心室が止まるか、止まらないか―ブロックの「場所」で読む失神のリスク
第105回医師国家試験 H問題 第9問
国試問題にチャレンジ
失神をきたす不整脈はどれか。
- a.完全右脚ブロック
- b.完全左脚ブロック
- c.完全房室ブロック
- d.MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック
- e.Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不整脈による失神は、高度の徐脈・心停止または著しい頻脈で心拍出量が急に低下し、脳血流が途絶えることで起こります。完全房室ブロックでは心房の興奮が心室に全く伝わらず、遅く不安定な補充調律に頼るため、補充調律の出現が遅れるとAdams-Stokes発作として失神をきたす代表的な不整脈です。脚ブロックは心室の興奮が保たれるためそれ自体では失神を起こさず、房室結節でのブロックが多いWenckebach型は良性、His束以下のブロックが多いMobitzⅡ型は完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカー適応となります。ブロック部位がHis束より上か下かで予後を読む考え方は、心電図判読と失神患者の評価・治療方針決定の基盤となります。
解答・解説
正解はcです
失神とは、脳全体の血流が一過性に低下することで意識を失い、短時間のうちに自然に回復する状態である。不整脈で失神が起こるのは、心拍出量が急に大きく落ちて脳へ十分な血液が送られなくなるときであり、その原因は大きく2つに分けられる。 1)高度の徐脈や心停止(心室が長く収縮しない) 2)心室頻拍・心室細動などの著しい頻脈(心室が十分に血液を充満できず、拍出が保てない) 本問の選択肢はすべて刺激伝導系の「ブロック」である。考え方の軸は「そのブロックで心室の収縮そのものが止まる(または極端に遅くなる)かどうか」である。 ・脚ブロック(右脚・左脚)は、His束より先の一方の脚での伝導障害である。心室へのもう一方の伝導路が残っているため心室は興奮し、心拍数は保たれる。心電図ではQRS幅が広がるが、それだけで失神は起こらない。 ・房室ブロックは、心房から心室への伝導が途切れる状態である。途切れ方が高度であるほど心室の拍動が減り、失神につながりやすい。Ⅲ度(完全)房室ブロックでは心房の興奮がまったく心室へ伝わらず、心室は下位の補充調律(His束以下から出る遅い自動能)だけに頼ることになる。補充調律の出現が遅れたり、その頻度が極端に低かったりすると、心停止に近い状態が生じて失神する。これをAdams-Stokes発作という。 したがって、失神をきたす代表的な不整脈として最もふさわしいのは完全房室ブロックである。
選択肢考察
- ×a. 完全右脚ブロック
右脚の伝導が途絶し、右室は左脚側からの興奮が心筋を伝わって遅れて興奮する状態である。心電図ではQRS幅が0.12秒以上に広がり、V1誘導でrsR'型を示す。心室の興奮は保たれ心拍数も変わらないため、それ自体で失神は起こらない。基礎疾患のない健常者にもみられ、単独では病的意義に乏しいことが多い。なお、右脚ブロック様の波形を示すBrugada症候群(心室細動を起こしうる)や、右心負荷をきたす肺塞栓症では失神が起こりうるが、その原因は脚ブロックそのものではなく、心室細動や急激な循環不全である。
- ×b. 完全左脚ブロック
左脚の伝導が途絶し、左室の興奮が遅れる状態である。QRS幅は0.12秒以上となり、V5・V6誘導で幅広く頂点に切れ込みのあるR波(M字型)を示す。左室の収縮が遅れるため大動脈弁の閉鎖が遅れ、Ⅱ音の奇異性分裂を生じることがある。右脚ブロックと異なり、心筋症・虚血性心疾患・高血圧性心疾患などの器質的心疾患を背景にもつことが多い点で臨床的意義は大きい。しかし、脚ブロックそのものでは心室の拍動は保たれ、失神は通常起こさない。基礎心疾患に伴う心室性不整脈や、伝導障害が右脚にも進んで完全房室ブロックに至った場合に失神が起こりうる。
- ○c. 完全房室ブロック
