StudyMed医師国家試験

ためる神経・出す神経―下部尿路の支配で「仲間外れ」を見抜く

第106回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第5問

尿路の機能について誤っているのはどれか。

  1. a.尿管は蠕動運動で尿を輸送する。
  2. b.陰部神経は蓄尿に関与する。
  3. c.閉鎖神経は排尿に関与する。
  4. d.前立腺にはα1受容体が分布する。
  5. e.外尿道括約筋は随意筋である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は尿路の働きと神経支配についての問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、正しい知識で一つずつ確かめていこう。カギになるのは、蓄尿と排尿をそれぞれどの神経が担っているか、という整理だよ。
医学生医学生
生理学の講義で習ったはずなんですが、交感神経と副交感神経のどちらが「ためる」側か、いつも混乱してしまいます。
ドクタードクター
よくあるつまずきだね。覚え方としては、交感神経は「戦うときにトイレに行っていられない」から蓄尿、副交感神経は「くつろいでいるときに出す」から排尿、とイメージするといい。交感神経は下腹神経で胸腰髄のT10〜L2から、副交感神経は骨盤神経で仙髄のS2〜S4から出る。そしてもう一つ、体性神経の陰部神経も仙髄S2〜S4から出て蓄尿に働くんだ。
医学生医学生
神経は3系統あるんですね。陰部神経はどこに作用するんですか。
ドクタードクター
外尿道括約筋だ。仙髄のオヌフ核から出る体性運動神経で、外尿道括約筋や骨盤底筋群を支配している。ためている間はこの神経の働きで括約筋が締まり続けて、咳やくしゃみで腹圧が急に上がったときも反射的に締めて尿漏れを防いでいる。だから「陰部神経は蓄尿に関与する」は正しい。
医学生医学生
外尿道括約筋は横紋筋だから随意筋、という記述も正しいですよね。排尿を途中で止められるのはそのおかげでしょうか。
ドクタードクター
その通り。一方、膀胱頸部の内尿道括約筋は平滑筋で、交感神経支配の不随意筋。この対比はセットで覚えておこう。
医学生医学生
前立腺のα1受容体の話は、薬理学で前立腺肥大症の薬として出てきました。タムスロシンですよね。
ドクタードクター
そう。膀胱頸部、前立腺、前立腺部尿道の平滑筋にはα1受容体が豊富で、ノルアドレナリンが結合すると収縮して尿道抵抗が高まる。前立腺肥大症では、腺そのものが大きくなる機械的な閉塞に加えて、この平滑筋の緊張による機能的な閉塞が加わる。だからα1遮断薬が第一選択になるんだ。起立性低血圧には注意が必要だよ。
医学生医学生
尿管の蠕動運動はどうでしょう。尿は重力で流れているだけかと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。尿管壁には平滑筋層があって、腎盂付近のペースメーカー細胞から始まる収縮波が膀胱側へ伝わっていく。だから寝ていても尿は膀胱に運ばれる。尿管結石の疝痛が強いのも、閉塞部より上流で蠕動が強まって内圧が上がるからなんだ。
医学生医学生
救急外来の実習で、尿管結石の患者さんがじっとしていられないほど痛がっていたのを思い出しました。とすると、残る閉鎖神経が誤りですね。名前からして骨盤の中にありそうで、少し迷いました。
ドクタードクター
正解は閉鎖神経だ。閉鎖神経は腰神経叢のL2〜L4から起こり、骨盤の閉鎖孔を通って大腿内側へ向かう。長内転筋などの股関節内転筋群と、大腿内側の皮膚感覚を担う下肢の神経で、膀胱や尿道の支配には関与しない。
医学生医学生
でも、泌尿器科の実習で「閉鎖神経反射」という言葉を聞きました。膀胱と関係があるのでは。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。経尿道的膀胱腫瘍切除術で膀胱の側壁を電気メスで切るとき、壁のすぐ外を走る閉鎖神経が刺激されて、下肢が急に内転することがある。これが閉鎖神経反射で、膀胱穿孔の原因にもなる。ただしこれは解剖学的に近いから起こるだけで、排尿機能とは別の話なんだ。
医学生医学生
位置が近いだけで、働きとしては無関係ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に、排尿反射の全体像も押さえておこう。膀胱が伸びた情報は骨盤神経の求心線維から仙髄に入り、橋の排尿中枢へ届く。橋排尿中枢が働くと、副交感神経が排尿筋を収縮させ、同時に交感神経と陰部神経の活動が抑えられて括約筋がゆるみ、排尿が起こる。大脳はこの橋の中枢を抑制して、排尿のタイミングを調節しているんだ。
医学生医学生
受容体と薬の対応も整理しておきたいです。過活動膀胱には抗コリン薬とβ3作動薬でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。β3受容体は交感神経側で排尿筋をゆるめるので、ミラベグロンなどのβ3作動薬は過活動膀胱に使う。抗コリン薬はM3受容体を遮断して排尿筋の収縮を抑えるが、尿閉や閉塞隅角緑内障の悪化に注意が必要だ。逆に排尿筋の収縮が弱い低活動膀胱には、コリン作動薬のベタネコールを使うことがある。神経と受容体の働きがわかれば、薬の選び方も副作用も自然に理解できるよ。

