StudyMed医師国家試験

お腹のバッグが語る在宅透析―腹膜透析の利点と「腸閉塞」という落とし穴

第106回医師国家試験 D問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第2問

腎不全患者の治療中の写真を別に示す。  この治療法について正しいのはどれか。

第106回 D問題 第2問の問題画像
  1. a.塩分制限を必要としない。
  2. b.週3回の通院が必要である。
  3. c.合併症として腸閉塞がある。
  4. d.導入患者数は著しく増加している。
  5. e.治療液のカリウム濃度は5.0 mEq/Lである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は写真から治療法を見抜き、その特徴を問う問題だ。腹部から出たカテーテルにバッグがつながっている様子から、どんな透析かを判断するのが第一歩。そのうえで、血液透析との違いを整理できているかがポイントになるよ。
医学生医学生
お腹からチューブが出ているので、腹膜透析ですね。シャントの針が刺さっている写真ではないので、血液透析ではないと思いました。
ドクタードクター
その通り。腹腔に留置したカテーテルから透析液を入れて数時間ためておき、腹膜を半透膜として使う方法だ。日中にバッグを1日数回交換するのが連続携行式腹膜透析、つまりCAPDで、夜間に機械で自動交換する方法は自動腹膜透析、APDと呼ぶ。
医学生医学生
腹膜でどうやって老廃物や水を抜くんですか。生理学の講義で拡散と浸透の話はやりましたが、つながっていなくて。
ドクタードクター
まさにその2つだよ。尿毒素やカリウムは、血液と透析液の濃度差による拡散で透析液側へ移る。水は、透析液に含まれるブドウ糖などがつくる浸透圧差で引き抜く。だから除水量は透析液のブドウ糖濃度で調節できるんだ。
医学生医学生
それなら透析液のカリウムは、血液と同じくらいの濃度だとダメですよね。基準値上限くらいの5 mEq/Lでは抜けない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。腹膜透析液はカリウムを含まない、つまり0 mEq/Lにして濃度差を大きくとっている。ちなみに血液透析の透析液は2 mEq/L程度だ。腹膜透析は毎日連続して行うので、むしろ低カリウム血症になる人もいるくらいなんだ。
医学生医学生
毎日やるなら体液もこまめに調整できるので、塩分制限はいらないのでしょうか。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところ。確かに体液量の変動は血液透析より小さく、食事制限はやや緩やかになる。でも塩分を摂りすぎれば体液過剰になって、高血圧や浮腫、心不全につながる。除水量と残っている尿量に応じて、塩分制限はやはり必要なんだ。
医学生医学生
通院はどうですか。腎臓内科の実習で透析室を見学したとき、患者さんは週3回来ていました。
ドクタードクター
それは施設で行う血液透析の話だね。1回4時間程度を週3回が標準だ。腹膜透析は患者さんや家族が自宅や職場で交換する在宅医療なので、通院は月1〜2回の定期受診で済むことが多い。仕事や学業を続けやすいのが大きな利点だよ。
医学生医学生
そんなに便利なら、導入する人もどんどん増えていそうですね。
ドクタードクター
実はそうでもない。日本の透析患者の大多数は血液透析で、腹膜透析は全体の3%程度にとどまる。通える透析施設が多いこと、腹膜炎などの合併症への懸念、長期継続の難しさなどが背景にある。在宅医療推進の流れで見直されてはいるけれど、著しく増えているとはいえないんだ。
医学生医学生
残るのは腸閉塞ですね。腹膜透析で腸閉塞というのがピンときません。
ドクタードクター
ここが今回の正解の核心だ。腹膜透析の重大な長期合併症に被嚢性腹膜硬化症、EPSがある。ブドウ糖を含む透析液に長くさらされたり、腹膜炎を繰り返したりすると、腹膜が硬く厚くなり、腸管がその膜に包まれて広く癒着してしまう。その結果、腹痛や嘔吐、腹部膨満を伴う反復性・難治性の腸閉塞を起こすんだ。
医学生医学生
腹膜を「道具」として使い続けるから、腹膜そのものが傷んでしまうわけですね。病理で習った線維化のイメージが重なりました。
ドクタードクター
いい捉え方だね。EPSは予後不良になることもあり、腹膜透析の期間が長いほどリスクが上がる。だから長期例では腹膜機能を定期的に評価し、除水が落ちてきたら中止や血液透析への移行を検討するんだ。
医学生医学生
腹膜炎も大事な合併症ですよね。どうやって気づくんですか。
ドクタードクター
排液の混濁、腹痛、発熱が三大サインだ。交換時の細菌混入が主な原因なので、手技の指導がとても重要になる。ほかにもカテーテル出口部やトンネルの感染、腹圧上昇によるヘルニアや透析液の漏れ、ブドウ糖吸収による高血糖や脂質異常、透析液への蛋白喪失にも注意したい。最近は腹膜への刺激が少ない中性液や、吸収されにくく長時間貯留でも除水が続くイコデキストリン液が使われ、腹膜障害の軽減が図られているよ。
医学生医学生
血圧変動が少なくて残腎機能も保たれやすい反面、腹膜の寿命を意識しながら続ける治療なんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。患者さんのライフスタイルと身体の状態に合わせて透析方法を選ぶ視点を持っておこう。