Ⅲ度房室ブロックともいう。心房の興奮がまったく心室に伝わらず、心房(P波)と心室(QRS波)がそれぞれ無関係なリズムで動く(房室解離)。心室は補充調律によって動くが、房室接合部由来なら40~60/分程度、心室由来では40/分未満と遅く、QRS幅も広くなる。補充調律が出るまでに時間がかかる、あるいは極端に遅いと、心拍出量が急に途絶えて脳血流が低下し、めまいや失神、ときにけいれんを生じる(Adams-Stokes発作)。このため失神をきたす代表的な不整脈であり、原因が可逆的でない場合は恒久的ペースメーカー植込みの適応となる。
- ×d. MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック
PR間隔が一定のまま、前触れなく突然QRS波が脱落するⅡ度房室ブロックである。ブロック部位はHis束内またはHis束より下(His束以下)であることが多い。脱落するのはときどきの1拍であり、それ自体で心室が長く止まることは多くない。ただし完全房室ブロックへ突然移行しやすく、その際にAdams-Stokes発作を起こしうるため予後不良とされ、症状がなくても恒久的ペースメーカーの適応となる。本問では「失神をきたす不整脈」の典型として完全房室ブロックがより適切であり、MobitzⅡ型は正解とされていない。
- ×e. Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック
MobitzⅠ型Ⅱ度房室ブロックともいう。PR間隔が1拍ごとに徐々に延長していき、最後にQRS波が1つ脱落して元に戻る、という周期を繰り返す。ブロック部位は多くが房室結節(His束より上)であり、下位の補充調律も比較的安定しているため、失神をきたすことはほとんどない。迷走神経の緊張が強い健常者やスポーツ選手、睡眠中にもみられ、ジギタリスやβ遮断薬などの薬剤、下壁心筋梗塞でも生じる。通常は経過観察でよい。
房室ブロックの分類
・Ⅰ度:PR間隔が0.20秒を超えて延長するが、QRS波の脱落はない。 ・Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型):PR間隔が徐々に延長してQRS波が脱落する。主に房室結節でのブロックで、予後は良好。 ・Ⅱ度 MobitzⅡ型:PR間隔は一定のまま突然QRS波が脱落する。主にHis束以下のブロックで、完全房室ブロックへ移行しやすい。 ・高度房室ブロック:2拍以上連続してQRS波が脱落する(3:1以上の伝導比など)。 ・Ⅲ度(完全):心房から心室への伝導がすべて途絶し、P波とQRS波が無関係に出現する。 ブロック部位がHis束より上か下かの判定には、His束心電図(心内電位図)が役立つ。
Adams-Stokes発作
不整脈によって心拍出量が急に低下し、脳の血流が不足して起こるめまい・失神・けいれんの総称である。完全房室ブロック、高度房室ブロック、洞不全症候群(洞停止など)による徐脈や心停止で起こるほか、心室頻拍・心室細動などの頻脈でも起こる。
失神をきたしうる主な不整脈
・徐脈性:完全房室ブロック、高度房室ブロック、MobitzⅡ型房室ブロック(進行時)、洞不全症候群、徐脈性心房細動、高度の洞性徐脈 ・頻脈性:心室頻拍、心室細動(QT延長症候群に伴うtorsade de pointes、Brugada症候群など)、心拍数の非常に速い上室頻拍、頻脈性心房細動(WPW症候群を伴う偽性心室頻拍など)
ペースメーカー植込みの主な適応
症状(失神など)を伴う徐脈性不整脈に加え、無症状であってもMobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック、高度房室ブロック、完全房室ブロックは、原則として恒久的ペースメーカー植込みの適応となる(可逆的な原因がある場合を除く)。
POINT
・不整脈による失神は「高度の徐脈・心停止」または「著しい頻脈」で心拍出量が急に落ちることで起こる。 ・完全房室ブロックでは補充調律が遅く不安定で、Adams-Stokes発作(失神)を起こす代表的な不整脈である。 ・脚ブロックは心室の拍動が保たれ、それ自体で失神は起こさない。 ・Wenckebach型は房室結節でのブロックが多く良性、MobitzⅡ型はHis束以下が多く完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカー適応。
