痛くないのに大きくなる―中年の首のしこりは「悪性を否定するまで悪性」
第106回医師国家試験 E問題 第57問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。首のしこりを主訴に来院した。3か月前,頸部に腫瘤があることに気付いた。痛みがなかったのでそのままにしていたが,次第に大きくなってきたため受診した。既往歴に特記すべきことはない。 現時点で考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.悪性リンパ腫
- b.亜急性甲状腺炎
- c.伝染性単核球症
- d.癌のリンパ節転移
- e.急性化膿性リンパ節炎
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
痛みを伴わず月単位で徐々に増大する頸部腫瘤は、腫瘍性、とくに悪性を強く疑う経過であり、成人では悪性が否定されるまで悪性として扱うのが原則です。成人の頸部の悪性腫瘤として、弾性硬で無痛性に腫大する悪性リンパ腫と、硬く可動性に乏しい癌のリンパ節転移(頭頸部癌、甲状腺癌、胸腹部臓器の癌など)を必ず考えます。一方、亜急性甲状腺炎、伝染性単核球症、急性化膿性リンパ節炎はいずれも痛みや発熱を伴って急性に経過する炎症性疾患であり、本例のような経過とは合いません。診断には内視鏡による原発巣検索、画像検査、細胞診や生検による病理診断が欠かせず、年齢・経過・痛み・随伴症状・硬さという軸で頸部腫瘤を整理する力は、日常診療で悪性疾患を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・48歳の女性、頸部の腫瘤(しこり) ・3か月前に自覚し、その間痛みがない(無痛性) ・次第に増大している(進行性) ・既往歴なし。発熱・咽頭痛などの随伴症状の記載もない
考え方
頸部腫瘤の原因は大きく、炎症性(感染症を含む)、腫瘍性(良性・悪性)、先天性(正中頸嚢胞、側頸嚢胞など)に分けられる。鑑別で重視するのは「年齢」「経過の長さと速さ」「痛みの有無」「随伴症状」「硬さ・可動性」である。 炎症性の腫大は数日〜数週間の単位で急に生じ、圧痛・自発痛、発熱、局所の発赤を伴うことが多く、原因が治まれば縮小していく。これに対し本例は、痛みを伴わずに3か月にわたってゆっくり大きくなり続けている。これは腫瘍性、特に悪性腫瘍を強く疑わせる経過である。成人(一般に40歳以上)で2〜3週間以上持続・増大する無痛性の頸部腫瘤は、悪性疾患が否定されるまで悪性として扱うのが臨床の原則である。 問題文の情報は少なく、ここから一つの疾患に確定することはできない。設問は「現時点で考えられるもの」を問うており、無痛性・進行性という特徴に合致する悪性の頸部リンパ節腫大として、悪性リンパ腫と癌のリンパ節転移を挙げるのが妥当である。一方、痛みや発熱を伴うのが通常の炎症性疾患や、経過が合わない急性感染症は除外される。
次に行うべきこと
実際の診療では、触診(大きさ、硬さ、可動性、圧痛)、頭頸部の視診・内視鏡検査(咽頭・喉頭に原発巣がないか)、超音波検査、CT・MRI、穿刺吸引細胞診、必要に応じて生検(悪性リンパ腫が疑われる場合は切除生検による組織診断)へ進む。
選択肢考察
- ○a. 悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、頸部の無痛性リンパ節腫大で発症することが非常に多い。腫大したリンパ節は弾性硬(ゴムのような硬さ)で、週〜月単位で徐々に大きくなり、複数が癒合することもある。発熱・体重減少・盗汗(寝汗)といった全身症状(B症状)を伴うことがあるが、初期には全身症状を欠く例も少なくない。無痛性に3か月かけて増大する本例の経過と合致するため、考えるべき疾患である。