まとめ

腹部のカテーテルから透析液を出し入れする治療は腹膜透析で、腹膜を半透膜として拡散により尿毒素やカリウムを除去し、ブドウ糖などの浸透圧差で除水を行います。在宅で行うため通院は月1〜2回程度でよく、週3回の通院が必要なのは血液透析です。透析液はカリウムを含まず、塩分制限は依然として必要で、日本では透析患者の約3%にとどまります。重要な合併症は腹膜炎と被嚢性腹膜硬化症で、後者は腹膜の肥厚・癒着により難治性の腸閉塞をきたすため、長期例では腹膜機能の評価と血液透析への移行を検討します。血液透析との違いを体系的に理解することは、患者に適した腎代替療法を選ぶうえでの基本となります。

解答・解説

正解はcです

写真から読み取ること

腎不全患者が、腹部から出たカテーテルにつながるバッグを用いて透析液の出し入れをしている場面であり、腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)、特に連続携行式腹膜透析(CAPD:continuous ambulatory peritoneal dialysis)の治療風景と判断できる。

腹膜透析のしくみ

腹腔内に留置したカテーテルから透析液(1回あたり成人で1.5~2L程度)を注入して数時間ためておき、腹膜の毛細血管を半透膜として利用して、血液中の尿毒素・カリウムなどを拡散により透析液側へ移動させる。除水(余分な水分の除去)は、透析液に含まれるブドウ糖などによる浸透圧差を利用して行う。これを1日に数回(CAPDでは通常1日3~5回)交換する。夜間に機械(サイクラー)を使って自動で交換する方法は自動腹膜透析(APD)という。

考え方

血液透析(HD)との違い(在宅で行えること、通院頻度、透析液の組成、特有の合併症、普及状況)を押さえているかが問われている。腹膜透析に特有で重要な合併症に、腹膜炎と被嚢性腹膜硬化症(EPS)がある。EPSは腸管が硬く肥厚した膜に包まれて癒着し、腸閉塞(イレウス)をきたすものであり、「合併症として腸閉塞がある」が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  塩分制限を必要としない。

    腹膜透析は毎日連続して行うため、週3回の血液透析に比べると体液量の変動が小さく、食事制限はやや緩やかでよい。しかし、塩分を過剰に摂取すれば体液過剰となり、高血圧、浮腫、心不全の原因となる。そのため塩分制限は必要であり、摂取量の目安は腹膜透析による除水量と残っている尿量に応じて決められる。「必要としない」は誤りである。

  2. ×b.  週3回の通院が必要である。

    週3回、1回4時間程度の通院が必要なのは、施設で行う血液透析である。腹膜透析は患者自身や家族が自宅や職場で透析液の交換を行う在宅医療であり、通院は通常月1~2回程度の定期受診でよい。このため、仕事や学業などの社会生活を続けやすい点が利点の一つである。

