StudyMed医師国家試験

黒く広がる肺、長く続く呼気―胸部X線から肺気腫の聴診所見を導く

第106回医師国家試験 D問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第14問

長期の喫煙歴があり,労作時の呼吸困難を訴える患者の胸部エックス線写真を別に示す。  この疾患で認められる可能性が高いのはどれか。2つ選べ。

第106回 D問題 第14問の問題画像
  1. a.fine crackles
  2. b.声音振盪の増強
  3. c.呼吸音の減弱
  4. d.胸膜摩擦音
  5. e.呼気の延長

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長期喫煙者の胸部エックス線写真から疾患を読み取り、そこで得られる身体所見を予想する問題だ。病名を当てるだけでなく、「その病態なら聴診や触診でどう感じるか」を理屈でつなげられるかがポイントになる。まず写真から何が読み取れるかな。
医学生医学生
両肺が全体に黒っぽくて、横隔膜が低く平らになっています。心臓も細長く見えます。
ドクタードクター
よく見えているね。肺野の透過性亢進、横隔膜の低位・平坦化、そして滴状心と呼ばれる縦長の心陰影。末梢の血管影も乏しい。これらはすべて肺が過膨張していることを示す所見だ。喫煙歴と労作時呼吸困難を合わせると?
医学生医学生
肺気腫、つまり気腫型のCOPDですね。
ドクタードクター
その通り。では病態を確認しよう。喫煙による慢性炎症で肺胞壁が壊れると、肺は縮もうとする弾性を失う。すると息を吐くときに末梢の細い気道が周りから支えられず潰れてしまい、空気が出ていきにくくなる。吐き切れない空気が残るから、肺はどんどん膨らんでいくわけだ。
医学生医学生
生理学の講義で、肺気腫は「吸えるけど吐けない病気」と習いました。
ドクタードクター
いい覚え方だね。そこから聴診所見を考えてみよう。吐くのに時間がかかるなら、聴診では何が起きる?
医学生医学生
息を吐き終わるまでが長くなるので、呼気の延長が聞こえるはずです。
ドクタードクター
正解。呼気の延長は気流閉塞を直接反映する所見で、スパイロメトリーで1秒率が70%未満になることと対応している。もう一つ、肺の中の空気が増えると音の伝わり方はどうなるだろう。
医学生医学生
空気が多いと音が伝わりにくいので……呼吸音が弱くなりますか。
ドクタードクター
そう、呼吸音の減弱だ。含気が増えて音が胸壁に届きにくいうえ、換気量自体も落ちているから、重症例では呼吸音がほとんど聞こえないこともある。この2つが正解になる。残りの選択肢も理屈で切っていこう。fine cracklesはどうかな。
医学生医学生
吸気の終わりにパリパリ聞こえる捻髪音ですよね。呼吸器内科の実習で、間質性肺炎の患者さんで聞かせてもらいました。
ドクタードクター
まさにその疾患に特徴的な音だ。硬くなった肺胞が吸気の終わりに急に開くことで生じると考えられていて、肺気腫の典型所見ではない。次に声音振盪の増強はどうだろう。
医学生医学生
空気が多いなら振動も伝わりにくいので、むしろ減弱する気がします。
ドクタードクター
その通り。空気は振動を伝えにくいから、肺気腫では声音振盪は減弱する。増強するのは、肺炎で肺胞が浸出液に満たされた硬化病変のように、振動が伝わりやすくなる状態だ。OSCEの胸部診察でも、手のひらで触れて左右差を比べる練習をしたはずだね。
医学生医学生
はい、「ひとーつ」と言ってもらうやつですね。胸膜摩擦音は胸膜炎の音だったと思います。
ドクタードクター
そう。炎症で粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜がこすれ合う「ギュッギュッ」という音で、胸水がまだ少ない時期に聴かれやすい。肺気腫は胸膜に炎症を起こす病気ではないから、可能性は低い。
医学生医学生
病態から考えれば、肺気腫は「音も振動も伝わりにくく、吐くのに時間がかかる」とまとめられますね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展として、ほかの身体所見も押さえておこう。視診ではビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸、胸鎖乳突筋など呼吸補助筋の発達、吸気時に下部胸郭が内側に引き込まれるHoover徴候。打診では過共鳴音と肝濁音界の下降がみられる。心音が小さく聞こえることもある。
医学生医学生
口すぼめ呼吸は、自分で気道に圧をかけて潰れにくくしているんでしたっけ。
ドクタードクター
よく知っているね。呼気に抵抗をかけて気道内圧を保ち、末梢気道の虚脱を防いでいると考えられている。なお、COPDでも増悪時や分泌物が多いときにはwheezesが聞こえることがあるから、「肺気腫ではラ音は絶対に聞こえない」と決めつけないこと。それから、声音振盪の減弱は胸水や気胸でもみられるので、打診や画像と組み合わせて判断するのが臨床の基本だよ。

まとめ

長期喫煙歴と労作時呼吸困難があり、胸部エックス線写真で肺野の透過性亢進、横隔膜の低位・平坦化、滴状心を認めれば、肺の過膨張を伴う肺気腫(気腫型COPD)を考えます。肺胞壁の破壊で弾性収縮力が失われると呼気時に末梢気道が虚脱し、呼気の延長が生じます。また含気の増加と換気量の低下により呼吸音や声音振盪は減弱し、打診では過共鳴音となります。fine cracklesは間質性肺炎、声音振盪の増強は肺炎などの硬化病変、胸膜摩擦音は胸膜炎の所見として区別しましょう。身体所見を暗記ではなく病態から導く習慣は、ベッドサイドでの診察の精度を高める土台になります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

