咽頭麻酔のあとの「喉がつまる」―内視鏡室で見逃してはいけないアナフィラキシー
第120回医師国家試験 C問題 第43問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。胃がん検診の上部消化管造影検査で異常を指摘され精査のため来院した。現在,自覚症状はない。意識は清明。身長170cm,体重62kg。体温36.2℃。脈拍72/分,整。血圧134/78mmHg。呼吸数14/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭に発赤を認めない。甲状腺と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。精査のため経口で上部消化管内視鏡検査を施行することとした。前処置としてリドカインによる咽頭麻酔を行ったところ,「喉がつまる感じがあり,息苦しい」と本人が訴えた。前腕部に紅斑と膨疹を認める。 現時点で適切な対応はどれか。
- a.自然軽快を待つ。
- b.咽頭麻酔を追加する。
- c.経鼻内視鏡検査に変更する。
- d.バイタルサインを確認する。
- e.水道水によるうがいを勧める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
薬剤投与の直後に、紅斑・膨疹などの皮膚症状と、喉のつまり感・息苦しさなどの呼吸器症状が同時に出現した場合は、アナフィラキシーを考えます。咽頭麻酔に用いるリドカイン(またはその添加物)でも起こりうる反応で、局所の麻酔効果や局所麻酔薬中毒では離れた部位のじんま疹は説明できません。アナフィラキシーは喉頭浮腫やショックへ急速に進行しうるため、検査を中止して人を呼び、バイタルサインで気道・呼吸・循環を評価し、並行してアドレナリン0.01mg/kg(成人最大0.5mg)を大腿前外側に筋注します。自然軽快を待つ、被疑薬を追加する、経路を変えて検査を続ける、咽頭麻酔下でうがいをさせるといった対応は、いずれも悪化や誤嚥・窒息を招くおそれがあり不適切です。改善後も二相性反応に備えて観察し、原因薬剤を特定・記録して再曝露を防ぐことまでが、安全な医療を支える一連の対応となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・50歳男性。胃がん検診の上部消化管造影検査で異常を指摘され、精査目的の上部消化管内視鏡検査の前である。 ・検査前は無症状で、意識清明、バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸数、SpO2)はすべて正常。咽頭発赤や甲状腺・頸部リンパ節腫大もなく、上気道感染や頸部の腫瘤による気道圧迫は考えにくい。心音・呼吸音も正常である。 ・リドカインによる咽頭麻酔の直後に、「喉がつまる感じ」「息苦しい」という上気道狭窄を思わせる症状が出現した。 ・同時に、麻酔薬を塗布した咽頭から離れた前腕部に紅斑と膨疹(じんま疹)が現れている。
鑑別と診断
・咽頭麻酔による「喉の違和感」自体はよくある感覚であるが、息苦しさと前腕の皮膚症状を伴う点で単なる麻酔効果では説明できない。 ・局所麻酔薬中毒(血中濃度の上昇による口周囲のしびれ、興奮、痙攣、不整脈など)も鑑別に挙がるが、咽頭麻酔の通常量で中毒域に達することはまれで、じんま疹は中毒では説明できない。 ・迷走神経反射(徐脈・血圧低下)、過換気や心因反応、喘息発作も呼吸器症状を来しうるが、全身の皮膚症状は伴わない。 ・原因物質への曝露直後に、皮膚・粘膜症状(紅斑・膨疹)と呼吸器症状(喉頭浮腫を示唆する咽喉頭の閉塞感、呼吸困難)が同時に出現しており、アナフィラキシーの基準を満たす。リドカイン(またはその製剤に含まれる添加物)によるアナフィラキシーを考える。
設問の考え方
アナフィラキシーは数分〜数十分で喉頭浮腫による窒息や血圧低下(アナフィラキシーショック)へと急速に進行しうる。疑った時点で検査は中止し、ただちに人を集め、気道・呼吸・循環(ABC)を評価する。その第一歩がバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、意識)の確認であり、並行してアドレナリン筋注、酸素投与、静脈路確保と輸液、仰臥位・下肢挙上などの初期治療へ速やかに移る。
選択肢考察
- ×a. 自然軽快を待つ。
