StudyMed医師国家試験

肝臓が「作れない」「片付けられない」―検査値の向きで読む肝硬変の進行

第106回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第1問

肝硬変の進行とともに上昇するのはどれか。

  1. a.血小板数
  2. b.ICG 15分停滞率
  3. c.血清アルブミン値
  4. d.ヘパプラスチンテスト値
  5. e.Fischer(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸)比

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝硬変が進むと検査値がどちらに動くかを問う問題だ。丸暗記するより、各検査が「肝臓が作るもの」「肝臓が処理するもの」「門脈圧亢進の影響を受けるもの」のどれにあたるかで整理すると、迷わず解けるよ。
医学生医学生
肝臓が作るものは減って、処理するものは血中にたまる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。肝硬変では肝細胞の数と働き、つまり肝予備能が落ちる。同時に線維化で門脈の血流が滞り、門脈圧亢進が進む。この3つの軸で選択肢を見ていこう。まずは上昇するものから。ICG 15分停滞率はどういう検査だったかな。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝切除前の患者さんに検査していました。色素を注射して、15分後にどれだけ血中に残るかを見る検査ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ICGは静注すると血中で蛋白と結合し、ほぼ肝臓だけに取り込まれて、代謝されずに胆汁へ排泄される色素だ。肝細胞の機能や肝血流が落ちると色素が血中から除かれにくくなるから、停滞率が上がる。基準値は10%未満。これが正解だね。
医学生医学生
肝臓が「片付けるもの」の代表なんですね。では血清アルブミン値は、肝臓が作るものだから低下しますか。
ドクタードクター
そう。アルブミンは肝臓でのみ合成されるから、合成能が落ちれば低下する。膠質浸透圧を保つ主役なので、低下すると水分が血管外へ移りやすくなり、門脈圧亢進とあいまって腹水や浮腫の原因になる。
医学生医学生
ヘパプラスチンテスト値も、凝固因子を見る検査なので作るもの側でしょうか。数値が「延びる」イメージがあって少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いはよくあるね。延長するのはプロトロンビン時間という「時間」のほう。ヘパプラスチンテストはビタミンK依存性凝固因子のうち第II・VII・X因子の活性を、正常を100%前後とする活性値で表すから、合成が減れば値は低下する。凝固因子は半減期が短く、特に第VII因子は数時間なので、アルブミンより早く合成能の変化を反映するのが特徴だ。
医学生医学生
時間で表すか活性で表すかで、向きが逆になるんですね。血小板数は、脾腫で減るんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、それが一つ目の理由。門脈圧亢進で脾臓がうっ血・腫大し、脾機能亢進で血小板が脾臓に貯留・破壊される。もう一つは、血小板産生を促すトロンボポエチンが主に肝臓で作られるので、その産生も減ることだ。血小板数は線維化の程度とよく相関し、一般に10万/μL未満で肝硬変を疑う簡便な目安になる。
医学生医学生
Fischer比は、肝性脳症で下がると覚えていましたが、理由までは説明できません。
ドクタードクター
分子と分母に分けて考えると簡単だよ。分母の芳香族アミノ酸、つまりフェニルアラニンやチロシンは主に肝臓で代謝されるから、処理が追いつかず血中で増える。分子の分岐鎖アミノ酸、バリン・ロイシン・イソロイシンは主に骨格筋で消費され、肝臓で処理しきれないアンモニアの解毒にも筋肉で使われるから減る。分子が減って分母が増えるので、比は低下するわけだ。
医学生医学生
だから分岐鎖アミノ酸製剤で補うんですね。生化学で習ったアミノ酸代謝とつながりました。
ドクタードクター
その通り。このFischer比の低下が肝性脳症と関連し、BCAA製剤による治療の根拠になっている。では、ほかに肝硬変で上昇するものも挙げてみよう。
医学生医学生
肝臓が処理するものとして、ビリルビンとアンモニアは上がりますよね。
ドクタードクター
正解。ほかにγグロブリンも上がる。腸管から門脈を経て入ってくる抗原が肝臓で十分処理されず、免疫系を刺激するためと考えられている。ヒアルロン酸やIV型コラーゲン7S、M2BPGiといった線維化マーカーも上昇する。逆に、コリンエステラーゼや総コレステロールは合成能低下で下がる。
医学生医学生
重症度はChild-Pugh分類で評価しますが、ICG 15分停滞率は入っていましたか。
ドクタードクター
いい確認だね。Child-Pugh分類は肝性脳症、腹水、血清ビリルビン、血清アルブミン、プロトロンビン時間の5項目で、ICGは含まれない。ICG 15分停滞率は、日本で肝切除術の可否や切除範囲を判断する肝障害度分類で使われる。肝細胞癌の手術を考えるときに必ず登場するから、臨床では非常に重要な検査なんだ。
医学生医学生
検査値を見たら「作るもの・処理するもの・門脈圧」のどれかを考えれば、向きを間違えずに済みそうです。
ドクタードクター
そう、それがこの問題の本質だ。個々の数値の暗記よりも、肝臓の働きから逆算する習慣をつけておけば、初めて見る検査項目にも応用できるよ。

まとめ

肝硬変が進行すると、肝臓が合成するもの(アルブミン、凝固因子、コリンエステラーゼ、コレステロール)は低下し、肝臓が処理すべきもの(ビリルビン、アンモニア、芳香族アミノ酸、ICG)は血中にたまります。そのためICG 15分停滞率(基準値10%未満)は上昇し、肝予備能の評価や肝切除の可否判断に用いられます。血小板数は脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下で減少し、ヘパプラスチンテスト値は凝固因子の合成低下で低下します。Fischer比は分岐鎖アミノ酸の減少と芳香族アミノ酸の増加により低下し、肝性脳症と関連します。検査値の変化を「作る・処理する・門脈圧亢進」という肝臓の働きから理解しておくと、重症度評価や治療方針の判断に一貫して応用できます。

