StudyMed医師国家試験

心室が止まるか、止まらないか―ブロックの「場所」で読む失神のリスク

第105回医師国家試験 H問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第9問

失神をきたす不整脈はどれか。

  1. a.完全右脚ブロック
  2. b.完全左脚ブロック
  3. c.完全房室ブロック
  4. d.MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック
  5. e.Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、刺激伝導系のブロックのうち失神を起こすのはどれかを問う問題だ。考える軸は「そのブロックで心室の拍動そのものが止まったり、極端に遅くなったりするか」。まず、失神とはどういう状態か説明してみよう。
医学生医学生
脳全体の血流が一過性に低下して意識を失い、短時間で自然に回復する状態です。救急の講義で、てんかん発作との区別が大事だと習いました。
ドクタードクター
いいね。では不整脈で失神が起きるのはどんなときだろう。
医学生医学生
心拍出量が急に落ちるときなので……脈が遅すぎるか、速すぎるかでしょうか。
ドクタードクター
その通り。高度の徐脈や心停止で心室が長く収縮しない場合と、心室頻拍や心室細動のように速すぎて心室に血液が充満できない場合の2つだ。今回の選択肢はすべてブロックだから、前者の「心室が止まるかどうか」で考えればいい。まず脚ブロックから見てみよう。
医学生医学生
脚ブロックはQRS幅が広がるので、なんとなく重症そうに見えてしまいます。
ドクタードクター
心電図の見た目に引っ張られやすいところだね。脚ブロックはHis束より先、片方の脚での伝導障害だ。もう一方の脚から興奮が心室に伝わるから、心室は遅れながらもちゃんと興奮して、心拍数は保たれる。だから脚ブロックそのものでは失神は起こらない。
医学生医学生
右脚ブロックは健診の心電図でもよく見かけますね。CBTでもV1のrsR'型が出ました。
ドクタードクター
完全右脚ブロックは健常者にもみられ、単独では病的意義に乏しいことが多い。一方、完全左脚ブロックはV5・V6で幅広くM字型のR波を示し、心筋症や虚血性心疾患などの器質的心疾患を背景にもつことが多い点で臨床的意義は大きい。ただ、どちらもブロック自体が失神の原因になるわけではない。
医学生医学生
じゃあ本命は房室ブロックですね。心房から心室への道が途切れるから、心室の拍動が減ります。
ドクタードクター
そう。途切れ方が高度なほど心室の拍動が減って失神しやすくなる。完全房室ブロックでは心房の興奮がまったく心室に伝わらず、P波とQRS波が無関係に動く房室解離になる。心室は下位の補充調律だけが頼りだ。
医学生医学生
補充調律があるなら、心臓は止まらないのでは?
ドクタードクター
鋭い疑問だね。補充調律は房室接合部由来なら40〜60/分程度、心室由来だと40/分未満と遅い。しかも出てくるまでに時間がかかったり、不安定だったりする。その間は心停止に近い状態になり、脳血流が途絶えてめまい、失神、ときにけいれんを起こす。これがAdams-Stokes発作だ。だから完全房室ブロックが正解になる。
医学生医学生
MobitzⅡ型も危ないと習いました。循環器内科の実習で、MobitzⅡ型の患者さんがペースメーカー植込みを待っていました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。MobitzⅡ型はPR間隔が一定のまま突然QRS波が脱落するブロックで、His束内やHis束以下で起こることが多い。脱落はときどきの1拍なので、それ自体で心室が長く止まることは多くない。問題は完全房室ブロックへ突然移行しやすいことで、その時にAdams-Stokes発作を起こしうる。だから無症状でもペースメーカーの適応になる。
医学生医学生
なるほど、失神の「予備軍」だけれど、失神の典型としては完全房室ブロックのほうが適切ということですね。
ドクタードクター
その整理でいい。最後にWenckebach型はどうかな。
医学生医学生
PR間隔がだんだん延びて、1拍抜けてリセットされるパターンです。房室結節のブロックなので良性でしたよね。
ドクタードクター
その通り。ブロック部位がHis束より上の房室結節であることが多く、下位の補充調律も比較的安定しているので、失神はほとんど起こさない。迷走神経緊張の強いスポーツ選手や睡眠中の健常者にもみられ、ジギタリスやβ遮断薬、下壁梗塞でも生じる。通常は経過観察でいい。
医学生医学生
ブロックが「His束より上か下か」で予後が分かれる、というのが共通の考え方ですね。
ドクタードクター
まさにそれが本質だ。発展知識として、失神をきたす不整脈は徐脈性と頻脈性に分けて整理しておこう。徐脈性なら完全房室ブロック、高度房室ブロック、洞不全症候群など。頻脈性なら心室頻拍、心室細動、QT延長症候群のtorsade de pointes、Brugada症候群、WPW症候群に伴う頻脈性心房細動などがある。右脚ブロック様の波形を示すBrugada症候群では失神が起こりうるけれど、原因は脚ブロックではなく心室細動だ。
医学生医学生
左脚ブロックの人でも、伝導障害が右脚にも及べば完全房室ブロックになって失神しうる、ということですか。
ドクタードクター
その通り。だから脚ブロックの患者さんが失神したときは、「脚ブロックだから関係ない」と片付けず、房室ブロックへの進行や心室性不整脈を疑って、ホルター心電図などで精査することが大切だ。原因が可逆的でない完全房室ブロックは恒久的ペースメーカーの適応になる。

