背が伸びない、生理が来ない―FSHが叫ぶ「卵巣からの返事がない」Turner症候群
第105回医師国家試験 I問題 第50問
国試問題にチャレンジ
14歳の女子。低身長と初経の遅れとを主訴に母親に伴われて来院した。身長140 cm,体重45 kg。第二次性徴はみられず,翼状頸と外反肘とを認める。 この疾患で正しいのはどれか。
- a.子宮は存在しない。
- b.多嚢胞状の卵巣である。
- c.血中FSHは高値を示す。
- d.染色体数は47本である。
- e.先天性心疾患の合併頻度が高い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
女子の低身長と第二次性徴の欠如(原発性無月経)に翼状頸・外反肘が加われば、Turner症候群を考えます。典型的な核型は45,Xで染色体数は45本ですが、モザイクやX染色体の構造異常も少なくありません。卵巣は卵胞の消失した索状性腺となるためエストロゲンが産生されず、負のフィードバックが外れてFSH・LHが高値となる高ゴナドトロピン性性腺機能低下症を示します。一方、Y染色体がないためミュラー管は退縮せず、子宮は小さいながら存在し、多嚢胞状の卵巣は多嚢胞性卵巣症候群の所見です。大動脈縮窄症などの心血管奇形は一般集団より多いものの、病態の筋道から導けるFSH高値こそが確実な知識であり、成長ホルモン療法やエストロゲン補充といった治療の理解にもつながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・14歳女子。主訴は低身長と初経の遅れ。 ・身長140 cmは同年齢女子の平均(おおむね155 cm前後)を大きく下回る著明な低身長である。一方、体重45 kgで、身長の割に体重はむしろ多い。 ・第二次性徴(乳房発育・陰毛発生)が全くみられない。 ・翼状頸(首の両側の皮膚が肩に向かって水かき状に張り出した状態)と外反肘(肘を伸ばしたときに前腕が外側へ強く開く状態)を認める。
診断へのプロセス
女子で「低身長+性腺機能不全(第二次性徴の欠如・原発性無月経)」がそろえば、まずTurner症候群を考える。翼状頸・外反肘という特徴的な身体所見が加われば、ほぼ確定的である。 低身長の鑑別としては、成長ホルモン分泌不全性低身長、甲状腺機能低下症、体質性(家族性・特発性)低身長、子宮内発育不全、骨系統疾患、その他の染色体異常などがある。思春期遅発については、体質性思春期遅発症や、視床下部・下垂体の異常による低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(Kallmann症候群など)も鑑別に挙がる。翼状頸・外反肘はNoonan症候群でもみられるが、Noonan症候群は男女ともに発症する常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、女子の卵巣機能は通常保たれ、肺動脈弁狭窄の合併が多い点で異なる。確定診断には染色体検査(G分染法による核型分析)を行う。
設問への考え方
Turner症候群はX染色体の1本が全部または一部欠失した性染色体異常である。卵巣は胎生期から急速に卵胞が失われて線維性の索状性腺(streak gonad)となるため、エストロゲンが分泌されず、負のフィードバックが外れて下垂体からのゴナドトロピン(FSH・LH)が上昇する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。一方、ミュラー管由来の子宮・卵管・腟上部は正常に形成される。この病態を踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 子宮は存在しない。
Turner症候群の性腺は卵巣系に分化しかけて索状化するものの、Y染色体がないため精巣は形成されず、抗ミュラー管ホルモンも分泌されない。そのためミュラー管は退縮せず、子宮・卵管・腟上部は存在する。ただしエストロゲンが不足しているため子宮は小さく未発達である。エストロゲン補充により子宮は発育し、消退出血(月経様出血)も起こる。子宮が欠損するのは、Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群(ミュラー管の形成不全)や、精巣をもつアンドロゲン不応症などである。
- ×b. 多嚢胞状の卵巣である。
