答えるのは本人か、評価者か―「自記式」で見分ける心理検査と評価尺度
第106回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
自記式で行う心理学的検査はどれか。2つ選べ。
- a.Rorschachテスト
- b.状態特性不安検査〈STAI〉
- c.Hamiltonうつ病評価尺度
- d.簡易精神症状評価尺度〈BPRS〉
- e.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心理学的検査や精神症状の評価尺度は、被検者本人が質問紙に回答する自記式と、評価者が面接や観察から判定する他記式に分けられます。MMPI、STAI、YG性格検査、BDI、SDSなどの質問紙法は自記式で、MMPIは回答の歪みを検出する妥当性尺度を、STAIは状態不安と特性不安を分けて測る点を特徴とします。一方、HAM-D、MADRS、BPRS、PANSSは評価者が採点する観察者評価式であり、Rorschachテストは検査者が反応を記録・解釈する投影法です。自記式は簡便でスクリーニングに適する反面、病識や回答態度の影響を受けやすく、観察者評価式は病識の乏しい患者や重症例でも評価できるという長所があります。「誰が答え、誰が判定するか」という視点は、検査の選択や結果の解釈を適切に行うための基本となります。
解答・解説
正解はb, eです
心理学的検査や精神症状の評価尺度は、「誰が回答・記入するか」という観点から、大きく2種類に分けられる。
自記式(自己評価式)
被検者本人が質問紙の各項目を読み、「はい/いいえ」や「全くない〜非常にある」などの選択肢から自分に当てはまるものを選んで記入する方式である。代表が質問紙法の性格検査や、自己評価式の不安・抑うつ尺度である。
他記式(観察者評価式・面接評価式)
医師や心理職などの評価者が、面接や行動観察で得た情報をもとに、症状の有無や重症度を評価者自身が判定して記入する方式である。精神症状の重症度評価尺度の多くがこちらに属する。また投影法の検査は、被検者の自由な反応を検査者が記録・分析するので、自記式には含まれない。 本問では、各選択肢が「質問紙法(本人が回答)」か「評価者が判定するもの/投影法」かを見分ければよい。質問紙法の検査は原則として自記式であるから、質問紙法に該当するものを選ぶと考えると整理しやすい。
選択肢考察
- ×a. Rorschachテスト
Rorschachテストは代表的な投影法の人格検査である。左右対称のインクのしみ(インクブロット)が描かれた10枚の図版を順に提示し、「何に見えるか」を被検者に自由に答えさせる。検査者はその反応内容に加え、図版のどの部分を見たか(反応領域)、形・色・陰影・運動など何が反応を決めたか(決定因)などを記録・分類して、人格の深層や思考の特徴を解釈する。被検者自身が用紙に記入する方式ではなく、施行と解釈に熟練した検査者を要するため、自記式には当たらない。
- ○b. 状態特性不安検査〈STAI〉
STAI(State-Trait Anxiety Inventory)はSpielbergerらが作成した不安の質問紙で、被検者本人が各項目に4段階で回答する自記式検査である。不安を2つの側面に分けて測定するのが特徴で、「状態不安」は検査を受けている今この時点で感じている一過性の不安の強さ、「特性不安」は普段から不安を感じやすいかという比較的安定した性格傾向を表す。それぞれ20項目、計40項目から成る。
- ×c. Hamiltonうつ病評価尺度
Hamiltonうつ病評価尺度(HAM-D、HRSD)は、医師などの評価者が面接を行い、抑うつ気分、罪責感、自殺念慮、不眠、精神運動制止、不安、身体症状などの各項目を評価者自身が採点する観察者評価式(他記式)の尺度である。うつ病の重症度評価や、抗うつ薬の臨床試験での効果判定に広く用いられる(17項目版が標準的)。なお、同じうつ病の評価でも、Beckうつ病評価尺度(BDI)やZung自己評価式抑うつ尺度(SDS)は本人が記入する自記式である点と区別して覚えておくとよい。
- ×d. 簡易精神症状評価尺度〈BPRS〉
BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)は、主に統合失調症などの精神病性障害の症状の重症度を評価するための尺度である。評価者が面接と観察に基づき、心気的訴え、不安、概念の統合障害、猜疑心、幻覚、情動の平板化などの項目(標準版は18項目)を7段階で採点する。項目が並んだ評価用紙を用いるが、記入するのは評価者であり、観察者評価式(他記式)である。被検者自身が回答する方式ではない。
- ○e. Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は代表的な質問紙法の人格検査で、被検者本人が多数(原版で550項目)の質問文に「当てはまる/当てはまらない」などで回答する自記式検査である。心気症、抑うつ、ヒステリー、統合失調症などに対応する臨床尺度によって人格を多面的に評価できる。さらに、回答の歪み(嘘をついていないか、よく見せようとしていないか、無回答が多すぎないか等)を検出する妥当性尺度を備えている点が大きな特徴である。項目数が多く、実施に時間がかかる。
心理学的検査の主な分類
1. 質問紙法(原則として自記式) ・MMPI(ミネソタ多面人格検査):臨床尺度+妥当性尺度をもつ人格検査 ・YG(矢田部-Guilford)性格検査:120項目、性格類型を判定 ・EPI/MPI(Eysenck人格検査/モーズレイ人格目録):外向性・神経症傾向を測定 ・CMI(Cornell Medical Index):身体・精神的自覚症状を網羅的に調査 ・STAI、MAS(顕在性不安尺度):不安の評価 ・BDI(Beckうつ病評価尺度)、SDS(Zung自己評価式抑うつ尺度):抑うつの自己評価 ・GHQ(精神健康調査票):精神的健康度のスクリーニング 2. 投影法(検査者が反応を記録・解釈) ・Rorschachテスト:インクブロット図版への反応 ・TAT(主題統覚検査):絵を見て物語を作らせる ・SCT(文章完成法):書きかけの文の続きを書かせる(本人が記入するが、投影法に分類される) ・P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト):欲求不満場面での反応を見る ・バウムテスト、HTPテスト:描画法 3. 作業検査法 ・内田-Kraepelin精神作業検査:1桁の数字の連続加算の作業曲線から性格・行動特性をみる
観察者評価式の代表的尺度
・HAM-D(Hamiltonうつ病評価尺度)、MADRS(Montgomery-Åsbergうつ病評価尺度) ・HAM-A(Hamilton不安評価尺度) ・BPRS(簡易精神症状評価尺度)、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度):統合失調症 ・YMRS(Young躁病評価尺度) 自記式は実施が簡便で多数に施行できる一方、本人の病識や回答態度の影響を受けやすい。観察者評価式は評価者の訓練が必要だが、病識が乏しい患者や重症例でも評価できる。
POINT
・自記式=被検者本人が質問紙に回答する方式。質問紙法(MMPI、YG、STAI、BDI、SDS、CMIなど)が該当する。 ・HAM-D、BPRS、PANSS、MADRSなどの重症度評価尺度は評価者が面接して採点する観察者評価式である。 ・うつ病の尺度:HAM-D・MADRSは他記式、BDI・SDSは自記式と対で覚える。 ・Rorschachテストは投影法であり、自記式ではない。