まとめ

不整脈による失神は、高度の徐脈・心停止または著しい頻脈で心拍出量が急に低下し、脳血流が途絶えることで起こります。完全房室ブロックでは心房の興奮が心室に全く伝わらず、遅く不安定な補充調律に頼るため、補充調律の出現が遅れるとAdams-Stokes発作として失神をきたす代表的な不整脈です。脚ブロックは心室の興奮が保たれるためそれ自体では失神を起こさず、房室結節でのブロックが多いWenckebach型は良性、His束以下のブロックが多いMobitzⅡ型は完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカー適応となります。ブロック部位がHis束より上か下かで予後を読む考え方は、心電図判読と失神患者の評価・治療方針決定の基盤となります。

解答・解説

正解はcです

失神とは、脳全体の血流が一過性に低下することで意識を失い、短時間のうちに自然に回復する状態である。不整脈で失神が起こるのは、心拍出量が急に大きく落ちて脳へ十分な血液が送られなくなるときであり、その原因は大きく2つに分けられる。 1)高度の徐脈や心停止(心室が長く収縮しない) 2)心室頻拍・心室細動などの著しい頻脈(心室が十分に血液を充満できず、拍出が保てない) 本問の選択肢はすべて刺激伝導系の「ブロック」である。考え方の軸は「そのブロックで心室の収縮そのものが止まる(または極端に遅くなる)かどうか」である。 ・脚ブロック(右脚・左脚)は、His束より先の一方の脚での伝導障害である。心室へのもう一方の伝導路が残っているため心室は興奮し、心拍数は保たれる。心電図ではQRS幅が広がるが、それだけで失神は起こらない。 ・房室ブロックは、心房から心室への伝導が途切れる状態である。途切れ方が高度であるほど心室の拍動が減り、失神につながりやすい。Ⅲ度(完全)房室ブロックでは心房の興奮がまったく心室へ伝わらず、心室は下位の補充調律(His束以下から出る遅い自動能)だけに頼ることになる。補充調律の出現が遅れたり、その頻度が極端に低かったりすると、心停止に近い状態が生じて失神する。これをAdams-Stokes発作という。 したがって、失神をきたす代表的な不整脈として最もふさわしいのは完全房室ブロックである。

選択肢考察

  1. ×a.  完全右脚ブロック

    右脚の伝導が途絶し、右室は左脚側からの興奮が心筋を伝わって遅れて興奮する状態である。心電図ではQRS幅が0.12秒以上に広がり、V1誘導でrsR'型を示す。心室の興奮は保たれ心拍数も変わらないため、それ自体で失神は起こらない。基礎疾患のない健常者にもみられ、単独では病的意義に乏しいことが多い。なお、右脚ブロック様の波形を示すBrugada症候群(心室細動を起こしうる)や、右心負荷をきたす肺塞栓症では失神が起こりうるが、その原因は脚ブロックそのものではなく、心室細動や急激な循環不全である。

  2. ×b.  完全左脚ブロック

    左脚の伝導が途絶し、左室の興奮が遅れる状態である。QRS幅は0.12秒以上となり、V5・V6誘導で幅広く頂点に切れ込みのあるR波(M字型)を示す。左室の収縮が遅れるため大動脈弁の閉鎖が遅れ、Ⅱ音の奇異性分裂を生じることがある。右脚ブロックと異なり、心筋症・虚血性心疾患・高血圧性心疾患などの器質的心疾患を背景にもつことが多い点で臨床的意義は大きい。しかし、脚ブロックそのものでは心室の拍動は保たれ、失神は通常起こさない。基礎心疾患に伴う心室性不整脈や、伝導障害が右脚にも進んで完全房室ブロックに至った場合に失神が起こりうる。

