体温・血圧・睡眠・尿、そして血液―神経に頼らない「造血」のしくみを見抜く
第105回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
神経系による調節の関与が小さいのはどれか。
- a.体温
- b.血圧
- c.睡眠
- d.造血
- e.尿浸透圧
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
生体の恒常性は神経性調節と液性調節によって維持され、体温・血圧・睡眠は視床下部や脳幹の中枢が自律神経系などを介して調節する、神経系が主役の機能です。尿浸透圧を決める抗利尿ホルモンはホルモンですが、視床下部の神経細胞で産生され下垂体後葉から放出される神経内分泌であり、神経系の関与は大きいといえます。一方、造血は腎臓のエリスロポエチン、G-CSF、肝臓のトロンボポエチンなどの液性因子によるフィードバックで主に制御され、神経系の関与は小さいと考えられます。腎性貧血へのESA投与や化学療法後のG-CSF投与は、この液性調節を臨床に応用したものです。各機能を「感知・統合・効果器」の流れで整理することは、生理学の理解だけでなく視床下部障害などの病態理解にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
生体の恒常性(ホメオスタシス)を保つしくみには、主に神経系による調節と、ホルモンやサイトカインなどの液性因子による調節がある。本問は、選択肢の生理機能のうち、神経系(中枢神経・自律神経・神経内分泌)の関与が小さいものを選ばせる問題である。
考え方
各機能について「どこで情報を感知し、どこが司令塔となり、何が効果を出すか」を考えるとよい。 ・体温、血圧、睡眠は、視床下部や脳幹にある中枢が統合し、自律神経系などを介して調節される、神経系が主役の機能である。 ・尿浸透圧は抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)というホルモンが直接の効果を担うが、ADHは視床下部の神経細胞で産生され、神経線維を通って下垂体後葉から放出される神経内分泌であり、神経系の関与は大きい。 ・造血は、腎臓で産生されるエリスロポエチン(EPO)や、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、トロンボポエチンなどの液性因子が骨髄に作用して調節されており、神経系の関与は相対的に小さい。 したがって、神経系による調節の関与が最も小さいのは造血である。
選択肢考察
- ×a. 体温
体温調節の中枢は視床下部にある。皮膚の温度受容器や視床下部自体の温度感受性ニューロンからの情報が視索前野を中心とする視床下部で統合され、設定温度(セットポイント)と比較される。寒いときは交感神経による皮膚血管収縮や褐色脂肪組織での熱産生、体性運動神経によるふるえで熱産生・熱保持を図り、暑いときは皮膚血管拡張と交感神経コリン作動性線維による発汗で熱を放散する。甲状腺ホルモンなどの内分泌系も関わるが、中心となるのは神経系による調節である。
- ×b. 血圧
血圧は短期的には自律神経によって秒単位で調節される。頸動脈洞と大動脈弓にある圧受容器が血圧の変化を感知し、舌咽神経・迷走神経を介して延髄の心臓血管中枢(孤束核など)に伝える。血圧が低下すると交感神経活動が高まり、心拍数・心収縮力の増加と血管収縮によって血圧が回復する(圧受容器反射)。長期的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系などの液性因子も重要だが、腎臓からのレニン分泌自体も交感神経の刺激を受けるなど、神経系の関与は大きい。
- ×c. 睡眠
睡眠と覚醒は脳自体が生み出す状態であり、神経系そのものによる調節を受ける。脳幹網様体から視床・大脳皮質へ向かう上行性網様体賦活系が覚醒を維持し、視床下部の視索前野は睡眠の誘導に、視床下部外側野のオレキシン(ヒポクレチン)神経は覚醒の安定化に関わる。また視床下部の視交叉上核が概日リズム(体内時計)を担い、松果体からのメラトニン分泌もこの神経回路の支配を受ける。
- ○d. 造血
造血は主に液性因子によって調節される。赤血球産生は、腎臓の尿細管周囲の間質細胞が組織の酸素不足(貧血や低酸素血症)を感知して分泌するエリスロポエチンにより促進される。アンドロゲンも赤血球産生を促す。白血球(好中球)の産生はG-CSFなどのコロニー刺激因子やインターロイキン類、血小板の産生は主に肝臓で産生されるトロンボポエチンが調節する。このように骨髄の造血は、神経を介した指令ではなく、ホルモン・サイトカインによるフィードバックで制御されており、選択肢の中で神経系の関与が最も小さい。
- ×e. 尿浸透圧
尿浸透圧は抗利尿ホルモン(ADH)によって決まる。血漿浸透圧が上昇すると、視床下部の浸透圧受容器がこれを感知し、視索上核・室傍核の神経細胞で産生されたADHが軸索を通って運ばれ、下垂体後葉から血中に放出される。ADHは腎集合管のV2受容体に作用してアクアポリン2を管腔側膜に組み込ませ、水の再吸収を増やして濃縮尿をつくる。ADHはホルモンだが、感知・産生・分泌がすべて神経細胞で行われる神経内分泌であり、神経系の関与は大きい。
生体の調節系:神経性調節と液性調節
・神経性調節:神経インパルスで情報を伝えるため、速く、局所的・短時間の調節に適する。例:圧受容器反射による血圧調節、ふるえや発汗による体温調節。 ・液性調節:ホルモンやサイトカインが血流で運ばれて作用するため、比較的ゆっくりで、全身的・持続的な調節に適する。例:造血、血糖(インスリン・グルカゴン)、カルシウム代謝(副甲状腺ホルモン・活性型ビタミンD)。 ・神経内分泌:神経細胞がホルモンを分泌するしくみで、両者の橋渡しをする。視床下部から下垂体後葉へのADH・オキシトシン分泌や、視床下部ホルモンによる下垂体前葉の制御、交感神経による副腎髄質からのアドレナリン分泌がその代表である。
視床下部が関わる主な恒常性機能
体温調節、摂食・飲水、水・電解質バランス(ADH、口渇)、概日リズム、睡眠・覚醒、下垂体ホルモン分泌の制御、自律神経の統合など。視床下部は「自律神経系と内分泌系の最高中枢」と位置づけられる。
造血を調節する主な因子
・赤血球系:エリスロポエチン(主に腎臓で産生。低酸素で分泌増加) ・顆粒球・単球系:G-CSF、GM-CSF、M-CSF、各種インターロイキン ・血小板系:トロンボポエチン(主に肝臓で産生) なお、骨髄の造血幹細胞の動員や日内変動に交感神経が関与することも近年知られているが、造血量の調節の主体は上記の液性因子である。
POINT
・造血はエリスロポエチン、G-CSF、トロンボポエチンなどの液性因子が主に調節し、神経系の関与は小さい。 ・体温:視床下部の体温調節中枢と自律神経。 ・血圧:圧受容器反射と延髄の心臓血管中枢。 ・睡眠・覚醒:脳幹網様体、視床下部(視索前野、オレキシン神経、視交叉上核)。 ・尿浸透圧:視床下部の浸透圧受容器とADH(下垂体後葉から分泌される神経内分泌)。
