IgGが描く細かな粒の列―膜性腎症の「4つの原因」と高血圧の落とし穴
第105回医師国家試験 I問題 第79問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。進行する下腿の浮腫を主訴に来院した。2か月前から両側下腿の浮腫を自覚していたが,次第に増悪するため紹介されて受診した。10年前から高血圧症で降圧薬を服用している。6年前から関節リウマチで自宅近くの診療所にて薬物治療中である。脈拍76/分,整。血圧138/86 mmHg。尿所見:蛋白3+,糖(-),潜血(±)。血液生化学所見:総蛋白5.5 g/dL,アルブミン2.6 g/dL,総コレステロール368 mg/dL,尿素窒素22 mg/dL,クレアチニン1.1 mg/dL,尿酸7.4 mg/dL。腎生検の蛍光抗体IgG染色標本を別に示す。 この腎病変をきたす原因として可能性が低いのはどれか。

- a.金製剤
- b.大腸癌
- c.B型肝炎
- d.高血圧症
- e.関節リウマチ
- f.悪性リンパ腫
- g.D-ペニシラミン
- h.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
高齢で緩徐に発症し、血尿に乏しいネフローゼ症候群では膜性腎症を考え、蛍光抗体法でIgGが係蹄壁に沿って細顆粒状に沈着していれば診断を強く支持します。膜性腎症は上皮下への免疫複合体沈着による疾患で、二次性の原因は自己免疫疾患(SLE、関節リウマチ)、感染症(B型肝炎など)、悪性腫瘍(大腸癌などの固形癌、悪性リンパ腫)、薬剤(金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミンなど)の4系統で整理できます。高血圧症はこの免疫学的機序に関与せず、高血圧性の腎硬化症では蛋白尿は通常軽度にとどまるため、膜性腎症の原因とは考えにくいです。二次性の原因を除去すると蛋白尿が改善しうるため、膜性腎症と診断したら薬歴の確認や悪性腫瘍の検索を行うことが、適切な治療方針の決定につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・68歳男性、2か月前からの緩徐に進行する両側下腿浮腫 ・尿蛋白3+、尿潜血(±):高度の蛋白尿で、血尿はほとんどない ・血清アルブミン2.6 g/dL(低アルブミン血症)、総蛋白5.5 g/dL ・総コレステロール368 mg/dL(脂質異常症) ・クレアチニン1.1 mg/dL:腎機能はほぼ保たれている ・既往:高血圧症(10年、降圧薬で138/86 mmHgとコントロール良好)、関節リウマチ(6年、薬物治療中)
診断へのプロセス
高度蛋白尿、低アルブミン血症(3.0 g/dL以下)、浮腫、脂質異常症がそろっており、ネフローゼ症候群と判断できる。成人のネフローゼ症候群の原因となる主な糸球体疾患には、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などがある。 本例は高齢で、発症が緩徐であり、血尿をほとんど伴わない。これらは膜性腎症(成人ネフローゼ症候群の原因として最も多く、特に中高年に多い)に合致する。さらに腎生検の蛍光抗体IgG染色では、糸球体係蹄壁(毛細血管壁)に沿ってIgGが細かい顆粒状に連なって沈着しており、上皮下の免疫複合体沈着を示す膜性腎症の典型像である。関節リウマチとその治療薬という膜性腎症の誘因を持つ点も合う。したがって診断は膜性腎症である。
設問の考え方
膜性腎症は、明らかな原因がない一次性(特発性)と、他の疾患や薬剤に続発する二次性に分けられる。二次性の原因は「自己免疫疾患」「感染症」「悪性腫瘍」「薬剤」の4つの系統で整理すると覚えやすい。選択肢のうち、この4系統のいずれにも該当せず、膜性腎症の原因とならないものを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 金製剤
膜性腎症の原因となる。金製剤(金チオリンゴ酸ナトリウムなど)はかつて関節リウマチの治療に広く用いられた抗リウマチ薬で、代表的な副作用として薬剤性の膜性腎症による蛋白尿・ネフローゼ症候群がある。多くは薬剤を中止すると数か月〜1年程度で蛋白尿が軽快・消失する。本例も関節リウマチで薬物治療中であり、原因として考慮すべきである。
- ×b. 大腸癌
膜性腎症の原因となる。大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌などの固形癌(上皮系悪性腫瘍)では、腫瘍に関連した抗原と抗体からなる免疫複合体が糸球体の上皮下に沈着して膜性腎症を起こすことがある。高齢者の膜性腎症では悪性腫瘍の合併が比較的多いため、診断時に悪性腫瘍の検索を行う。腫瘍の治療によって蛋白尿が改善することがある。
- ×c. B型肝炎
