどくなったため23時に救急外来を受診した。痛みが強く唾液を飲み込むことができないため口から吐き出している。 既往歴:15歳時に虫垂炎の手術を受けた。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。体温38.2℃。脈拍92/分,整。血圧124/80 mmHg。呼吸数20/分。眼瞼結膜に貧血を認めない。咽頭後壁粘膜はやや発赤しているが,口蓋扁桃の腫脹はみられない。頸部に圧痛を認め,軽度喘鳴を聴取する。心音に異常を認めない。
追加すべき最も重要な質問はどれか。
- a.「喫煙の習慣はありますか」
- b.「息を吸うのは苦しくないですか」
- c.「ご家族にも同様の症状はありますか」
- d.「自宅での体温は何度まで上がりましたか」
- e.「扁桃腺が大きいと言われたことはありますか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
唾液も飲み込めないほどの強い咽頭痛・嚥下痛があるのに口蓋扁桃や咽頭後壁の所見が乏しい場合は、口から見えない喉頭の病変、特に急性喉頭蓋炎を疑います。急性喉頭蓋炎は喉頭蓋の腫脹により数時間単位で上気道閉塞が進行しうるため、問診ではまず呼吸困難、特に吸気時の苦しさの有無を確認し、あれば直ちに気管挿管や輪状甲状靱帯切開・気管切開などの気道確保の準備を整えます。上気道狭窄は吸気性、下気道狭窄は呼気性の喘鳴として現れる点も押さえておきましょう。喫煙歴や家族歴、最高体温などは診断の参考にはなっても緊急対応を左右しません。救急外来では「診断を詰める情報」より「生命に直結する情報」を優先するというABCの原則を、具体的な問診として身につけることが大切です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・23歳男性。2日前から咽頭痛と発熱があり、痛みが急速に強くなって夜間(23時)に救急外来を受診した。 ・嚥下痛が非常に強く、唾液さえ飲み込めずに口から吐き出している(流涎)。 ・体温38.2℃、脈拍92/分、呼吸数20/分。意識は清明。 ・咽頭後壁は軽く発赤している程度で、口蓋扁桃は腫れていない。 ・頸部に圧痛があり、軽度の喘鳴を聴取する。
診断へのプロセス
「強い咽頭痛・嚥下痛」を訴えるのに、口を開けて見える範囲(口蓋扁桃・咽頭後壁)には痛みに見合う所見が乏しい。この「症状と口腔内所見の乖離」は、病変が口からは直接見えない部位、すなわち喉頭(特に喉頭蓋)にあることを示唆する重要な手がかりである。さらに唾液が飲み込めないほどの嚥下痛と喘鳴が加われば、急性喉頭蓋炎を最も強く疑う。扁桃が腫れていないため急性扁桃炎や扁桃周囲膿瘍は考えにくく、若年で急性発症かつ発熱を伴うことから喉頭癌・下咽頭癌などの腫瘍性疾患も否定的である。
設問の考え方
急性喉頭蓋炎で最も警戒すべきは、腫れた喉頭蓋が声門上部をふさいで起こる上気道閉塞(窒息)である。進行は数時間単位と速く、軽度の喘鳴しかない段階からでも急に完全閉塞に至りうる。したがって問診で真っ先に確認すべきは、気道が保たれているか、すなわち呼吸困難(とくに吸気時の苦しさ)の有無と程度である。上気道の狭窄では吸気時に気道内が陰圧となって狭窄部がさらに狭くなるため、吸気性喘鳴・吸気困難として現れやすい。呼吸困難の訴えがあれば、ただちに気道確保(気管挿管、困難なら輪状甲状靱帯切開・穿刺や気管切開)の準備を整えることになる。救急外来での問診は「診断を詰める情報」よりも「生命に直結する情報」を優先する、という原則を問う問題である。
選択肢考察
- ×a. 「喫煙の習慣はありますか」
