「何を取り除けば治るのか」―病態から導く胆道疾患の治療選択
第106回医師国家試験 E問題 第37問
国試問題にチャレンジ
胆道疾患と治療の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.先天性胆道拡張症 ―― 総胆管消化管吻合術
- b.胆嚢腺筋腫症 ―― 胆嚢粘膜切除術
- c.総胆管結石症 ―― 内視鏡的十二指腸乳頭切開術
- d.急性胆管炎 ―― 内視鏡的胆道ドレナージ
- e.急性胆嚢炎 ―― 体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胆道疾患の治療は「何が問題で、何を取り除けば解決するか」という病態から考えると整理できます。総胆管結石症はERCP下のEST(またはEPBD)による切石が第一選択であり、急性胆管炎は抗菌薬に加えて閉塞を解除する胆道ドレナージ(ENBD・EBS、困難ならPTBD)が治療の要です。先天性胆道拡張症は膵・胆管合流異常による発癌リスクがあるため、拡張胆管を切除して肝管空腸吻合を行う分流手術が標準で、胆管を残す消化管吻合は行いません。胆嚢腺筋腫症は有症状なら胆嚢摘出術、急性胆嚢炎は早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術(高リスク例はPTGBD)が基本で、ESWLは急性期には行いません。病態と治療を結びつけて理解することは、救急で胆道感染症に出会ったときの迅速な判断に直結します。
解答・解説
正解はc, dです
胆道疾患の治療は、その疾患の病態(何が問題で、何を取り除けば解決するか)から考えると整理しやすい。 ・先天性胆道拡張症:膵・胆管合流異常を背景に、膵液と胆汁が相互に逆流・混和し、胆道癌が高率に発生する。したがって「拡張した胆管を切除し、膵液と胆汁の流れを分ける(分流)」ことが治療の本質である。 ・胆嚢腺筋腫症:良性の胆嚢壁肥厚性病変であり、無症状なら経過観察、症状があれば胆嚢そのものを摘出する。 ・総胆管結石症:胆管内の結石を除去する。第一選択は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)下の内視鏡的治療である。 ・急性胆管炎:胆管の閉塞によって胆管内圧が上昇し、感染胆汁が血中へ逆流して敗血症に進展しうる。抗菌薬に加え、閉塞を解除して胆汁を排出させる胆道ドレナージ(減圧)が治療の要である。 ・急性胆嚢炎:胆嚢管の閉塞による胆嚢の炎症であり、胆嚢摘出術(早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が基本)や、手術リスクが高い場合の胆嚢ドレナージが行われる。 この観点から各組合せの妥当性を判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 先天性胆道拡張症 ―― 総胆管消化管吻合術
先天性胆道拡張症は膵・胆管合流異常を伴い、膵液の胆道内逆流によって胆管・胆嚢に癌が発生しやすい。標準術式は、胆嚢と拡張した肝外胆管を膵管との合流部の手前まで切除し、肝管と空腸をRoux-en-Y法で吻合する(拡張胆管切除+肝管空腸吻合術)ことであり、これにより膵液と胆汁の分流が得られる。拡張した総胆管を残したまま消化管と吻合する方法(嚢胞十二指腸吻合などの内瘻術)は、かつて行われたが、膵液の逆流が続くうえ癌の発生母地が残り、逆行性胆管炎も起こしやすいため、現在は行われない。なお、Roux-en-Y法で肝門部と空腸を吻合する葛西手術(肝門部空腸吻合術)は胆道閉鎖症の術式であり、混同しないよう注意する。
- ×b. 胆嚢腺筋腫症 ―― 胆嚢粘膜切除術
胆嚢腺筋腫症は、胆嚢壁内にRokitansky-Aschoff洞(RAS)が増生し、平滑筋層の肥厚を伴って壁が肥厚する良性疾患である。病変の分布により底部型、分節型(胆嚢がくびれてひょうたん状になる)、びまん型に分類される。無症状であれば経過観察が原則で、胆石・胆嚢炎の合併などで腹痛がある場合や、胆嚢癌との鑑別が困難な場合に胆嚢摘出術(多くは腹腔鏡下)を行う。病変は粘膜にとどまらず壁全層に及ぶため、「粘膜切除術」という治療は存在しない。
- ○c. 総胆管結石症 ―― 内視鏡的十二指腸乳頭切開術