まとめ

下部尿路は3系統の神経で調節されており、交感神経(下腹神経、T10〜L2)はβ3受容体で排尿筋を弛緩させα1受容体で膀胱頸部・前立腺を収縮させて蓄尿に、副交感神経(骨盤神経、S2〜S4)はM3受容体で排尿筋を収縮させて排尿に、体性神経の陰部神経(S2〜S4)は随意筋である外尿道括約筋を締めて蓄尿に働きます。尿管は平滑筋の蠕動運動で尿を膀胱へ送っています。閉鎖神経は腰神経叢(L2〜L4)由来で股関節内転筋群と大腿内側の皮膚を支配する下肢の神経であり、排尿には関与しません。経尿道的膀胱腫瘍切除術での閉鎖神経反射は解剖学的な近さによる現象で、機能とは区別して理解することが大切です。神経と受容体の対応を押さえることは、前立腺肥大症へのα1遮断薬や過活動膀胱へのβ3作動薬・抗コリン薬など、排尿障害の薬物療法を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

本問は下部尿路を中心とした尿路の機能と、その神経支配を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、内容が誤っている記述を1つ選ぶ。

考え方

尿は腎盂から尿管の蠕動運動によって膀胱へ運ばれ、膀胱に貯められ(蓄尿)、一定量に達すると排出される(排尿)。蓄尿と排尿は次の3系統の神経で調節されている。 ・交感神経(下腹神経、脊髄T10〜L2由来):蓄尿に働く。β3受容体を介して排尿筋(膀胱平滑筋)を弛緩させ、α1受容体を介して膀胱頸部・前立腺・尿道の平滑筋を収縮させる。 ・副交感神経(骨盤神経、S2〜S4由来):排尿に働く。ムスカリン受容体(主にM3)を介して排尿筋を収縮させる。 ・体性神経(陰部神経、S2〜S4由来):外尿道括約筋(横紋筋)を支配し、意識的に尿道を締めて蓄尿を保つ。 この3つの神経の名称と作用を整理しておけば、排尿に関与しない神経(本問では閉鎖神経)がすぐに見分けられる。閉鎖神経は腰神経叢(L2〜L4)から出る下肢の神経であり、下部尿路の支配とは関係がない。

選択肢考察

  1. ×a.  尿管は蠕動運動で尿を輸送する。

    記述は正しい。尿管壁は平滑筋層をもち、腎盂付近のペースメーカー細胞から始まる収縮波が膀胱側へ順に伝わる蠕動運動によって、尿を腎盂から膀胱へ送り出している。重力だけに頼っているわけではないため、臥位でも尿は膀胱に運ばれる。尿管結石で強い疝痛が起こるのは、閉塞部位より上流で蠕動が強まり、内圧が上がるためである。

  2. ×b.  陰部神経は蓄尿に関与する。

    記述は正しい。陰部神経は仙髄(S2〜S4)のオヌフ核(Onuf核)から出る体性運動神経で、外尿道括約筋や骨盤底筋群を支配する。蓄尿中はこの神経の活動によって外尿道括約筋が収縮し続け、尿道が閉じられる。咳やくしゃみなどで腹圧が急に上がったときにも反射的に括約筋を締め、尿漏れ(腹圧性尿失禁)を防いでいる。