喫煙歴は慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺癌、喉頭癌・下咽頭癌などのリスク評価で重要な情報である。しかし本例は若年者の急性発症・発熱を伴う炎症性疾患が疑われ、喫煙歴が現時点の対応を左右することはない。緊急度の高い場面で優先して聞くべき質問ではない。
- ○b. 「息を吸うのは苦しくないですか」
急性喉頭蓋炎が疑われる状況で最も優先すべきは上気道閉塞の評価である。すでに軽度の喘鳴があり、喉頭蓋の腫脹による声門上狭窄が始まっている可能性が高い。上気道狭窄は吸気時に増悪するため、「吸うときの苦しさ」を尋ねることは狭窄の程度を直接評価することにつながる。吸気困難があれば、窒息に備えて気管挿管・輪状甲状靱帯切開・気管切開などの気道確保を直ちに準備し、処置が可能な場所で管理する必要がある。生命予後に直結するため、最も重要な質問である。
- ×c. 「ご家族にも同様の症状はありますか」
家族内発生の確認は、インフルエンザやA群β溶血性連鎖球菌咽頭炎など、人から人へうつる感染症を疑うときに意味をもつ。急性喉頭蓋炎は通常、家族内で集団発生する疾患ではなく、この情報で緊急対応が変わることもないため優先度は低い。
- ×d. 「自宅での体温は何度まで上がりましたか」
発熱の最高値や熱型(弛張熱・間欠熱など)は、成人Still病やマラリアなど熱型が診断の手がかりとなる疾患で重要となる。本例ではすでに来院時に38.2℃の発熱が確認されており、自宅での最高体温を知っても気道管理の方針は変わらない。
- ×e. 「扁桃腺が大きいと言われたことはありますか」
扁桃肥大の既往は、反復性扁桃炎や睡眠時無呼吸などを考える際の情報である。本例では診察で口蓋扁桃の腫脹が認められておらず、扁桃が原因の病態は否定的である。さらに現在の症状の原因は口から見えない喉頭にあると考えられ、この質問は診断にも緊急対応にも寄与しない。
急性喉頭蓋炎の概要
・喉頭蓋を中心とする声門上部(披裂部・披裂喉頭蓋ひだなどを含む)の急性炎症で、急性声門上炎とも呼ばれる。 ・起炎菌としてはインフルエンザ菌b型(Hib)が古くから知られ、特に小児で代表的であった。Hibワクチンの普及により小児例は大きく減少し、現在は成人例の割合が高い。成人ではインフルエンザ菌のほか、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などもみられる。 ・症状:咽頭痛・強い嚥下痛、発熱、流涎(唾液を飲み込めない)、含み声(口にものを含んだようなこもった声)、吸気性喘鳴、呼吸困難。前傾坐位(スニッフィングポジション)をとり、仰臥位を嫌うこともある。 ・特徴:強い咽頭痛の割に口腔・中咽頭の所見が乏しい。舌根部(喉頭蓋の付け根付近)の圧迫や喉頭の触診で圧痛を認めることがある。
上気道狭窄の評価と対応
・上気道(胸郭外)の狭窄では、吸気時に気道内圧が大気圧より低くなり狭窄部が虚脱しやすいため、吸気性喘鳴(stridor)・吸気困難となる。一方、気管支喘息などの胸郭内の下気道狭窄では呼気性の喘鳴・呼気延長が主体である。 ・呼吸困難、流涎、含み声、吸気性喘鳴、SpO2低下、起坐位を好む、などは気道閉塞が切迫しているサインである。 ・気道確保は、可能なら気管挿管を行うが、喉頭蓋の腫脹が強い場合は挿管が困難であり、輪状甲状靱帯切開(穿刺)や気管切開が必要となる。処置は準備が整った環境で、熟練者が行うのが原則である。
救急外来での問診の優先順位
・生命を脅かす病態(気道・呼吸・循環:ABC)の評価を最優先し、その後に診断のための詳細な病歴を聴取する。
POINT
・強い咽頭痛・嚥下痛があるのに口腔内所見が乏しい→急性喉頭蓋炎を疑う。 ・流涎・含み声・吸気性喘鳴は上気道閉塞の切迫を示す危険なサイン。 ・急性喉頭蓋炎では、まず呼吸困難(吸気困難)の有無を確認し、気道確保の準備を最優先する。 ・上気道狭窄は吸気性、下気道狭窄は呼気性の喘鳴。
