「足りない」ではなく「過剰」で考える―Cushing症候群に低血糖が起こらない理由
第105回医師国家試験 I問題 第78問
国試問題にチャレンジ
Cushing症候群でみられないのはどれか。
- a.多毛
- b.高血圧
- c.低血糖
- d.易感染性
- e.骨粗鬆症
- f.精神障害
- g.中心性肥満
- h.満月様顔貌
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
Cushing症候群はコルチゾールの慢性的な過剰によって生じ、症候はその作用から導けます。糖新生促進と抗インスリン作用で高血糖となるため低血糖はみられず、低血糖はむしろ副腎不全で起こる所見です。脂肪の再分布による中心性肥満・満月様顔貌、蛋白異化による筋萎縮・皮膚菲薄化・骨粗鬆症、鉱質コルチコイド様作用による高血圧、免疫抑制による易感染性、中枢作用による精神障害がみられ、多毛はACTH依存性の病型や副腎癌で副腎アンドロゲンが増えることで生じます。これらはステロイド薬の長期投与でも同様に現れるため、作用機序から症候を整理しておくことは、診断だけでなく日常の薬物治療の安全管理にも直結します。
解答・解説
正解はcです
Cushing症候群は、糖質コルチコイドであるコルチゾールが慢性的に過剰となることで生じる症候群である。原因は、下垂体腺腫からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)過剰分泌によるCushing病、副腎腺腫などによる副腎性Cushing症候群、肺小細胞癌などによる異所性ACTH産生腫瘍に大別される。また、ステロイド薬の長期投与でも同様の症状が起こる(医原性Cushing症候群)。 症候はコルチゾールの作用を一つずつ思い浮かべれば導ける。コルチゾールは本来ストレス時に血糖を維持し、エネルギーを動員するホルモンであり、その過剰は「糖代謝(高血糖)」「蛋白異化(筋萎縮、皮膚の菲薄化、骨量減少)」「脂肪の再分布(中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩)」「免疫抑制(易感染性)」「鉱質コルチコイド様作用(高血圧、低K血症)」「中枢神経作用(精神症状)」として現れる。さらにACTH依存性の病型では副腎アンドロゲンも増えて男性化徴候を伴う。 本問では、コルチゾールの作用と逆向きの所見を探せばよい。コルチゾールは糖新生を促進しインスリン作用に拮抗するため、血糖は上昇する方向に働く。したがって低血糖は起こらず、これが「みられない」所見である。
選択肢考察
- ×a. 多毛
Cushing症候群でみられる。特にACTH依存性(Cushing病、異所性ACTH産生腫瘍)では、ACTHが副腎網状層も刺激して副腎アンドロゲン(DHEA-Sなど)が増え、女性に多毛、痤瘡(にきび)、月経異常などの男性化徴候が現れる。副腎癌でもアンドロゲンを同時に産生することが多い。一方、副腎腺腫ではACTHが抑制されるためアンドロゲンはむしろ低下し、多毛は目立ちにくい。
- ×b. 高血圧
Cushing症候群の大部分にみられる。コルチゾールはミネラルコルチコイド受容体にも結合できる。通常は腎臓の11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)がコルチゾールを不活性なコルチゾンに変えて受容体への作用を防いでいるが、コルチゾールが大量になるとこの処理能力を超え、Na貯留・体液量増加が起こる。加えて、肝臓でのアンジオテンシノーゲン産生増加や、血管のカテコールアミンなどへの反応性亢進も血圧上昇に関与する。
- ○c. 低血糖
Cushing症候群ではみられない。コルチゾールは肝臓での糖新生を促進し、筋肉や脂肪組織でのブドウ糖取り込みを抑えてインスリン抵抗性を高める(抗インスリン作用)。そのため耐糖能異常や糖尿病、すなわち高血糖をきたす。逆に、コルチゾールが不足する副腎不全(Addison病など)や下垂体前葉機能低下症では低血糖を起こしやすい。
- ×d. 易感染性