  3. ○c.  閉鎖神経は排尿に関与する。

    記述は誤りであり、これが正解である。閉鎖神経は腰神経叢(L2〜L4)から起こり、骨盤の閉鎖孔を通って大腿内側へ向かう神経である。長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋・外閉鎖筋などの股関節内転筋群を動かし、大腿内側の皮膚感覚を担う。膀胱や尿道の支配には関与しない。なお、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で膀胱側壁を電気メスで切除する際、壁のすぐ外側を走る閉鎖神経が刺激されて下肢が急に内転する「閉鎖神経反射」が起こり、膀胱穿孔の原因となることがある。臨床で膀胱と閉鎖神経が関係するのはこの解剖学的な近さによるものであり、排尿機能とは別の話である。

  4. ×d.  前立腺にはα1受容体が分布する。

    記述は正しい。膀胱頸部、前立腺部尿道、前立腺の平滑筋には交感神経のα1受容体(特にα1A、次いでα1Dサブタイプ)が豊富に存在する。ノルアドレナリンがここに結合すると平滑筋が収縮し、尿道抵抗が高まって蓄尿に働く。前立腺肥大症では、肥大そのもの(機械的閉塞)に加え、このα1受容体を介した平滑筋の緊張(機能的閉塞)が排尿障害を悪化させる。そのためタムスロシン、シロドシン、ナフトピジルなどのα1遮断薬が第一選択薬として用いられ、尿道抵抗を下げて尿の出にくさを改善する。

  5. ×e.  外尿道括約筋は随意筋である。

    記述は正しい。外尿道括約筋は横紋筋でできており、体性神経である陰部神経の支配を受ける随意筋である。このため、排尿を途中で意識的に止めたり、尿意を感じても我慢したりすることができる。これに対し、膀胱頸部の内尿道括約筋は平滑筋からなり、交感神経(α1受容体)支配の不随意筋である。

下部尿路の神経支配のまとめ

・交感神経:下腹神経(T10〜L2)。β3受容体→排尿筋の弛緩、α1受容体→膀胱頸部・前立腺・尿道平滑筋の収縮。作用は蓄尿。 ・副交感神経:骨盤神経(S2〜S4)。M3受容体→排尿筋の収縮、同時に尿道平滑筋を弛緩させる(一酸化窒素などを介する)。作用は排尿。 ・体性神経:陰部神経(S2〜S4、オヌフ核)。ニコチン受容体→外尿道括約筋(横紋筋)の収縮。作用は蓄尿(随意的な尿の保持)。

排尿反射の中枢

膀胱が伸展されると、その情報は骨盤神経の求心線維を通って仙髄に入り、さらに橋の排尿中枢へ伝わる。橋排尿中枢が働くと、副交感神経の活動が高まって排尿筋が収縮すると同時に、交感神経と陰部神経の活動が抑えられて括約筋がゆるみ、排尿が起こる。大脳(前頭葉など)はこの橋排尿中枢を抑制しており、排尿のタイミングを意識的に調節している。

薬物療法との関係

・α1遮断薬:前立腺肥大症の排尿障害に用いる。起立性低血圧に注意する。 ・β3作動薬(ミラベグロン、ビベグロン):排尿筋をゆるめ、過活動膀胱に用いる。 ・抗コリン薬(抗ムスカリン薬):排尿筋の収縮を抑え、過活動膀胱に用いる。尿閉や閉塞隅角緑内障の悪化に注意する。 ・コリン作動薬(ベタネコール):排尿筋の収縮を助け、低活動膀胱に用いる。

閉鎖神経

腰神経叢(L2〜L4)の枝で、閉鎖孔を通過し、股関節内転筋群と大腿内側の皮膚を支配する。障害されると股関節の内転が弱くなり、大腿内側の感覚が低下する。

POINT

・蓄尿に働くのは交感神経(下腹神経)と体性神経(陰部神経)、排尿に働くのは副交感神経(骨盤神経)である。 ・外尿道括約筋は横紋筋で陰部神経支配の随意筋、内尿道括約筋は平滑筋で交感神経支配の不随意筋である。 ・前立腺・膀胱頸部にはα1受容体が多く、前立腺肥大症の治療にはα1遮断薬を使う。 ・閉鎖神経(L2〜L4)は股関節内転筋群と大腿内側の皮膚を支配し、排尿には関与しない(TURBTの閉鎖神経反射は解剖学的な近さによる)。 ・尿管は蠕動運動で尿を膀胱へ輸送する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。