StudyMed医師国家試験

「いつも休まらない」―対象のない不安が示す全般性不安障害

第106回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第12問

全般性不安障害の患者の訴えと考えられるのはどれか。

  1. a.「人前で話すとすぐに顔が赤くなります」
  2. b.「おなかの痛みが癌ではないかと心配です」
  3. c.「いつも緊張して,休まるときがありません」
  4. d.「誰もいないところで発作が起こるのが心配です」
  5. e.「鍵をかけたのか,何度も確認しないと気が済みません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、不安を主症状とする精神疾患を、患者さんの一言から見分ける問題だ。どの選択肢も「心配」や「緊張」を語っているけれど、注目すべきは「何に対して」「どんな形で」不安が生じているか。そこを意識して読み比べてみよう。
医学生医学生
全部不安っぽく聞こえて、正直どれも当てはまりそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。だから整理の軸を3つ用意しよう。不安の対象が限定されているか、発作性か持続性か、行為の反復を伴うか。この3つで分類すると、ぐっと見通しがよくなる。
医学生医学生
全般性不安障害は、名前の通り全般的、つまり対象が決まっていない不安ということですか。
ドクタードクター
その通り。仕事、家族、健康、お金など日常のあらゆることを過剰に心配して、それを自分で止められない。対象がはっきりせず漂うような不安を「浮動性不安」と呼ぶんだ。DSM-5では、こうした心配が6か月以上、ある日のほうが多い状態で続き、落ち着きのなさ、疲れやすさ、集中困難、易怒性、筋緊張、睡眠障害のうち3つ以上を伴うことが要件になっている。
医学生医学生
だとすると、「いつも緊張して休まるときがない」という訴えがぴったりですね。特定の場面の話をしていません。
ドクタードクター
正解。対象を選ばず、常に張りつめて気が休まらない、というのは慢性の浮動性不安とそれに伴う過覚醒そのものだ。では、ほかの訴えがどの疾患に当たるかも確認しよう。人前で話すと顔が赤くなる、というのは?
医学生医学生
精神科の講義で習った社交不安障害だと思います。日本では対人恐怖とか赤面恐怖と呼ばれていたと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。人前での発表や会食など、他人から注目される場面に限って強い不安が起こり、赤面や発汗、震えが出る。場面が限定されている点が全般性不安障害との違いだ。次に、おなかの痛みが癌ではないかと心配、という訴えはどうかな。
医学生医学生
これも不安ではありますよね。健康のことを心配しているので、全般性不安障害の一部とも言えそうな気がしました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。全般性不安障害の人も健康を心配することはあるけれど、心配はあれこれ移り変わる。一方、ささいな身体感覚から重い病気にかかっていると思い込み、検査で異常がないと言われても安心できない、という一つの病気へのとらわれは心気障害、DSM-5でいう病気不安症や身体症状症の特徴なんだ。
医学生医学生
なるほど、対象が「特定の病気」に絞られているかどうかですね。誰もいないところで発作が起こるのが心配、というのはパニック障害でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。動悸や呼吸困難、死の恐怖を伴うパニック発作を経験した人が、また起きたらどうしようと恐れるのが予期不安。さらに、逃げられない・助けを得られない場所を避けるようになると広場恐怖を伴う。発作という特定の出来事に向いた不安だから、全般性不安障害とは違う。
医学生医学生
最後の、鍵を何度も確認するのは強迫性障害ですね。臨床実習で精神科を回ったとき、手洗いを何十分も止められない患者さんを担当しました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。考えが本人の意思に反して繰り返し浮かぶのが強迫観念、それを打ち消すための確認や手洗いが強迫行為。本人も不合理だと自覚していることが多い。ちなみにDSM-5では、強迫性障害は不安症群から独立して「強迫症および関連症群」に分類されているよ。
医学生医学生
急に高まる発作性の不安がパニック障害、ずっと続く慢性の不安が全般性不安障害、と対比すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
いい整理だ。かつてはどちらも不安神経症とまとめられていたけれど、今は区別して扱う。治療も押さえておこう。全般性不安障害の薬物療法はSSRIなどの抗うつ薬が中心で、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性はあるものの依存や耐性の問題があるから、短期間の補助にとどめるのが基本だ。精神療法では認知行動療法が有効とされている。
医学生医学生
内科の外来で「なんとなく調子が悪い」と繰り返し受診する人の中にも、こういう方が紛れていそうです。
ドクタードクター
まさにそう。肩こりや頭痛、不眠、疲れやすさといった身体症状で内科を受診することが多いから、身体疾患の検索と並行して、慢性的な心配や緊張が背景にないかを聞く姿勢が大切だ。うつ病やほかの不安症の合併も多いので、そこにも目を配ってほしい。

まとめ

全般性不安障害は、特定の対象や場面に限定されない過剰な心配と緊張(浮動性不安)が長期間続く疾患で、落ち着きのなさ、疲れやすさ、集中困難、易怒性、筋緊張、睡眠障害などを伴います。不安を主症状とする疾患は、不安の対象が限定されているか、発作性か持続性か、行為の反復を伴うかで整理すると鑑別しやすく、人前に限定された不安は社交不安障害、特定の病気へのとらわれは心気障害(病気不安症)、発作への予期不安はパニック障害、確認行為の反復は強迫性障害が考えられます。治療はSSRIと認知行動療法が中心で、ベンゾジアゼピン系薬は短期の補助にとどめます。身体症状で一般診療科を受診することも多いため、患者の訴えの「質」から不安の性状を読み取る力は、どの診療科でも役立つ臨床能力です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