  3. ○c.  完全房室ブロック

    Ⅲ度房室ブロックともいう。心房の興奮がまったく心室に伝わらず、心房(P波)と心室(QRS波)がそれぞれ無関係なリズムで動く(房室解離)。心室は補充調律によって動くが、房室接合部由来なら40~60/分程度、心室由来では40/分未満と遅く、QRS幅も広くなる。補充調律が出るまでに時間がかかる、あるいは極端に遅いと、心拍出量が急に途絶えて脳血流が低下し、めまいや失神、ときにけいれんを生じる(Adams-Stokes発作)。このため失神をきたす代表的な不整脈であり、原因が可逆的でない場合は恒久的ペースメーカー植込みの適応となる。

  4. ×d.  MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック

    PR間隔が一定のまま、前触れなく突然QRS波が脱落するⅡ度房室ブロックである。ブロック部位はHis束内またはHis束より下(His束以下)であることが多い。脱落するのはときどきの1拍であり、それ自体で心室が長く止まることは多くない。ただし完全房室ブロックへ突然移行しやすく、その際にAdams-Stokes発作を起こしうるため予後不良とされ、症状がなくても恒久的ペースメーカーの適応となる。本問では「失神をきたす不整脈」の典型として完全房室ブロックがより適切であり、MobitzⅡ型は正解とされていない。

  5. ×e.  Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック

    MobitzⅠ型Ⅱ度房室ブロックともいう。PR間隔が1拍ごとに徐々に延長していき、最後にQRS波が1つ脱落して元に戻る、という周期を繰り返す。ブロック部位は多くが房室結節(His束より上)であり、下位の補充調律も比較的安定しているため、失神をきたすことはほとんどない。迷走神経の緊張が強い健常者やスポーツ選手、睡眠中にもみられ、ジギタリスやβ遮断薬などの薬剤、下壁心筋梗塞でも生じる。通常は経過観察でよい。

房室ブロックの分類

・Ⅰ度:PR間隔が0.20秒を超えて延長するが、QRS波の脱落はない。 ・Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型):PR間隔が徐々に延長してQRS波が脱落する。主に房室結節でのブロックで、予後は良好。 ・Ⅱ度 MobitzⅡ型:PR間隔は一定のまま突然QRS波が脱落する。主にHis束以下のブロックで、完全房室ブロックへ移行しやすい。 ・高度房室ブロック:2拍以上連続してQRS波が脱落する(3:1以上の伝導比など)。 ・Ⅲ度(完全):心房から心室への伝導がすべて途絶し、P波とQRS波が無関係に出現する。 ブロック部位がHis束より上か下かの判定には、His束心電図(心内電位図)が役立つ。

Adams-Stokes発作

不整脈によって心拍出量が急に低下し、脳の血流が不足して起こるめまい・失神・けいれんの総称である。完全房室ブロック、高度房室ブロック、洞不全症候群(洞停止など)による徐脈や心停止で起こるほか、心室頻拍・心室細動などの頻脈でも起こる。

失神をきたしうる主な不整脈

・徐脈性:完全房室ブロック、高度房室ブロック、MobitzⅡ型房室ブロック(進行時)、洞不全症候群、徐脈性心房細動、高度の洞性徐脈 ・頻脈性:心室頻拍、心室細動(QT延長症候群に伴うtorsade de pointes、Brugada症候群など)、心拍数の非常に速い上室頻拍、頻脈性心房細動(WPW症候群を伴う偽性心室頻拍など)

ペースメーカー植込みの主な適応

症状(失神など)を伴う徐脈性不整脈に加え、無症状であってもMobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック、高度房室ブロック、完全房室ブロックは、原則として恒久的ペースメーカー植込みの適応となる(可逆的な原因がある場合を除く)。

POINT

・不整脈による失神は「高度の徐脈・心停止」または「著しい頻脈」で心拍出量が急に落ちることで起こる。 ・完全房室ブロックでは補充調律が遅く不安定で、Adams-Stokes発作(失神)を起こす代表的な不整脈である。 ・脚ブロックは心室の拍動が保たれ、それ自体で失神は起こさない。 ・Wenckebach型は房室結節でのブロックが多く良性、MobitzⅡ型はHis束以下が多く完全房室ブロックへ移行しやすいためペースメーカー適応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。