解答・解説

正解はbです

テーマ

肝硬変が進行すると、肝細胞の数と働き(肝予備能)が低下し、同時に門脈圧亢進が進む。検査値の変化は、主に次の3つの流れで理解できる。 1. 合成能の低下:肝臓で作られる物質(アルブミン、凝固因子、コレステロール、コリンエステラーゼなど)が減る。 2. 代謝・排泄能の低下:肝臓で処理されるべき物質(ビリルビン、アンモニア、芳香族アミノ酸、ICGなどの色素)が血中にたまる。 3. 門脈圧亢進と脾腫:脾機能亢進によって血球、特に血小板が減る。

考え方

各選択肢が「肝臓が作るもの」「肝臓が処理するもの」「門脈圧亢進の影響を受けるもの」のどれにあたるかを考えればよい。作られるもの(アルブミン、凝固因子)は減り、処理されるべきもの(ICG)は血中に残って停滞率が上がる。Fischer比は分子(分岐鎖アミノ酸)が減って分母(芳香族アミノ酸)が増えるため低下し、血小板数は減少する。したがって、肝硬変の進行とともに上昇するのはICG 15分停滞率である。

選択肢考察

  1. ×a.  血小板数

    肝硬変では血小板数は低下する。主な理由は2つある。第一に、門脈圧亢進によって脾臓がうっ血・腫大し(脾腫)、脾機能亢進により血小板が脾臓に貯留・破壊される。第二に、血小板産生を促すトロンボポエチンは主に肝臓で作られるため、肝機能低下によりその産生が減る。血小板数は線維化の程度とよく相関し、慢性肝炎から肝硬変への進行を推定する簡便な指標となる(一般に10万/μL未満で肝硬変を疑う)。進行すると赤血球・白血球も減り、汎血球減少を呈することがある。

  2. ○b.  ICG 15分停滞率

    ICG(インドシアニングリーン)は静注すると血中でアルブミンなどの蛋白と結合し、ほぼ肝臓だけに取り込まれて、代謝されずに胆汁中へ排泄される色素である。静注15分後に血中に残っている割合がICG 15分停滞率(ICG R15)で、基準値は10%未満である。肝細胞の機能や肝血流が低下すると色素が血中から除かれにくくなり、停滞率は上昇する。肝予備能の評価に用いられ、特に肝切除術の可否や切除範囲の決定に重要である。したがって、肝硬変の進行とともに上昇する。

  3. ×c.  血清アルブミン値

    アルブミンは肝臓でのみ合成される蛋白であり、肝硬変が進行して合成能が落ちると血清アルブミン値は低下する。アルブミンは膠質浸透圧を保つ主役であるため、低下すると血管内の水分が血管外へ移りやすくなり、門脈圧亢進とあいまって腹水や浮腫の原因となる。肝硬変の重症度分類であるChild-Pugh分類の評価項目の一つでもある。

  4. ×d.  ヘパプラスチンテスト値

    ヘパプラスチンテスト(HPT)は、肝臓で合成されるビタミンK依存性凝固因子のうち第II・VII・X因子の活性を総合的にみる検査で、正常を100%前後とする活性値で表す。肝硬変が進行すると凝固因子の産生が減るため、HPT値は低下する。凝固因子は半減期が短い(特に第VII因子は数時間)ため、アルブミンより早く肝合成能の変化を反映する。なお、プロトロンビン時間(PT)は延長し、PT活性(%)は低下する。

  5. ×e.  Fischer(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸)比

    Fischer比は、分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)と芳香族アミノ酸(AAA:フェニルアラニン、チロシン)のモル比である。肝硬変が進むと、AAAは主に肝臓で代謝されるため処理が追いつかず血中で増える。一方、BCAAは主に骨格筋で消費され、肝臓で処理しきれないアンモニアの解毒(筋でのグルタミン合成)にも使われるため減少する。分子が減り分母が増えるので、Fischer比は低下する。この低下は肝性脳症の発症と関連し、BCAA製剤による治療の根拠となっている。

肝硬変で変化する主な検査値

低下するもの: ・血清アルブミン、コリンエステラーゼ(ChE)、総コレステロール(合成能低下) ・凝固因子(ヘパプラスチンテスト値、PT活性の低下=PT延長) ・血小板数(脾機能亢進、トロンボポエチン産生低下) ・Fischer比、BTR(分岐鎖アミノ酸/チロシンのモル比) 上昇するもの: ・ICG 15分停滞率 ・血清ビリルビン ・血中アンモニア ・γグロブリン(腸管から門脈を経て入る抗原が肝臓で処理されず、免疫系を刺激するため) ・線維化マーカー(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S、M2BPGiなど)

Child-Pugh分類

肝硬変の重症度(肝予備能)の分類で、次の5項目をそれぞれ1~3点で評価し、合計点でA(5~6点)、B(7~9点)、C(10~15点)に分ける。 ・肝性脳症 ・腹水 ・血清ビリルビン ・血清アルブミン ・プロトロンビン時間(活性%またはINR) ICG 15分停滞率はChild-Pugh分類には含まれないが、日本で肝切除術の可否を判断する際に用いられる肝障害度分類の項目に含まれる。

POINT

・肝硬変では「肝臓が作るもの」(アルブミン、凝固因子、ChE、コレステロール)が低下する。 ・「肝臓が処理するもの」(ビリルビン、アンモニア、ICG、芳香族アミノ酸)が血中にたまる。ICG 15分停滞率は上昇する(基準値10%未満)。 ・血小板数は脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下で減少する。 ・Fischer比(BCAA/AAA)は低下し、肝性脳症と関連する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。