不安を中心とする精神疾患(不安症群および関連疾患)を、患者の訴えの特徴から見分ける問題である。いずれの疾患も「不安」や「心配」を訴えるが、何に対して、どのような形で不安が生じるのかが鑑別の鍵となる。

全般性不安障害の特徴

全般性不安障害(generalized anxiety disorder: GAD、DSM-5では全般不安症)は、特定の対象や状況に限定されない慢性的な不安と心配が持続する疾患である。仕事、家族、健康、お金など日常のさまざまな事柄について過剰に心配し、その心配を自分で抑えることが難しい。このように対象がはっきりせず漂うような不安を「浮動性不安」と呼ぶ。DSM-5では、こうした過剰な不安と心配が6か月以上、起こる日の方が多い状態で続き、落ち着きのなさ(緊張感・神経の高ぶり)、疲れやすさ、集中困難、易怒性、筋緊張、睡眠障害のうち3つ以上を伴うことが診断の要件とされる。

考え方

選択肢の訴えを「不安の対象が限定されているか」「発作性か持続性か」「行為の反復を伴うか」で整理すると、特定の場面(人前)に限定される不安は社交不安障害、特定の病気へのとらわれは心気障害、発作とその予期不安はパニック障害、確認行為の反復は強迫性障害と分類できる。対象を限定せず常に緊張が続いているという訴えが、全般性不安障害に合致する。

選択肢考察

  1. ×a.  「人前で話すとすぐに顔が赤くなります」

    人前で話す、注目を浴びるといった社会的な場面に限って強い不安や緊張が生じ、赤面・発汗・震えなどを来すのは社交不安障害(社交恐怖、社交不安症)の特徴である。日本では古くから対人恐怖や赤面恐怖として知られてきた。不安が特定の状況に限定されている点で、対象を選ばない全般性不安障害とは異なる。

  2. ×b.  「おなかの痛みが癌ではないかと心配です」

    身体のささいな症状や感覚をもとに、自分が重い病気(ここでは癌)にかかっているのではないかととらわれ続けるのは心気症状であり、心気障害(DSM-5では病気不安症、または身体症状が目立つ場合は身体症状症)でみられる。検査で異常がないと説明されても安心が得られないのが特徴である。不安の対象が特定の病気に限定されている点で全般性不安障害とは異なる。

  3. ○c.  「いつも緊張して,休まるときがありません」

    特定の対象や場面に結びつかず、常に緊張して気が休まらないという訴えは、慢性的な浮動性不安とそれに伴う過覚醒の状態を表している。全般性不安障害では、落ち着きのなさ、筋緊張、疲れやすさ、集中困難、易怒性、睡眠障害などを伴いながら、こうした持続的な不安・緊張が長期間続く。この訴えが全般性不安障害に最もよく合致する。

  4. ×d.  「誰もいないところで発作が起こるのが心配です」

    動悸、呼吸困難、発汗、死の恐怖などを伴うパニック発作を経験した患者が、「また発作が起きたらどうしよう」と恐れるのが予期不安であり、パニック障害(パニック症)の中核症状である。さらに、発作が起きたときに逃げられない・助けが得られない場所を恐れて避けるようになると広場恐怖を伴う。発作という特定の出来事に向けた不安であり、全般性不安障害の訴えではない。

  5. ×e.  「鍵をかけたのか,何度も確認しないと気が済みません」

    「鍵をかけ忘れたのではないか」という考えが本人の意思に反して繰り返し浮かび(強迫観念)、それを打ち消すために確認を繰り返してしまう(強迫行為)のは強迫性障害(強迫症)の症状である。本人も過剰・不合理だと自覚していることが多い。確認行為という特徴的な行動の反復がある点で、全般性不安障害とは区別される。

不安を主症状とする主な疾患と典型的な訴え

・全般性不安障害: 対象を限定しない慢性の心配・緊張(浮動性不安)。「いつも何か心配で落ち着かない」。 ・パニック障害: 突然起こる強い不安発作(急性不安)と、発作の再発を恐れる予期不安。広場恐怖を伴うことがある。 ・社交不安障害: 人前での発表や会食など、他人から注目される場面での強い不安。赤面・震え・発汗。 ・限局性恐怖症: 高所、動物、血液、注射など特定の対象への恐怖。 ・強迫性障害: 強迫観念と強迫行為(確認、手洗いなど)。DSM-5では不安症群から独立し、「強迫症および関連症群」に分類された。 ・心気障害: 重い病気にかかっているというとらわれ。DSM-5では病気不安症・身体症状症として扱われる。

急性不安と慢性不安

不安が発作的に急激に高まるものをパニック障害、慢性に持続するものを全般性不安障害として区別する。かつてはいずれも「不安神経症」としてまとめられていた。

全般性不安障害の治療

薬物療法では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が中心となる。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があるが、依存や耐性の問題があるため短期間の補助的使用にとどめる。精神療法では認知行動療法が有効である。うつ病やほかの不安症の合併が多いことにも注意する。

POINT

・全般性不安障害は、対象を限定しない慢性の不安・心配(浮動性不安)と持続的な緊張が特徴である。 ・DSM-5: 過剰な不安と心配が6か月以上、落ち着きのなさ・疲れやすさ・集中困難・易怒性・筋緊張・睡眠障害のうち3つ以上。 ・人前での赤面 → 社交不安障害、病気へのとらわれ → 心気障害、発作の予期不安 → パニック障害、確認行為 → 強迫性障害。 ・急性不安発作はパニック障害、慢性の浮動性不安は全般性不安障害。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。