  3. ○c.  合併症として腸閉塞がある。

    腹膜透析の重大な長期合併症に被嚢性腹膜硬化症(EPS:encapsulating peritoneal sclerosis)がある。長期間ブドウ糖を含む透析液にさらされたり、腹膜炎を繰り返したりすることで腹膜が障害されて硬く肥厚し、腸管がその膜に被われて広く癒着する。その結果、腸の動きが妨げられ、腹痛・嘔吐・腹部膨満などを伴う反復性・難治性の腸閉塞をきたす。予後不良となることがある。腹膜透析の期間が長くなるほど発症リスクが高くなるため、長期継続例では腹膜機能を評価し、中止や血液透析への移行を検討する。

  4. ×d.  導入患者数は著しく増加している。

    日本の慢性透析患者の大多数は血液透析を受けており、腹膜透析患者は全透析患者の3%程度にすぎない。腹膜透析の導入患者数も長年大きく増えておらず、「著しく増加している」は誤りである。普及が進みにくい背景には、日本では通院できる血液透析施設が多いこと、腹膜炎やEPSへの懸念、長期継続が難しいことなどがある。近年は在宅医療の推進の観点から見直されつつあるが、急増している状況ではない。

  5. ×e.  治療液のカリウム濃度は5.0 mEq/Lである。

    腎不全では尿からのカリウム排泄が減り、高カリウム血症になりやすい。腹膜透析液にはカリウムを含めず(0 mEq/L)、濃度差を大きくして血液中のカリウムを拡散で効率よく除去する。5.0 mEq/Lは血清カリウムの基準値の上限付近であり、この濃度の液ではほとんど除去できない。ちなみに血液透析の透析液のカリウム濃度は2.0 mEq/L程度に設定されている。腹膜透析は連続的に行うため、むしろ低カリウム血症をきたす患者も少なくない。

腹膜透析と血液透析の比較

・場所と通院:腹膜透析は在宅で行い、通院は月1~2回程度である。血液透析は施設で週3回(1回4時間程度)行うのが標準である。 ・バスキュラーアクセス:血液透析では内シャント(動静脈瘻)などが必要である。腹膜透析では腹腔内カテーテルを留置する。 ・循環動態:腹膜透析は緩徐・連続的に行うため血圧変動が少なく、心機能の低下した患者にも比較的負担が小さい。 ・残腎機能:腹膜透析のほうが保たれやすいとされる。 ・食事:腹膜透析は透析液から蛋白質が失われるため、蛋白質摂取は極端に制限しない。一方、透析液のブドウ糖が吸収されるためエネルギー過剰・高血糖・脂質異常に注意する。カリウム制限は血液透析より緩やかでよい。

腹膜透析の主な合併症

・腹膜炎:交換操作時の細菌混入などで起こる。透析排液の混濁、腹痛、発熱で気づく。 ・カテーテル出口部感染・トンネル感染 ・被嚢性腹膜硬化症(EPS):長期の腹膜透析や腹膜炎の反復で起こり、腸閉塞をきたす。 ・腹膜機能の低下(除水不全):腹膜の劣化で除水量が減り、体液過剰になる。 ・腹圧上昇に伴うもの:ヘルニア(鼠径ヘルニア、臍ヘルニアなど)、透析液の漏れ、胸腔への透析液移行(横隔膜交通症)。 ・代謝面:高血糖、脂質異常症、低蛋白血症、低カリウム血症。

透析液の改良

従来の酸性・高濃度ブドウ糖の透析液は腹膜を障害しやすかった。現在は腹膜への刺激が少ない中性液や、ブドウ糖の代わりにイコデキストリン(ブドウ糖の重合体で吸収されにくく、長時間の貯留でも除水が持続する)を浸透圧物質とした液が用いられており、腹膜障害の軽減が図られている。

POINT

・腹膜透析は在宅で行い、通院は月1~2回程度でよい(週3回通院は血液透析)。 ・腹膜透析液はカリウムを含まない。 ・腹膜透析でも塩分制限は必要である。 ・長期合併症の被嚢性腹膜硬化症(EPS)は腸閉塞をきたし、予後不良となりうる。腹膜炎も重要な合併症である。 ・日本の腹膜透析患者は全透析患者の約3%と少ない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。