「IgE陽性」は「食べられない」ではない―感作と発症を分ける食物経口負荷試験
第106回医師国家試験 B問題 第3問
国試問題にチャレンジ
幼児における即時型食物アレルギーの診断で最も有用なのはどれか。
- a.食物除去試験
- b.食物負荷試験
- c.特異的IgE検査
- d.リンパ球刺激試験
- e.皮膚プリックテスト
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
即時型食物アレルギーはIgEを介するI型アレルギーですが、特異的IgE抗体や皮膚プリックテストの陽性は「感作」を示すにすぎず、実際に食べて症状が出る「発症」とは必ずしも一致しません。そのため、原因食物と症状の因果関係を直接確認できる食物経口負荷試験が診断のゴールドスタンダードとされ、耐性獲得の確認や安全摂取量の決定にも用いられます。一方で負荷試験はアナフィラキシーの危険を伴うため、アドレナリンなどを準備した医療機関で行う必要があります。食物除去試験は非即時型の原因推定に、リンパ球刺激試験はIV型の薬物アレルギーの評価に用いられ、即時型の確定診断には適しません。感作と発症を区別して「必要最小限の除去」を目指す考え方は、乳幼児の成長を守る食物アレルギー診療の基本です。
解答・解説
正解はbです
即時型食物アレルギーは、原因食物を摂取してから通常2時間以内(多くは数分〜30分程度)に、じんま疹などの皮膚症状、咳・喘鳴などの呼吸器症状、嘔吐・腹痛などの消化器症状、さらにはアナフィラキシーを起こす病態である。機序は食物抗原に対する特異的IgE抗体が肥満細胞・好塩基球に結合し、再度抗原が入ったときにヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されるI型アレルギーである。 ここで重要なのは「感作」と「発症」の区別である。血液検査や皮膚テストで特異的IgE抗体の存在が示されても、それは体がその食物に対して感作されていることを示すにすぎず、実際に食べて症状が出るとは限らない。特に乳幼児では、卵や牛乳に対するIgEが陽性でも問題なく食べられる例や、成長とともに耐性を獲得している例が多い。検査結果だけで診断すると不要な食物除去を招き、成長・栄養の面で不利益となる。 したがって食物アレルギーの診断の基本は、(1) 詳細な問診(何を、どのくらい食べて、どれくらいの時間で、どんな症状が出たか)、(2) 特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストによる感作の確認、(3) 食物経口負荷試験で実際に症状が誘発されるかを確認する、という流れになる。このうち原因食物と症状の因果関係を直接証明でき、確定診断の根拠として最も信頼性が高いのが食物経口負荷試験である。また負荷試験は、耐性獲得の確認や、どの程度の量まで安全に食べられるかを判断する目的でも行われる。
選択肢考察
- ×a. 食物除去試験
疑わしい食物を一定期間(通常1〜2週間程度)除去し、症状が改善するかをみる試験である。主に食物の関与が疑われるアトピー性皮膚炎など、症状が慢性的に続く非即時型の病態で原因食物を推定する目的で用いられる。症状の改善から原因を推測することはできるが、除去中の改善が食物除去によるものか自然経過や治療によるものかを区別できず、単独では確定診断にならない。また、摂取直後に起こる即時型の症状やアナフィラキシー(呼吸器・循環器・消化器症状)の診断には適さない。最終的な確認には負荷試験が必要である。
- ○b. 食物負荷試験