・長期の喫煙歴: 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)の最大の危険因子である。 ・労作時の呼吸困難: COPDの代表的な症状で、ゆっくり進行する。 ・胸部エックス線写真: 両側肺野の透過性亢進(肺が黒っぽく写る)、横隔膜の低位・平坦化、心陰影の縦長化・狭小化(滴状心)、肺野末梢の血管影の減少がみられる。これらは肺が過膨張している所見である。

診断

以上から、肺気腫(気腫型COPD)と診断できる。肺気腫では、喫煙などによる慢性炎症で肺胞壁が破壊され、肺が弾性(縮もうとする力)を失う。その結果、呼気時に末梢の細い気道が周囲から支えられずに潰れやすくなり、息を吐き出しにくくなる(呼気性の気流閉塞)。吐き切れない空気が肺内に残るため残気量が増え、肺が過膨張する。

設問への考え方

身体所見は、この病態から導ける。 ・気流閉塞 → 呼気に時間がかかり、呼気が延長する。 ・肺の過膨張・含気の増加と気流の低下 → 胸壁に伝わる音や振動が弱まり、呼吸音や声音振盪は減弱する。打診では過共鳴音となる。 ほかにも、ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸、呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の発達、吸気時に下部胸郭が内側に引き込まれるHoover徴候などがみられる。

選択肢考察

  1. ×a.  fine crackles

    fine crackles(捻髪音)は、吸気の後半に「パリパリ」「チリチリ」と聞こえる細かい断続性ラ音で、硬くなった肺胞が吸気の終わりに急に開くことで生じると考えられている。間質性肺炎(特発性肺線維症など)や石綿肺などの間質性肺疾患に特徴的であり、肺気腫の典型所見ではない。

  2. ×b.  声音振盪の増強

    声音振盪は、患者に声を出してもらい、その振動を胸壁に当てた手のひらで触知する診察法である。空気は振動を伝えにくいため、肺の含気が増えて過膨張した肺気腫では声音振盪は減弱する。増強するのは、肺炎などで肺胞内が浸出液で満たされて振動が伝わりやすくなる状態(肺の硬化・コンソリデーション)である。

  3. ○c.  呼吸音の減弱

    肺気腫では肺胞壁の破壊と過膨張により、肺内の空気が増えて音が胸壁に伝わりにくくなる。さらに気流閉塞で換気量そのものが低下するため、聴診で呼吸音は全体に減弱する。重症例では呼吸音がほとんど聞こえないこともある。

  4. ×d.  胸膜摩擦音

    胸膜摩擦音は、炎症で表面が粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜が呼吸に伴ってこすれ合うことで生じる「ギュッギュッ」という音である。胸膜炎の初期など、胸水が少量の時期に聴取されやすい。肺気腫は胸膜の炎症を伴う疾患ではなく、認められる可能性は低い。

  5. ○e.  呼気の延長

    肺気腫では肺の弾性収縮力が低下し、呼気時に末梢気道が虚脱して空気が出にくくなる。そのため、息を吐き終わるまでに時間がかかり、聴診上呼気が延長する。気流閉塞を反映する重要な所見であり、呼吸機能検査で1秒率(FEV1/FVC)が70%未満となることと対応する。

COPDの概要

COPDは、たばこ煙などの有害物質を長期に吸入することで生じる肺の慢性炎症性疾患であり、完全には元に戻らない気流閉塞を特徴とする。末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で組み合わさり、気腫性病変が優位なものを気腫型、気道病変が優位なものを非気腫型と呼ぶ。

診断

気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満であり、他の気流閉塞を来す疾患を除外することで診断する。病期は予測1秒量に対する割合(%FEV1)で分類する。

肺気腫の検査所見

・胸部エックス線: 肺野の透過性亢進、横隔膜の低位・平坦化、滴状心、肋間腔の開大、胸骨後腔の拡大(側面像) ・胸部CT: 低吸収領域(low attenuation area: LAA)の散在 ・呼吸機能: 1秒率低下、残気量・全肺気量の増加、肺拡散能(DLCO)の低下

肺気腫の身体所見

・視診: ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸、呼吸補助筋の発達、Hoover徴候 ・打診: 過共鳴音、肝濁音界の下降 ・触診: 声音振盪の減弱 ・聴診: 呼吸音の減弱、呼気の延長、心音の減弱。気道分泌物が多い場合や増悪時には連続性ラ音(wheezes)を聴取することがある。

聴診所見の対比

・fine crackles(捻髪音): 間質性肺炎、石綿肺 ・coarse crackles(水泡音): 肺炎、気管支拡張症、肺水腫 ・wheezes(笛音): 気管支喘息、COPD増悪 ・胸膜摩擦音: 胸膜炎 ・声音振盪の増強: 肺炎などの硬化病変。減弱: 肺気腫、胸水、気胸

POINT

・長期喫煙歴+労作時呼吸困難+肺野透過性亢進・横隔膜平坦化・滴状心 → 肺気腫(COPD)。 ・肺気腫の身体所見: 呼吸音の減弱、呼気の延長、声音振盪の減弱、打診で過共鳴音、ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸。 ・fine cracklesは間質性肺炎、胸膜摩擦音は胸膜炎、声音振盪の増強は肺炎などの硬化病変でみられる。 ・COPDの診断は気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。