眠れない人に睡眠薬、が裏目に出るとき―睡眠障害と治療薬の正しい組合せ
第105回医師国家試験 I問題 第17問
国試問題にチャレンジ
睡眠障害と治療薬の組合せで誤っているのはどれか。
- a.ナルコレプシー ―― メチルフェニデート
- b.睡眠時無呼吸症候群 ―― ジアゼパム
- c.睡眠覚醒スケジュール障害 ―― メラトニン
- d.むずむず脚症候群 ―― プラミペキソール
- e.レム〈REM〉睡眠行動障害 ―― クロナゼパム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
睡眠障害の治療薬は、病態に合わせて選ぶと理解しやすくなります。ナルコレプシーには覚醒を促すメチルフェニデートなどの中枢神経刺激薬、概日リズム睡眠・覚醒障害にはメラトニンやラメルテオン、むずむず脚症候群にはドパミン作動薬のプラミペキソールと鉄補充、レム睡眠行動障害にはクロナゼパムが用いられます。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群にジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬を使うと、筋弛緩による上気道閉塞の増悪、呼吸抑制、覚醒反応の鈍化によって病態を悪化させるおそれがあり、治療の基本は減量やCPAPです。レム睡眠行動障害がα-シヌクレイン関連疾患の前駆症状となりうる点も含め、睡眠の訴えの背景にある病態を見極める姿勢が安全な薬物療法につながります。
解答・解説
正解はbです
代表的な睡眠障害とその治療薬の対応を問う問題である。「誤っているもの」を一つ選ぶ形式なので、各組合せについて「その疾患の病態に対して、その薬が理にかなっているか」を確認していく。 考え方の軸は次のとおりである。 ・過眠を主症状とする疾患(ナルコレプシー)には、覚醒を促す中枢神経刺激薬を用いる。 ・体内時計(概日リズム)のずれによる疾患には、時計を調整するメラトニン系の薬を用いる。 ・ドパミン機能低下が関与する疾患(むずむず脚症候群)には、ドパミン作動薬を用いる。 ・レム睡眠中に筋緊張が抜けずに夢の内容を行動に移してしまう疾患(レム睡眠行動障害)には、クロナゼパムが第一選択として知られる。 一方、睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に上気道が閉塞して呼吸が止まる疾患であり、筋弛緩作用と呼吸抑制作用をもつベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)は、上気道の虚脱を強め、低酸素に対する覚醒反応も鈍らせるため病態を悪化させる。したがって「睡眠時無呼吸症候群 ― ジアゼパム」の組合せが誤りである。
選択肢考察
- ×a. ナルコレプシー ―― メチルフェニデート
組合せとして正しい。ナルコレプシーは、視床下部の覚醒維持物質であるオレキシン(ヒポクレチン)を産生する神経細胞の脱落により、日中の耐えがたい眠気(睡眠発作)、情動脱力発作(カタプレキシー:笑いや驚きなど強い感情で急に体の力が抜ける)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(いわゆる金縛り)をきたす疾患である。日中の眠気に対しては、ドパミンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して覚醒度を高める中枢神経刺激薬を用いる。メチルフェニデートはその代表であり、ほかにモダフィニルも用いられる。情動脱力発作には、レム睡眠を抑える作用をもつ三環系抗うつ薬(クロミプラミンなど)が用いられる。
- ○b. 睡眠時無呼吸症候群 ―― ジアゼパム
組合せとして誤りであり、これが正解である。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、肥満や扁桃肥大、小顎などを背景に、睡眠中に舌根や軟口蓋が沈下して上気道が繰り返し閉塞する疾患である。ジアゼパムはベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬であるが、筋弛緩作用によって咽頭の筋緊張をさらに低下させて気道閉塞を悪化させ、さらに呼吸中枢の抑制や、低酸素・高二酸化炭素に反応して目覚める覚醒反応の鈍化も招く。その結果、無呼吸が長く重くなり、低酸素血症が増悪するおそれがあるため、使用は避けるべきである。本症の治療の基本は、減量・節酒・側臥位での睡眠などの生活指導、持続陽圧呼吸療法(CPAP:鼻マスクから一定圧の空気を送り込んで気道を開いておく方法)、口腔内装置(マウスピース)、原因に応じた外科治療(扁桃摘出など)であり、根本的に効く薬物療法はない。
