「父からの遺伝だと思う」―患者の言葉に隠れた解釈モデルを見抜く
第105回医師国家試験 H問題 第22問
国試問題にチャレンジ
47歳の男性。外来で病期Ⅳの大腸癌と診断され,抗癌化学療法のため入院した。入院初日に医療面接を行った。 患者の発言で解釈モデルはどれか。
- a.「風邪のときは近所の薬局で薬を買います」
- b.「大腸癌は父親からの遺伝だと思っています」
- c.「今まで病気という病気はしたことがないです」
- d.「薬を飲んで体調が悪くなったことはありません」
- e.「がん検診で便に血が混じっていると言われました」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
解釈モデルとは、患者が自分の病気の原因・重症度・予後・必要な治療などをどう考えているかという理解の枠組みで、医学的な正誤は問いません。「大腸癌は父親からの遺伝だと思う」のように、病気の原因や意味づけを患者自身の言葉で語ったものがこれに当たります。一方、受療行動、既往歴、副作用歴、受診の契機といった事実情報は病歴の項目であり、解釈モデルとは区別されます。解釈モデルを聴取することで医師と患者の認識のずれや不安の背景が見え、説明の工夫を通じて納得やアドヒアランスの向上につながります。遺伝性腫瘍の可能性のような医学的評価は別途行いつつ、まず患者の考えを受け止める姿勢が、患者中心の医療面接の土台になります。
解答・解説
正解はbです
問われているテーマ
医療面接で患者から得られる情報には、病歴(現病歴・既往歴・家族歴・生活歴・服薬歴・アレルギー歴など)といった客観的な医学情報と、患者自身が病気をどのように受け止めているかという主観的な情報とがある。後者の中心にあるのが解釈モデル(explanatory model)である。
解釈モデルとは
解釈モデルとは、患者が自分の病気について抱いている理解の枠組みのことで、医療人類学者Kleinmanが提唱した概念である。具体的には「なぜこの病気になったと思うか(原因)」「なぜ今この症状が出たのか(発症の契機)」「どのくらい重いと思うか(重症度)」「今後どうなると思うか(予後)」「どんな治療が必要だと思うか・何を期待するか(治療)」といった内容を含む。医学的に正しいかどうかは問わず、患者自身の言葉で語られた病気の捉え方そのものが解釈モデルである。
正解を導く考え方
各選択肢の発言が、病歴のどの項目に当たる情報なのか、それとも患者が自分の病気(本例では大腸癌)の原因や意味づけを語ったものなのかを区別すればよい。「大腸癌は父親からの遺伝だと思っている」という発言は、病気の原因についての患者自身の考えであり、解釈モデルに当たる。その他の発言は、事実としての病歴情報(受療行動、既往歴、副作用歴、受診の契機)である。
選択肢考察
- ×a. 「風邪のときは近所の薬局で薬を買います」
普段の受療行動や市販薬の使用状況に関する発言であり、生活歴・服薬歴に関わる情報である。軽い病気では医療機関を受診せずに自分で対処するという健康管理の傾向をうかがうこともできるが、現在の病気(大腸癌)について患者がどう捉えているかを述べたものではないため、解釈モデルではない。
- ○b. 「大腸癌は父親からの遺伝だと思っています」
自分の大腸癌の原因を「父親からの遺伝」と考えているという、病気の原因についての患者自身の理解が語られており、解釈モデルに当たる。医学的に遺伝性であるかどうか(家族性大腸腺腫症やLynch症候群などの可能性)は別途評価すべき問題であるが、解釈モデルは患者の考えそのものを指すため正誤は問わない。こうした考えを把握しておくと、家族への影響に対する不安や、医師の説明との食い違いに早く気付くことができる。
- ×c. 「今まで病気という病気はしたことがないです」
これまでにかかった病気についての発言であり、既往歴に関する情報である。ただし、健康診断を受けていない人では「病気と自覚したことがない」という意味にすぎない場合もあり、具体的な疾患名や検査歴を改めて確認する必要がある。解釈モデルではない。
- ×d. 「薬を飲んで体調が悪くなったことはありません」
薬剤によるアレルギーや副作用の経験がないという発言であり、薬物アレルギー歴・副作用歴に関する情報である。これから抗癌化学療法を始める患者にとって重要な情報ではあるが、病気の捉え方を述べたものではなく、解釈モデルではない。
- ×e. 「がん検診で便に血が混じっていると言われました」
がん検診(便潜血検査)で陽性を指摘されたという、大腸癌発見のきっかけ・受診の動機に関する事実であり、現病歴の一部である。自分の病気の原因や意味づけについての考えではないため、解釈モデルではない。
解釈モデルの聴取
解釈モデルは、患者の考え・期待・不安などとともに、患者中心の医療面接で必ず確認すべき項目とされる。聞き方の例として「ご自身ではこの病気の原因は何だと思われますか」「どのような治療を希望されますか」「一番心配されていることは何ですか」などがある。
解釈モデルを聴取する意義
・医師の医学的な説明と患者の理解との間のずれ(ギャップ)を把握できる。 ・ずれを踏まえて説明を工夫することで、患者の納得と満足、治療への積極的な参加(アドヒアランス)が得られやすくなる。 ・患者の不安の背景にある誤解や心配事を見出せる。
関連する概念
・受療行動:病気になったときにどのような医療を利用するか(市販薬で対処する、すぐに受診するなど)。 ・陰性感情・心理社会的背景:解釈モデルと合わせて、患者の生活や心理状況を把握することが全人的医療につながる。
医療面接で聴取する主な病歴項目
主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活歴(喫煙・飲酒・職業など)、服薬歴、アレルギー歴、社会歴。解釈モデルはこれらとは別に、患者の主観的な病気の捉え方として聴取する。
POINT
・解釈モデル=患者が自分の病気の原因・重症度・予後・必要な治療をどう考えているか。医学的な正誤は問わない。 ・「〜だと思っています」のように病気の原因や意味づけを患者自身の言葉で述べたものが解釈モデル。 ・既往歴、アレルギー歴、現病歴(受診の契機)、受療行動などの事実情報は解釈モデルではない。 ・解釈モデルの把握は、医師と患者の認識のずれを埋め、納得の得られる診療につながる。
