お腹のバッグが語る在宅透析―腹膜透析の利点と「腸閉塞」という落とし穴
第106回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
腎不全患者の治療中の写真を別に示す。 この治療法について正しいのはどれか。

- a.塩分制限を必要としない。
- b.週3回の通院が必要である。
- c.合併症として腸閉塞がある。
- d.導入患者数は著しく増加している。
- e.治療液のカリウム濃度は5.0 mEq/Lである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹部のカテーテルから透析液を出し入れする治療は腹膜透析で、腹膜を半透膜として拡散により尿毒素やカリウムを除去し、ブドウ糖などの浸透圧差で除水を行います。在宅で行うため通院は月1〜2回程度でよく、週3回の通院が必要なのは血液透析です。透析液はカリウムを含まず、塩分制限は依然として必要で、日本では透析患者の約3%にとどまります。重要な合併症は腹膜炎と被嚢性腹膜硬化症で、後者は腹膜の肥厚・癒着により難治性の腸閉塞をきたすため、長期例では腹膜機能の評価と血液透析への移行を検討します。血液透析との違いを体系的に理解することは、患者に適した腎代替療法を選ぶうえでの基本となります。
解答・解説
正解はcです
写真から読み取ること
腎不全患者が、腹部から出たカテーテルにつながるバッグを用いて透析液の出し入れをしている場面であり、腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)、特に連続携行式腹膜透析(CAPD:continuous ambulatory peritoneal dialysis)の治療風景と判断できる。
腹膜透析のしくみ
腹腔内に留置したカテーテルから透析液(1回あたり成人で1.5~2L程度)を注入して数時間ためておき、腹膜の毛細血管を半透膜として利用して、血液中の尿毒素・カリウムなどを拡散により透析液側へ移動させる。除水(余分な水分の除去)は、透析液に含まれるブドウ糖などによる浸透圧差を利用して行う。これを1日に数回(CAPDでは通常1日3~5回)交換する。夜間に機械(サイクラー)を使って自動で交換する方法は自動腹膜透析(APD)という。
考え方
血液透析(HD)との違い(在宅で行えること、通院頻度、透析液の組成、特有の合併症、普及状況)を押さえているかが問われている。腹膜透析に特有で重要な合併症に、腹膜炎と被嚢性腹膜硬化症(EPS)がある。EPSは腸管が硬く肥厚した膜に包まれて癒着し、腸閉塞(イレウス)をきたすものであり、「合併症として腸閉塞がある」が正しい。
選択肢考察
- ×a. 塩分制限を必要としない。
腹膜透析は毎日連続して行うため、週3回の血液透析に比べると体液量の変動が小さく、食事制限はやや緩やかでよい。しかし、塩分を過剰に摂取すれば体液過剰となり、高血圧、浮腫、心不全の原因となる。そのため塩分制限は必要であり、摂取量の目安は腹膜透析による除水量と残っている尿量に応じて決められる。「必要としない」は誤りである。
- ×b. 週3回の通院が必要である。
週3回、1回4時間程度の通院が必要なのは、施設で行う血液透析である。腹膜透析は患者自身や家族が自宅や職場で透析液の交換を行う在宅医療であり、通院は通常月1~2回程度の定期受診でよい。このため、仕事や学業などの社会生活を続けやすい点が利点の一つである。
- ○c. 合併症として腸閉塞がある。
腹膜透析の重大な長期合併症に被嚢性腹膜硬化症(EPS:encapsulating peritoneal sclerosis)がある。長期間ブドウ糖を含む透析液にさらされたり、腹膜炎を繰り返したりすることで腹膜が障害されて硬く肥厚し、腸管がその膜に被われて広く癒着する。その結果、腸の動きが妨げられ、腹痛・嘔吐・腹部膨満などを伴う反復性・難治性の腸閉塞をきたす。予後不良となることがある。腹膜透析の期間が長くなるほど発症リスクが高くなるため、長期継続例では腹膜機能を評価し、中止や血液透析への移行を検討する。
- ×d. 導入患者数は著しく増加している。
日本の慢性透析患者の大多数は血液透析を受けており、腹膜透析患者は全透析患者の3%程度にすぎない。腹膜透析の導入患者数も長年大きく増えておらず、「著しく増加している」は誤りである。普及が進みにくい背景には、日本では通院できる血液透析施設が多いこと、腹膜炎やEPSへの懸念、長期継続が難しいことなどがある。近年は在宅医療の推進の観点から見直されつつあるが、急増している状況ではない。
- ×e. 治療液のカリウム濃度は5.0 mEq/Lである。
腎不全では尿からのカリウム排泄が減り、高カリウム血症になりやすい。腹膜透析液にはカリウムを含めず(0 mEq/L)、濃度差を大きくして血液中のカリウムを拡散で効率よく除去する。5.0 mEq/Lは血清カリウムの基準値の上限付近であり、この濃度の液ではほとんど除去できない。ちなみに血液透析の透析液のカリウム濃度は2.0 mEq/L程度に設定されている。腹膜透析は連続的に行うため、むしろ低カリウム血症をきたす患者も少なくない。
腹膜透析と血液透析の比較
・場所と通院:腹膜透析は在宅で行い、通院は月1~2回程度である。血液透析は施設で週3回(1回4時間程度)行うのが標準である。 ・バスキュラーアクセス:血液透析では内シャント(動静脈瘻)などが必要である。腹膜透析では腹腔内カテーテルを留置する。 ・循環動態:腹膜透析は緩徐・連続的に行うため血圧変動が少なく、心機能の低下した患者にも比較的負担が小さい。 ・残腎機能:腹膜透析のほうが保たれやすいとされる。 ・食事:腹膜透析は透析液から蛋白質が失われるため、蛋白質摂取は極端に制限しない。一方、透析液のブドウ糖が吸収されるためエネルギー過剰・高血糖・脂質異常に注意する。カリウム制限は血液透析より緩やかでよい。
腹膜透析の主な合併症
・腹膜炎:交換操作時の細菌混入などで起こる。透析排液の混濁、腹痛、発熱で気づく。 ・カテーテル出口部感染・トンネル感染 ・被嚢性腹膜硬化症(EPS):長期の腹膜透析や腹膜炎の反復で起こり、腸閉塞をきたす。 ・腹膜機能の低下(除水不全):腹膜の劣化で除水量が減り、体液過剰になる。 ・腹圧上昇に伴うもの:ヘルニア(鼠径ヘルニア、臍ヘルニアなど)、透析液の漏れ、胸腔への透析液移行(横隔膜交通症)。 ・代謝面:高血糖、脂質異常症、低蛋白血症、低カリウム血症。
透析液の改良
従来の酸性・高濃度ブドウ糖の透析液は腹膜を障害しやすかった。現在は腹膜への刺激が少ない中性液や、ブドウ糖の代わりにイコデキストリン(ブドウ糖の重合体で吸収されにくく、長時間の貯留でも除水が持続する)を浸透圧物質とした液が用いられており、腹膜障害の軽減が図られている。
POINT
・腹膜透析は在宅で行い、通院は月1~2回程度でよい(週3回通院は血液透析)。 ・腹膜透析液はカリウムを含まない。 ・腹膜透析でも塩分制限は必要である。 ・長期合併症の被嚢性腹膜硬化症(EPS)は腸閉塞をきたし、予後不良となりうる。腹膜炎も重要な合併症である。 ・日本の腹膜透析患者は全透析患者の約3%と少ない。
