いびきは「眠りの病気」ではなく「気道の病気」―重症睡眠時無呼吸の治療を正しく選ぶ
第105回医師国家試験 G問題 第57問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。就寝中のいびきを主訴に来院した。会社で日中の居眠りが多く,最近,注意力の低下を自覚している。妻にいびきがひどいことを指摘され受診した。飲酒はビール1,000 mL/日を18年間。身長165 cm,体重90 kg。ポリソムノグラフィにて無呼吸指数52(基準5未満)。 この患者について適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.在宅酸素療法を行う。
- b.体重を減らすよう指導する。
- c.ビール1,000 mL/日程度の飲酒は問題ない。
- d.向精神薬を投与して睡眠をコントロールする。
- e.睡眠中に経鼻的持続的気道陽圧法による呼吸管理を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
大きないびき、日中の過度の眠気、肥満がそろえば閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑い、終夜ポリソムノグラフィで確定し、無呼吸低呼吸指数30以上を重症とします。治療の柱は、減量・節酒・鎮静薬の回避といった増悪因子の除去と、睡眠中に圧で上気道を押し広げるCPAPで、中等症〜重症ではCPAPが第一選択です。アルコールや睡眠薬・向精神薬は上気道の筋緊張と覚醒反応を低下させて無呼吸を悪化させ、在宅酸素療法は上気道閉塞を解除しないため本症の治療にはなりません。本症は高血圧、心房細動、脳卒中、糖尿病などの全身疾患や居眠り事故とも関わるため、「気道が閉じる病気」として病態から治療を選ぶ考え方を身につけることが、日常診療での見逃し防止にもつながります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・52歳男性、主訴は就寝中のいびき(妻が指摘) ・日中の居眠りが多く、注意力の低下を自覚している(日中の過度の眠気と認知機能への影響) ・飲酒: ビール1,000 mL/日を18年間(アルコール度数5%とすると純アルコール約40 g/日に相当) ・身長165 cm、体重90 kg → BMI(体格指数)=90÷1.65²≒33で、日本肥満学会の基準で肥満(2度) ・ポリソムノグラフィ(PSG: 睡眠中の脳波、呼吸気流、胸腹部の呼吸運動、動脈血酸素飽和度などを同時に記録する検査)で無呼吸指数52(基準5未満)
診断へのプロセス
大きないびき、家族の指摘、日中の強い眠気と集中力低下という症状の組み合わせは、睡眠時無呼吸症候群(SAS: sleep apnea syndrome)の典型像である。PSGで睡眠1時間あたりの無呼吸回数が52回と基準を大きく上回っており、診断は確定的である。重症度の目安である無呼吸低呼吸指数(AHI)では30以上が重症とされ、本例は重症に相当する。 病型としては、肥満といびきがあることから、睡眠中に舌根や軟口蓋が落ち込んで上気道が閉塞する閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と考えるのが自然である。肥満により咽頭周囲に脂肪が沈着して気道が狭くなっていること、さらに飲酒が上気道を広げる筋肉の活動を低下させていることが、病態を悪化させている。
設問の考え方
閉塞性睡眠時無呼吸の治療は、①増悪因子の除去(減量、節酒・禁酒、睡眠薬や鎮静作用のある薬の回避、仰臥位を避ける体位の工夫)と、②睡眠中に上気道の閉塞を物理的に防ぐ治療(経鼻的持続陽圧呼吸療法〈CPAP〉、口腔内装置、一部の症例では外科治療)が柱である。本例のような重症例ではCPAPが第一選択となり、肥満に対する減量指導も必須である。これに沿って選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 在宅酸素療法を行う。
在宅酸素療法(HOT: home oxygen therapy)は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などによって、安定期にも慢性的な低酸素血症(高度の慢性呼吸不全)が続く患者に行う治療である。閉塞性睡眠時無呼吸の低酸素は、上気道が物理的に閉じて換気そのものが止まることによるため、酸素を投与しても閉塞は解除されない。むしろ低酸素による覚醒刺激が弱まり、無呼吸時間が延長して高二酸化炭素血症を悪化させるおそれがある。本症の基本治療は気道を開くことであり、在宅酸素療法は適切でない。
- ○b. 体重を減らすよう指導する。
本例はBMI約33の肥満である。肥満では舌や咽頭周囲の軟部組織に脂肪が沈着して上気道の内腔が狭くなり、さらに腹部の脂肪により肺容量が減少して気道が虚脱しやすくなる。肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の最大の危険因子であり、減量によって無呼吸の回数が減少することが示されている。また、SASは高血圧、糖尿病、脂質異常症などと合併しやすく、減量はこれらの改善にもつながる。したがって減量指導は適切である。ただし減量には時間がかかるため、重症例ではCPAPと並行して行う。