Cushing症候群でみられる。過剰なコルチゾールは、リンパ球(特にT細胞)の減少、サイトカイン産生の抑制、好中球の血管外遊走の抑制などを介して細胞性免疫を中心に免疫機能を低下させる。そのため細菌感染症に加え、真菌症やニューモシスチス肺炎などの日和見感染も起こりやすくなる。
- ×e. 骨粗鬆症
Cushing症候群でみられる。コルチゾールは骨芽細胞による骨形成を抑制し、腸管からのCa吸収を低下させ、腎臓からのCa排泄を増やす。この結果、骨量が減少して骨粗鬆症となり、椎体の圧迫骨折や肋骨骨折をきたすことがある。ステロイド性骨粗鬆症として続発性骨粗鬆症の代表的な原因でもある。
- ×f. 精神障害
Cushing症候群でみられる。コルチゾールは中枢神経系にも作用し、抑うつが最も多く、ほかに不眠、易刺激性、不安、多幸・躁状態、認知機能の低下などが起こる。重症例では精神病症状を呈することもある。
- ×g. 中心性肥満
Cushing症候群に特徴的な所見である。コルチゾール過剰では体幹(腹部)に脂肪が沈着する一方、四肢では蛋白異化により筋肉が萎縮して細くなる。この「体幹は太いが手足は細い」体型が中心性肥満であり、単純性肥満との鑑別点となる。
- ×h. 満月様顔貌
Cushing症候群に特徴的な所見である。顔面、特に頬に脂肪が沈着して丸く赤ら顔となる(moon face)。項部から肩にかけての脂肪沈着である野牛肩(buffalo hump)や鎖骨上窩の脂肪沈着も同様の機序で生じる。
Cushing症候群の主な症候と機序
・脂肪の再分布:中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩 ・蛋白異化:近位筋の筋力低下・筋萎縮、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条(腹部・大腿の幅広い赤紫色の線条)、皮下出血(毛細血管の脆弱化)、骨粗鬆症 ・糖代謝:耐糖能異常、糖尿病(高血糖) ・鉱質コルチコイド様作用:高血圧、浮腫、低K血症(特に異所性ACTH産生腫瘍で顕著) ・免疫抑制:易感染性、創傷治癒遅延 ・血液所見:好中球増加、リンパ球減少、好酸球減少 ・中枢神経:抑うつ、不眠、躁状態 ・アンドロゲン過剰(ACTH依存性・副腎癌):多毛、痤瘡、月経異常 ・その他:小児の成長障害、脂質異常症、尿路結石、血栓傾向 このうち満月様顔貌・中心性肥満・高血圧・糖尿病は頻度が高いがCushing症候群に特異的ではない。これに対し、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下出血、近位筋の筋力低下はより特異性が高い所見とされる。
病型の整理
・ACTH依存性:Cushing病(下垂体腺腫、最多)、異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど)→ 血中ACTHは高値〜正常、色素沈着を伴うことがある ・ACTH非依存性:副腎腺腫、副腎癌、両側副腎の結節性病変 → 血中ACTHは抑制
スクリーニングと診断
一晩少量(1mg)デキサメタゾン抑制試験でコルチゾールが抑制されないこと、コルチゾールの日内変動の消失(深夜の血中コルチゾール高値)、尿中遊離コルチゾールの増加などで診断を進める。
ステロイド薬の副作用との関係
ステロイド薬を長期投与した場合も同じ症候が現れるため、これらはステロイドの副作用としても重要である。
POINT
・Cushing症候群ではコルチゾールの抗インスリン作用・糖新生促進により高血糖となる。低血糖はみられない(低血糖はむしろ副腎不全の所見)。 ・代表的症候:中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、近位筋力低下、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、易感染性、精神症状。 ・多毛・痤瘡などの男性化徴候はACTH依存性や副腎癌で目立ち、副腎腺腫では目立たない。 ・これらはステロイド薬の長期投与による副作用としても同様に重要である。