- ×c. 睡眠覚醒スケジュール障害 ―― メラトニン
組合せとして正しい。睡眠覚醒スケジュール障害は現在では概日リズム睡眠・覚醒障害と呼ばれ、睡眠相後退型(極端な夜型で朝起きられない)、睡眠相前進型、時差障害(時差ぼけ)、交代勤務型などがある。メラトニンは暗くなると松果体から分泌されるホルモンで、視交叉上核にある体内時計に「夜」の信号を伝え、概日リズムを調整する。適切な時刻にメラトニンやメラトニン受容体作動薬(わが国で開発されたラメルテオンなど)を用いると、ずれた睡眠のリズムを前にずらす効果が期待できる。朝の高照度光療法も併用される。
- ×d. むずむず脚症候群 ―― プラミペキソール
組合せとして正しい。むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、下肢静止不能症候群)は、主に夕方から夜間の安静時に下肢の奥がむずむずする・虫が這うような不快感が生じ、脚を動かさずにいられなくなり、動かすと軽快する疾患である。このため入眠が妨げられる。病態には中枢のドパミン機能低下と脳内の鉄不足が関与すると考えられている。治療にはドパミン受容体作動薬であるプラミペキソールやロチゴチン、α2δリガンドのガバペンチン エナカルビルなどが用いられる。また、鉄欠乏(血清フェリチン低値)があれば鉄剤を補充する。続発性のものとして鉄欠乏性貧血、慢性腎不全(透析患者)、妊娠などが知られる。
- ×e. レム〈REM〉睡眠行動障害 ―― クロナゼパム
組合せとして正しい。通常、レム睡眠中は全身の骨格筋が弛緩して体は動かない。レム睡眠行動障害ではこの筋緊張の抑制が失われるため、夢の内容に合わせて叫ぶ、殴る、蹴るなどの行動が出現し、本人やベッドパートナーがけがをすることがある。高齢男性に多く、Parkinson病やLewy小体型認知症、多系統萎縮症などのα-シヌクレイン関連疾患の前駆症状として出現することが多い点が重要である。治療には、抗てんかん薬としても用いられるベンゾジアゼピン系薬のクロナゼパムが第一選択として広く用いられ、多くの例で異常行動が抑えられる。ほかにプラミペキソールなどが有効な場合もある。寝室から危険物を除くなどの環境調整も併せて行う。
主な睡眠障害と治療の整理
・ナルコレプシー:オレキシン神経の脱落。日中の過眠、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺、入眠時レム睡眠。髄液オレキシン低値、特定のHLA型(HLA-DR2/DQ6)との強い関連。治療は中枢神経刺激薬(メチルフェニデート、モダフィニル)、情動脱力発作には三環系抗うつ薬など。 ・閉塞性睡眠時無呼吸症候群:いびき、日中の眠気、起床時頭痛。高血圧、心血管疾患のリスクとなる。診断は終夜睡眠ポリグラフ検査で無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数)を測定する。治療は減量、CPAP、口腔内装置など。ベンゾジアゼピン系薬や飲酒は増悪因子である。 ・概日リズム睡眠・覚醒障害:体内時計と社会的な生活時間とのずれ。治療は高照度光療法、メラトニン・メラトニン受容体作動薬、生活リズムの調整。 ・むずむず脚症候群:安静時の下肢不快感と運動衝動、夕方~夜間に増悪。ドパミン作動薬、鉄補充。周期性四肢運動を合併しやすい。 ・レム睡眠行動障害:レム睡眠中の筋緊張消失の欠如(REM sleep without atonia)。α-シヌクレイン関連疾患の前駆状態。治療はクロナゼパム。
ベンゾジアゼピン系薬の注意点
鎮静・抗不安・抗けいれん作用のほか、筋弛緩作用と呼吸抑制作用をもつ。睡眠時無呼吸症候群、重症筋無力症、急性閉塞隅角緑内障などでは注意または禁忌となる。高齢者ではふらつき・転倒やせん妄の原因にもなる。
POINT
・睡眠時無呼吸症候群にベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム等)は筋弛緩・呼吸抑制により増悪させるため避ける。治療の基本は減量とCPAP。 ・ナルコレプシー ― メチルフェニデート、モダフィニル ・概日リズム睡眠・覚醒障害 ― メラトニン(受容体作動薬ラメルテオン)、高照度光療法 ・むずむず脚症候群 ― プラミペキソールなどのドパミン作動薬、鉄補充 ・レム睡眠行動障害 ― クロナゼパム。Parkinson病・Lewy小体型認知症の前駆症状として重要