膜性腎症の原因となる。B型肝炎ウイルス(HBV)の感染者やキャリアでは、HBe抗原などのウイルス抗原を含む免疫複合体が係蹄壁に沈着し、膜性腎症を起こす。小児の二次性膜性腎症の原因として特に重要である。蛍光抗体法ではIgGやC3とともにHBe抗原の沈着が確認されることがある。感染症による二次性の原因としては、ほかにC型肝炎、梅毒、マラリアなどがある。
- ○d. 高血圧症
膜性腎症の原因とはならない。膜性腎症は、糸球体上皮下への免疫複合体の沈着という免疫学的機序で起こる疾患であり、高血圧はこの機序に関与しない。高血圧による腎障害は腎硬化症と呼ばれ、細動脈の硬化による腎虚血が本態である。長期の高血圧による良性腎硬化症では蛋白尿は軽度(おおむね1 g/日未満)にとどまり、ネフローゼ症候群をきたすことはまれである。急激な著しい血圧上昇による悪性腎硬化症では蛋白尿が増えることもあるが、その場合は頭痛・視力障害などを伴い腎機能が急速に悪化する。本例の血圧は138/86 mmHgとコントロールされており、腎機能も保たれているため、ネフローゼ症候群の原因とは考えにくい。
- ×e. 関節リウマチ
膜性腎症の原因となりうる。関節リウマチの腎病変の多くは抗リウマチ薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤によるものや、長期罹患に伴うAAアミロイドーシスであるが、関節リウマチそのものに関連した膜性腎症も報告されている。自己免疫疾患に伴う二次性膜性腎症の一つとして位置付けられる。
- ×f. 悪性リンパ腫
膜性腎症の原因となりうる。悪性リンパ腫にはネフローゼ症候群が合併することがあり、Hodgkinリンパ腫では微小変化型ネフローゼ症候群が多いが、非Hodgkinリンパ腫や慢性リンパ性白血病では膜性腎症を合併することもある。固形癌と同様、悪性腫瘍に伴う二次性膜性腎症の一つである。
- ×g. D-ペニシラミン
膜性腎症の原因となる。D-ペニシラミンはSH基(チオール基)を持つ薬剤で、関節リウマチやWilson病の治療に用いられる。副作用として膜性腎症を起こすことが知られている。同じくSH基を持つ抗リウマチ薬のブシラミンも膜性腎症の原因となる。薬剤性の場合、原因薬の中止で改善することが多い。
- ×h. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
膜性腎症の原因となる。SLEに伴う腎障害(ループス腎炎)のうち、ISN/RPS分類のV型(膜性ループス腎炎)は膜性腎症の組織像をとる。蛍光抗体法ではIgG・IgA・IgMや、C3・C1qなどが同時に沈着する「フルハウス」パターンを示すことが特徴で、低補体血症を伴うことも多い。若年女性の膜性腎症ではSLEを必ず鑑別する。
膜性腎症の概要
糸球体基底膜の上皮側(上皮下)に免疫複合体が沈着し、基底膜が肥厚する疾患である。成人ネフローゼ症候群の原因として最も多い疾患の一つで、中高年に好発し、緩徐に発症する。血尿は軽度のことが多く、血清補体価は通常正常である(SLEに伴う場合は低下しうる)。
病理所見
・光学顕微鏡:糸球体係蹄壁のびまん性肥厚。PAM染色で基底膜から外側に突出するスパイク形成がみられる。 ・蛍光抗体法:IgG(およびC3)が係蹄壁に沿って細顆粒状に沈着する。 ・電子顕微鏡:上皮下の高電子密度沈着物(electron dense deposit)。
一次性と二次性
一次性膜性腎症の多くでは、糸球体上皮細胞(ポドサイト)上のホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体(抗PLA2R抗体)が関与していることが明らかになっている。二次性膜性腎症の主な原因は次の通りである。 ・自己免疫疾患:SLE、関節リウマチ、Sjögren症候群、橋本病など ・感染症:B型肝炎、C型肝炎、梅毒、マラリアなど ・悪性腫瘍:肺癌、大腸癌、胃癌などの固形癌、悪性リンパ腫 ・薬剤:金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミン、NSAIDsなど
ネフローゼ症候群の診断基準(成人)
蛋白尿3.5 g/日以上の持続と、血清アルブミン3.0 g/dL以下の低アルブミン血症が必須条件である。浮腫と脂質異常症(高LDLコレステロール血症)は参考所見とされる。
予後と注意点
一次性膜性腎症の一部は自然寛解するが、一部は緩徐に腎機能が低下する。ネフローゼ症候群のなかでも血栓症(特に腎静脈血栓症)を合併しやすいことに注意する。
POINT
・高齢者、緩徐発症、血尿に乏しいネフローゼ症候群では膜性腎症を考える。 ・蛍光抗体法でIgGが係蹄壁に沿って細顆粒状に沈着するのが膜性腎症の特徴である。 ・二次性膜性腎症の原因は「自己免疫疾患(SLE、関節リウマチ)」「感染症(B型肝炎など)」「悪性腫瘍(固形癌、悪性リンパ腫)」「薬剤(金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミン、NSAIDs)」で整理する。 ・高血圧は膜性腎症の原因とはならない。高血圧性腎障害(腎硬化症)の蛋白尿は通常軽度である。