Turner症候群の卵巣は、卵胞がほとんど消失して線維組織に置き換わった索状性腺であり、嚢胞状の卵胞が多数並ぶことはない。多数の小卵胞が卵巣表層に並ぶ多嚢胞状の卵巣は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: polycystic ovary syndrome)の所見で、LH高値・アンドロゲン過剰・排卵障害を伴う。
- ○c. 血中FSHは高値を示す。
索状性腺ではエストロゲン(およびインヒビン)がほとんど産生されないため、視床下部・下垂体への負のフィードバックが働かず、下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が過剰に分泌される。すなわち、エストロゲン低値・ゴナドトロピン高値の原発性(卵巣性)性腺機能低下症を示す。特にFSHの上昇が目立つ。この点は、視床下部・下垂体に原因があるためFSH・LHが低値となる低ゴナドトロピン性性腺機能低下症との鑑別に重要である。
- ×d. 染色体数は47本である。
Turner症候群の典型的な核型は45,X(X染色体が1本欠ける)で、染色体数は45本である。このほか、X染色体の構造異常(Xp欠失の46,X,del(X)(p11)、長腕同腕染色体の46,X,i(Xq)、環状X染色体の46,X,r(X)など)や、45,X/46,XXなどのモザイクも少なくない。構造異常の場合は染色体数は46本である。47本となる性染色体異常には、Klinefelter症候群(47,XXY)やトリプルX(47,XXX)がある。
- ×e. 先天性心疾患の合併頻度が高い。
Turner症候群では、大動脈二尖弁や大動脈縮窄症などの左心系の心血管奇形が一般集団より多くみられ、大動脈拡張・大動脈解離のリスクもあるため、診断時の心エコーなどによる評価が推奨される。ただし患者の多くは心疾患をもたない。本問ではこの記述は正解とされておらず、病態から必ず導けるFSH高値の方が確実に正しい記述と位置づけられている。先天性心疾患を高率に合併する代表的な染色体異常としては、Down症候群(約40~50%、心内膜床欠損症など)、18トリソミー・13トリソミー(大多数に合併)が挙げられる。
Turner症候群の概要
・X染色体の全部または一部の欠失による性染色体異常。女性の出生およそ2,000~2,500人に1人とされる。 ・45,Xの胎児の大部分は自然流産に終わり、自然流産胎児の染色体異常の中でも45,Xは頻度が高い。 ・核型:45,Xが約半数、残りはモザイク(45,X/46,XXなど)やX染色体の構造異常。Y染色体成分を含むモザイクでは性腺腫瘍(性腺芽腫など)のリスクがあり、予防的な性腺摘出が検討される。
主な臨床像
・低身長:幼児期から成長率が低く、思春期の成長スパート(身長の急伸)がみられない。成人身長は無治療で140 cm前後にとどまることが多い。原因の一つにX染色体短腕上のSHOX遺伝子のハプロ不全がある。 ・性腺機能不全:索状性腺、第二次性徴の欠如、原発性無月経、不妊(モザイクでは自然月経がみられることもある)。 ・外表所見:翼状頸、後頭部の毛髪線の低位、盾状胸(胸郭が広く乳頭間距離が広い)、外反肘、第4中手骨の短縮、多発性色素性母斑、新生児期の手足のリンパ浮腫。 ・合併症:大動脈二尖弁・大動脈縮窄症などの心血管奇形、馬蹄腎などの腎奇形、中耳炎・感音難聴、甲状腺機能低下症(橋本病)、耐糖能異常、骨粗鬆症。 ・知能は通常ほぼ正常だが、空間認知などが苦手な場合がある。
検査所見
・エストロゲン低値、FSH・LH高値(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。 ・染色体検査で確定診断。
治療
・低身長:成長ホルモン療法(Turner症候群は保険適用がある)。 ・性腺機能不全:適切な時期からエストロゲン補充を少量で開始して第二次性徴を誘導し、その後エストロゲン・プロゲスチンの周期的投与(Kaufmann療法)へ移行する。骨量の維持にも重要である。
Klinefelter症候群との対比
・Klinefelter症候群(47,XXY):男性、高身長、小さく硬い精巣、女性化乳房、無精子症。テストステロン低値・FSH/LH高値。 ・両者とも性腺そのものの障害のため、ゴナドトロピンは高値となる。
POINT
・女子の低身長+第二次性徴の欠如+翼状頸・外反肘 → Turner症候群 ・核型は45,Xが代表(染色体数45本)。モザイクや構造異常も多い ・卵巣は索状性腺 → エストロゲン低値、FSH・LH高値(高ゴナドトロピン性) ・子宮は存在する(小さい) ・合併症:大動脈縮窄症・大動脈二尖弁、馬蹄腎、甲状腺機能低下症 ・治療:成長ホルモン療法、エストロゲン補充→Kaufmann療法