原因と疑われる食物を少量から段階的に増やしながら実際に摂取させ、症状が誘発されるかを観察する試験(食物経口負荷試験)である。症状の誘発をもって原因食物と症状の因果関係を直接確認できるため、食物アレルギー診断の最も信頼性の高い方法(ゴールドスタンダード)とされる。ただしアナフィラキシーを誘発する危険があるため、アドレナリン(筋注用)、酸素、輸液、気道確保の器具などを準備し、経験のある医師のもとで医療機関内で実施する。誘発歴が重篤な例では実施の是非や負荷量を慎重に判断する。
- ×c. 特異的IgE検査
血液中の食物抗原特異的IgE抗体価を測定する検査(イムノキャップ法など)で、安全かつ簡便に多くの食物について感作の有無を調べられる。抗体価が高いほど負荷試験で症状が出る確率は上がる(プロバビリティカーブ)ため、負荷試験の適応や危険度の判断に有用である。しかし陽性はあくまで感作を示すにすぎず、臨床症状とは必ずしも一致しない(偽陽性が多く、特異度が低い)。そのため単独での確定診断には用いない。
- ×d. リンパ球刺激試験
患者のリンパ球を抗原(主に薬剤)と培養し、その増殖反応を測定する検査で、T細胞が関与する細胞性免疫(IV型、遅延型アレルギー)を調べるものである。薬剤性肝障害や薬疹などの薬物アレルギーで原因薬を推定する際に用いられる(DLST:drug-induced lymphocyte stimulation test)。IgEを介するI型の即時型食物アレルギーの診断には用いない。
- ×e. 皮膚プリックテスト
抗原液を皮膚に1滴たらし、専用の針で皮膚表面を軽く刺して、15〜20分後の膨疹・紅斑の大きさで判定する検査である。皮膚の肥満細胞上のIgEを介した即時型反応をみるもので、比較的安全に施行でき、乳児でも実施できる。血中特異的IgEが陰性でも陽性となることがあり、また市販の抗原液がない果物・野菜などは生の食材で行うこと(prick-to-prick法)もできる。ただし陽性も感作を示すにすぎず、陽性だからといって原因食物とは確定できない。確定診断には負荷試験を要する。
食物アレルギーの主な検査と位置づけ
・問診:診断の出発点。摂取量、摂取から発症までの時間、症状、再現性、運動などの誘因を確認する。 ・血中特異的IgE抗体:感作の確認。値が高いほど症状誘発の可能性が高いが、陽性=発症ではない。 ・皮膚プリックテスト:感作の確認。即時型反応をみる。抗ヒスタミン薬は結果に影響するため事前に休薬する。 ・好塩基球活性化試験・ヒスタミン遊離試験:患者の好塩基球に抗原を加え反応をみる。感作の評価の補助。 ・食物除去試験:非即時型(アトピー性皮膚炎の悪化因子など)で原因推定に用いる。 ・食物経口負荷試験:確定診断、耐性獲得の確認、安全摂取量の決定に用いる最も信頼性の高い検査。
乳幼児の食物アレルギー
・原因食物は鶏卵、牛乳、小麦が多く、近年は木の実類(特にくるみ)の増加が指摘されている。 ・鶏卵・牛乳・小麦のアレルギーは、学童期までに多くが耐性を獲得する。一方、ピーナッツ、木の実、甲殻類、魚、そばは耐性を獲得しにくい。 ・治療の基本は「必要最小限の除去」であり、負荷試験で安全に食べられる量が分かれば、その範囲で摂取を続ける。
アレルギー反応の型と検査
・I型(即時型、IgE・肥満細胞):特異的IgE、プリックテスト、皮内テスト ・IV型(遅延型、T細胞):パッチテスト、リンパ球刺激試験
アナフィラキシーへの対応
第一選択はアドレナリン筋注(大腿前外側部、0.01 mg/kg、小児最大0.3 mg、成人最大0.5 mg)である。負荷試験の際には必ず準備しておく。
POINT
・即時型食物アレルギーの確定診断に最も有用なのは食物経口負荷試験である。 ・特異的IgE抗体・皮膚プリックテストの陽性は「感作」を示すのみで、「発症」を意味しない。 ・負荷試験はアナフィラキシーの危険があり、アドレナリンなどを準備した医療機関で行う。 ・リンパ球刺激試験はIV型(遅延型)アレルギー、主に薬物アレルギーの検査である。 ・食物除去試験は非即時型の原因推定に用いられ、単独では確定診断にならない。
