お酒が奪うビタミンB1―Wernicke脳症とKorsakoff症候群、似た名前の中から病因で見抜く
第106回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
アルコール依存症と関係があるのはどれか。2つ選べ。
- a.Leigh脳症
- b.Wernicke脳症
- c.Korsakoff症候群
- d.Kartagener症候群
- e.Lambert-Eaton症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
アルコール依存症では食事量の減少、吸収障害、肝臓での貯蔵能低下によりビタミンB1(チアミン)が欠乏しやすく、急性期にWernicke脳症、その後遺症としてKorsakoff症候群を生じます。Wernicke脳症は意識障害・眼球運動障害・小脳性運動失調を三徴とし、Korsakoff症候群は意識清明下での記銘力障害・失見当識・作話が特徴です。Leigh脳症はミトコンドリア病、Kartagener症候群は原発性線毛機能不全症、Lambert-Eaton症候群は肺小細胞癌に伴う抗VGCC抗体による疾患で、いずれも飲酒とは関係しません。臨床ではブドウ糖投与の前か同時にチアミンを投与することが重要で、Wernicke脳症の段階での早期治療が不可逆な健忘を防ぎます。名前の似た疾患を病因で整理する姿勢は、選択肢に惑わされない確かな知識につながります。
解答・解説
正解はb, cです
アルコール依存症に合併する中枢神経障害を問う一般問題である。 長期の大量飲酒者は、食事量の減少(アルコールでカロリーをまかなう)、消化管からの吸収障害、肝臓での貯蔵能低下などが重なり、ビタミンB1(チアミン)が欠乏しやすい。チアミンはピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼの補酵素として糖代謝に不可欠であり、糖をエネルギー源とする脳は欠乏の影響を強く受ける。その結果として急性期に生じるのがWernicke脳症、その後遺症として慢性的な記憶障害が残った状態がKorsakoff症候群である。両者は同一病態の急性期と慢性期とみなされ、まとめてWernicke-Korsakoff症候群とも呼ばれる。 残りの選択肢は、ミトコンドリア病(Leigh脳症)、線毛の先天異常(Kartagener症候群)、腫瘍随伴性の神経筋接合部疾患(Lambert-Eaton症候群)であり、いずれも飲酒とは病因的な関係がない。名前が似た「〜脳症」「〜症候群」を病因で区別できるかがポイントとなる。
選択肢考察
- ×a. Leigh脳症
Leigh脳症(亜急性壊死性脳脊髄症)はミトコンドリア病の一型である。ピルビン酸脱水素酵素複合体や呼吸鎖複合体の遺伝子異常(ミトコンドリアDNAまたは核DNAの変異)により、ATP(アデノシン三リン酸)産生が障害される。主に乳幼児期に発症し、発達退行、筋緊張低下、眼振、呼吸異常などを呈し、MRIで基底核や脳幹に左右対称性の病変を認める。血中・髄液中の乳酸・ピルビン酸上昇が手がかりとなる。遺伝性疾患であり、アルコール依存症とは関係しない。
- ○b. Wernicke脳症
Wernicke脳症はビタミンB1(チアミン)欠乏による急性脳症であり、原因として最も多いのがアルコール依存症に伴う栄養障害である。古典的三徴は意識障害(せん妄・注意障害など)、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調(歩行失調)であるが、三徴がそろう例は一部にすぎない。病変は乳頭体、第三脳室・中脳水道周囲、視床内側などに生じる。治療は速やかなチアミンの非経口投与であり、ブドウ糖を先に投与するとチアミンが消費され症状が悪化しうるため、ブドウ糖輸液の前か同時にチアミンを投与する。したがってアルコール依存症と関係がある。
- ○c. Korsakoff症候群
Korsakoff症候群は、Wernicke脳症に引き続いて(あるいは慢性的なチアミン欠乏により)生じる健忘症候群であり、アルコール依存症が代表的な背景である。記銘力障害(前向性健忘)、逆向性健忘、失見当識、作話を特徴とし、意識は清明で知能は比較的保たれる。乳頭体や視床背内側核の障害が関与する。いったん完成すると回復は不十分なことが多いため、Wernicke脳症の段階での早期治療が重要である。アルコール依存症と関係がある。
- ×d. Kartagener症候群
Kartagener症候群は原発性線毛機能不全症(primary ciliary dyskinesia)の一型で、主に常染色体劣性遺伝形式をとる。線毛のダイニン腕などの構造異常により線毛運動が障害され、内臓逆位、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎の三主徴を呈する。精子の鞭毛運動も障害されるため男性不妊を伴うことがある。先天性疾患であり、アルコール依存症とは関係しない。
- ×e. Lambert-Eaton症候群
Lambert-Eaton筋無力症候群は、神経終末の電位依存性カルシウムチャネル(P/Q型VGCC)に対する自己抗体により、アセチルコリン放出が減少する自己免疫疾患である。約半数は肺小細胞癌に伴う腫瘍随伴症候群として発症する。近位筋優位の筋力低下、腱反射低下、口渇などの自律神経症状を示し、重症筋無力症と異なり反復運動で筋力が一時的に改善する。神経反復刺激試験では高頻度刺激で振幅が漸増(waxing)する。アルコール依存症とは関係しない。
アルコール関連の精神・神経障害
・急性中毒:単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊 ・離脱症状:早期(最終飲酒後数時間〜2日程度)に手指振戦、発汗、不眠、不安、離脱けいれん(アルコールてんかん)。後期(最終飲酒後2〜3日頃)に振戦せん妄(意識混濁、幻視、精神運動興奮、自律神経亢進) ・アルコール幻覚症:意識清明下で主に幻聴が出現する ・アルコール性嫉妬妄想 ・栄養障害関連:Wernicke脳症、Korsakoff症候群(ビタミンB1欠乏)、ペラグラ脳症(ニコチン酸欠乏) ・その他:Marchiafava-Bignami病(脳梁の脱髄・壊死)、橋中心髄鞘崩壊症(低ナトリウム血症の急速補正で生じやすい)、アルコール性小脳変性症、多発ニューロパチー、アルコール性認知症
Wernicke脳症とKorsakoff症候群の対比
・Wernicke脳症:急性、意識障害・眼球運動障害・失調、治療で改善しうる ・Korsakoff症候群:慢性、意識清明下の健忘・作話・失見当識、改善しにくい
POINT
・Wernicke脳症とKorsakoff症候群はいずれもビタミンB1欠乏が原因で、アルコール依存症が代表的背景 ・Wernicke脳症の三徴:意識障害、眼球運動障害、小脳性運動失調 ・Korsakoff症候群:記銘力障害、失見当識、作話(意識清明) ・ブドウ糖投与の前にチアミンを投与する ・Leigh脳症=ミトコンドリア病、Kartagener症候群=線毛機能不全、Lambert-Eaton症候群=肺小細胞癌に伴う抗VGCC抗体