不適切である。アナフィラキシーは発症初期に軽症に見えても、短時間で喉頭浮腫による気道閉塞や循環虚脱へ進行することがあり、経過を予測できない。治療開始(特にアドレナリン投与)の遅れが死亡の危険因子とされており、疑った段階で直ちに評価と治療を開始すべきである。
- ×b. 咽頭麻酔を追加する。
不適切である。喉のつまる感じは麻酔の効果不足ではなく、アナフィラキシーによる咽喉頭の浮腫を示している可能性が高い。原因として最も疑われるリドカインを追加すれば、アレルギー反応をさらに悪化させる。被疑薬は直ちに中止し、以後の使用を避ける。
- ×c. 経鼻内視鏡検査に変更する。
不適切である。症状の原因は内視鏡の挿入経路ではなく前処置の薬剤に対する全身性のアレルギー反応である。経鼻内視鏡でも鼻腔・咽頭に局所麻酔薬を用いるうえ、そもそもアナフィラキシーが起きている状況で検査を続行すること自体が誤りである。検査は中止し、全身状態の安定化を優先する。精査は後日、原因薬剤を避けた方法で改めて計画する。
- ○d. バイタルサインを確認する。
適切である。アナフィラキシーを疑ったら、まず気道(嗄声・喘鳴・吸気性の狭窄音の有無)、呼吸(呼吸数、SpO2)、循環(血圧、脈拍)、意識状態を迅速に評価する。ショックや気道閉塞の有無によって緊急度が決まり、その後の対応(アドレナリン筋注、酸素投与、輸液、気道確保の準備)につながるため、現時点で最初に行うべき対応である。なお、本例は呼吸器症状と皮膚症状がそろっておりアナフィラキシーと判断できるため、評価と並行して速やかにアドレナリン筋注を行う。
- ×e. 水道水によるうがいを勧める。
不適切である。咽頭麻酔により咽頭・喉頭の感覚や咳反射、嚥下反射が低下しているため、うがいの水を誤嚥する危険がある。さらに咽喉頭の浮腫が疑われる状態では窒息を誘発しかねない。また、すでに粘膜から吸収されたリドカインはうがいでは除去できず、アナフィラキシーの治療にもならない。
アナフィラキシーの診断(日本アレルギー学会ガイドラインの考え方)
以下のいずれかを満たせばアナフィラキシーの可能性が非常に高い。 ①皮膚・粘膜症状(全身のじんま疹、瘙痒、紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に出現し、かつ呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、低酸素血症など)、循環器症状(血圧低下、失神など)、または重度の消化器症状のいずれかを伴う。 ②典型的な皮膚症状がなくても、既知または可能性の高いアレルゲンへの曝露後に血圧低下、気管支攣縮、喉頭症状が急速に出現する。
初期対応の流れ
①原因物質の除去(投与中止) ②人を呼ぶ(応援要請) ③ABC(気道・呼吸・循環)と意識の評価、バイタルサインの確認 ④アドレナリン筋注:0.01mg/kg(成人で最大0.5mg)を大腿前外側に筋注する。効果が不十分なら5〜15分ごとに反復できる。 ⑤体位:仰臥位で下肢挙上(呼吸困難が強ければ楽な姿勢、嘔吐があれば側臥位)。急に立たせたり座らせたりしない。 ⑥高流量酸素投与、静脈路確保と急速輸液(細胞外液) ⑦必要に応じて気管挿管・輪状甲状靱帯切開などの気道確保 補助的に抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイドを用いるが、これらはアドレナリンの代わりにはならない。症状改善後も二相性反応(数時間後の再燃)に備えて経過観察する。
局所麻酔薬に関する補足
・局所麻酔薬はエステル型(プロカインなど)とアミド型(リドカインなど)に分類される。アレルギーはエステル型に多く、アミド型による真のアレルギーはまれである。製剤中の防腐剤などの添加物が原因のこともある。 ・局所麻酔薬中毒は血中濃度上昇による中枢神経症状(口周囲のしびれ、多弁、興奮、痙攣)や心毒性(不整脈、心停止)を呈し、アナフィラキシーとは機序も症状も異なる。 ・後日、アレルギー専門医による原因検索を行い、原因薬剤を記録・本人に伝えて再曝露を防ぐ。
POINT
・薬剤投与直後の皮膚症状(紅斑・膨疹)+呼吸器症状(喉のつまり感・息苦しさ)はアナフィラキシーである。 ・まず検査・投与を中止し、人を呼び、バイタルサインでABCを評価する。 ・治療の第一選択はアドレナリン筋注(0.01mg/kg、成人最大0.5mg、大腿前外側)。 ・自然軽快を待つ、被疑薬の追加、検査の続行、咽頭麻酔下のうがいはいずれも不適切である。
