「150−PaCO2/0.8」で肺の実力を測る―A-aDO2計算と低酸素血症の読み解き方
第105回医師国家試験 I問題 第80問
国試問題にチャレンジ
慢性呼吸不全患者の動脈血ガス分析(自発呼吸,room air)の結果を示す。 pH 7.41,PaCO2 44 Torr,PaO2 57 Torr,HCO3- 27 mEq/L FIO2 21%,大気圧761 Torr,飽和水蒸気圧47 Torr,呼吸商(ガス交換率)が0.8であるとき,A-aDO2を求めよ。 ただし,小数点以下第1位を四捨五入すること。 解答: ①② Torr
対話形式の解説
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ドクターまとめ
A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差で、肺でのガス交換の効率を示す指標です。PAO2は肺胞気式「(大気圧−飽和水蒸気圧)×FIO2−PaCO2/呼吸商」で求め、本問では149.94−55=94.94 Torr、そこからPaO2 57を引いて38 Torrとなります。室内気・平地では「150−PaCO2/0.8−PaO2」の簡便法が使えますが、酸素投与中や高地では使えない点に注意が必要です。A-aDO2は若年者で10 Torr程度以下、高齢者で20 Torr程度までが目安で、正常なら肺胞低換気や吸入気酸素分圧の低下、開大していれば換気血流比不均等・拡散障害・シャントを考えます。式の意味を理解して計算できることは、低酸素血症の原因を見極める臨床推論の出発点になります。
解答・解説
正解は38 Torrです
A-aDO2とは
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)は、肺胞内の酸素分圧(PAO2)と動脈血の酸素分圧(PaO2)の差である。肺胞まで届いた酸素がどれだけ効率よく血液に取り込まれているか、すなわち肺でのガス交換の良否を表す指標である。 A-aDO2 = PAO2 − PaO2 PAO2は直接測れないため、肺胞気式を使って計算する。 PAO2 = (PB − PH2O) × FIO2 − PaCO2 / R (PB:大気圧、PH2O:飽和水蒸気圧、FIO2:吸入気酸素濃度、R:呼吸商) 式の意味は次の通りである。吸い込んだ空気は気道で加湿されて水蒸気で飽和するため、大気圧から水蒸気圧を差し引いた分に酸素濃度を掛けたものが気道内の吸入気酸素分圧(PIO2)となる。肺胞では酸素が血液に取り込まれ、代わりに二酸化炭素が排出されるので、その分だけ酸素分圧が下がる。肺胞気のCO2分圧は動脈血のCO2分圧(PaCO2)とほぼ等しいとみなせるので、PaCO2を呼吸商で割った値を差し引く。
計算過程
(1) 吸入気酸素分圧 PIO2 = (761 − 47) × 0.21 = 714 × 0.21 = 149.94 Torr (2) CO2による補正 PaCO2 / R = 44 / 0.8 = 55 Torr (3) 肺胞気酸素分圧 PAO2 = 149.94 − 55 = 94.94 Torr (4) A-aDO2 A-aDO2 = 94.94 − 57 = 37.94 Torr 小数点以下第1位を四捨五入して、A-aDO2 = 38 Torr となる。
簡便法
室内気(FIO2 21%)・平地(大気圧約760 Torr)・体温37℃(飽和水蒸気圧47 Torr)の条件では、PIO2 ≒ 150 Torr となる。本問の条件もこれに当てはまるので、 A-aDO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8 − PaO2 = 150 − 55 − 57 = 38 Torr と素早く求められる。ただし、酸素投与中や高地など条件が異なる場合は150を使えないため、条件を必ず確認する。
結果の解釈
PaO2 57 Torrは60 Torr以下であり、呼吸不全の状態である。PaCO2は44 Torrで45 Torrを超えていないため、Ⅰ型呼吸不全に分類される。A-aDO2は38 Torrと明らかに開大しており、肺胞低換気だけでは説明できないガス交換障害があることを示す。pH 7.41は正常範囲、HCO3−は27 mEq/Lとやや高めである。
A-aDO2の基準値
健常若年者では10 Torr程度以下である。加齢とともに開大し、高齢者では20 Torr程度までは生理的範囲とされる。目安として「年齢/4 + 4」程度が上限の近似式として用いられることもある。また、FIO2を上げるとA-aDO2は大きくなるため、基準値は室内気吸入下での値として解釈する。
低酸素血症の5つの機序とA-aDO2
・肺胞低換気(薬物による呼吸抑制、神経筋疾患、肥満低換気症候群など):A-aDO2は正常。PaCO2が上昇する。 ・吸入気酸素分圧の低下(高地など):A-aDO2は正常。 ・換気血流比不均等(COPD、肺炎、間質性肺炎など):A-aDO2は開大。臨床で最も多い機序で、酸素投与で改善しやすい。 ・拡散障害(間質性肺炎など):A-aDO2は開大。特に労作時に低酸素血症が目立つ。 ・シャント(無気肺、ARDS、肺動静脈瘻など):A-aDO2は開大。酸素投与による改善が乏しい。 したがって、PaO2が低いときにA-aDO2を計算すると、低換気による低酸素血症(肺そのものは正常)なのか、肺に病変がある低酸素血症なのかを区別できる。
呼吸不全の定義
室内気吸入時のPaO2が60 Torr以下となる状態を呼吸不全という。PaCO2が45 Torr以下のものをⅠ型、45 Torrを超えるものをⅡ型と分類する。この状態が1か月以上続くものが慢性呼吸不全である。
呼吸商
呼吸商(R)は、CO2排出量をO2消費量で割った値である。糖質のみを燃焼すれば1.0、脂質では約0.7となり、通常の混合食では約0.8とされる。
POINT
・A-aDO2 = PAO2 − PaO2、PAO2 = (PB − PH2O) × FIO2 − PaCO2 / R ・室内気・平地では PAO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8 を使うと速い(本問:150 − 55 − 57 = 38 Torr)。 ・A-aDO2の基準値は若年者で10 Torr程度以下、高齢者では20 Torr程度まで。 ・A-aDO2が正常な低酸素血症は肺胞低換気か吸入気酸素分圧低下、開大していれば換気血流比不均等・拡散障害・シャントを考える。 ・PaO2 ≦ 60 Torrで呼吸不全、PaCO2 > 45 TorrならⅡ型、45 Torr以下ならⅠ型。
