血管がなければ治らない―関節軟骨が「自然修復しない組織」である理由
第106回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
関節構成組織で,損傷によって部分的欠損が生じた場合に自然修復〈内因性修復〉が起こらないのはどれか。
- a.骨
- b.滑膜
- c.靱帯
- d.関節包
- e.関節軟骨
対話形式の解説
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ドクターまとめ
組織の自然修復には、出血による血腫形成と、そこへの炎症細胞・間葉系細胞の動員が欠かせないため、血管の有無が修復能を大きく左右します。骨、滑膜、関節包、靱帯は血管をもち、損傷されても骨癒合や瘢痕形成によって修復されます。一方、関節軟骨は血管・リンパ管・神経を欠く硝子軟骨で、軟骨細胞の増殖・移動能も低いため、軟骨層内の部分的欠損は自然修復されず、軟骨下骨に達した場合も元とは性質の異なる線維軟骨で埋まるにとどまります。この修復能の乏しさが変形性関節症の進行性や、骨髄刺激法・骨軟骨柱移植などの治療が工夫される理由です。前十字靱帯や半月板内側部が治りにくいことも同じ「血行」の視点で説明でき、整形外科の病態理解の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
組織が損傷後に自ら修復するには、損傷部に血液が流れ込んで血腫(フィブリン塊)ができ、そこへ炎症細胞や修復を担う未分化な細胞(間葉系幹細胞・線維芽細胞など)が動員される必要がある。つまり、血管の有無が自然修復(内因性修復)能を大きく左右する。 関節を構成する組織のうち、骨、滑膜、関節包、靱帯はいずれも血管をもち、損傷されると出血・炎症を経て修復が進む。これに対し関節軟骨は硝子軟骨からなり、血管・リンパ管・神経をもたない。栄養は主に関節液からの拡散に依存し、軟骨細胞は豊富な基質の中に閉じ込められて数も少なく、増殖能・移動能に乏しい。このため軟骨内にとどまる部分的な欠損では修復細胞が供給されず、欠損はそのまま残る。これが本問の正解の根拠である。 なお、損傷が軟骨の下にある骨(軟骨下骨)にまで達すると、骨髄から出血とともに間葉系細胞が流入して欠損部を埋めるが、できあがるのは線維軟骨であり、元の硝子軟骨とは構造も力学的性質も異なる。修復能が乏しいことは、変形性関節症が進行性であることや、軟骨損傷に対して手術的な修復法が工夫されている理由でもある。
選択肢考察
- ×a. 骨
骨は血流が豊富な組織で、骨折しても血腫形成→炎症→仮骨形成→リモデリングという過程を経て、瘢痕を残さず元の骨組織に近い形で修復される(骨癒合)。関節内骨折でも適切な整復・固定を行えば骨癒合が得られる。自然修復能は高い。
- ×b. 滑膜
滑膜は関節包の内面を覆う薄い膜で、血管に富み、関節液を産生・吸収する。細胞の増殖能も高く、損傷されても速やかに再生する。関節手術で滑膜を切除しても再生してくることが知られている。関節内出血(関節血症)の多くは滑膜など血管のある組織の損傷に由来する。
- ×c. 靱帯
靱帯は骨と骨をつなぐ密な結合組織で、血管を有しており、損傷されると瘢痕組織を形成して修復される。例えば膝の内側側副靱帯損傷の多くは保存療法(装具などによる安静)で治癒する。ただし前十字靱帯のように関節内にあって関節液に浸され、血腫が保持されにくい靱帯は断裂後の自然治癒が期待しにくく、再建術が行われることが多い。一般には靱帯は内因性の修復能をもつ組織である。
- ×d. 関節包
関節包は関節を包む線維性の袋で、外層の線維膜と内層の滑膜からなり、血管に富む。脱臼などで損傷されても瘢痕組織により修復される。肩関節脱臼後の関節包・関節唇の損傷が不完全な形で修復されると反復性脱臼の原因となるが、これは修復の質の問題であり、修復能そのものは備えている。
- ○e. 関節軟骨
関節軟骨は硝子軟骨で、血管・リンパ管・神経を欠き、栄養は関節液からの拡散による。軟骨細胞は基質中にまばらに存在し、増殖・移動する能力が低いため、軟骨層内にとどまる部分的欠損では修復細胞が供給されず、自然修復は起こらない。軟骨下骨に達する全層欠損では骨髄由来の細胞により修復されるが、形成されるのは線維軟骨で、元の硝子軟骨より耐久性に劣る。こうした修復能の乏しさが、変形性関節症が不可逆的に進行する一因となっている。
軟骨の種類
・硝子軟骨:関節軟骨、肋軟骨、気管軟骨、成長軟骨板など。II型コラーゲンとプロテオグリカン(アグリカン)を主成分とし、なめらかで衝撃を吸収する。 ・線維軟骨:椎間板の線維輪、半月板、恥骨結合、関節円板など。I型コラーゲンに富み、引っ張りに強い。 ・弾性軟骨:耳介、喉頭蓋など。弾性線維に富む。
関節軟骨の特徴
・血管・リンパ管・神経がない(そのため軟骨だけの損傷では痛みを感じにくく、気づかれにくい)。 ・栄養は関節液からの拡散に依存し、関節運動による加圧・除圧がその拡散を助ける。長期の固定は軟骨の変性を招く。
軟骨欠損に対する治療
・骨髄刺激法(マイクロフラクチャー、ドリリング):軟骨下骨に小孔をあけて骨髄由来細胞を誘導し、線維軟骨で欠損を埋める。 ・骨軟骨柱移植術(モザイクプラスティ):荷重のかからない部位から採取した骨軟骨柱を欠損部に移植する。 ・自家培養軟骨移植術:患者自身の軟骨細胞を培養して移植する。
半月板の血行
半月板は線維軟骨で、外周1/3程度(関節包側、red zone)には血行があるが、内側の部分(white zone)は血行が乏しい。このため外周部の断裂は縫合により治癒が期待できるが、内側部の断裂は治癒しにくく切除が選択されることが多い。
まとめ:関節構成組織の修復能
骨、滑膜、関節包、靱帯(関節外):血管あり → 修復される 関節軟骨:血管なし → 部分欠損は自然修復されない(全層欠損は線維軟骨で修復)
POINT
・関節軟骨(硝子軟骨)は無血管で、軟骨細胞の増殖・移動能も低いため、部分的欠損は自然修復されない。 ・軟骨下骨に達する損傷は骨髄由来細胞で修復されるが、線維軟骨になり、元の硝子軟骨には戻らない。 ・骨、滑膜、関節包、靱帯は血管をもち、内因性修復能がある。 ・半月板の内側部分、前十字靱帯も治癒しにくい組織として問われやすい。
