のどぼとけの下、飲み込むと動く―横から見る甲状腺診察の基本
第105回医師国家試験 H問題 第3問
国試問題にチャレンジ
甲状腺の診察について正しいのはどれか。
- a.甲状軟骨の前面にある。
- b.触知すれば異常である。
- c.高齢者ほど頭側に位置する。
- d.正常では嚥下で移動しない。
- e.側面からの視診も有用である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
甲状腺は甲状軟骨の前面ではなくその下方、輪状軟骨の直下で気管の前面(峡部は第2〜4気管軟骨輪の高さ)に位置し、正常でも触知しうるため、触れるか否かではなく大きさ・硬さ・結節・圧痛・可動性を評価します。ベリー靱帯で気管に固定されているため正常では嚥下で上方へ動き、動かない場合は周囲への浸潤や癒着を疑う手がかりになります。視診は正面だけでなく側面からも行い、頸部を軽く伸展させ嚥下させると軽度の腫大もとらえやすくなります。高齢者では喉頭の下降や頸椎後弯により甲状腺は相対的に低位となることがあり、胸骨下甲状腺腫では触診が難しくなります。解剖に基づいた系統的な視診・触診・聴診は、バセドウ病や橋本病、悪性腫瘍などを見分ける身体診察の基本として臨床で欠かせません。
解答・解説
正解はeです
問われていること
甲状腺の解剖学的位置と、視診・触診の基本を問う問題である。
甲状腺の位置
前頸部を正中で上から触れていくと、まず甲状軟骨(のどぼとけ、喉頭隆起)、その下に輪状軟骨があり、さらにその下方に気管が続く。甲状腺は蝶が羽を広げたような形の臓器で、輪状軟骨のすぐ下、おおむね第2〜4気管軟骨輪の前面に峡部があり、そこから左右に右葉・左葉が気管と喉頭の両側に広がる。つまり甲状腺は甲状軟骨の「前面」ではなく「下方」にある。
診察の要点
甲状腺は後方の靱帯(ベリー靱帯)によって輪状軟骨・気管に固定されているため、嚥下で喉頭と気管が挙上すると一緒に上方へ移動する。この性質を利用し、患者に水を飲み込ませながら視診・触診を行うと、甲状腺の輪郭や結節をとらえやすく、甲状腺由来の腫瘤かどうかの判断にも役立つ。視診は正面だけでなく側面や、頸部をやや伸展させた状態でも行い、前頸部の膨隆を確認する。 これらを踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 甲状軟骨の前面にある。
甲状腺は甲状軟骨の前面ではなく、その下方にある。上から甲状軟骨→輪状軟骨→気管と並び、甲状腺峡部は輪状軟骨の下で気管の前面(おおむね第2〜4気管軟骨輪の高さ)に位置する。左右の葉は峡部から側方・上方へ伸び、上端が甲状軟骨の側面下部に達することはあるが、甲状軟骨の前面を覆うことはない。触診では甲状軟骨と輪状軟骨を目印に、その下方で峡部を探す。
- ×b. 触知すれば異常である。
正常な甲状腺でも触知できることは多い。特に頸部が細く、前頸筋や皮下脂肪が薄い人では、柔らかく表面平滑な峡部や左右葉を触れることがある。触診で評価すべきなのは触れるか否かではなく、大きさ(腫大の有無)、硬さ、表面の性状、結節の有無、圧痛、可動性などである。逆に肥満や短頸の人では、腫大していても触知しにくいことがある。
- ×c. 高齢者ほど頭側に位置する。
加齢によって甲状腺が頭側へ移動することはない。むしろ高齢者では喉頭の位置の下降や頸椎の後弯(猫背)などにより、甲状腺は相対的に低い(尾側の)位置にみられることがあり、腫大した甲状腺の一部が胸骨の裏に入り込む(胸骨下甲状腺腫)と触診しにくくなる。したがって「高齢者ほど頭側」という記述は誤りである。
- ×d. 正常では嚥下で移動しない。
正常な甲状腺は嚥下で上方へ移動する。甲状腺は被膜とベリー靱帯によって輪状軟骨や気管に固定されており、嚥下時に喉頭が挙上すると気管とともに持ち上がる。このため診察では患者に唾や水を飲み込ませ、上下に動く甲状腺を視診・触診で確認する。嚥下で動かない場合は、周囲組織への浸潤(未分化癌などの悪性腫瘍や慢性炎症による癒着)を疑う手がかりになる。
- ○e. 側面からの視診も有用である。
甲状腺の視診は正面からだけでなく、側面からも行うことが有用である。側方から前頸部の輪郭を観察すると、正面からでは分かりにくい軽度の甲状腺腫大による前方への膨隆をとらえやすい。頸部を軽く後屈(伸展)させると前頸部の皮膚が張り、輪郭がより明瞭になる。さらに嚥下させながら観察すると、甲状腺が上下に動く様子から腫大や結節を見つけやすくなる。
前頸部の解剖と甲状腺
・正中を上から:舌骨→甲状軟骨(喉頭隆起)→輪状甲状靱帯→輪状軟骨→気管。 ・甲状腺峡部は輪状軟骨の直下、第2〜4気管軟骨輪の前面にある。左右葉は気管・喉頭の両側に沿って広がり、胸鎖乳突筋の内側深部に位置する。 ・甲状腺の前面は前頸筋群(胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋など)に覆われる。 ・甲状腺の後面近くには副甲状腺(通常上下左右の計4腺)があり、気管と食道の間の溝を反回神経が走行する。甲状腺手術では反回神経麻痺(嗄声)や副甲状腺機能低下症(低カルシウム血症)が合併症として問題となる。
甲状腺の診察手順
1. 視診:正面と側面から前頸部を観察し、頸部をやや伸展させ、嚥下させて甲状腺の動きと腫大・結節の有無をみる。 2. 触診:患者の前方から(母指を用いる)、または後方から(両手の示指〜中指を用いる)行う。甲状軟骨・輪状軟骨を目印に峡部を確認し、次いで左右葉を触れる。胸鎖乳突筋をゆるめるため、診察する側へ頸部を軽く傾けさせるとよい。嚥下させながら触れると輪郭がとらえやすい。 3. 評価項目:大きさ、硬さ(軟・弾性硬・硬)、表面(平滑・凹凸)、結節の有無と数、圧痛(亜急性甲状腺炎で著明)、可動性、周囲リンパ節の腫大。 4. 聴診:バセドウ病で血流が増えた甲状腺では血管雑音(bruit)を聴取することがある。
所見と疾患の対応例
・びまん性で軟らかい腫大:バセドウ病 ・びまん性で弾性硬、表面やや凹凸:橋本病(慢性甲状腺炎) ・有痛性の硬い腫大(痛む部位が移動することがある):亜急性甲状腺炎 ・硬く可動性不良の結節:悪性腫瘍を疑う
POINT
・甲状腺は甲状軟骨の下方、輪状軟骨の直下で気管の前面(峡部は第2〜4気管軟骨輪の高さ)にある。 ・正常でも触知しうる。触れるか否かではなく、大きさ・硬さ・結節・圧痛・可動性を評価する。 ・正常な甲状腺は嚥下で気管とともに上方へ動く。嚥下させながら視診・触診する。 ・視診は正面に加え側面からも行い、頸部を軽く伸展させると腫大を見つけやすい。 ・高齢者では甲状腺はむしろ低い位置にみられることがある。
