治らない痔瘻は腸からのサイン―若者の肛門病変に潜むCrohn病
第105回医師国家試験 I問題 第18問
国試問題にチャレンジ
若年者の難治性痔瘻の原因で最も可能性が高いのはどれか。
- a.直腸癌
- b.Crohn病
- c.アメーバ赤痢
- d.潰瘍性大腸炎
- e.過敏性腸症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
通常の痔瘻は肛門陰窩から肛門腺に細菌が入り込む肛門腺感染によって生じ、手術で治癒することが多い疾患です。これに対し、若年者で多発・複雑な瘻管をもち、再発を繰り返す難治性痔瘻では、背景にCrohn病を最も疑います。Crohn病は消化管全体に非連続性・全層性の炎症を起こすため瘻孔や膿瘍を形成しやすく、腸症状より先に肛門病変で発症することもあります。粘膜主体の炎症である潰瘍性大腸炎では痔瘻は少なく、これが両者の重要な鑑別点であり、長期経過の痔瘻から生じる痔瘻癌とも区別して理解しておく必要があります。「治らない痔瘻の奥に全身疾患がないか」と考える視点は、消化器診療で見逃しを防ぐうえで欠かせません。
解答・解説
正解はbです
痔瘻(じろう)とは、肛門と周囲の皮膚との間にトンネル状の瘻管ができた状態である。通常の痔瘻は、肛門の歯状線にある肛門陰窩(小さなくぼみ)から細菌が肛門腺に入り込んで肛門周囲膿瘍をつくり、それが皮膚側へ破れて瘻管として残ることで生じる(crypt-glandular infection:肛門腺感染説)。このような通常の痔瘻は手術(瘻管切開開放術、シートン法など)で治癒することが多い。 これに対して「若年者」「難治性」「多発・複雑な瘻管」「再発を繰り返す」といった特徴がそろう場合は、背景に全身性の疾患、特にCrohn病を疑うことが重要である。Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも生じる全層性の肉芽腫性炎症であり、炎症が腸管壁を貫いて瘻孔や膿瘍を形成しやすい。肛門病変(痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂肛、潰瘍、皮垂)の頻度が高く、腸の症状よりも先に肛門病変で発症することもまれではない。好発年齢は10歳代後半~20歳代である。 したがって、若年者の難治性痔瘻をみたら、まずCrohn病を念頭に置いて大腸内視鏡検査や小腸の評価を行う、というのが本問の考え方である。
選択肢考察
- ×a. 直腸癌
誤り。直腸癌は主に中高年に発生する疾患で、若年者での発症は家族性大腸腺腫症やLynch症候群などの遺伝性素因がある場合を除けばまれである。直腸癌が痔瘻の原因となることは一般的ではない。なお逆の関係として、10年以上の長期にわたって持続する痔瘻からは癌が発生することがあり(痔瘻癌)、粘液の排出や硬結の増大がみられる場合には注意が必要であるが、これは長い経過をもつ中高年に多く、本問の問いとは異なる。
- ○b. Crohn病
正しい。Crohn病は若年者(10歳代後半~20歳代)に好発する原因不明の慢性炎症性腸疾患で、消化管のどこにでも非連続性(skip lesion)に全層性の炎症を生じ、組織では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫がみられる。炎症が腸管壁全層に及ぶため瘻孔や膿瘍を形成しやすく、肛門部では複雑で多発する痔瘻や肛門周囲膿瘍として現れる。これらは通常の痔瘻と異なり、手術だけでは治りにくく再発を繰り返す。腹痛・下痢・体重減少などの腸症状より先に肛門病変で見つかることもあるため、若年者の難治性痔瘻では本症を最も疑う。痔瘻の治療には、感染コントロール(ドレナージやシートン法)に加えて、抗菌薬、免疫調節薬、抗TNF-α抗体製剤などの内科的治療が組み合わされる。
- ×c. アメーバ赤痢
誤り。アメーバ赤痢は赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の嚢子(シスト)を経口摂取して感染し、主に盲腸や直腸・S状結腸に「たこいぼ様」びらんや潰瘍を形成する。症状はイチゴゼリー状の粘血便、下痢、腹痛などで、便や生検組織中に赤血球を貪食した栄養体を認めることが診断上の特徴である。性的接触(特に男性同性間)による感染も多い。肝膿瘍を合併することはあるが、難治性痔瘻の原因としては一般的ではない。治療はメトロニダゾールである。
- ×d. 潰瘍性大腸炎
誤り。潰瘍性大腸炎も若年者に多い炎症性腸疾患であるが、炎症は直腸から連続性に口側へ広がり、主に粘膜・粘膜下層にとどまる。腸管壁全層に及ばないため、瘻孔形成や難治性痔瘻を生じることは少なく、この点がCrohn病との重要な鑑別点である。潰瘍性大腸炎で問題となる合併症は、中毒性巨大結腸症、大量出血、穿孔、長期経過例での大腸癌(colitic cancer)、原発性硬化性胆管炎などである。
- ×e. 過敏性腸症候群
誤り。過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛と便通異常(下痢、便秘、あるいは両者の交替)が慢性に続くものの、内視鏡や血液検査などで症状を説明できる器質的疾患を認めない機能性の消化管疾患である。ストレスなど心理的要因で増悪しやすい。器質的病変である痔瘻の原因とはならない。逆に、痔瘻などの器質的異常があれば、IBSと診断する前に他疾患の検索を行うべきである。
痔瘻の分類
瘻管と肛門括約筋との位置関係で、皮下痔瘻、粘膜下痔瘻、低位・高位筋間痔瘻、坐骨直腸窩痔瘻、骨盤直腸窩痔瘻に分けられる(隅越分類)。深い位置のものほど治療が難しく、括約筋機能を温存する工夫が必要となる。
Crohn病と潰瘍性大腸炎の比較
・病変部位:Crohn病は口腔~肛門の全消化管(回盲部に多い)/潰瘍性大腸炎は大腸のみ(直腸から連続性) ・分布:Crohn病は非連続性(skip lesion)/潰瘍性大腸炎は連続性 ・炎症の深さ:Crohn病は全層性/潰瘍性大腸炎は粘膜・粘膜下層中心 ・内視鏡:Crohn病は縦走潰瘍、敷石像、アフタ/潰瘍性大腸炎は血管透見像の消失、びまん性の易出血性粘膜、偽ポリポーシス ・組織:Crohn病は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫/潰瘍性大腸炎は陰窩膿瘍、杯細胞の減少 ・合併症:Crohn病は瘻孔、狭窄、膿瘍、難治性痔瘻/潰瘍性大腸炎は中毒性巨大結腸症、大腸癌、原発性硬化性胆管炎 ・喫煙:Crohn病では増悪因子/潰瘍性大腸炎では発症リスクがむしろ低い
痔瘻をきたしうる背景疾患
Crohn病のほか、結核、HIV感染症などの免疫不全、放射線照射後、悪性腫瘍(痔瘻癌)などがある。
POINT
・若年者の難治性・多発性・再発性痔瘻をみたらCrohn病を疑い、消化管の精査を行う。 ・Crohn病は全層性炎症のため瘻孔・膿瘍を形成しやすく、肛門病変が初発症状となることがある。 ・潰瘍性大腸炎は粘膜主体の炎症で、痔瘻・瘻孔は少ない(Crohn病との鑑別点)。 ・長期の痔瘻は痔瘻癌の母地となりうる。
