ショックの乳児に何を入れる?―21-水酸化酵素欠損症の副腎クリーゼと「足りないものを補う」原則
第106回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
21-水酸化酵素欠損症である先天性副腎皮質過形成の乳児が急性副腎不全を起こした場合の初期治療として適切なのはどれか。
- a.抗菌薬の投与
- b.水分投与の制限
- c.アドレナリンの投与
- d.LH-RHアナログの投与
- e.糖質コルチコイドの投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成の大半を占め、コルチゾールとアルドステロンの欠乏、ACTH過剰による色素沈着、副腎アンドロゲン過剰による女児の外性器男性化を来し、17-OHP高値が診断の鍵で新生児マススクリーニングの対象です。塩類喪失型の乳児では感染や嘔吐を契機に急性副腎不全を起こし、脱水、低血糖、低Na血症・高K血症、ショックに陥ります。初期治療はヒドロコルチゾン静注による糖質コルチコイドの補充が最優先で、生理食塩水の輸液とブドウ糖の補充を並行し、水分制限や昇圧薬単独の対応は適切ではありません。安定後は糖質・鉱質コルチコイドの維持療法を行い、発熱時などのシックデイにはステロイドを増量するよう家族に指導することがクリーゼの予防につながります。「何が足りないのかを病態から考え、それを直接補う」という発想は、内分泌救急全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
テーマ
21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成(congenital adrenal hyperplasia: CAH)の約90%を占める常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。副腎皮質のステロイド合成経路で、21-水酸化酵素(CYP21A2)が働かないため、コルチゾール(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)が十分に作られない。
病態の整理
・コルチゾール不足 → 視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まり、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰分泌される → 副腎が過形成となり、皮膚・外陰部の色素沈着が生じる。 ・合成経路がせき止められ、手前の前駆体である17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)が蓄積し、行き場を失った前駆体が副腎アンドロゲンの合成に回る → 女児の外性器男性化、男児では将来の性早熟の原因となる。 ・重症型(塩類喪失型)ではアルドステロンも欠乏し、腎からNaと水が失われ、Kが排泄されにくくなる → 低Na血症、高K血症、脱水、血圧低下を来す。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)
乳児では感染・発熱・嘔吐などのストレスを契機に、コルチゾールの相対的不足が急激に顕在化し、哺乳不良、嘔吐、脱水、低血糖、低Na血症・高K血症、循環不全(ショック)に陥る。放置すれば死に至る緊急事態である。
初期治療の考え方
不足しているホルモンそのものを直ちに補うことが治療の中心である。静脈路を確保し、ヒドロコルチゾン(コルチゾールと同じ物質の製剤)の静注を速やかに開始する。同時に、生理食塩水による細胞外液の補充と、ブドウ糖による低血糖の是正を行う。ヒドロコルチゾンは大量に投与すると鉱質コルチコイド作用も発揮するため、急性期は糖質コルチコイドの投与が最優先であり、状態が安定し経口摂取が可能になってから鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン)を併用する。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬の投与
