白い綿は「小さな梗塞」のしるし―軟性白斑から網膜の虚血を読み解く
第105回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
網膜に軟性白斑をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.黄斑円孔
- b.糖尿病網膜症
- c.網膜中心動脈閉塞症
- d.網膜中心静脈閉塞症
- e.中心性漿液性脈絡網膜症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
軟性白斑(綿花状白斑)は、網膜表層の毛細血管が閉塞して神経線維層が局所虚血に陥り、軸索輸送の停滞で神経線維が腫大した所見で、本質は「小さな梗塞」です。毛細血管閉塞を起こす糖尿病網膜症(増殖前網膜症の指標)や網膜中心静脈閉塞症(虚血型で目立つ)で出現する一方、網膜中心動脈閉塞症はびまん性の乳白色混濁と桜実紅斑が典型で、黄斑円孔や中心性漿液性脈絡網膜症は虚血性疾患ではありません。硬性白斑は血管から漏れた脂質・蛋白の沈着であり、「虚血の軟性」「漏出の硬性」と区別しておくと整理しやすくなります。高血圧網膜症、SLE、HIV網膜症、血液疾患などでもみられるため、軟性白斑は全身疾患を探る手がかりとして臨床的にも重要です。
解答・解説
正解はb, dです
軟性白斑(cotton wool spot、綿花状白斑)の成り立ちを理解していれば解ける問題である。
軟性白斑とは
網膜の表層を走る毛細血管(網膜神経線維層を栄養する細動脈・毛細血管)が局所的に閉塞すると、その領域の神経線維が虚血に陥る。神経線維の中を流れている軸索輸送(神経細胞体と軸索末端の間で物質を運ぶ流れ)がせき止められ、軸索内に輸送物質がたまって神経線維が腫れる。これが検眼鏡で境界のぼやけた白い綿のような斑として見えるのが軟性白斑であり、本質は「神経線維層の小さな梗塞(局所虚血)」である。
解き方
したがって「網膜の毛細血管レベルで限局性の虚血を起こす疾患」を選べばよい。糖尿病網膜症と網膜中心静脈閉塞症はいずれも毛細血管閉塞を起こしうる疾患であり、軟性白斑が出現する。 迷いやすいのは網膜中心動脈閉塞症である。動脈閉塞も虚血ではあるが、網膜中心動脈の本幹が詰まるため網膜内層が広範に一様に虚血・浮腫となり、斑状の白斑というより網膜全体が乳白色に混濁する所見を呈する。この「局所か、びまん性か」という違いで区別する。
選択肢考察
- ×a. 黄斑円孔
黄斑円孔は、硝子体が中心窩を前後・接線方向に牽引することで黄斑の中心に全層性の孔が開く疾患である。高齢者(特に女性)の特発性が多く、視力低下や変視症(ものがゆがんで見える)を生じる。機械的な牽引が原因であり、網膜の血管閉塞や虚血は関与しないため、軟性白斑は生じない。治療は硝子体手術(内境界膜剝離とガスタンポナーデ)である。
- ○b. 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、慢性高血糖によって網膜の毛細血管が障害され(周皮細胞の脱落、基底膜肥厚など)、毛細血管瘤や血管の閉塞・透過性亢進が進む疾患である。毛細血管が閉塞すると神経線維層に局所虚血が起こり、軟性白斑が出現する。軟性白斑は網膜の虚血を示す所見であり、網膜内細小血管異常(IRMA)や静脈の数珠状拡張とともに、増殖前網膜症(新生血管が出現する前段階)を示唆する重要なサインである。このほか、点状・しみ状出血や硬性白斑(血管から漏れた脂質・蛋白の沈着)もみられる。網膜虚血の代表的疾患として正しい。
- ×c. 網膜中心動脈閉塞症
網膜中心動脈閉塞症は、網膜中心動脈の本幹が塞栓や血栓で詰まり、突然の高度な片眼視力低下をきたす疾患である。網膜内層全体が急性虚血に陥って浮腫を起こすため、後極部の網膜はびまん性に白く混濁する。一方、中心窩は網膜内層が薄く、その下の脈絡膜(毛様動脈系で栄養され閉塞の影響を受けない)の赤色が透けて見えるため、白く濁った網膜の中で中心窩だけが赤く目立つ桜実紅斑(cherry-red spot)となる。このように所見の主体は広範で均一な白濁であり、限局性の斑状病変である軟性白斑とは形態が異なる。
- ○d. 網膜中心静脈閉塞症
網膜中心静脈閉塞症は、視神経乳頭付近(篩状板部)で網膜中心静脈が閉塞する疾患で、高血圧・動脈硬化・糖尿病などが危険因子となる。静脈の還流が障害されるため、網膜静脈は拡張・蛇行し、網膜全体に火炎状出血が多発する。うっ血が高度になると毛細血管の閉塞が生じ(虚血型)、その部位に軟性白斑が現れる。軟性白斑が多いことは虚血型であることを示唆し、虚血型では後に新生血管や血管新生緑内障を起こしやすいため注意を要する。したがって正しい。
- ×e. 中心性漿液性脈絡網膜症
中心性漿液性脈絡網膜症は、脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮のバリア機能の破綻により、漿液が網膜下に漏れ出して黄斑部に限局した漿液性(滲出性)網膜剝離を生じる疾患である。30〜50歳代の男性に多く、ストレスや副腎皮質ステロイド使用が誘因となる。症状は変視症、小視症、中心暗点などである。網膜の毛細血管の閉塞や虚血は起こらないため、軟性白斑は生じない。多くは数か月で自然軽快する。
軟性白斑と硬性白斑の違い
・軟性白斑:網膜表層の毛細血管閉塞による神経線維層の局所虚血。軸索輸送の停滞による神経線維の腫大。境界不鮮明で綿花状の白色斑。数週〜数か月で消退する。 ・硬性白斑:障害された血管から漏れ出た脂質・蛋白質が網膜の外網状層に沈着したもの。境界鮮明で黄白色、光沢があり、黄斑部では星芒状に並ぶこともある。血管透過性亢進(浮腫)を示す所見である。
軟性白斑をきたす主な疾患
・糖尿病網膜症(増殖前網膜症の指標) ・網膜静脈閉塞症(中心静脈・分枝静脈とも。虚血型で目立つ) ・高血圧網膜症、腎性網膜症(悪性高血圧では乳頭浮腫とともに多発する) ・膠原病(全身性エリテマトーデス〈SLE〉など) ・HIV網膜症(HIV感染症で最も頻度の高い眼底所見) ・重症貧血、白血病など血液疾患
網膜中心動脈閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の眼底所見の比較
・動脈閉塞:網膜の乳白色混濁、桜実紅斑、動脈の狭細化。突然の高度視力低下。発症後早期の血流再開が治療目標。 ・静脈閉塞:静脈の拡張・蛇行、網膜全体の火炎状出血、黄斑浮腫、軟性白斑(虚血型)。黄斑浮腫には抗VEGF薬硝子体内注射、無灌流領域には網膜光凝固を行う。
POINT
・軟性白斑=網膜表層の毛細血管閉塞による神経線維層の局所虚血(軸索輸送の停滞)。 ・「網膜に局所虚血を起こす疾患」を選ぶ:糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧網膜症、SLE、HIV網膜症など。 ・糖尿病網膜症では軟性白斑は増殖前網膜症を示唆する。 ・網膜中心動脈閉塞症は網膜のびまん性白濁と桜実紅斑が特徴で、典型的に軟性白斑とはしない。 ・黄斑円孔(牽引)や中心性漿液性脈絡網膜症(漿液性剝離)は虚血性疾患ではない。