総胆管結石症では、症状の有無にかかわらず結石除去が推奨される。第一選択はERCPを行い、内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術(EST)で乳頭部を切開して出口を広げ、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルで結石を十二指腸へ引き出す方法である。乳頭を切開せずバルーンで拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)が選ばれることもある。大きな結石には機械的砕石具や胆道鏡下の電気水圧・レーザー砕石を併用する。小さな結石は自然に排出されることもある。内視鏡的治療が困難な場合は、経皮経肝的アプローチや外科的切石術が選択される。
- ○d. 急性胆管炎 ―― 内視鏡的胆道ドレナージ
急性胆管炎は、結石や腫瘍などで胆管が閉塞し、うっ滞した胆汁に細菌感染が起きた状態である。胆管内圧が高まると細菌やエンドトキシンが血中へ逆流し、敗血症性ショックや意識障害(Reynolds五徴)に至りうる。治療は抗菌薬投与とともに、閉塞を解除して胆汁を排出させる胆道ドレナージであり、中等症では早期に、重症では全身管理を行いつつ緊急に施行する。第一選択はERCP下の内視鏡的胆道ドレナージで、経鼻的に体外へ胆汁を出す内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)や、胆管内にステントを留置する内視鏡的胆管ステント留置術(EBS)がある。内視鏡的処置が困難な場合は経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)を行う。
- ×e. 急性胆嚢炎 ―― 体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉
急性胆嚢炎の治療は、絶食・輸液・抗菌薬投与などの初期治療に加え、胆嚢摘出術(可能であれば発症早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術)が基本である。全身状態が悪く手術リスクが高い場合には、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)などで胆嚢内の感染胆汁を排出させる。ESWLは体外から衝撃波を当てて結石を砕く治療で、胆石では炎症のない胆嚢内の小さな純コレステロール結石など限られた条件でのみ適応となり、急性炎症期には行わない。砕けた結石で胆嚢管が閉塞したままでは炎症は改善せず、胆嚢壁の炎症もかえって悪化させるおそれがあるためである。
胆道疾患の主な治療の整理
・先天性胆道拡張症(戸谷分類でⅠ型・Ⅳ-A型が多い):胆嚢・拡張胆管切除+肝管空腸吻合(Roux-en-Y)。膵・胆管合流異常による発癌リスクがあるため、診断されれば手術を行う。 ・膵・胆管合流異常(胆管拡張を伴わない型):胆嚢癌の発生が多いため、予防的胆嚢摘出術を行う。 ・胆道閉鎖症:葛西手術(肝門部空腸吻合術)。効果不十分なら肝移植。 ・胆嚢結石症:無症状なら原則経過観察。有症状なら腹腔鏡下胆嚢摘出術。条件を満たせば経口胆汁酸溶解療法(ウルソデオキシコール酸)やESWLも選択肢となる。 ・総胆管結石症:EST(またはEPBD)による内視鏡的切石。胆嚢結石も合併していれば、切石後に胆嚢摘出術を行うことが多い。 ・急性胆管炎:抗菌薬+胆道ドレナージ(ENBD、EBS、PTBD)。 ・急性胆嚢炎:抗菌薬+早期腹腔鏡下胆嚢摘出術。手術高リスク例はPTGBDや経皮経肝胆嚢吸引穿刺(PTGBA)。 ・胆嚢腺筋腫症:無症状なら経過観察、有症状なら胆嚢摘出術。
急性胆管炎の臨床像
Charcot三徴:発熱、黄疸、右上腹部痛。 Reynolds五徴:Charcot三徴+ショック+意識障害(重症化の徴候)。 重症度(東京ガイドライン)に応じて、軽症は抗菌薬で反応をみる、中等症は早期ドレナージ、重症は臓器サポートと緊急ドレナージが推奨される。
POINT
・先天性胆道拡張症は「拡張胆管切除+肝管空腸吻合(分流手術)」。胆管を残す消化管吻合は発癌・胆管炎のため行わない。 ・総胆管結石症の第一選択はERCP下のEST(またはEPBD)による切石。 ・急性胆管炎の治療の柱は抗菌薬と胆道ドレナージ(第一選択は内視鏡的、困難ならPTBD)。 ・急性胆嚢炎は早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術、高リスク例はPTGBD。ESWLは急性期には禁忌。 ・胆嚢腺筋腫症は有症状時に胆嚢摘出術。