- ×b. 亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染が契機と考えられる甲状腺の炎症で、上気道炎症状に続いて甲状腺部の強い痛みと圧痛が出現し、痛みが対側へ移動すること(クリーピング)がある。発熱、赤沈亢進・CRP上昇、甲状腺ホルモンの一過性上昇による動悸などの甲状腺中毒症状を伴う。痛みのない腫瘤が3か月増大し続ける本例とは合わない。
- ×c. 伝染性単核球症
伝染性単核球症は主にEBウイルス(Epstein-Barr virus)の初感染によって起こり、青年期に多い。発熱、咽頭痛(偽膜を伴う扁桃炎)、両側頸部リンパ節腫大が三主徴で、肝脾腫や異型リンパ球の増加を伴う。リンパ節腫大は急性に生じ、数週間で自然に軽快するのが通常である。48歳で発熱や咽頭症状がなく、3か月かけて増大し続ける経過は考えにくい。
- ○d. 癌のリンパ節転移
癌の頸部リンパ節転移は、硬く、痛みを伴わず、周囲組織と癒着して可動性が乏しくなるのが特徴で、徐々に増大する。原発巣の症状が乏しいまま頸部腫瘤が最初の徴候となることもある。原発巣としては、咽頭・喉頭・口腔などの頭頸部癌、甲状腺癌が代表的であり、ほかに肺・食道・乳腺などの胸部臓器や、胃・大腸・肝胆膵などの腹部臓器の癌も考えられる(胃癌などの左鎖骨上窩リンパ節転移はVirchow転移と呼ばれる)。中年の無痛性・進行性の頸部腫瘤として必ず考えるべき疾患である。
- ×e. 急性化膿性リンパ節炎
急性化膿性リンパ節炎は、ブドウ球菌やレンサ球菌などの細菌がリンパ節に感染して起こる。リンパ節は短期間で腫大し、自発痛・圧痛、皮膚の発赤・熱感、発熱を伴い、進行すると膿瘍を形成して波動を触れる。急性の炎症であり、痛みのないまま3か月経過して増大し続けることはない。
頸部腫瘤の主な鑑別
・炎症性:急性化膿性リンパ節炎、ウイルス性リンパ節炎(伝染性単核球症など)、結核性リンパ節炎、組織球性壊死性リンパ節炎(菊池病)、亜急性甲状腺炎、唾液腺炎 ・腫瘍性(悪性):悪性リンパ腫、癌のリンパ節転移、甲状腺癌、唾液腺癌 ・腫瘍性(良性):甲状腺腺腫、唾液腺の良性腫瘍(多形腺腫、Warthin腫瘍)、神経鞘腫、脂肪腫 ・先天性:正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)、側頸嚢胞(鰓性嚢胞)、リンパ管腫
炎症性と腫瘍性の見分け方の目安
・経過:炎症性は急性(数日〜数週)で自然に軽快しうる。腫瘍性は月単位で持続・増大する。 ・痛み:炎症性は自発痛・圧痛を伴う。腫瘍性は通常無痛性である。 ・硬さ・可動性:癌の転移は硬く可動性不良、悪性リンパ腫は弾性硬、炎症性は軟らかく圧痛があることが多い。 ・大きさ:2 cmを超えるリンパ節や、増大が続くものは悪性を疑う。 ・年齢:40歳以上では悪性の頻度が高まる。
原発不明頸部リンパ節転移
頸部リンパ節転移が見つかっても原発巣がすぐに分からないことがある。上咽頭・中咽頭(扁桃・舌根)・下咽頭などが隠れた原発巣となりやすく、内視鏡、CT、PET-CTなどで原発巣を検索する。中咽頭癌ではHPV(ヒトパピローマウイルス)関連癌が増えており、嚢胞状の頸部リンパ節転移で見つかることもある。
POINT
・無痛性で、月単位で徐々に増大する頸部腫瘤は腫瘍性(特に悪性)を疑う。 ・成人の頸部の悪性腫瘤として、悪性リンパ腫と癌のリンパ節転移を必ず考える。 ・痛み・発熱を伴い急性に経過するもの(急性化膿性リンパ節炎、亜急性甲状腺炎、伝染性単核球症)は炎症性であり、本例の経過とは合わない。 ・診断には画像検査に加え、細胞診・生検による病理診断が必要である。