抗菌薬は細菌感染症を治療する薬であり、副腎不全そのものを改善する作用はない。副腎クリーゼは感染症が誘因となることが多く、細菌感染が疑われる場合には併用を検討するが、それは誘因への対処である。急性副腎不全の初期治療の中心は、不足したステロイドホルモンの補充である。
- ×b. 水分投与の制限
塩類喪失型の急性副腎不全では、アルドステロン欠乏により腎からNaと水が失われ、嘔吐・哺乳不良も加わって高度の脱水と循環血液量減少に陥っている。水分を制限すると脱水とショックをさらに悪化させる。必要なのは逆に、生理食塩水による十分な輸液とブドウ糖の補給である。
- ×c. アドレナリンの投与
アドレナリンは心停止時の蘇生やアナフィラキシーの治療などに用いられる。副腎クリーゼに伴う低血圧・ショックは、コルチゾール欠乏によってカテコラミンに対する血管の反応性が低下していることが一因であり、昇圧薬だけでは改善しにくい。原因であるステロイド欠乏を補うことが優先され、アドレナリンは初期治療として適切でない。
- ×d. LH-RHアナログの投与
LH-RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン、GnRH)アナログは、持続投与により下垂体のLH-RH受容体を脱感作させ、性腺刺激ホルモンの分泌を抑える薬である。中枢性思春期早発症、子宮内膜症、子宮筋腫、前立腺癌、閉経前乳癌などに用いられる。21-水酸化酵素欠損症では、長期経過中に中枢性思春期早発症を合併した場合に使われることはあるが、急性副腎不全の治療とは無関係である。
- ○e. 糖質コルチコイドの投与
急性副腎不全の本態はコルチゾールの欠乏であり、ヒドロコルチゾンの静注による糖質コルチコイドの補充が救命のために最も重要な初期治療である。十分量のヒドロコルチゾンは鉱質コルチコイド作用も併せ持つため、Na保持と循環の改善にも寄与する。さらに、ACTHの過剰分泌を抑えることで副腎アンドロゲンの過剰産生も抑制される。実際には、静脈路を確保したうえで糖質コルチコイドの投与と並行して、生理食塩水による輸液とブドウ糖の補充を行う。
21-水酸化酵素欠損症の病型
・塩類喪失型: 酵素活性がほぼ欠如した最重症型。コルチゾールとアルドステロンがともに欠乏し、生後早期(多くは生後1〜2週以降)に哺乳力低下、嘔吐、体重増加不良、脱水、ショックを来す。 ・単純男性型: アルドステロンはある程度保たれ、塩類喪失症状は目立たない。アンドロゲン過剰による症状が中心となる。 ・非古典型: 軽症で、思春期以降に多毛、月経異常などで気づかれる。
診断のポイント
・女児の外性器男性化(陰核肥大、陰唇癒合など。46,XX性分化疾患。かつては女性仮性半陰陽と呼ばれた) ・皮膚・外陰部の色素沈着(ACTH過剰による) ・塩類喪失型では哺乳力低下、嘔吐、体重増加不良、脱水、ショック、低血糖、低Na血症・高K血症 ・血中17-OHP高値。日本では新生児マススクリーニングの対象疾患であり、濾紙血の17-OHP測定で早期発見される。 ・男児は外性器異常が目立たないため、スクリーニングがないと塩類喪失によるショックで初めて見つかることがある。 ・未治療・治療不十分の場合、アンドロゲン過剰により男児では性早熟、両性で骨年齢の促進と早期の骨端線閉鎖による最終身長の低下を来す。
治療
・急性期(副腎クリーゼ): ヒドロコルチゾン静注、生理食塩水の輸液、ブドウ糖の補充。高K血症にも注意する。 ・維持療法: ヒドロコルチゾンの経口補充(ACTH・アンドロゲン過剰の抑制も目的)と、塩類喪失型ではフルドロコルチゾンの投与、乳児期は食塩の補充を行う。 ・シックデイ対応: 発熱や嘔吐などのストレス時には糖質コルチコイドを通常の数倍に増量する。経口摂取ができなければ注射で投与する。
POINT
・21-水酸化酵素欠損症はCAHの約90%を占め、コルチゾールとアルドステロンが欠乏し、副腎アンドロゲンが過剰となる。 ・17-OHP高値が診断の鍵で、新生児マススクリーニングの対象である。 ・急性副腎不全(副腎クリーゼ)の初期治療は、ヒドロコルチゾン静注(糖質コルチコイド)+生理食塩水の輸液+ブドウ糖の補充である。 ・塩類喪失型では低Na血症・高K血症・脱水を来すため、水分制限は禁忌的である。 ・ストレス時には糖質コルチコイドを増量する(シックデイ対応)。