- ×c. ビール1,000 mL/日程度の飲酒は問題ない。
アルコールは中枢神経を抑制し、オトガイ舌筋などの上気道を開大させる筋肉の活動を低下させるため、睡眠中の上気道閉塞を起こしやすくする。また覚醒反応を鈍らせるため、無呼吸が長引き、酸素飽和度の低下が深くなる。さらにアルコールは高カロリーで肥満の悪化要因ともなる。ビール1,000 mL/日は純アルコール約40 g/日に相当し、生活習慣病のリスクを高める飲酒量(男性で1日40 g以上)に達している。とくに就寝前の飲酒は避け、節酒・禁酒を指導すべきであり、「問題ない」とするのは誤りである。
- ×d. 向精神薬を投与して睡眠をコントロールする。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬などの向精神薬は、呼吸中枢を抑制するとともに上気道の筋緊張を低下させ、覚醒反応も鈍らせる。その結果、無呼吸の頻度と持続時間が増し、低酸素血症が悪化するおそれがある。本例の日中の眠気は、無呼吸のたびに睡眠が分断されて熟眠できないことが原因であり、睡眠薬で眠りを深くしても解決しない。睡眠時無呼吸症候群の患者に鎮静作用のある薬を安易に投与するのは禁忌に近く、不適切である。
- ○e. 睡眠中に経鼻的持続的気道陽圧法による呼吸管理を行う。
経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal CPAP: continuous positive airway pressure)は、睡眠中に鼻に装着したマスクから一定の圧をかけた空気を送り込み、その圧で上気道を内側から押し広げて閉塞を防ぐ治療である(空気で副木をあてるイメージから pneumatic splint とよばれる)。中等症〜重症の閉塞性睡眠時無呼吸に対する第一選択の治療であり、いびきと無呼吸を消失させ、日中の眠気や集中力低下を改善する。わが国の保険診療では、PSGでAHI 20以上かつ日中の眠気などの症状がある場合などに適応となる。本例は指数52の重症例であり、CPAPによる呼吸管理は適切である。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の概要
睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や呼吸の浅い状態(低呼吸)が繰り返し起こり、睡眠の分断や低酸素血症によって日中の眠気などの症状や合併症を生じる病態である。 ・閉塞性(OSA): 呼吸努力はあるが上気道が閉塞する。SASの大部分を占める。 ・中枢性(CSA): 呼吸中枢からの指令が途絶え、呼吸努力そのものが消失する。心不全(チェーン・ストークス呼吸)や脳血管障害などに合併する。
危険因子
肥満(最大の危険因子)、男性、加齢、閉経後の女性、小顎・下顎後退などの顎顔面形態、扁桃肥大・アデノイド(小児で重要)、巨舌(甲状腺機能低下症、先端巨大症)、飲酒、睡眠薬などの鎮静薬、仰臥位での睡眠。
症状
・睡眠中: 大きないびき、家族に指摘される無呼吸、窒息感を伴う覚醒、夜間頻尿、寝汗 ・覚醒時: 起床時の頭痛、熟眠感の欠如、日中の過度の眠気、集中力・注意力の低下 ・社会的影響: 居眠り運転による交通事故や労働災害のリスクが高い
診断と重症度
確定診断は終夜ポリソムノグラフィ(PSG)で行う。簡易検査(携帯型の呼吸モニター)はスクリーニングに用いる。無呼吸低呼吸指数(AHI: 睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数)で重症度を評価し、5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症とする。
合併症
高血圧(とくに治療抵抗性高血圧)、心房細動などの不整脈、虚血性心疾患、心不全、脳卒中、2型糖尿病、脂質異常症。低酸素と交感神経の過剰な活性化が関与する。
治療
・生活指導: 減量、節酒・禁酒(とくに就寝前)、禁煙、睡眠薬などの回避、側臥位での睡眠 ・CPAP: 中等症〜重症例の第一選択 ・口腔内装置(マウスピース): 下顎を前方に保持して気道を広げる。軽症〜中等症やCPAPが使えない例に用いる。 ・外科治療: 扁桃肥大が原因の小児例での扁桃摘出・アデノイド切除術、顎顔面の形態異常に対する手術など ・在宅酸素療法や睡眠薬・鎮静薬は閉塞性SASの治療にはならない
POINT
・いびき+日中の眠気・集中力低下+肥満 → 閉塞性睡眠時無呼吸を疑い、ポリソムノグラフィで確定する ・重症度はAHIで評価(5以上: 軽症、15以上: 中等症、30以上: 重症) ・治療の柱は増悪因子の除去(減量、節酒・禁酒、鎮静薬の回避)とCPAP(中等症〜重症の第一選択) ・アルコールと睡眠薬・向精神薬は上気道の筋緊張と覚醒反応を低下させ、無呼吸を悪化させる ・在宅酸素療法は慢性呼吸不全の治療であり、上気道閉塞を解除しないため閉塞性SASの治療にはならない
